転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第688話 動き出す世界、それぞれの思惑

“カツンッ、カツンッ、カツンッ、カツンッ、カツンッ”

美しい大理石の敷き詰められた廊下に響く靴音。研究者風の容貌をした男性は、研究資料であろう書類を小脇に抱え、いそいそと先を急ぐ。

 

“コンコンコン”

「失礼いたします。国立スキル研究所所長マクレン・カーバイル、お呼びにより参りました」

 

“ガチャッ”

開かれた扉、そこは大会議室といった雰囲気の広い室内に、円に囲んだテーブルの並べられた場所。

 

「マクレン所長、待っていましたよ。早速ですが、分析をお願いした例の人物の結果を聞かせていただいても?」

室内に詰め掛ける多くの者の中から初老の男性が声を掛ける。

 

「ハッ、教皇猊下。先ずはこちらの資料をご覧ください」

“ポワンッ”

マクレン所長は持ち込んだ資料から用紙を取り出すと、室内に設置された投影の魔道具にセットする。すると円形テーブルの中心に宙に浮く形で大画面モニターが現れ、資料の内容を映し出す。

 

「こちらはオーランド王国の教会に照会を掛け取り寄せた、問題の人物ケビン・ワイルドウッドの授けの儀の際に行われた鑑定結果と、旅立ちの儀の際に行われた詳細人物鑑定の結果となります」

 

<鑑定結果>

名前 ケビン

年齢 十二歳

種族 普人族

職業 田舎者(辺境)

スキル

棒 自然児 田舎暮らし(*)

魔法適性 無し

 

称号 

辺境の勇者病仮性患者(*)

 

加護

食料神の加護

 

名前 ケビン・ワイルドウッド

年齢 十五歳

種族 人

職業 田舎者(辺境)

スキル

棒 自然人 田舎暮らし(*) 自己診断

魔法適性 無し

 

称号 

辺境の勇者病仮性患者(*)

 

加護

食料神の加護

 

<鑑定詳細>

種族詳細

<人>

人とは可能性の塊。始まりにして未来、人の行く末に幸多からんことを。

 

スキル詳細

<棒>

棒っていいよね、ロマンだよね、なんかウズウズするよね♪

棒に関するあらゆる事象にプラス補正。

 

<自然人>

空がある。雲が流れ風が吹く。

海がある。母なる大海は命を育みすべてを受け入れる。

大地がある。山があり森があり草原があり。

朝が来て、夜が来て、また朝が来る。

 

<田舎暮らし>

・田舎暮らし(魔法)・田舎暮らし(戦闘)・田舎暮らし(生産)・田舎暮らし(生活)

 

<自己診断>

自身のステータスを確認する事が出来る。

 

“ザワザワザワ”

騒がしくなる室内、マクレン所長は暫しの間を置き、人々の声が静まったのを確認してから再び説明を始める。

 

「続けます。ご覧のようにパッと見は何の変哲もないように思えるステータスですが、いくつか気になる点があります。

名前に関しては本人が貴族籍を得たことで変わっただけですので、この際横に置いておきましょう。

一つ目は職業。この<田舎者>という職業は統合職と呼ばれるもので、戦闘系・魔法系・生産系・生活系のいくつかの職業を合わせたような、一見非常に便利な職業です。ですが得られるスキル全てが各職業の下位互換とも呼べるもので、便利ではあるが各方面の専門職に劣る器用貧乏職、所謂残念職と呼ばれるものです。

旅立ちの儀の詳細人物鑑定資料でも分かりますが、そうしたスキルは<田舎暮らし>という統合系スキルに含まれ、<田舎暮らし(魔法)・田舎暮らし(戦闘)・田舎暮らし(生産)・田舎暮らし(生活)>という形で分類されています。

これらの分類されたスキルでどういった事が出来るのかについては当人の資質によるところが大きく、たとえば<田舎暮らし(魔法)>には魔法に関するスキルが内包されていますが、このケビンという人物は魔法適性がないため攻撃魔法といった有用な魔法は使えないものと考えられるといった具合です。

 

スキルに関しては職業スキルである<田舎暮らし>は先程の説明の通りですが、<棒>・<自然人>はユニークスキルと呼ばれるものではないかと。ユニークスキルの特徴は詳細人物鑑定のスキル詳細の結果を見てもらっても分かるように、具体性が乏しく分かりにくいというものです。

非常に強力で有用なものから何の役に立つのか分からないものまで、ユニークスキルはその所有者の数だけ千差万別であると言われています。

ですのでこのスキル詳細からこのスキルがどういったものであるのか判別する事は非常に困難であると言えます。

 

ただこのケビンという人物は、スキル<自然児>を理解し多用する事でスキル<自然人>に上位変化させているものかと。

お手元の資料にありますケビン氏の経歴を見てもらえば分かりますが、その華々しい活躍にこのスキルが大きく寄与した事は疑いようがありません。

 

<食料神の加護>に関しましては、ビッグワーム農法の開発と食材としてのビッグワームの改良、ホーンラビット飼育方法の確立とホーンラビットの肉質改善といった功績が食料神様に認められたものかと。

実際これらの農法は寒村や貧困地域の食糧事情を劇的に変える画期的な農法です。是非わが国でも普及を検討していただきたい」

 

マクレン所長はそこで一度言葉を切ると、大会議室全体を見回してから再び資料に目を向けた。

 

「ここまでの説明はあくまでステータスの概要となります。パッと見珍しくはあるが然して騒ぐほどのものでもないというのが、我々スキル研究所の第一印象でした。

ですが一緒に渡されたケビン氏の経歴資料と照らし合わせた時、その違和感は顕著となる。

このステータスから読み取れるのはケビン氏の所在地である辺境の村で暮らすには便利な職業といったもので、村の中で大量の魔物を使役し農作業や戦闘訓練を行わせたり、騎馬隊の先頭に立って万の軍勢に立ち向かったりできるようなものでは決してないのです。

バルカン帝国の最新兵器である精霊砲から多くの将兵を救った巨大な城壁を生み出すような魔法が使えるなど、考えられない。

 

更に言えば種族です。エイジアン大陸の一般的種族である<普人族>が、過去のどの記録にもない新種族<人>に変化している。

これはスキル研究所で提唱されている「種族進化説」を裏付ける証拠となり得る事例です。

エルフにしろドワーフにしろ鬼人族にしろ、現在異種族として確認されているすべての種族は過去のいずれかの段階で普人族から分岐した者たちであり、遡れば人類は一つの種族に行き着く。

その身体的特徴から普人族は原種の特徴を色濃く残しているのではないかというのが我々の考えであり、言葉を変えれば普人族から新しい種族が生み出される可能性があるというものです。

これまで記録された事のない新種族“人”、大変興味深い人物です」

 

“ザワザワザワザワ”

ざわつく大会議場、多くの者たちがこれまでにない未知の存在である新種族“人”について意見を交わし合う。

 

「みな静粛に。マクレン所長、ステータスの説明については分かりました。要約すればケビン・ワイルドウッドの実力はこのステータスからは読み取れないという事でしょうか」

教皇の言葉が静かに響く中、マクレン所長は再び資料を示しながら口を開く。

 

「そうですね、普通ケビン氏のように数々の功績をあげた場合、称号欄には複数の称号が記載されているものです。ですがケビン氏の称号欄には<辺境の勇者病仮性患者(*)>とだけ記載されている。

注目して欲しいのは後ろについている(*)の記号。これはスキル欄の<田舎暮らし(*)>のように統合系スキルなどに付随する記号となります。

つまりケビン氏には複数の称号が与えられ、それらが統合された結果現在の称号になっている可能性が高い。

また職業<田舎者(辺境)>の(辺境)という記載もこれまでの職業<田舎者>には見られなかったもの、これは<田舎者(辺境)>が上位職である事を示しているものかと。

スキル研究所ではケビン氏の実力は測りかねるというのが正直なところです」

 

「分かりました。いえ、何も分からないという事が分かりました。

いずれにしろこの件は調査が必要と判断します。

それと問題は複数の聖女が受けた神託、“北の大地、厄災の種誕生せり”。

これが一体何を示しているのか、オーランド王国には正式な形で使節団を派遣する必要があるでしょう」

教皇の言葉に大会議室の者たちは頷きで応える。

 

「全ては女神様の御意思の下に」

「「「「「全ては女神様の御意思の下に」」」」」

事態は動き出す。女神信仰を国の柱とし、教会により運営される国家、ボルグ教国。彼らの関心は、遥か北の大地オーランド王国に注がれ始めたのであった。

 

――――――――――――

 

“ガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャ”

夜の貴族街を一台の馬車が走る。

 

「停まれ、身元の確認を行う」

とある屋敷の門前、門兵により停められた馬車。

 

“スッ”

「うむ、確認された。お通り下さい」

御者の者が差し出したメダルに警戒を解き、馬車を屋敷内へと通す門兵。

 

“ガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャ”

馬車は再び走り出す、車内の者を目の前の屋敷へと送るために。

 

“コツンッ、コツンッ、コツンッ、コツンッ、ガチャリ”

「すまん、待たせたようだな」

廊下の先、開いた扉の向こうには既に複数の人物が席に着き、それぞれの意見を交わす。

 

「いや、まだ定刻よりも随分と早い。我々が早くに到着していただけというもの、気になされるな」

中の者が男の謝罪を受け入れ、席を勧める。男は大きな身体を席に沈めると、周囲に目をやり小さくため息を吐く。

 

“先の戦争を経てオーランド王国は大きく変わった、変わらざるを得なかった。これまでのように中央貴族が我が物顔に振る舞う事は出来なくなり、国政は王家を中心に再編成されつつある。

嘗て中央貴族の旗頭であったバルーセン公爵家は早々に国王派に寝返り、各貴族家でも今後の在り方について模索する者たちが見られるというのに、嘗ての栄光栄華を取り戻さんとする者がこれ程にいるとは”

男は腕を組み背もたれに身体を預けながら、自身にこの役割を依頼してきたベルツシュタイン伯爵の言葉を思い出す。

 

「人はそうそう変わるものじゃない、ましてやそれが痛みを知らない者たちならね。奴らはやるよ、自分達の行いがこの国を潰しかねない事であろうとも自らの利益の為なら平気でね。

伯爵には貧乏くじを引かせるような真似をして申し訳ないんだけど、是非とも頼まれてはくれないだろうか」

 

国を潰しかねない愚かな行為、嘗て自身もそうした行いをしていたと、男は自嘲し口元を歪める。

 

“ガチャリ”

扉が開かれ複数の人物が入室してくる。先頭を行くのは元王宮第一騎士団・騎士団長ベイル伯爵、その後ろには第二騎士団・第三騎士団の元騎士団長が続く。いずれも未だ軍部に強い発言力を持つ者たち、嘗てオーランド王国の軍事を司っていた者たち。

続いてマルス侯爵・バルデン侯爵をはじめとした現在の中央貴族勢力の中心人物たち。

 

「オーランド王国を愛し誰よりも今のオーランド王国を憂う憂国の同志たちよ、よくぞこの場に集まってくれた。

嘗てオーランド王国には強い力を持った者たちがいた。彼らは常に国の事を考え、国のために尽くしてきた。彼らは祖国のために立ち上がり、戦場に散った。

オーランド王国は彼らの遺志を継ぎ、強い態度で武威を示さなければならなかったのだ。

 

だが現実はどうだ、現国王ゾルバ・グラン・オーランドは辺境の田舎者どもの脅しに屈し、ダイソン公国の存続を認めた。これは国としてあってはならない事、我々は今一度強いオーランド王国を取り戻さなければならない。

今の国王たちは自治領宣言をしたグロリア辺境伯家の機嫌を窺い、あまつさえ西の田舎者テレンザ侯爵家に第三王女を嫁がせるという愚行を犯している。

北西部貴族連合・南西部貴族連合などと名乗ってはいるが、要は瘦せた土地の田舎者、これといった資源もなく日々の暮らしにも困窮するような連中ではないか。

そんな木っ端貴族共にこれ以上大きな顔をさせていてよいのか、伝統あるオーランド王国貴族社会は我々が作り上げ支えてきたという事を、王家は侮ってはいないか!!」

「「「「「そうだそうだ、王家は我々をないがしろにしている!!」」」」」

 

マルス侯爵の言葉に同調し声を上げる者たち、彼らは一体何に対し憤っているというのか。おそらくは王家主催の大森林素材オークションに自分たちが関われなかった事に対するものとは思うが、それこそ全くの筋違いというもの。近頃は冒険者ギルドを通じホーンラビット伯爵家に素材回収の前線基地を作るように働き掛けているとかなんとか。

彼らがそんな要望を受け入れる訳がないと何故気付かないのか。

 

「ふむ、マルス侯爵閣下のお言葉、至極もっとも。今の国王陛下は北の蛮族どもを恐れ過ぎている。

我々は今一度オーランド王国の武威を示さねばならない。蛮族は所詮蛮族でしかない、代々オーランド王国を守り抜いてきた我々を排除し蛮族に尻尾を振るなど、臆病者とそしられても仕方のない愚行。

王家は今一度立ち上がる必要があるのだ、オーランド王国を支配し牽引しているのが自分達であると国内外に示す時が来たのだ。

我々は臣下として、王家を支え王家に忠誠を誓う者たち。我々は支えるべき主を間違ってはいけない」

ベイル伯爵の言葉に熱狂とも呼べる興奮に包まれる室内。

ベイル伯爵は何を言っている、この者たちは一体何を考えている!?

 

「さぁ、共にグラスを交わそう。オーランド王国の栄光の未来のために」

「「「「「オーランド王国に栄光を」」」」」

マルス侯爵の言葉と共に掲げられたグラス、上がる歓声。自分たちの栄華を信じ笑い合う者たちの中、男は、ロベルト・エラブリタイン伯爵は、これから吹き荒れるであろう嵐に奥歯をグッと噛み締めるのであった。




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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