“ガヤガヤガヤガヤ”
「この大皿、テーブルに運んで~!!持ち込んだ鍋は各自盛り付けてから並べちゃって」
「セシルさん、ジョッキが足りません、どうします?」
「ケビンのところに行って貰って来な。なければ即興で作ってくれるはずだよ」
「分かりました!!」
時の過ぎるのは早い。王都学園の若者たちがそれぞれの悩みを抱え毎日を懸命に過ごしている最中も、全国の農村では畑の野菜を収穫し、冬に備え保存食の作製を始めたりと、生きる事に真剣に向き合っている。
そんな村人たちが一年の無事な終わりを祝う収穫祭。俺はそんな彼らを「あっ、ケビン、ジョッキが足りないの、悪いんだけど作ってくれない?」・・・。
俺は無言で手を翳し収納の腕輪から土の小山を取り出すと、次々とジョッキを作製していきます。
その辺の土を適当に使うと凹みが出来ちゃうからね、収納の腕輪に大量の土をストックしておくことはケビン建設の社長としての嗜みです。
「どうもありがとう、助かったわ」
そう言い陶器製の大量のジョッキを手に持つ・・・事はせず、魔力障壁をお盆代わりにして宙に浮かせたまま運んで行くキャロルさん。(注:畑の従業員ではありません。駆け落ち夫婦、村役場職員ジェラルドさんの奥さんです)
今日はマルセル村の秋の収穫祭、女衆が仕切る中、会場の村の健康広場にはテーブルが並べられ(俺が土属性魔力で作りました)、その上に多くの料理が盛り付けられています。
椅子と料理は各自持参、土の椅子は重いと不評だったので各自の家の物を持ってきてもらいました。料理は単純に人数が多いからですね、数日前から作った料理は各家の男衆が持っている収納の腕輪にストックして貰い、健康広場の隣の食堂で盛り付けてもらっています。
「お父さん、マルコお爺ちゃんの腕輪って凄いんだよ。お料理をパッと出せるの。それでね、離れた場所のものでもパッと消せるんだよ」
「あぁ、アレは“収納の腕輪”といってね、腕輪型のマジックバッグになってるんだ。
ホーンラビット伯爵家騎士団に所属する騎士の方々は皆支給されていてね、年に二回大森林に狩りに行く際に使うそうだ。
大森林は危険だからね、一々マジックバッグに仕舞っている暇がないだろう? その点“収納の腕輪”なら周囲を警戒しながらでも獲物を仕舞う事が出来るんだ」
「へ~、凄いんだね。でもお爺ちゃんは騎士様じゃないよね? 騎士様はお婆ちゃんだって聞いたけど」
「確かにお爺ちゃんは騎士様じゃないけど、馬車の修理や鎧の作製、ホーンラビット伯爵家で必要とされる様々なものを作っているからね。“収納の腕輪”の作製にも参加したらしい。
その関係で特別に支給されているって話だぞ? 実はお爺ちゃんは凄い人なんだからな?」
「うわ、凄い!! お父さん、僕もお爺ちゃんみたいに“収納の腕輪”みたいな凄い魔道具を作れるようになれるかな?」
「どうだろうな。でもお前にその気があるならお爺ちゃんに弟子入りしてみるか? もしかしたら<魔道具職人>の職業に目覚めるかもしれないぞ? 何と言ってもお爺ちゃんの孫なんだからな」
楽しそうに会話をしていたのはカシムさん親子、初めて会ったのは領都グルセリアのシンディー・マルセル邸だったか。門番をしていたカシムさんにドレイク村長が話し掛けたのが切っ掛けだったんだよな。
あの時マルセル村を出て行った若者たちの話を聞いて、ドレイク村長、凄く心配していたっけ。
でもその若者たちもそれぞれ家庭を築いて、結構苦労しながら必死に生活して。評判の上がったマルセル村にみんな戻ってきたって言うね。
マルコお爺さんのところの長男リードさんに次男カシムさん、他にタイロンさんロイさん兄弟とランサーさん、ベッキーさんにジェシーさん。
この中で消息が分かっていたのは商家に下働きに入っていたジェシーさんだけだったんだよな~。
次々に村に帰ってくる彼らの姿にドレイク村長大感激、「ケビン君、私は、私は・・・」って言いながら号泣です。
それぞれ家族連れや子供連れ(ジェシーさん、母子家庭でした。商会長に無理やり犯されて愛人生活を強制されていたとかなんとか)だったんですけどそこはホーンラビット伯爵閣下、広い御心で全員を受け入れられたのでございます。
・・・でもね、都会の荒波は彼ら彼女らの心を荒んだものにですね。
まぁ幼少期の貧困生活で初めから荒んでいたんじゃないのかと言われればその通りなんですけどね、一歩間違えればいつぞやの追い剝ぎ村みたいになっていてもおかしくなかったマルセル村、都会に出て明るい未来が待っていると思えばさにあらず。
都会での生活はマルセル村とは違った意味で厳しかったでしょうからね、身を持ち崩して大きな悪事に手を染めなかっただけ立派? 小さな悪事は息をするが如く行っていた御方もですね~。
この辺の事情はワイルドウッド男爵家主催の“お茶会”で詳しくお聞きしたんですが。
それぞれご実家があるので最初は普通に受け入れたんですよ? でも皆様の言動と行動が。まともなのってカシムさんのところだけって言うね。
ギリギリ許容範囲だったのが意外にも愛人生活をしていたジェシーさん親子、他は・・・。
ジェシーさん親子には“甘木汁(甘太郎バージョン)の光属性魔力水割り”を飲んで荒んだ心を癒していただき、他の方々は“光属性マシマシ聖茶”をプレゼント。
そんでただお茶を振る舞っただけだと使い物にならないんで、特殊使用人部隊“月光”の皆さんにご協力いただき、人としての在り方からマルセル村の村人としての生き方についてご家族そろって徹底指導させていただいたという訳でございます。
流石月影講師、特殊使用人部隊を作り上げただけあり、人心掌握術が凄まじいの。聖茶の力もありこれって洗脳じゃね? ってレベルで教育指導をですね。
在りし日の記憶にもあったな~、そんな自己啓発セミナー。最終的には高価な健康グッズを買って仲間内にも勧めてたっけ。
俺がいくら説明しても頑なに信じてたんだよな~。あの会社、出資法違反で捜査の手が入って、詐欺って事で訴えられて潰れちゃったけど。
・・・ウチは違いますからね? ケビン建設はクリーンな会社です。税金? 男爵家の事業ですが何か?
自治領宣言をしたホーンラビット伯爵家、王家からの補助がない代わりに王家に納める上納金も無し。ホーンラビット伯爵家の雇われ男爵ワイルドウッド男爵家、小麦の上納はあっても事業に対する税金は無し!!
まぁ一番の売り上げである大森林の素材買取は最初に税金分を引かれた金額を渡されますからね、ホーンラビット伯爵家としては痛いところはないのであります。
話が逸れましたが、月影の指導(調教)により村人としての在り方を学んだ(漂白済み)帰郷者たちご家族は、現在も爽やかな笑顔で収穫祭の準備を行っているのであります。
・・・うん、結果オーライ、問題なし。
マルセル村に余計な不和を持ち込む訳にはいきませんからね、ホーンラビット伯爵閣下の引き攣った笑顔は必要経費という事で。
「お集りのマルセル村の皆さん、今年もお疲れ様でした。
皆さんの働きにより、今年は例年以上に多くの小麦、多くの農産物を収穫する事が出来ました。
我がホーンラビット伯爵領は貴族とは名ばかりの小領です。村人一人一人が肩を寄せ合い協力し合ってはじめて成り立つのがここマルセル村です。
皆さんが収穫した野菜たちは、シルビアさん、イザベルさんの協力の下拡張された保存倉庫に十分量確保する事が出来ました。多少の災害ではびくともしない食料を手にする事が出来たのです。
春の挨拶から“生き残れて良かった”という言葉をなくす、これは私の長年の夢でした。その夢は叶えられた。
そして今年になってこれまで音信不通であったマルセル村を巣立っていた子供たちが、新しい家族と共に帰ってきてくれた。
巣立った者たちが帰ってきたいと思える故郷に、子供たちがいつまでも住み暮らしたいと思える村にする事が、私とケビン君、マルセル村を支えて下さる多くの者たちの悲願でした。
夢は諦めてはいけない、どの様な形であれ諦めさえしなければ道は見えてくる。私はこの十年で多くの物事を学んだ、多くの人々と触れ合い、多くの変化が訪れた。
辺境の寒村で一介の村長であった私が名目上とは言え伯爵の地位を賜るなど誰が想像したでしょう。いくら平穏な暮らしを送るためとは言え、これはやり過ぎだと思うのは私だけではないと思うよ、ケビン君。
ですがこの変化はなにも私だけの力で成し遂げられた訳ではない、マルセル村の皆さん一人一人の協力の積み重ねで起きたもの、今日この素晴らしい収穫祭を迎える事が出来たのも偏に皆さんのお陰なのです。
今日は大いに飲み、食べ、騒ぎ、これまでの自分達の働きを褒め称えてあげてください」
ホーンラビット伯爵閣下の手に掲げられたジョッキ、その中になみなみと注がれた琥珀色の液体は、マルコお爺さんを中心としたエール作製班が作り上げたマルセル村産のエール。
「皆さんの健康と、ホーンラビット伯爵領の益々の繁栄を願って、乾杯!!」
「「「「「カンパーーーーイ!!」」」」」
“““““ガツンッ、ガツンッ、ガツンッ”””””
打ち付けられたジョッキ、広がる笑顔と笑い、自分たちはついに念願を果たしたのだ。老人も、大人も、若者も、子供も、村人の誰しもが胸を張って誇れる故郷マルセル村を作り上げる事が出来たのだ。
あの時はひもじい思いをして大変だった、あの年の冬は身が凍る思いだった。過去の辛い体験をまるで懐かしむように笑顔で語る事の出来る日がくるとは。
年かさの者ほどその思いは強く、笑顔のまま涙を流す者あり、肩を抱き合い笑う者あり。
そんな大人たちの様子を不思議なものでも見る様な顔で眺める子供たち、状況が分かっていない子供たちの姿に笑顔になる母親たち。
私たちは子供たちに辛く厳しい生活を教えずに済んでいる、その事に誇りと喜びを感じながら、ジョッキに注がれたエールを口にする。
「ケビン、マルセル村は、私達の家族は、本当に素晴らしいですね」
隣の席に座りアルバをあやしていたパトリシアが、俺の方を向いて笑顔を作る。それは言外に“この村人たちの笑顔はケビン、あなたが作ったのですよ?”と伝えてくる。
「そうですね。長い逃亡の旅の末辿り着いたマルセル村、当時ですら信じられないほど素晴らしい村だったものが、更に発展し、今や街と呼んでも差し支えのない状態になっている。
これも全てホーンラビット伯爵閣下とケビンのお陰です。
ケビン、私たちを、マルセル村を救ってくれて本当にありがとう」
アナスタシアは大きなお腹を摩りながら、「あなたのお父さんは本当に凄い人なんですよ~」とこれから生まれる我が子に自慢げに語り掛ける。
「ん、ケビンは凄い、それは初めから分かっていた事。この結果は必然、ケビンは私の全て。この子もお父さんの事を自慢している」
そう言いどうだとばかりに胸を張るケイト。そんなケイトに合わせるかのように、ケイトのお腹がポコリと動いたのは偶然ではないだろう。
「そうか? まぁそう言って貰えるのは嬉しいと言うか、照れるな。
俺は基本自分のやりたいように勝手気ままに動いているだけだからな。それを村の発展に繋げ、今のような形に持って行ったのは全てドレイク・ホーンラビット閣下、パトリシアのお義父さんの功績だよ。
俺じゃこうは上手くいかなかった、それは子供だったからってだけじゃなく、その器じゃなかったって事だよ。
パトリシアやアナスタシアやケイトも知っての通り、俺は無茶苦茶だからな。三人にも話していないとんでもない秘密を山ほど抱えているしね。
だからいつも感謝しているんだよ、俺の事を支えてくれるアナスタシアやケイトやパトリシア、月影たち使用人、従業員である魔物たち。
マルセル村の為に尽くしてくれるホーンラビット伯爵閣下をはじめとした多くの大人たち、マルセル村を愛してくれる村人たち。
本当に、本当に、ありがとう」
俺はそう言うと、俺に笑顔を向けてくれる家族たちに深々と頭を下げる。
「だからまぁ、この楽しい一時を邪魔されたくないかな?」
“スクッ”
突然席を立った俺に、訝しみの視線を送る家族たち。
「あぁ、大した事じゃないよ。ちょっとお客さんの出迎えにね」
俺はそう言うや一人その場を後にする。未だ多くの魔物が闊歩する秋の大森林浅層を、マルセル村に向かい真っ直ぐ進んでくる来訪者と対面する為に。
本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora