転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第683話 辺境男爵、収穫祭を迎える (4)

「勇者ブー太郎、なぜ貴様がここに。貴様は魔の森の奥に引き籠っているのではなかったのか!?」

「フッ、愚問だな、魔王カオス。今日が何の日か分からなかったのか?

今日はマルセル村の秋の収穫祭、マルセル村の一員である俺が収穫祭に顔を出さない訳がないだろう!!

大切なお祭りを荒す魔王よ、子供たちに手を出すとは言語道断。親御さんに代わりこの俺が成敗してくれる!!」

 

「「「「「そうだそうだ、勇者ブー太郎、魔王カオスをぶっ飛ばせ~~!!」」」」」

魔王カオスに向かい、ビシッと聖霊剣グランゾートを突き付ける勇者ブー太郎。その勇姿に、会場からは大人たちの声援が飛ぶ。

 

「「魔王カオス様、ここは我々が!!」」

魔王の背後に控えていた者が、声を上げ前に出る。一人は扇情的でありながら動きを重視した戦闘衣装を身に纏った褐色のエルフ、一人は蠱惑的な身体の線が分かる全身鎧を装着した女性騎士。

 

「「「「「魔王カオス~、女性にそんな恰好をさせて恥ずかしくないのか~。もしかして趣味か?」」」」」

「喧しい、この衣装は彼女達の自前なの!! 俺は一切口出ししてないから、本当だから!!

パトリシア、アナスタシア、ケイト、そのジト目は止めて、マジで止めて。アルバ、“お父さん凄い”って尊敬するところがおかしいからね!!

ゴホンッ、者ども、勇者ブー太郎を倒すのだ!!」

 

観客からのヤジに思わず素に戻るも、直ぐに命令を下す魔王カオス。

 

「「店長、ここは私達が!!」」

“ガキンッ、ガキンガキンガキンッ、バッ、ガキンガキンッ”

勇者ブー太郎の仲間が敵の攻撃を迎え撃つ。

 

「ありがとう、ダリア、ジャスパー。魔王カオス、これが仲間の力、森のお店屋さんの結束力! あとはお前だけだ、覚悟しろ!!」

“カチャッ”

勇者ブー太郎が魔王カオスに向け聖霊剣グランゾートを構えた、その時であった。

 

「クックックッ、ハッハッハッ。勇者ブー太郎よ、私が一人だと?

確かにそうかも知れぬ、だがそれならば味方を増やせばいいとは思わないか?」

“ゴトンッ”

それは虚空から突如現れたバーベキューセット、バーベキューコンロの上では炭火に焼かれた串肉がジュ~ジュ~音を立て、胃袋を刺激する匂いを周囲に広げる。

 

“パタパタパタパタパタパタ”

「ほ~ら、子供たち~。美味しそうな串肉が焼けてるよ~。配下に加わった者には、この美味しい串肉をあげちゃうよ~♪」

団扇をパタパタと仰ぎながら、串肉の焼ける旨そうな香りを辺りに広げていく魔王カオス。会場の良い子達も、これには堪らず生唾を飲む。

 

“クワックワックワ~♪”

「ほ~ら、早速味方が増えたぞ。このお嬢さんは勇者ブー太郎、お前の連れではなかったのか?」

そう言い目の前に現れた頭に骨の被り物をした少女に串肉を渡す魔王。

 

「あっ、シャロン、勝手に知らない人から食べ物を貰ったらだめでしょう。大人の人は優しい顔をしていても悪い事を考えているかもしれないんだよ?

人攫いなんていう怖いおじさんやおばさんもいるんだから、知らない人にかってについて行ったりしちゃ駄目じゃないか。

誰かに何かを貰ったらちゃんとお父さんやお母さんに報告する事。無理やり連れ去られそうになったら大きな声を上げて近くの大人に助けを求める事、分かった?」

“クワックワックワ~”

 

勇者ブー太郎の言葉に元気よく返事をする少女。

 

「それと誰かから親切にされたらちゃんとお礼を言うんだよ?」

“クワッ! クワックワック~”

 

「はい、どういたしまして。ちゃんとお礼が言えてシャロンちゃんは偉いね~。おじさんの名前は魔王カオス、ちゃんとお父さんに“魔王カオスさんに貰いました”って報告するんだよ?」

“クワッ、クワワ~”

 

少女は魔王カオスにぺこりと頭を下げると、ブー太郎の下に戻り串肉を貰った事を嬉しそうに報告するのでした。

 

「クッ、魔王カオスめ、串肉でシャロンを懐柔するとは。

シャロンが大変お世話になりました、どうもありがとうございます」

「クックックッ、シャロンちゃんと言ったか。素直でいい娘さんじゃないか。良い子のみんなもシャロンちゃんのようにちゃんとご挨拶できるかな?」

 

「「「「「は~い、ちゃんとご挨拶出来ま~す」」」」」

「よろしい。それじゃそんなマルセル村の良い子には、魔王カオス様が串肉を分けてあげよう。

シャドームーン、ムーンナイト、戦闘を一時止め、子供たちに串肉を配るのだ。将来大切な配下になる者たちだからな」

 

「「ハッ、魔王カオス様の思し召しのままに」」

魔王カオスの言葉に戦いを止め、バーベキューコンロの上の串肉を皿に盛り一本一本配り始める配下。

 

「「「「「魔王カオス、俺たちの分はないのか~」」」」」

「喧しい酔っ払い、お前らはテーブルの料理でも楽しんでろ!!

ちゃんと女衆に感謝する事を忘れるんじゃないぞ!!」

 

魔王カオスの注意にドッと笑いが広がる会場。

 

「良い子のみんな、食べ終わったらちゃんとお父さんお母さんに“親切な魔王カオス様に串肉を貰いました”って報告するんだよ? おじさんとの約束、守れるかな~」

「「「「「うん、ちゃんと報告する!!」」」」」

 

子供たちからの返事に満足気に頷く魔王カオス。

 

「勇者ブー太郎よ、マルセル村の子供たちはとても良い子ばかりではないか。これでは我が配下にする事は出来ないな。

だが忘れるな、お父さんやお母さんの言い付けを守れないような悪い子は・・・」

“ブォッ”

突如立ち昇る漆黒の闇属性魔力。その力は魔王カオスと配下の者を包み込む。

 

“この魔王カオスがいつでも狙っているという事をな。

特にミッシェルちゃんとチェリーちゃん。ミッシェルちゃんはメアリーお母さんをあまり困らせない事、ヘンリーお父さんが甘やかすからって、少しは自分の足で歩くようにしなさい。メアリーお母さんがとっても心配なさっていたよ?

チェリーちゃんはもう少しトーマスお父さんもかまってあげて。トーマスお父さん、目茶苦茶落ち込んでるから。“娘の親離れが早すぎる”って嘆いてるから。

さらばだ勇者ブー太郎、我はいつでも貴様を歓迎しよう。

因みにラビット戦隊の皆には今日はお休みだと伝えてあります。今頃巣の中でごろごろしてるんじゃないかな? ワッハッハッハッハッハッ”

 

“ブワッ”

闇の魔力が霧散する。舞台からは魔王カオスはおろか、配下の者や鷹の目コッコたちすら姿を消す。

 

「くそっ、世界に混沌をまき散らす厄災、魔王カオスめ。この素晴らしいマルセル村を貴様の好きにはさせないからな。

よい子の皆も魔王カオスに狙われないように、お父さんお母さんの言う事をよく聞いて、一緒にマルセル村を守ろうね」

「「「「「一緒にマルセル村を守る~、魔王カオスをやっつける~」」」」」

 

勇者ブー太郎は子供たちの言葉に満足げに頷くと、「さらばだ、また会おう!!」と言って、仲間とともに舞台を下がって行くのでした。

 

――――――――

 

「良い子のみんな~、“勇者ブー太郎対魔王カオス、串肉の決闘”は楽しんでくれたかな?

それじゃ今度は大きなお友達の出番、戦いに飢えた大人たち、出てこいやー!!」

“バシュ~~~~~ッ”

 

舞台の上に生活魔法<ミスト>と風魔法を合わせたスモークが立ち込める。

 

「ワッハッハッハッハッハッハッ、我こそはマルセル村の勇者病<仮性>重症患者ケビン!! 毎年毎年祭りのたびに襲い掛かって来るバカ者どもの為に今年は初めから舞台に上がってやったわ~!!

ただし、俺と戦いたかったらまずはこの二人と戦ってもらおうか。

暗黒大陸という強力な魔物蔓延る危険地帯においてその牙を研ぎ澄ませし猛者、本年度魔都総合武術大会の覇者、獣狼族の若き天才クルン選手。同じく魔都総合武術大会準優勝者、パルム族の麗しき姫君ラビアンヌ選手。

お二方、舞台の上にお願いします。皆の者、盛大な拍手を!!」

“““““オォ~~~~~~、パチパチパチパチパチパチパチパチ”””””

 

突然名前を呼ばれ舞台に上がるように促された二人の客人クルンとラビアンヌは戸惑いの表情を浮かべるも、メルルーシェからの頷きを受け、会場の温かい拍手に包まれながら舞台へと上がる。

 

「クルン選手にラビアンヌ選手、突然の呼び掛けにお応えいただきありがとうございます。どなたか戦ってみたい人物などはおられますか? 俺としてはジミーの父であり目標でもあった父ヘンリーや幼少期からの剣の師匠であったボビー師匠辺りがお勧めですけど」

ケビンの言葉に暫く相談を行うクルンとラビアンヌ。

 

「では私はジミー殿の御父上、ヘンリー殿と対戦したい」

「私は剣の師匠であるボビー様と対戦したく思います」

 

「「「「「ウォ~~~~~~~」」」」」

クルンとラビアンヌの言葉により一層の盛り上がりを見せる会場。

 

「さあ始まりましたマルセル村のお祭り名物、実況は私十六夜、解説にはラビット格闘術師範白雲さんと魔王軍騎士兵団副官メルルーシェ様のお二人にお越しいただいております。

白雲さん、メルルーシェ様、よろしくお願いします」

「「よろしくお願いします」」

 

特殊使用人部隊の手により即興で作られた実況席からは、拡声の魔道具を握る十六夜の声が響く。

 

「白雲さん、ヘンリーさんとボビー師匠と言えばマルセル村における双璧。その実力は“鬼神ヘンリー”・“剣鬼ボビー”の二つ名と共にオーランド王国中に響いております。

この戦い、どう思われますか?」

話を振られた白雲が、真剣な表情で口を開く。

 

「そうですね、私は昨年の魔都総合武術大会を見る機会に恵まれたんですが、正直あの大会の出場者たちの実力は、マルセル村の闘技場を訪れる冒険者たちの剣技が子供の遊戯に思える程の高い実力を有しています。

そんな大会の本戦出場、しかも決勝進出者のお二人の実力は、ホーンラビット伯爵家騎士団の者たちに引けを取るものではないでしょう。

この戦い、少しの油断が命取りになるような高度なものになると予測されます。決して相手を侮って勝てるようなものではない事は断言できますね」

 

「そうですね、私は本年度の大会をその目で見てきましたが、魔都総合武術大会の歴史に残るような名勝負がいくつも繰り広げられた素晴らしいものでした。

マルセル村の戦士が底知れぬ実力者という事は自身の体験で理解していますが、あの二人には期待してしまう自分もいます」

 

メルルーシェはそう語り、自身の拳を固く握りしめる。

 

「両者前へ」

審判のケビンの声に、舞台中央に立つクルンとヘンリー。

 

「ジミーの御父上殿、全力で行かせていただきます」

「獣狼族の戦士クルン殿、よろしくたのむ」

 

「両者開始位置へ、始め!!」

掛けられた開始の合図、クルンは膝を曲げ、瞬時に動けるように身を屈める。

 

「アレは去年の収穫祭の事だった」

目の前のヘンリーをじっと見詰めるクルン。隙が無い、大剣の木剣を握り佇んでいるだけの偉丈夫、だがまるで大岩を前にしているかのように全くの隙が窺えない。

 

「祭りの終わり、結婚を宣言した息子ケビンに祝いも込め村の男衆全員で戦いを挑んだ」

静かに佇むヘンリー、だが対峙するクルンの額からはとめどなく汗が流れ、小刻みに動こうとするも、その足はまるで根でも生えたかのようにピクリとも動かない。

 

「だが俺たちは息子ケビンに剣を向ける事が出来なかった。実力が足りず打ちのめされたのではない。息子の嫁、ケイトの歌に闘争心を鎮められ、一切の戦闘が出来ない状態にさせられてしまったんだ。

俺は思った、世界にはこんな戦い方もあるのかと。相手の興を削ぐ、戦いに勝つのではなく初めから戦う気を起こさせない戦い。

そんなものを相手にした時、俺はどうしたらよいのか」

 

“スーーーーーーッ”

掲げられた大剣、その動作をただ目で追う事しか出来ないクルン。

 

「これが俺なりの答え、<無想一閃>」

“スッ”

振り下ろされた大剣、酷くゆっくりに見えるそれは、しかして周囲から一切の色と音の消えたまるで時の止まったかのようなこの空間で、確実に自身の首を刈にきている。

 

「そこまで!! 勝者、ヘンリー・ドラゴンロード!!」

“““““ウォ~~~~~~~!!”””””

 

途端周囲の景色に色が戻る。会場の歓声が鼓膜を打ち、自身がまだ生きている事に全身からドッと汗を噴き出させるクルン。

 

“バタンッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ”

しゃがみ込み、肩で荒く息をするクルンに手を差し伸べ声を掛けるヘンリー。

 

「お嬢さん、クルンさんといったか、ようこそマルセル村へ。

何でもジミーの事を追い掛けて遠く暗黒大陸から来たとか。正直息子との仲をとやかく言うつもりもないしその事に対して力になれるとも思えない。

ただ確実に言えることはジミーは強い、俺の遥か先を行く男、それがジミーだ。

クルンさんの覚悟がどれ程のものであるのかは男の俺では推し量ることができない。あとは当人同士の問題、後悔だけはするなよ?」

それはとても大きな手、義父と呼ぶに相応しい漢の手であった。

 

「ありがとう、ございます」

クルンは恥ずかしそうに俯きながらその手を握り返すと、高鳴る鼓動もそのままに、共に舞台を下がるのだった。




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