転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第687話 居酒屋のマスター、秋の味覚を振る舞う (3)

“ゴトッ”

テーブルに置かれたグラスジョッキ、俺は悲しみを胸に秘めながらも、再びあなた様に向き直ります。

 

“<天想顕現>、あれは一体何だったのかしら? ケビンが村祭りで馬鹿をやる事は天上界でも知られた事、マルセル村の秋の収穫祭の注目度は天上人の間でとても高かったの。

 

暗黒大陸からジミー君のおっかけが訪ねてきたり、子供向けの魔王カオスショーが行われたり。祭りの様子を観測していた暇人たちは大盛り上がり、掲示板はかなりの騒ぎになっていたらしいわよ?

私たちが一部の天使共がやらかした事態の解決の為に必死になって働いていたとしても一般天界人には関係のない話ですし? こっちは連日の残業続きでアーカイブすら見る暇はなかったんですけどね!!

 

鬼神ヘンリー・剣鬼ボビーと、本年度魔都総合武術大会優勝者クルン選手・準優勝者ラビアンヌ選手との対決。

マルセル村の双璧、さらに強くなっちゃったらしいじゃない。己の壁を越えた鬼神ヘンリーと空間を支配する剣鬼ボビー、マルセル村の住民は一体何を目指しているのかしら? 暗黒大陸の頂点を瞬殺って、意味が分からないわよ”

 

そう言い肩を竦めるあなた様。その気持ち、よく分かります。俺も意味解らないっす、しかもそれ程の強さを手に入れながら俺に対して“魔力なし・覇気なし・武器なし”の制限を課した上で自分たちはありありのマシマシって頭おかしいとしか思えない。

 

“で、多くの天界人が目撃しちゃったわけなのよ。鬼神ヘンリー・剣鬼ボビー対ケビンの対決、ケビンが神気を使わずに、全くの人の身の状態で<神聖魔法>を再現しちゃった場面を。

今や天上界は別の意味でも大騒ぎよ、召喚魔法に続いて二度目、偶然なんかじゃない、本物の力だってね。

お姉さんに詳しい話を聞かせてくれないかな~”(ニッコリ)

 

まるで美術品のように整った美しいお顔が柔らかく微笑んでいらっしゃる。先程まで隠していたであろう目の下の凶悪なクマが、感情と共に姿を現し、あなた様の心の内を言外に分からせてくる。

目茶苦茶忙しくて身も心もボロボロなところに、俺に対する問い合わせが殺到したとかそういう事なんでしょう。

そりゃまぁね、そんな事態に巻き込まれたら誰だってブチ切れたくなるのは分からなくもないですけどね。

でもその文句を俺に言われてもですね、俺にはどうしようもないですし。“私、ケビンのお母さんでもなんでもないんだけど?”って顔をされてもですね~。

 

「ゴホンッ、え~、あの技なんですけどね、簡単に言えば複数のスキルの同時並行起動ですかね。使用したスキルは<体術><身体支配><ラビット格闘術><空間把握><根性><浮遊><超思考>、それと<神聖魔法>になります」

でもそんな事を今のあなた様に言っても仕方がないですし、俺は出来るだけ事細かくあの時の状況と技の説明を行うのでした。

 

「技の行使の前に語っていた女神様とこの世界の考察は、在りし日の記憶にある仏教の経文を参考にさせていただきました。

この世の真理を言葉として口にする事、言霊にし、真言となす事で自身を遥かなる次元に押し上げる。

理想としては結果の発現、“切る”のではなく“切った”という結果だけを発現させる事だったんです。実際にはそんな事は神の領域ですから、いくら真言を唱えようと人の身に行えるべくもない。

 

ではどうするのか、瞬間的に移動し二人の頭を掴んで石畳に叩き伏せる、そんな事をあの二人が許すはずもない。<縮地>を使おうが、グルゴさんのスキルである<クロックアップ>を使おうが、あのレベルの達人には対応されてしまう。

でもそれが刹那の間、世界が停止したと錯覚してしまうような、瞬きの時間で堅パンが焼き上がるくらいに引き伸ばされた時間感覚で行えたとしたら。俺はその感覚をこの身で何度も体験し、知っている。

やった事はスキルを使い自身を強制的にあの空間での状態に持って行くというもの、但し魔力も覇気も使わず己の状態だけをその世界に持って行くのは無茶を通り越して無謀、死の瞬間に感じるという走馬灯をもっと凝縮させたようなものですからね。

 

<超思考>を使い脳を活性化し刹那の間の走馬灯を再現、<体術><身体支配><ラビット格闘術>を使いその思考速度に合わせ無理やり身体を動かしました。例えるのなら泥沼に首まで浸かった状態で身体を動かす感じですかね? 全身に満遍なく掛かる重圧の重いのなんの、最初の動き始めに体感で五分ほど掛かりましたか、我ながらよく動けたと思いますよ。

<空間把握>により周りの状態、自分の状態を把握、一度動き出したら止める訳にはいきませんしね。<根性>はそのまんま、肉体と精神に対する負荷が凄まじいものでしたから、<根性>で乗り切りました。

<浮遊>スキルを使ったのはあの二人に対する配慮、刹那の間ってそんな速度で掴み掛ったら下手をしなくとも頭がもげるか爆ぜるかしちゃいますんで。どんな高い所から落ちようが地面との衝突を防ぐ<浮遊>、衝撃吸収という意味では思った以上に使えるスキルでした。

<神聖魔法>は全体の調整です。神気がない為発動こそしませんが、あの時間遅延空間は神聖魔法の一つですから、その全容はこの魔法スキルに含まれている。ならば状態を用意してあげる事で魔法を再現する事が出来るはず、途中までの行程を人の手で行い生活魔法の<ブロック>で魔法レンガを作った時と発想は変わらない、その調整を<神聖魔法>により行わせる。

 

<天想顕現>、‟人”の可能性を信じて止まない女神様の夢の欠片。

この試みは成功し、俺はあの二人に勝利した。その代償は全身の神経断絶や筋肉断絶、血管や内臓はあちこち裂けまくりのズタボロ。即死しなかったのが奇跡みたいなものですわ。

優秀な使用人たちのお陰で一命をとりとめる事が出来たって感じです」

 

そう言い肩を竦める俺に対し、頭を抱えるあなた様。

男にはやらねばならない時がある、見せねばならない意地がある。

突き付けられた不条理とも言うべき要求、ならばこそ、正面から叩き返してこその男。

 

“ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ、プハ~ッ”

口腔に広がる苦味と旨味、シュワシュワとした独特ののど越しが、全ての疲れを洗い流してくれる。ジョッキに残った琥珀色の液体を眺めながら、我ながらよく頑張ったと口元を緩める。

秋の夜長、山の中腹にある居酒屋ケビンの夜は、こうして静かに更けて行くのだった。

 

“やり過ぎだ~~~!!”

“スパーーーーーン”

「グォ~~~、痛~~~い」

・・・女神様の望まれる“人”の可能性を追求しただけなのに、なんか理不尽じゃね?

 

その後俺はグラスジョッキを片手に管を巻くあなた様の愚痴を只管聞かされながら、終わらぬ夜を過ごす羽目になるのでした。

“ケビン、ちゃんと聞いてるの!? わらひはね~、お代わり!!”

 

――――――――

 

「それではあなた方の事はワイルドウッド男爵家で預かる事といたします。身分としては使用人見習いですね。

金銭的な問題は王都の王宮買取り担当者であるケープ・ゴート氏にマルセル村に到着するまでに溜め込んだ大森林や暗黒大陸の素材を渡す事で賄う事が出来るでしょう。

ただ実際の価格は王都で開催されるオークションにより決定する為支払いはオークションの後となってしまいます。その為簡単な査定により概算を行い、その半額をワイルドウッド男爵家より支払う事といたしましょう。

残りはオークション終了後となりますがよろしいでしょうか?」

 

「「はい、よろしくお願いします」」

 

マルセル村の秋の収穫祭、事前にマルセル村の住民の事については魔王軍騎士兵団副官メルルーシェ殿より伺っていた。だがジミーの生まれ育った里の者の実力がこれ程のものであったとは、想像すら出来なかった。

確かにジミーは強かった、武勇者として獣狼族の里に現われたジミーは、己を磨きより高みを目指す強者であった。

獣狼族の里の窮地を救い、周辺部族との関係を改善し、自身の武威を示して里を去っていった。

何の見返りも求めず、ただ己を高めるための強者との出会いの為に。武勇者ジミーの高潔さとその強さは、獣狼族の里に爽やかな風を齎し、私の心を奪っていった。

 

あの男との、ジミーとの子が欲しい。これは強き者に惹かれる獣狼族の女としての当然の本能。ジミーの番は私だ、獣狼族の中でも、暗黒大陸の中でも。私は自身こそがもっともジミーの番に相応しい事を身をもって証明すべく、魔都総合武術大会に出場。前年度は惜しくも龍人族のバンドリア選手に敗れるも、今年は優勝の栄冠を手にする事が出来た。

魔国が魔都総合武術大会に於ける決勝進出をジミーに会いに行くための条件とした事は嬉しい誤算であった。私は元々魔都総合武術大会で優勝する事をジミーと番となるための最低条件と考えていたし、ジミーにはそれくらいでなければ釣り合いが取れないと考えていたからだ。

私は、その条件を達成した、胸を張ってジミーの子を身ごもる事が出来る。沸き立つ心、私は魔王軍騎士兵団副官メルルーシェ殿に案内されるまま、ジミーの生まれ故郷であるマルセル村に向かう事となった。

 

「マルセル村に向かうにあたり二人には必ず守っていただかなければならない事があります。それは自身の強さに驕り、マルセル村の者たちを下に見るような事は絶対にしてはならないという事です」

 

メルルーシェ殿は剣の達人と謳われる魔王軍四天王の一人絶剣のゼノビア様の副官として、多くの戦場で数々の武功を重ねられた一角の武人。ご自身の剣の腕前もゼノビア様の門下の中では一番と言われる名手。

そのメルルーシェ殿が真剣な表情で言葉を紡ぐ。

 

「これから向かうマルセル村はオーランド王国北西部に位置する辺境の村、フィヨルド山脈の裾野から広がる大森林に最も近く、昔は物流の乏しい寒村であったとか。

そんなマルセル村を発展させ豊かなものに変えたのが現在の領主ドレイク・アルバート子爵殿とジミー殿の兄上であるケビン殿、それとマルセル村の住民たちになります。

彼らの結束は非常に強く、私たちの言動や行動は常に観察されていると考えてもいいでしょう。これは暗黒大陸の村々と同様、彼らは村全体が一つの家族なのです」

 

メルルーシェ殿の話はよく分かる。暗黒大陸は強さこそ全てではあるが、決して強さに任せて傍若無人に振る舞ってよいわけではない。

厳しい環境で互いに力を合わせ生き抜いて来たからこそ、集落や一族の繋がりは濃く強い。里に入り込んだよそ者が自分勝手に振る舞えばどうなるのか、里の者全てが一丸となり誇りを掛け命懸けで排除に掛かるは必定、そのような愚行をジミーを求めてマルセル村を訪ねようという私たちが犯すべくもない。

 

「・・・その顔は少し勘違いしているようだから念の為に伝えておきますが、マルセル村の者は強い。それは決して暗黒大陸の戦士たちに引けを取るものではありません。

更に言えばマルセル村には決して怒らせてはいけない存在が住んでいます。その者は己の実力を極力抑えていますから一見気が付くことが出来ないかもしれません。

ですが決して探し出したり挑もうなどと考えないでください。

これは魔国の外交に関わる大事と心得ておいてください」

 

魔国から出立する前に魔王城にてメルルーシェ殿から語られた言葉、その真意はこの身に刻まれた。

拳を合わせるどころか身動き一つ許されなかったジミー殿のお父上ヘンリー殿との戦い。魔都総合武術大会決勝戦の対戦相手で会ったラビアンヌ殿をまるで赤子のように捌いてみせたジミー殿の剣の師であるボビー殿。

その二人をしてまるで相手にならなかったマルセル村の最強、ジミー殿の兄上、理不尽の化身、ケビン殿。

 

「ラビアンヌ殿、私たちはまだまだ弱かったんだな」

ぼつりと漏れた呟き、それは自身を蔑むのではなく、事実を受け入れた言葉。

 

「そうですね、幸いこの里には多くの強者がいる。彼らに頭を下げることに何らためらいはありません」

ラビアンヌはそう言葉を返し、拳を強く握りしめる。

 

「二人共、盛り上がっているところ悪いのですが、使用人見習いである以上メイドの仕事も覚えていただきます。

それとワイルドウッド男爵家の使用人として、最低限の訓練は積んでもらいます」

 

“パチンッ”

打ち鳴らされたフィンガースナップ、突然姿を現す複数のメイドと執事たち。

 

「ワイルドウッド男爵家にようこそ。私はメイド長の月影、我々特殊使用人部隊“月光”は訓練生である二人の入隊を心から歓迎いたします」

 

不意に訪れた機会、暗黒大陸から訪れた来訪者たちは、自分たちが決して絶対の強者ではないという事をその身に刻み付けながらも、目指すべき更なる高みの存在に、獰猛な笑みを浮かべるのだった。




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