転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第682話 辺境男爵、収穫祭を迎える (3)

「ホーンラビット伯爵閣下、お客様をお連れいたしました」

晴れ渡った秋空の下、これまでの日々を振り返り“あの時は大変だった、お前には苦労を掛けたな”と互いの労を労うマルセル村の村人たち。

そんな村人たちが飲み、食べ、陽気に騒ぐ収穫祭の会場に不意に齎された来訪者の知らせ。

 

「えっとケビン君、それはどういう事かな? 今日は誰かが訪ねて来るといった話はなかったはずだが」

農業、食肉加工業、繊維産業の他に観光業に力を入れるマルセル村。日々多くの観光客が訪れ、マルセル村の様々な施設を見て回りホーンラビットたちのショーを楽しみ、マルセル村の食堂で舌鼓を打ったり、村門前の闘技場では村の戦士相手に戦いを挑んだりしている。

だが本日は大切な秋の収穫祭、予めグロリア辺境伯領の地方都市エルセルの冒険者ギルドや商業ギルド、各宿屋などに秋祭りのため来村は受け付けない旨の通達を出したり、マルセル村の一つ手前の村であるゴルド村にも同様の知らせと立て看板を出させてもらっていた。

 

「いや~、こちらの方々は本日マルセル村で収穫祭が行われている事を知らなかった様でして。ホーンラビット伯爵閣下もご存じの方でしたので、お連れした次第です」

そう言いケビンが紹介した者、それはローブを羽織り目深にフードを被った三人の人物。

 

“パサリッ”

そのうちの一人が自身の頭のフードを取り、一礼の後挨拶の口上を行う。

 

「お久し振りでございます、ホーンラビット伯爵閣下。

本日は秋の収穫祭というマルセル村に於ける大切な祭典の日であったとか、魔国魔王軍騎士兵団副官メルルーシェ他二名、突然の来村の御無礼、深くお詫び申し上げます」

 

ふわりと揺れるウエーブの掛かった髪、頭部に付いた二本の巻き角、その特徴的な容姿にホーンラビット伯爵の記憶が鮮明によみがえる。

 

「おぉ~、これはこれはメルルーシェ様ではありませんか、本日はどの様な御用向きでマルセル村に?

いや、それは後でも構いませんな。お~い、皆の衆、メルルーシェ様だ、魔国のメルルーシェ様がお越し下さったぞ~」

 

ホーンラビット伯爵の歓迎の言葉に、各々騒いでいた村人たちは話を止め、皆してメルルーシェに歓迎の言葉を向ける。

 

その様子に動揺したのはメルルーシェと共にマルセル村にやって来た同行者たち。中央大陸の普人族たちは異種族である獣人族を虐げる、中央大陸の貴族は他者を虐げ同族であろうとゴミのように扱う。

幼い頃から当然のように語られてきた中央大陸の実情、多くの者が様々な迫害から逃れ逃れ辿り着いた暗黒大陸。

そこは決して彼らを温かく迎え入れてくれる様な楽園ではなかった。強大な魔物と厳しい自然、祖先の者たちが己の命と引き換えに築き上げてきた街や村。それらを一つにまとめ、大きな力とすることで建国された魔国。

その魔国からやって来た者を、これほどまでに温かく歓迎する村人たち。

 

「それで本日はゼノビア様は御一緒ではないのですかな? ホーンラビット族のゼノビア様は我がホーンラビット伯爵領マルセル村にとっては大切なお客様、是非我が子達にもご挨拶申し上げさせたいのですが」

キラキラとした期待の籠った村人たちの視線が、来訪者たちに注がれる。

 

““・・・あれ? なんか思ってたのと違う””

来訪者の内の二人が戸惑いを見せる中、彼らを村まで案内して来た者が口を開く。

 

「皆の者、静粛に。皆が期待する気持ちはよく分かる、収穫祭という素晴らしい祝いの席に我らホーンラビット伯爵領の者にとって夢の存在であるホーンラビット族のゼノビア様がお越し下さったのではないかとなれば、浮き立つ気持ちを鎮めろと言われても無理というもの。

だが残念ながらゼノビア様は本日お越しになられていない、あの御方は魔王軍四天王のお一人、大変高貴でありかつお忙しい御方なのだ。

そのような御方がそうそう国を離れ他国のしかも辺境であるこの地を訪れる事が出来ようか。

本日こうしてメルルーシェ様がお越し下さったことを素直に祝いともに歓迎しようではないか。

 

だが皆の者よ、気落ちする事はない。確かにゼノビア様はお越しになられていないが、別の方々がマルセル村を訪れて下さった。

本年度の魔都総合武術大会に於いて優勝と準優勝を収められたお二人、彼の暗黒大陸においてもっとも強い者たち。

獣狼族の輝ける女戦士クルン殿とパルム族の姫君ラビアンヌ・パルム殿である。

皆の者、拍手を以って歓迎しようではないか!!」

 

“バサッ”

取り除かれたローブ、頭部に付いた三角耳がぴんと立つ、凛とした表情の美しい女性。腰のあたりでゆっくりと揺れる尻尾が、その者が普人族とは別の種族の者である事を物語る。

 

“バサッ”

長い髪がさらりと揺れる。美しい面立ちはまさに高貴なる姫君、澄んだ瞳が見詰める先は果たして自分たちの姿か、それとも心の内か。

 

「「「「「おぉ~~~、ようこそマルセル村へ!!」」」」」

それは降って湧いたようなゲストの来村。ケビンは在りし日の記憶を思い出し、“そういえばこんな感じで美人アイドルや女優が突然田舎にやってくるようなバラエティー番組があったな~”と独り言ちる。

 

「御三方とも、ようこそマルセル村へ。特別な歓迎は出来ませんが本日は村の収穫祭。ともに飲み、食べ、騒ぎ、祭りを楽しんでください」

ホーンラビット伯爵の言葉に一斉に盛り上がる村人たち。あるものはエールの入ったジョッキを手に、ある者は料理の盛られた小皿を持って、それぞれの席に来訪者たちを招き入れる。

 

「それでは嬉しいお客様もいらしたところで改めまして、ようこそマルセル村 に、乾杯!!」

「「「「「カンパーーーーイ!!」」」」」

“““““ガツンッ、ガツンッ、ガツンッ”””””

 

打ち付けられるジョッキ、酒飲みたちにとっては騒ぐ口実が多いに越したことはない。

こうして魔国からやって来た来訪者たちは、代表であるメルルーシェの心配をよそに、収穫祭に浮かれる酔っ払いたちの丁度良い酒の肴にされていくのでした。

 

―――――――――

 

「「「キャ~~~、暗黒大陸に武者修行に来ていたジミー君を追い掛けて異国の地であるオーランド王国に!? 情熱的~~!!」」」

「ジミー君って魔国で開催された魔都総合武術大会で優勝してたの? そんな事全然教えてくれないんだもの、私たち全然知らなかったわよ。

それでジミー君を追い掛ける条件がその魔都総合武術大会の決勝戦に残る事だったって、ジミー君愛されてる~~~♪」

 

マルセル村は辺境である。国の外れ、入って来るものも出て行くものも大体決められてしまっているこの地に於いて、村人たちの娯楽は少ない。

 

「それでクルンちゃんはジミーの坊やに会ったらどうするんだい?」

「そうだな、私はジミーの子種が欲しい。ジミーは私の理想の男、そんな男の子が欲しいというのは獣狼族である私にとって当然の衝動。

一夜の契りでも構わない、その為の準備は確りとしてきてある。ジミーの子は私が立派な戦士に育ててみせる!!」

 

「「「「「おぉ~~~、クルンちゃん覚悟決まってる、そこに痺れる憧れる!!」」」」」

クルンの宣言に女衆ばかりでなく男衆からもどよめきが起こる。

 

「それでラビアンヌちゃんはどうしてジミー君の事を? 魔都総合武術大会の決勝戦まで勝ち抜いてでも叶えようとした思い、ただ強いとか格好いいとか、そういう訳じゃないんでしょう?」

「私の家は周辺七部族を取り仕切る魔国からも認められた族長家だったんです。ですがその内のある部族家の造反により滅亡の危機に立たされていて。その時一族を救ってくれたのがジミーだったんです。

ジミーは森の中でケルベロスに襲われた私を助けてくれたばかりか追手の魔術師たちの魔の手からも救ってくれて。一人敵の家に乗り込んですべてを打ち払い何も言わずに去ってしまった。

私は、私たちは、ジミーに何の恩も返せていないというのに。

でもそれはいい訳、本当は私がジミーに心底惚れてしまったから、あれほどの男をみすみす逃すなんて、暗黒大陸の女としてあるまじきこと。

絶対に捕まえてモノにします、例え地の果てまで追い掛ける事になっても!!」

 

「「「「「おぉ~~~、ラビアンヌちゃん、違った意味で覚悟決まっちゃってる。そこに痺れる、恐ろしい!!」」」」」

人の不幸は蜜の味、男女の仲は複雑怪奇、それが不幸で終わるか幸福に変わるかは本人たちにしか分からないという事を辺境マルセル村の者たちは実感として知っている。

 

「ねぇケビン、これってどうするの?」

「どうするのって言われてもね~。ジミーは今王都だし、王都にあの二人を連れて行ったら大騒ぎになること請け合いだし。

ラビアンヌさんはまだいいよ? 美人さんだし結構な騒ぎになるとは思うけど普人族みたいだしね? クルンさんはね~、獣人さんだし、ケモ耳尻尾だし。とんでもない騒ぎになっちゃうと思うんだよね~。

で、問題なのがこの二人が目茶苦茶強いって事。魔都総合武術大会って王都の武術大会の比じゃないから、王都武術大会の本戦出場者が普通に予選落ちするレベルだから、本戦出場者なんて言ったら一回戦から王都武術大会の決勝みたいな戦いを繰り広げるからね? そんな大会で決勝に残るって、あの二人だけで王城攻め落としかねないからね?

グルゴさんやギースさん辺りとだったらいい勝負になると思うよ?」

 

俺の言葉に目を見開いて驚くパトリシア。パトリシアは王都街門前の惨劇をその目で見ているだけに、グルゴさんとギースさんの実力を肌で感じているためその二人と同等と言われればその凄さが分かるというもの。

 

「ご歓談中のところ申し訳ありません、ご主人様、そろそろご準備を」

背後から掛けられた新月の声に、パトリシアに断りを入れてから席を立つ。今日は祭り、秋の収穫祭。であればマルセル村の子供たちにも十分祭りを楽しんでもらわないといけない。

 

“パンパンッ”

「よし、やるぞ!!」

俺は頬を叩き気合いを入れると、仲間が待つ舞台へと歩を進めるのであった。

 

―――――――――

 

収穫祭会場である村の健康広場、その脇に不釣り合いにしつらえられた格闘舞台。その中央に建つ一人のメイドが、拡声の魔道具を手に声を上げる。

 

「良い子のみんな~、おまたせしました~。みんなの大好き、ラビット戦隊ショーがはじまるよ~。良い子のみんなは係りのお兄さん、お姉さんの言う事をよく聞いて、舞台下の仕切りから内側に入らないようにしてね♪

それじゃ~早速大きな声で呼んでみよう、ラビット戦隊のみんな~!!

・・・あれあれ? みんなの呼び声が聞こえなかったのかな?

みんな、一緒に呼んでね♪

せ~のっ、「「「「「ラビット戦隊のみんな~!!」」」」」・・・」

 

「ククククッ、ハッハッハッハッハッ。無駄だ無駄だ、いくら呼んでも奴らは来ないよ」

「誰!? どこから声が!?」

 

「クックックッ、まだ気が付かないのかな? もはや自分たちがすっかり取り囲まれているという事に」

“ブワッ”

 

突如舞台上に現われた三人の人物、そして。

“““““クワックワックワックワックワ~~~!!”””””

舞台を取り囲むように何体もの鷹の目コッコたちが姿を現すのだった。

 

「あ、あなた達は何者なんですか!? ここがどこだか分って」

「無論理解しているよ。辺境の蛮族が暮らす里、マルセル村。とても優秀な村人たちが揃っているらしいではないか。

ではそんな村人の子供たちはさぞ優秀だと思わないかな? 子供たちに教育を施し我が戦力とする。大変すばらしい考えではないか!!」

 

““バッ””

「「ハッ、魔王カオス様の御心のままに!!」」

二人の人物が片膝を突き頭を垂れる。その者たちの口から告げられたものの名前、この世に混沌を齎す恐怖の象徴、魔王カオス!!

 

「キャーーーーー、誰か、子供たちを、子供たちを助けて~~~!!」

舞台の上のメイドが拡声の魔道具で叫び声を上げる。そんな時、一陣の風が会場に吹き付けた。

 

「天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ。誰かを思う心の叫びが、俺の魂を震わせる!!」

いつの間に現われたのか、舞台の上にはさらに四人の人物が。

 

「魔王カオス、俺が来たからには貴様の自由になどさせるものか!!

いでよ、聖霊剣グランゾート!!」

“ブワ~~~~~ッ”

 

舞台の上に展開する光輝く魔法陣、その中心から魔法陣の輝きに照らされて、一振りの美しい大剣が姿を現した。

 

「クッ、貴様は、勇者ブー太郎!!」

「魔王カオス、貴様の野望この俺が聖霊剣グランゾートで叩き切る!!」

“カチャンッ”

 

「「「「「ウォ~~~~~~!! 行け~~~~、勇者ブー太郎ーーー!! 理不尽を叩き切れ~~~~~!!」」」」」

ジョッキを片手に立ち上がり歓声を上げる村人たち、係員のお兄さんお姉さんと鷹の目コッコたちに前に出ないように制止されながらも、腕を振り上げ瞳を輝かせる子供たち、状況に付いて行けず唯々唖然とする三人の客人たち。

マルセル村の秋の収穫祭は、更なる盛り上がりを見せながら続いて行くのだった。




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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