転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第685話 居酒屋のマスター、秋の味覚を振る舞う

“トコトコトコトコトコトコトコ”

厨房からまな板を叩く小気味よい音が響く。大森林深層に生息するレッサードラゴンとグレートボア、それらの足の肉を包丁で細かく叩き、合わせて作る合い挽き肉。金属製のボールに移して、予めみじん切りにしておいたオニオンとショウガを混ぜる。

パン粉・豆乳・粗塩・カラミナ草の粉末を適量混ぜ、軽く粘りが出るまで捏ねる。

 

“ストンッ、ゴリゴリゴリゴリ”

パンプクのヘタの付いた側をやや厚めに切り落とし、中に詰まった種や綿をスプーンで削ぎ落とす。空洞になったところでサッと水洗いし、その中に先程作った“肉ダネ”を詰め込んでいく。

 

切り落としたパンプクのヘタ側を上蓋にし、皿に載せ石窯オーブンにイン。あとは時間を掛けじっくりと火を通す。

石窯オーブンのいい点は全体から火が通るところ。焼きムラが少なく中まで確り熱が伝わるのは、石窯特有の遠赤外線効果によるものなのだろう。

表面はカリッと、中は柔らかジューシーに。たんぱく質の信奉者として、石窯の存在は欠かせない。

 

煮て良し、焼いて良し、蒸して良し。そんなお肉様と秋の味覚であるパンプクとの夢の競演。

隣の竈では芋とキャロルと薄切りしたグレートボアが、みそ味のスープとなってゆっくり煮込まれる。

 

ここは炊き立てのお米様といきたいところだけど、お米が切れちゃってるんだよな~。だって美味しいんだもん、食べちゃうよ、本当に。

ここは一つエルフ族の里(テーマパークの方)に出入りしているという扶桑国の鬼人族さんと繋ぎを作って直接取引をする?

蒼雲さんの話では扶桑国で普人族の姿を見る事はないらしいし、交易も長崎の出島みたいな感じに、一か所だけで行っているみたいだしね。

勝手に忍び込んだら捕縛対象になること請け合い、どっちにしろ伝手が必要って訳ですね、うん。

 

「マスター、サンマが焼けました」

「分かった、皿に盛り付けておいてくれるか? こっちで収納の腕輪に仕舞っておく。

それじゃ開店と行こうか」

 

俺はトライデントに声を掛けると前掛けの腰ひもを縛り直して気合を入れる。

照明の魔道具の明かりが灯った居酒屋のフロアは、床もテーブルもきれいに磨かれ、いつでも来客の準備は整っている。

店内の壁際に備え付けられた特別な扉に掛けられた木札を“開店中”に代え、居酒屋には似つかわしくない女神様の祭壇に向かい祈りを捧げる。

 

「天より我らを見守りしいと尊き天上の御方様、居酒屋ケビン、開店させていただきます」

淡く光る女神像、“カチャリ”と背後から聞こえる扉が開く音。

清廉で神聖な気配が店内に流れ込む。

 

「いらっしゃいませ、あなた様。本日のメニューは秋の味覚づくしでございます」

かくして祈りは届けられ、天上の御使い様は顕現された。

俺は膝を上げ立ち上がるや、お客様に深々と挨拶申し上げ、自らの立ち位置であるカウンターの向こう側に向かうのであった。

 

“・・・ケビン、毎回毎回思うんだけど、あなた大げさじゃない?

心からの信仰心を捧げながら浮かべるアルカイックスマイルってどこの教皇? って感じだけど、あなた敬う気なんか零じゃない。ケビンの事を知らない天上人が今のあなたの事を見たらなんと心清らかな信徒なんだろうって勘違いするから止めなさいよね? この前だって#@&&(御方様)がえらく混乱していたんですからね?”

 

そう言い呆れた表情をしながらカウンターテーブルに着かれるいと尊き御方様、それは慈愛の籠った優しくも美しい至高の微笑み。

“ベシンッ”

“#*$%&’&%%ERT$!?”

 

突然の衝撃、魂の芯に響くようなその痛みに、思わず頭を抱えてしゃがみ込む。

 

“うん、素晴らしいわね、このハリセンという武器は。あなたの監視を行っている??%&(放浪の大聖女)があなたが三人のお嫁さんに引っ叩かれてもだえているところを見掛けて、詳しくアーカイブを調べて作ってくれたのよ。

地上人の技術を結集して作られた英知の結晶、最早聖剣ね、聖剣“理不尽バスター”と名付けましょう”

あなた様がそう宣言しハリセンを掲げた瞬間、キランと淡く光り輝いたハリセン、もとい聖剣“理不尽バスター”。

あなた様、名付けによってハリセンの格が上がってるんですけど!? それに何ですかその命名は、俺特化の武器ですか? 天使が作りし俺専用武器、止めてくださいよ本当に。

俺は“ただご挨拶申し上げただけなのに、何て理不尽”と思いながら、カウンターに向かい料理とお酒の準備をするのでした。

 

“コトッ、カチャッ”

「秋の味覚といったらこれ、サンマの塩焼きでございます。

とは言ってもこれはこことは違う在りし日の思いで、こちらの魚も俺が勝手にサンマと呼んでいるだけですしね。

いや~、この自己領域の海って凄いですね。一見南国の海なのに探せばなんでもいるんですよね。

とは言えこのサンマも俺の在りし日の記憶にあるサンマの二倍以上大きいんですけどね」

そう言い大皿に盛られたサンマもどきをカウンターに差し出す。薬味にすりおろしデーコンを添える事は忘れない。

あなた様は器用に箸を使いサンマの身をほぐすと、すりおろしデーコンを載せ醤油さしからたまり醤油を少々。薬味とサンマの身を口に運び。

“~~~~~~~♪”

口腔に広がるサンマの旨味、脂ののったサンマと薬味であるすりおろしデーコンの相性はバッチリ、あなた様も大満足のご様子でございます。

 

“コトンッ”

“これは?”

秋の味覚? に喜ぶあなた様に差し出したもの、それは琥珀色をした泡立つ液体。

 

「この前御方様がバッカス酒店からの届け物と言って持ってきてくださったんですよ。この島の小麦で作ったビールですね。

製法のレシピは異世界からの転移者によって齎されたとかなんとか。所謂クラフトビールの製法になるんだとは思うんですが、俺は酒に関しては門外漢なんで何とも。

伝言として大麦だったらもっとおいしく出来るって言われちゃったんですけど、大麦って何処にあるんですかね?

まぁ今度商業ギルドで聞いてみるつもりですけど」

 

俺の説明に酒には違いないとグラスに口を付けるあなた様。

“ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ、プハ~~~~”

“お代わり!!”

 

口元に白い髭をたくわえたあなた様が、満面の笑みで応えます。

流石バッカス酒店、小麦でも高いクオリティーでビールを再現なさったようでございます。

俺はトライデントにあなた様の接客を任せると、厨房に戻り次の料理の準備をする。

 

“ゴトッ”

カウンターテーブルに載せた大皿、その上にはこんがりとした焦げ目の付いたパンプクが一つ。

 

“スッスッスッ、サクッ、サクッ”

ナイフを入れて上蓋になっているヘタの部分を取り外し、パンプクに切れ目を入れます。

 

“ムワッ、ジュワ〜〜〜”

瞬間店内に広がる食欲を誘う香り。パンプクに閉じ込められていた肉汁が、ナイフの切れ目から一気に解放される。

 

“コトッ”

「パンプクの肉詰めです。肉ダネにはレッサードラゴンとグレートボアの合い挽き肉を使用致しました。

マルセル村の秋の味覚、ご堪能ください」

取り皿に盛られたパンプクの肉詰めにナイフとフォークを立てるあなた様、一口口に運ばれた途端相好を崩された様子に、俺はこの料理が成功したことを確信する。

 

秋の味覚、穏やかな時間の流れる店内。カチャカチャというナイフとフォークの音だけが、静かな夜に広がっていくので“ちょっと待ちなさい、何勝手にいい雰囲気で纏めようとしちゃってるのよ!”・・・いかなかったようでございます。

 

“あ〜、危ない危ない。もう少しでケビンのペースに誤魔化されるところだったわ。

大体あなただって何で私がここに来たのか分かっているんでしょう?”

そう言い訝しみの視線を送るあなた様に、俺は柔らかい笑顔を向け言葉を返す。

 

「はい、秋の味覚フェスタを味わうために“違〜う! そこ、何を“えっ、違うの?”って顔をしてるのよ! そんな訳ないでしょうが!!”・・・そうですか、それは申し訳ありませんでした」

 

俺は何という思い違いを・・・。

お客様の御心をはき違えるなど調理人にあるまじき行為、俺は要望に応えられなかった自身を責めつつ、カウンターテーブルの料理を“ちょっと待とう、うん、今日の目的は秋の味覚フェスタだったわね。季節の料理を味わう事、料理という地上人の生活文化を通じ、地上人の考えや心を理解する。これも立派な天使の役目よね”・・・。どうやら自分は間違っていなかったようでございます。

 

「まぁお遊びはこれくらいにしておいて、アレですか? アルバ関係のゴタゴタ。流石は最悪の魔王と呼ばれたデビルトレントですね、俺も取り出してみて分かったんですけど、アレ、仮にアルバが勇者に殺されずにいたとしたら収納のスキルを通じアルバが精神汚染されてたか何かしたんじゃないんですかね?

俺の場合スキルじゃなくて収納の腕輪っていう魔道具ですし、本部長様が手を加えてくれたおかげで今や神器じゃないのかってレベルの凄い道具になってるんで俺がおかしくなることはあり得ませんけど、魔王デビルトレントの亡骸、シャレにならないっすよ?

あの素材、使い様によっては本気で人類の半分は滅ぼせるんじゃないかってくらいとんでもない呪いの力と闇属性魔力に溢れていましたから」

 

俺の言葉に“それもあったのよね~”と頭を抱えるあなた様。それもあったって他に何があるの? これ以上重要な事はないでしょうに。

 

「まぁそれでも我が社の優秀な従業員の方々にとっては美味しいごちそうらしく、日々美味しくいただいてくださっております」

“コトリッ”

俺はそう言うと、収納の腕輪から一本の魔法杖(短杖)を取り出し、カウンターテーブルの上に置く。

 

“これは・・・”

漆黒の美しい魔法杖は誰が見ても分かるくらいに力強い闇の力を秘めている。だがその身から発する力はまるで星空輝く宇宙のように、どこまでも深く神秘的であった。

 

「魔法杖“スターダスト”、魔王デビルトレントの芯材から削り出した逸品です。あの素材って面白いんですよ、表面に近ければ近い程呪いの力が強く禍々しい。逆に芯に近ければ近い程、純度の高い純粋な闇属性魔力の塊となる。

この芯材の部分なんかほとんど魔力結晶と変わらないんじゃないかって感じの物質でしたから。

ただ魔力結晶と違う点はこれって木なんですよ、だから削る事が出来る。ですがどうも金属には弱いみたいで、石器のようなもので加工する必要がありましたが」

 

俺の説明を聞きながらも、魔法杖“スターダスト”を食い入るように見詰めるあなた様。

 

“ケビン、あなた、これを使った事は?”

「いや、まだ作ったばっかりですからね。一応試しにスターダストを握って夜の草原に立ってみたんですけど、これ、マジヤバですわ。完全に夜の支配者、遥か天空の彼方の隕石を感知どころか掌握出来ちゃったときには冷や汗が止まりませんでしたからね。

後で見てみます? 直径五百メート程の小さい奴なんで大した事ないですけど、収納の腕輪に仕舞ってありますんで。

神聖魔法じゃないですけど、隕石落としが出来ますよ、これ」

そう言い乾いた笑いを浮かべる俺に、盛大に顔を引き攣らせるあなた様。

 

“・・・封印で”

「ですよね~、俺もそう思って枝から劣化版を作ってみました。こっちは二種類ですね、一つはうちの魔剣たちに呪いを完全に吸い取って貰った枝から削り出した奴です」

 

“コトッ”

取り出された魔法杖(短杖)は漆黒に艶めいた、黒曜石のような輝きを放つ物。

 

「闇属性魔力との親和性が高く、闇属性魔導士のケイトにとってはこれ以上ない相性のいい武器になるかと。

出産祝いにあげようと思いまして」

俺の言葉に魔法杖を手に取り感触を確かめるあなた様。

 

“・・・ケビンの事ですものね、これくらいは許容しないといけないのかしら? はっきり言って伝説級の魔法杖になってるから扱いには十分気を付けるように言っておきなさい。

分かり易く言えばあなたが作った世界樹製の武具と同じ、闇属性特化型魔導士のケイトちゃんにとってはそれ以上の武器になるはずよ”

そう言いカウンターテーブルに魔法杖を返すあなた様。

 

「もう一本はこれですね。敢えて呪いを取り除かずに魔法杖に仕上げたらどうなるのかと思って作ってみました。

名付けて“冥王の短杖”、人の世の憎悪と悪意を煮詰めたような逸品に仕上がってございます」

“コトッ、ブォッ”

その瞬間、店内の空気が変わる。心を締め付けるような苦しみと憎しみ、悪意と恐怖とが形となって居酒屋ケビンの店内に吹き荒れる。

 

「“おい、大人しくしろ。調子に乗ってると・・・な?”」

“ピタッ、シュンッ”

途端周囲に溢れた禍々しく痛ましい空気は霧散し、高原の朝のような清廉で爽やかなものに変化する。

 

「ね、可愛いものでしょう? こないだ王家秘蔵の呪物を大量に手に入れたんですけど、その中にいかにもって感じの王冠と衣装とマントがあったんで、ここに骸骨のようなお面を加えて冥王セットを“や~め~ろ~~~!! お前は何を考えてるんだ何を、正座だ正座!! トライデント、主人の暴走を止め誤りを正すのも従者の務め、馬鹿な主人をひっ捕らえろ!!” えっ、なに、ちょっとトライデント? やめて~~~~、俺は無実だ~~~~」

 

秋の夜長、ケビンの長い夜は、まだまだ始まったばかりなのでありました。




本日一話目です。
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