転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第686話 居酒屋のマスター、秋の味覚を振る舞う (2)

“大体ケビンは呪物の恐ろしさを全く理解していない。呪物というものは本人も自覚していないうちにその人格や気質を歪め、全くの別人のように変えてしまう・・・”

 

秋の夜長、涼やかな風が吹き草木が揺れ、月明かりが大地を照らす。人は天を見上げ物の憂いを感じ、静かに(さかずき)を傾ける。

 

“スパーーーン”

“ケビン、なに頭の中でポエムを考えているんですか、真剣に人の話を聞きなさい!!”

 

残念ながらここは南海の孤島をイメージして作られた自己領域空間、季節の変化は関係なかったようでございます。

と言うかあなた様、両の拳でこめかみを挟み込んでグリグリするのはご勘弁ください、三叉神経が圧迫されてめっちゃ痛いです。(涙目)

天上界の高位存在のお説教の何が恐ろしいのかと言えば、その全てに神気が含まれているところ。目の前のあなた様から圧迫感を伴った神気がブチ当てられているのは無論、発言の全てが言霊というか真言というか、さらに肉体言語が加わった時にはその接触部位からダイレクトにですね~。

 

こんなの昇天しちゃうからね? 並みの悪霊なら存在ごと消し飛ぶレベルよ? いつぞやの草原の化け物でも、自らのこれまでの人生を憂いながら来世に旅立っちゃったであろうこと請け合いよ?

 

“ケビン、人の話を聞いているんですか? 額に穴をあけて直接脳に語り掛けましょうか?”

「聞いております、ご迷惑ご心配をおかけして大変申し訳ありませんでした!! ですので物理的に第三の目を開眼させようとするのはお止めください!!」

 

高位存在の冗談って怖!? 

なにが怖いってすぐにでも実行されそうなところがもうね。ある意味都市伝説とかの怪異だね、対応を間違えるととんでもない目に遭わされるって奴だね、命がいくつあっても足りないって奴だね。

 

“誰が都市伝説の怪異ですか、誰が! 整形手術に失敗した女性が周りの者を自分と同じ目に遭わせようと徘徊するって、ただの精神異常な犯罪者じゃないですか。「私キレイ?」って街角の娼婦と勘違いした男性がいたらどうするんですか、ケビンの前世の世界は一体どうなってるんですか”

 

あ、うん、そうだね~。懐かしの“口裂け女”、確かあの怪異は口元がマスクに覆われた目元のきれいな女性だったかな? だったら普通に口説く奴がいてもおかしくない? こっちの冒険者だったら出刃包丁で襲われても平気で対処しそうだしな~、日頃マジ物の魔物相手に戦ってるしな~、世界観の違いって大事だよな~。

 

“また余計な事を考えて、本気で反省しているんですか? 膝の上に重石でも載せますか?”

「すみませんでした!! 本気で反省しています、ですんでどうかこれ以上はご勘弁を!!」

 

俺は誠心誠意の謝罪を行い、怒れる天上界の高位存在に許しを請うのでした。

 

―――――――――

 

「いや~、酷い目に遭った。あなた様ってば重石は載せない代わりに俺のところだけジワジワ重力強くするんだもん、自重で押し潰されるかと思ったわ」

俺は店のテーブル席の椅子に座りながら、足を摩りつつ独り言ちます。

 

“ケビンが全然反省しないからでしょうが、これに懲りたら危険物の製造には手を出さない事、呪具の作製なんてもってのほかですからね、分かった?”

あなた様は向かいの席に座り“秋野菜とグレートボアのミソスープ”に口を付けながら呆れた視線を向けて来ます。

 

「あ、ご飯はありませんよ? お米を切らしてしまったんで。パンなら焼き立てがありますんで、トライデントからもらってください」

あなた様は“なんでごはんがないのよ~、サンマの塩焼きにミソスープと来たらご飯じゃない!!”とぶつくさ文句を言いながらパンに被り付きます。

まぁパンでもイケるんですけどね、なんと言ってもマルセル村産小麦で作ったパンですし、極上の旨さですし。(ドヤ顔)

あなた様、夢中で食されております。

 

「ところであなた様、本題がアルバの一件じゃないとすると一体何の問題があったんです? ちょっと見当が付かないんですけど?」

俺が姿勢を正し顔を向け話し掛けると、あなた様は俺に視線を向け、お言葉を述べられるのでした。

とは言っても念話、食事の手は一切止められません。食事しつつ会話の出来る念話ってある意味便利だな~。

 

“そうね、幾つか話はあったのよ。先ずはこちらからの報告から話すわ。

剣の勇者とその従者である賢者の件、無事に承認が取れたわよ。

想定外の勇者の出現に結構な騒ぎにはなったんだけど、アーカイブの見直しと報告書の再確認が行われてね、当時の担当者は剣の勇者が名前を失い生き人形の呪いを受けた段階で死亡判定を出していたみたいなの。

正確には仮死状態、魂と肉体は生き人形になった事で緩やかな死を迎えていたって感じね。普段は石化の呪いで肉体の劣化を防止していたみたいね、ケビンがエリクサーを与えたことで蘇生する事が出来たのは殆ど奇跡だったみたいよ?

結果、剣の勇者と賢者、現在はグランドとリーフだったかしら? 二人はこの時代に蘇った、天上界は二人の復活を認め第四の勇者として見守る事となったわ”

 

どうやらグランドさんとリーフさんの一件は無事に決着したみたいです。まぁ彼らに関しては不幸中の幸い、本当に奇跡だったんでしょう。あとの人生、お茶農家としてのんびり過ごして貰いましょう。

 

“で、問題その一のアルバ君の件ね。これに関しては天上界の者が本当にご迷惑をおかけいたしました。心からの謝罪と、今後このような事が二度と起きないように、徹底した調査および指導を行っていきたいと思います。誠に申し訳ございませんでした”

食事の手を止め、心からの謝罪と共に頭を下げるあなた様。

まぁそうですよね、魂のクリーニングが行われず前世の記憶がほぼほぼ残った状態っていうのも天上界的には始末書ものの大問題なんだろうけど、収納スキルに魔王デビルトレントの遺骸がそのままって。しかもそれが人為的に行われた可能性があるっていうんだから当然調査は行われたんだろうし、全容は分からないまでも実行犯からは聞き取りを行ったんだろうしな。

これだけの謝罪を行うって事は・・・。

 

「あなた様、もしかして他にも爆弾が見つかっちゃいました?」

 

“・・・三件ほど。いずれもガチガチに条件設定を行って、まず転生の流れに乗らないような状態にして保存していたようです。

アルバ君の魔王デビルトレントほどではありませんでしたが、それなりに危険な魂が仕舞われてまして。いずれも本来であれば天上界でのクリーニング処理が必要なものばかりでした”

・・・あ~、なるほど。何もヤバい魂はアルバみたいに収納にヤバい物を取り込んだ者ばかりじゃない。未練を残し、世界に仇為す程の力を持ったとんでもない存在たち。

そういえば在りし日の記憶に<エロイム・エッサイム・我は求め訴えたり>とか言って天草四郎の亡霊が様々な偉人の亡霊を甦らせちゃうって映画があったな~。

あんな感じで様々なヤバい奴が転生してくるとか? 近い所だと栄光の王国の総統閣下とか、暗黒大陸の粘菌とか。

・・・普通にヤバいな、厄災の種になること請け合いじゃん。

 

“アルバ君はその中でも最大の切り札だったらしく、先程ケビンが話していた通り、たとえアルバ君が心穏やかに田舎暮らしをしていようと収納内の魔王デビルトレントによる精神汚染が静かに進行し、いずれは世界を滅びに導く厄災に変わっていたことは間違いなかったかと。

本当に申し訳ございませんでした”

 

あなた様の心からの謝罪。まぁ親としては自分の子供が世界を滅ぼす厄災に仕立て上げられるところでしたと聞かされて“はい、そうですか”とはいきませんけどね、それをここで言っても仕方ありませんし、天上界の事は本部長様方にお任せするしかありませんし。

 

「それでその見つかった魂はどうなさったんですか?」

“はい。現在他にそうした不当な処理が行われた魂がないか全部署総出で確認作業を行っているところですが、如何せん数が膨大でして。

見つかった魂に関しては正規のクリーニング処理を行い、経過観察をしつつ転生の輪に送る事となりました”

 

囚われた魂は前世がどのような人物であれ被害者である事には変わりませんからね、正しく来世に向かわれたのなら良かったですが。

人類の粛清と新たな世界の創造。自分達なら理想の世界を創る事が出来る、失敗したら何度でもやり直せばいい、これだけ手を貸しても変わる事のない今回の人類は失敗作だ、全ては女神様の望まれる世界を創るために。

 

「末法思想、原理主義。在りし日の世界にもさまざまな宗教対立や終末思想なんかがありましたけど、世界や存在が変わってもそういったところってあまり変わらないんですね。

現実を受け入れる事、自分に出来る事を少しずつ。理想を求める事が悪いとは言いませんけど、その為に周りが見えなくなる、自己陶酔とでも呼ぶ状態になってしまう事は厳に戒めなければいけないのかもしれませんね。

特に天上界の天使という立場の方々は」

 

“ゴトッ、トクトクトクトク”

俺はグラスジョッキにバッカス酒店のビールを注ぎ入れ、あなた様にスッと差し出す。あなた様も立場上辛いところだろうが頑張って貰いたいというエールを込めて。

 

“ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ、プハ~ッ”

“ケビン、ありがとう。同じ天上界の者、地上世界を見守る天使の一人として、ケビンの言葉は深く胸に刻んでおくわ。

話は変わるんだけど、また新しい女の子を拾って来ちゃったでしょう。狂った聖女、封印されし厄災。

アルバ君の前世の関係者みたいだし、一体どうするつもりなの?”

 

あ~、あれか~。うん、やっぱり言われるよね、結構状況ヤバかったもんね。王都バルセン崩壊の危機、あと数十年のうちに確実に呪物災害が起きそうだったアルメリア別邸の封印地。

 

「でもあの件に関しては俺に非は無いですよ? 好奇心全開で向かった事は事実ですし、王家の呪物コレクションに心踊らせていた事も認めますけど、管理がずさんと言うか酷過ぎましたから。封印された厄災、狂った聖女を甦らせるためにわざとやってたんじゃないのかって考えちゃったほどでしたよ?

不法投棄された産業廃棄物状態だった呪物はキレイに回収、ほぼほぼ甦っちゃっていた狂った聖女も光属性魔力マシマシマシマシ聖茶カクテルのお陰で正気を取り戻したみたいでしたんで、うちで引き取ったって訳なんですけどね。

でもよく生きてましたよね、狂った聖女。あの地を管理していた英霊アーメリア様によれば干乾びた干物状態の封印呪物だったみたいなんですけど」

“そうね、おそらくだけど狂った聖女の力の源であった“吸血女王の心臓”が原因なんじゃないかしら。吸血女王はアンデッド系魔物の上位種、ある意味別系統の人種と言ってもいい程の文明を築いた者たちだったの。

吸血女王は人の世に君臨し文字通り国を統べる女王だった。

でも普人族たちはそんな吸血種族を恐れた。

結果行なわれたのが普人族による大粛清、吸血女王の心臓はその名残。吸血女王は二度と復活しないように亡骸から心臓を切り取られ封じられた。それ程に普人族は何度でも甦る吸血女王を恐れていたって事ね。

そんな呪物を抱え呪いの残渣立ち込める大穴に身を投じた聖女。呪いの塊である濃厚な闇属性魔力、聖女から流れる血により活性化した吸血女王の心臓、新鮮な聖女の亡骸、吸血系アンデッド種族“狂った聖女”が生まれる条件はそろっていた。

もっともそんな狂った聖女にアンデッド系種族にとっての劇物となる光属性マシマシマシマシ聖茶カクテルなんて飲ませたものだから堪ったものじゃないわよ。聖女の魂と肉体が新鮮な状態で取り込まれたのがよかったのか、よく灰にならずに意識を取り戻せたわよね。もしかしたら死に掛けだっただけで、生きたままの聖女が吸血女王の心臓を取り込んでいたのかもしれないわね”

 

あなた様の考察、それは当を得た物。アーカイブを見る事の出来る天使ならではといったところだろう。

悲しみに暮れ自ら命を絶とうとした聖女、わずかに残った命の灯が望んだこと、それは世界に対する復讐。アーメリア様の話によればその復讐は当時の世界の為政者たちを恐怖に震わせる程のものであったとか。

聖女の思いは半ば叶えられたといってもいいだろう。

ならば奇跡的に拾った命、月白としての新たな人生は悔いのないものとしてもらいたい。

 

“ゴトッ、トクトクトクトク”

俺は収納の腕輪から自分用のグラスジョッキを取り出すと、バッカス酒店のビールを注ぎ入れる。

“月白の新しい人生に幸あれ”

動き出した時間、俺は月白の門出を祝い、グラスジョッキのビールを呷るの“ケビン、なに勝手にいい感じに終わらせようとしているのかしら?”・・・飲んじゃ駄目? 駄目なんですね、そうですか、わかりました。

俺はこちらにジト目を向けるあなた様を前に、グラスジョッキをそっとテーブルに置くのでした。




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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