転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第681話 辺境男爵、収穫祭を迎える (2)

秋の森、それは動物たちが忙しなく冬ごもりの準備を行い、冬眠前の食事を楽しむ大切な期間。

それは多くの強力な魔物蔓延る大森林と呼ばれる広大な森でも同じ事、彼らは冬眠中に必要な栄養を取るため、激しい生存競争を繰り広げる。

 

“シャーーーーッ”

大森林浅層、ブラックウルフやジャイアントスパイダーといった危険な魔物が当たり前のように闊歩する危険地帯。秋のこの時期にそんな場所に足を踏み入れれば一体どういう事になるのか。

 

“ガァーーーー!!”

倒木のように太い胴体、人を丸呑みせんと大きく開かれた顎。大森林浅層域に生息する脅威フォレストスネークは、不意に発見したご馳走に、涎を垂らしながら襲い掛かる。

 

「鬱陶しい」

”ドゴンッ”

だがフォレストスネークの意識は、面倒くさそうに振るわれた獲物の裏拳による一撃により容易く刈り取られる事となる。

 

「またですか? あなたも一角の戦士と呼ばれた者、気配を隠す事が出来なかったのですか?」

「ウグググッ、私は戦士、強さこそ全て、己を隠すなど・・・」

 

「いい訳はいいです。大体種族的にも苦手という訳ではないでしょうに。

これでは修行不足と思われてしまっても致し方がありませんよ?」

大森林と呼ばれる危険地帯を進むには幾つかのルールがある。己の気配を消し極力戦闘は避ける事、これは危険回避における基本中の基本であり、大森林に限らずどこの森においても言える事である。

 

「わ、分かっている。これからは気を付ける」

注意を受けた者は元気なく肩を落とし、そんな二人のやり取りを見た別の者が、仕方がないとばかりにマジックバッグに倒したばかりのフォレストスネークの亡骸を仕舞い込む。

 

「それでは行きましょう。こんな所に留まっていても仕方がありません。目的の場所は直ぐ側なんですから」

集団のリーダーと思しき者の掛け声、その者たちが再び歩を進めようとした、その時であった。

 

「失礼、この先はホーンラビット伯爵領マルセル村、許可のない者の入村は固くお断りさせていただいております。

宜しければお名前と御用向きをお伺いしても?」

 

森に響く声、姿は見えずとも確実に何者かが自分たちを監視している。

ローブを羽織り、フードで顔を隠した者は三人。そのうちの二人は瞬時に警戒態勢を取り、膝を曲げ身を低くするも、リーダーらしき人物がサッと手を横に伸ばし、その動きを制する。

 

“パサッ”

外されたフード、露になった頭部には巻き付くような形をした特徴的な角が二本、ウエーブの掛かった髪がふわりと揺れ、ややたれ目の瞳が周囲の森に向けられる。

 

「お待ちください、ケビン殿。私です、魔国魔王軍騎士兵団副官メルルーシェです。本日はお話とお願いがあり、お伺いいたしました」

メルルーシェは背中に冷たい汗を感じながらも、軽く頭を下げる。

森全体から感じるような静かな威圧、何処から見られているのか全く分からないまでも、確かに感じるその視線。

自分達は今測られている、ここで間違いを起こせば待っているものは確実な死、そればかりか魔国自体が敵として認識されかねない。自分たちを観察している者はたった一人でそれをなす事を可能とする厄災。

 

「あぁ、メルルーシェさんでしたか。ジミーの件では大変お世話になりました。その後どうですか、魔国の方は少しは落ち着きを取り戻しましたか?

まぁ魔王軍騎士兵団副官であるメルルーシェさんがこのような場所にいるくらいですから落ち着いているのだとは思いますが」

 

“スーーーーーーーーーーッ”

それはいつの間にか目の前にいた。まるで初めからそこに立っていたかのように、全くの自然体で佇む男。

 

“バッ”

それは突然であった、メルルーシェの背後にいた者が目の前の男性、ケビンに襲い掛かったのだ。

それは本能、それは恐怖、おそらく襲い掛かった本人ですらなぜ自分がそうしているのかが分からない、それ程に()()の根源に根差した衝動。

 

“ガァーーーーー!!”

振り上げられた右腕、パサリとフードが外れ、頭部に生えた漆黒の三角耳が露になる。

 

“ブオンッ”

鋭い鉤爪が勢いよくケビンに襲い掛かる。止める間もなく目の前で繰り広げられた凶行に、一気に血の気が引くメルルーシェ。

 

“パシッ”

「おぉ~~~、どなたかと思えば昨年の魔都総合武術大会二日目準々決勝に於いて、龍人族のバンドリア選手と熱戦を繰り広げた獣狼族のクルン選手ではないですか~~~。いや~~~~、この様な場所でお会いできるとは、なんという幸運。

私、会場でお二人の戦いを見させていただいたんですよ、あれは良かった。

体格で勝るバンドリア選手と素早さを活かしたクルン選手との戦いになると思いきやさにあらず、速さと速さ、技と技、目にもとまらぬ攻防とはまさにあの戦いの事。

今でもはっきりと覚えていますとも、あれは歴史に残る名勝負でした。

 

それで今年はどうだったんです? 当然出場されたんでしょう? 魔都総合武術大会。魔国ですもんね、内乱程度日常茶飯事、国民の楽しみを奪うような真似はしませんよね~♪」

 

そう言い掴んだ手をブンブン振ってにこやかに話し掛けるケビンの姿に、口を開けたまま呆気にとられる一同。

クルンは思う、確かに自分は無意識に攻撃を仕掛けた、本能に任せた衝動的な行動。だからこそ、であればこそ、その動きは一切の抑制の行われない全力であった。

だが目の前の人物はそんな自身の薙ぎ払いを何事もないように掴み取った、あまつさえそのままにこやかに話し掛ける、それはまるで友好的な握手でもしたかのように。

 

距離の見切り、立ち位置の見切り、行動予測、全ての動きの見切りと力の配分。こちらに一切の負荷を掛ける事なく、振るわれた右腕の威力を吸収し受け流すその技量。

目の前の人物は果たしてどれ程の高みに達しているのか。

クルンは戦士である、暗黒大陸最強と謳われる獣人三大氏族の一角、獣狼族の頂点にして速さにおいて他の追随を許さぬ者。

 

「クルン、控えなさい!!その御方は魔国最大の恩人にしてジミー殿の兄上、ケビン・ワイルドウッド殿です!!

ケビン殿、こちらの者が大変なご無礼をいたしまして、本当に申し訳ありませんでした!!

この者、クルンは御存じの通り獣人族の一つ獣狼族の者でして、獣狼族は自らの生命の危機を感じるような強敵に出会った場合本能的に攻撃行動に出てしまう種族なんです。

決して彼女に攻撃の意思があったという訳ではなくてですね、それでも許されざる行為である事はいい訳のしようもないのですが、何卒ご容赦願いたく伏してお願いいたします」

 

そう言いその場に土下座をするメルルーシェ。これは普人族の里であるマルセル村に向かう事が決まった際、最大限の謝罪の形として魔国内の普人族から教わってきたポーズ。それをいまだマルセル村に到着すらしていないのにもかかわらず披露する羽目になるとは、さしものメルルーシェも予想する事は出来なかったであろう。

 

「ん? あぁ、そういう事ですか。まぁ獣人さんですしね、獣の本能に引っ張られる事はよくある事でしょう。良くも悪くもそれが獣人、自身と違う種族特性を持っているからと言って、その点を責める事はしませんとも。

ただまぁ、全ての者が上手く対応できるかどうかは分かりませんので、その点は自己責任という事で。父ヘンリーだったら確実に顔面をぶん殴ってただろうな~、その際の命の保証は・・・バンドリアの拳に耐えられるようなら何とかなるかな?」

 

そう言いハハハと笑うケビン、そんなケビンの様子にマルセル村の実情を知るメルルーシェは乾いた笑いで返す。

そんな二人のやり取りを呆気にとられた表情で眺めるクルンともう一人の者。

 

「ゴホンッ、すみませんでした、話が逸れてしまいましたね。

それでメルルーシェさん方は一体どうしてマルセル村に? この場にゼノビアさんがいない事から緊急事態による救援要請とも思えませんが?」

ケビンの言葉に、“流石は魔国最大の恩人にして最大の脅威、相変わらず物事をよく見ている”と苦笑いを浮かべるメルルーシェ。

 

「はい、ケビン殿の仰られる通り、魔国は現在魔王軍の再編成や魔都の復興に力を注いでいる最中ではありますが、それらは概ね問題なく進んでおります。

良くも悪くも暗黒大陸は力こそが正義、内乱が日常であった事は否定のしようがない事実ですから。それでもここ二十年ほどは各地域での紛争はあったものの魔王アブソリュート様の安定した治世が続いていましたから、あれほどの規模での内乱は久方ぶりといったところでしょうか」

 

とりあえずぶっ飛ばしてから考える、先程のクルンの行動と言い何とも暗黒大陸らしいと頷きを示すケビン。

 

「ですが今年になって一つの問題が。ケビン殿はジミー殿が巷で“サキュバス族を視線で孕ませる男”と噂されていた事は御存じでしょうか?」

”ブホッ、ゲホゲホゲホゲホ”

 

メルルーシェの口から飛び出たとんでもパワーワードに、思わず吹き出しせき込むケビン。たった一言でその場の空気を一変させる、策士メルルーシェの手腕に瞠目せざるを得ない。

 

「魔都総合武術大会終了後姿を消した大会優勝者であるジミー殿、当初は魔王軍三将軍による内乱の後処理もあり誰もその事に気を止める余裕などなかったのですが、復興が進み魔都に平穏が戻ってきたころ、誰とはなしに“ジミー殿が見当たらないがどうしたのだ”といった話が広まりまして。

三将軍の内乱に巻き込まれて亡くなった、三将軍を倒すも相打ちになった。様々な憶測が魔都全体に広がりまして。

あの日ジミー殿が魔王城に呼ばれていた事は周知の事実でしたから、その問い合わせが魔王城に殺到したんです。

魔王城側としてはあまり公に出来ない内容の話でもあった為、ジミー殿の行方は分からないとしていたのですが、魔都のあまりの混乱ぶりに魔王アブソリュート様が直々に国民にお言葉を述べられまして」

 

そこで一度言葉を切ったメルルーシェ、ケビンは一抹の不安を覚えつつ話の先を促す。

 

「“国民よ、魔国を愛し魔国を支える愛すべき国民よ。

我が国は未曽有の危機から救われた。此度の内乱はこれまでのどの戦いよりも激しく、暗黒大陸全土を混乱の渦に叩き落しかねない非常に危険なものであった。

そんな我々に天は一人の御使(みつか)い様を使わされた。

彼の者は我と我が国を救い、我らに祝福を与え去っていった。その事は皆もよく知っている事だろう。

我が国は女神様に認められ、御使い様に祝福されし国家となった。

よって我は魔王の名を返上し、新たに魔国王と名乗る事とする。

魔国は、暗黒大陸は、ただ中央大陸の者たちによる迫害から逃れた者が肩を寄せ合う土地ではない。この強大な魔物蔓延る大地に根差し、魔物と戦い、生き抜いてきた我らが故郷。

暗黒大陸は、魔国は、他に恥じる事のない、むしろ誇るべき独立国家であるのだ。

 

魔都総合武術大会に於いて優勝を果たしたジミー殿は三将軍との戦いにおいて負傷こそすれ、見事その力を発揮し、御使い様と共に魔国を去った。

いつかまた彼がこの地を訪れた時、更なる発展を遂げた魔国を見てもらおうではないか。

彼らの献身に胸を張って応えるために、魔国の誇りある旗の下に!!”

 

以上が魔王改め魔国王となられたアブソリュート様の演説の全文です。

この演説に国民は熱狂し、その後魔国は急速な復興を果たした。

ただ、その事に納得しない者たちがいた。

ジミー殿は魔国にはいない、であれば探し出せばいい、会いに行けばいい。どこを探す? ジミー殿は何処から来たのか。

彼女達の執念は私達の予測の遥か彼方、数少ない情報をすり合わせ、類推し予測を立て。

ジミー殿がゼノビア様と共に魔国を訪れた事、ゼノビア様が周辺国の調査の為中央大陸に渡っていた事、調査期間の長さからジミー殿がおられるのはオーランド王国北西部地域が最も可能性が高いという結論に達しました。

 

そうと決まれば早速行動を起こすのが魔国国民です。ですがそれは魔国としては非常にまずい、我々は御使い殿の怒りを買う事を最も恐れた。

そこでジミー殿に会いに行きたいという者たちにある条件を出したのです。

“魔都総合武術大会において決勝戦に残る事を最低限の条件とする、その報酬としてジミー殿の下に案内する事を魔国として約束する”と。

 

そして今年の魔都総合武術大会において決勝戦に残った者がこの二人」

 

“パサッ”

外されたフード、そこには美しい面立ちをした一人の女性が顔を見せる。

 

「こちらは本年度魔都総合武術大会において準優勝を果たした、パルム一族族長家の娘でラビアンヌ・パルム殿。優勝は獣狼族族長家の娘であるクルン殿。

ケビン殿に対するお願いというのは、是非弟君であるジミー殿との仲立ちをお願いしたいというものでして」

そう言い深々と頭を下げるメルルーシェ、そしてそれにならうように頭を下げるラビアンヌとクルン。

暗黒大陸より這い寄るジミーに魅せられし者たち、その実力は本物。

ケビンはかつてない厄介事の訪れにこめかみに手を当てながら、“ジミー!! これ一体どうするんだよーーー!!”と心の中で叫ばずにはいられないのでした。




本日一話目です。
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