転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第690話 転生勇者、街の雑用依頼を受ける (2)

王都貴族街、そこは壁により明確に平民の暮らす土地と区分されたオーランド王国の支配者たちが住み暮らす街。

 

「次、身分証を提示せよ」

 

街の出入りには限られた通用門が使われ、一般市民の出入りは制限される。出入りの際には門前で衛兵による誰何が行われるほか、定期的な巡回が行われるなど警備も厳重である。

そうした場所ではあるものの通いの使用人や出入りの商人の配達等、人の行き来は思いのほか多い。

 

「はい、冒険者ギルドから参りました見習い冒険者のジェイクといいます。こちらは見守りパーティーの指導官である銀級冒険者のディア、後ろの者は私と同じ見習い冒険者となります。

ギルドの依頼でリットン侯爵様の御屋敷に向かうためにまいりました」

俺は見習いの冒険者カードと依頼書を提示し、門兵の言葉を待つ。

 

「ふむ、侯爵家周りの溝浚いか。リットン侯爵家王都屋敷周辺は他にも伯爵家をはじめとした高位貴族屋敷が多い。その為溝浚いの際に跳ねた泥が掛かったといった問題が起きた場合、非常に面倒な事になりかねない。

泥を周囲に広げない、路上に残さないといった点に気を付けて作業するように。通ってよし」

門兵は真剣な顔で注意を促すと、俺たちを貴族街の中に通してくれるのだった。

 

「あなた方が冒険者ギルドからきた冒険者たちですか? 依頼を出したのはかなり前だと思うのですが、もう少し早めに仕事を熟してはもらえないものですかね」

貴族街の中を進むこと暫し、いや、大分。貴族街って目茶苦茶広いっす。

門から入って直ぐの場所にある御屋敷はそうでもなかったのに、進むにしたがって一軒一軒の敷地面積がですね。学校? って思わず呟きたくなるようなお宅がゴロゴロって、お貴族様ってヤバい。

前にアルジミールに頼まれてアーメリア別邸に向かった時は馬車だったからまだよかったけど、徒歩だと目的の御屋敷に辿り着くまでがかなりあるんですよね。ギルドでリットン侯爵家までの地図を貰って来なかったら、多分迷子になっていたと思います。

 

「大変申し訳ありませんでした。冒険者ギルド本部受付には、依頼人からの言葉としてお伝えさせて頂きます。こちらギルドからの紹介状となります、どうぞお確かめください」

到着したリットン侯爵邸、無論どこぞのゲーム主人公様のように屋敷正門に向かうなんていう馬鹿な真似は致しません。俺たちはあくまでお仕事で訪れた身、使用人通用門に向かい用件を伝えてもらう事は鉄則です。

 

警備の門兵に用件を告げ待つこと暫し、やって来たのは屋敷使用人といった風体のやや不機嫌そうな男性でした。男性は挨拶を述べたディアから紹介状を受け取ると中身を一読し、あからさまに面倒そうな顔をしてため息を吐きます。

 

「ハァ~、王都学園の生徒ですか。見たところ上級職を授かり入学した者といったところでしょうか。こちらとしてはちゃんと仕事を熟してくれる冒険者を寄越して欲しかったのですがね。

仕方がありません、仕事の内容を説明しますのでついて来て下さい」

男性はそう言うと、屋敷の裏手に向かい壁沿いを歩きだします。俺たちは急ぎ男性に従い、後をついて行くのでした。

 

「清掃箇所は屋敷の壁沿い、端から端までの用水路の清掃になります。基本的に生活水は入り込みませんので臭いはさほどでもありませんが、それでもごみや汚れはどうしようもありませんからね。

それでは頼みましたよ」

男性はそれだけを言うとすぐにその場を下がろうとする。

 

「すみません、清掃用の道具は御屋敷の方で貸し出していただけるという話だったのですが、それはどなたにお願いすればよろしいのでしょうか? それと清掃が終わった際なんですが」

「はぁ? 道具も無しに清掃に来たのですか? あなた方は一体何を考えているのですか? いくら王都学園の生徒とはいえ、仕事というものを侮っているのですか?

まぁいいでしょう、この事はギルド側に抗議すべき事でしょうからね。溝浚いの道具は屋敷下男に伝えて借り受けてください。清掃が終了した際は門兵にでも伝えてください、私か手の空いた者が確認しに来ますので。

こちらも忙しいので誰がくるとは確約できないのですよ」

そう言い今度こそその場を去っていく男性、俺たちは互いに顔を見合わせながら、やはり実際の現場は学園とは違うんだなと仕事上のコミュニケーションの難しさを痛感するのでした。

 

「おう、アンタらが溝浚いの冒険者か。いや~、助かるよ、こちとらグラスウルフの手も借りたいぐらい人手が足りなくてよ。表の通りの排水路は浅いから俺たちが総出で済ます事が出来たんだが、敷地内の片付けや掃除もあるだろう? 裏の排水路までは手が回らなかったんだわ。

この荷車と樽、水桶と掻き出しを持って行ってくれ。荷車の樽に積んだ泥は王都外の廃棄場に捨てに行かないといけないんだが、これが面倒でな。銀貨二枚じゃ割に合わないって何度も進言しているんだが、上が聞き入れてくれなくてな。

アンタらは見習いか? 少なくともすぐに命の危険に繋がるような仕事じゃないんだ、これも経験の一つだと思って頑張ってくれや」

 

門兵に頼んで声を掛けてもらった屋敷下男は、とても気さくで話の分かる男性でした。俺たちは排水路清掃の道具を借り受けると、早速現場となる排水路へと向かうのでした。

 

「それでジェイク君、掃除に取り掛かるのはいいんだけど、実際どうするの?」

そこは流れの淀んだ水のたまる排水路、水底には汚泥のような物が溜まり、折れた枝や枯葉が顔をのぞかせている。

 

「そうだな、先ずはこの水をどうにかしないとな。ジミー、排水路の向こう側に障壁を張って、汚水が流れ込んでこないようにしてくれるか?

俺はこっち側に障壁を張るから」

頑張って泥搔きをしても次から次へと流れ込んでこられちゃったらどうにもならない。まずは清掃箇所に汚泥の流入が起きないよう、障壁による()き止めを行った。

 

「それじゃみんな手分けして、この排水路の水で疑似ウォーターボールを作ってもらえるか? 球形だと邪魔だから箱形にして道の向こう側にでも積み上げておけば問題ないだろう。流石にこんな裏道を馬車が通る事もないだろうしな。ぬかるんだ泥も水を抜けばただの土ってな」

俺の言葉になるほどと感心するエミリーたち。俺たちは排水路の水抜きを行う為、次々と疑似ウォーターボールを作り、道の向かい側に積み上げていくのでした。

 

“プルプルプルプル”

排水が淀めば水たまりが出来る。水たまりが出来ればスライムが湧く。

王都の下水道で大量発生して問題になっているというスライムたち、近頃は謎の調薬師が現れて時折間引きを行っているようだが、それでもいなくならないのがスライムという魔物である。

そんなスライムがこれ程条件が良い場所に湧かないはずもなく。

 

「結構な数のスライムですね。ジェイク、どうしますか? 潰します?」

ディアの言葉が理解できたのか偶々なのか、より一層プルプル身を震わせるスライムたち。

 

「あ~、でもな~、ここの排水路がそんなに臭くなかったのって、どう考えてもスライムたちのお陰なんだよね。確かにスライムを潰して処分しちゃえば手取り早いだろうけど、これまで頑張ってきてくれたスライムたちに対してそれも酷いかなって思うんだよね。

という訳で出て来い黒蜜!」

“ニュインッ”

俺の言葉に、袖の隙間から前に差し出した右の掌に現われる黒蜜。

 

「黒蜜、排水路のスライムたちを道の脇に移動しちゃってくれる? 土の中に隠れてるスライムも一緒にお願い」

“プルプル、プルプル”

 

俺の言葉に“任せて~”とばかりに身を震わせた黒蜜、掌からピョンと飛び跳ねるや、何本もの触腕を伸ばしスライムたちを移動していくのでした。

 

「よ~し、後は排水路に残った土を取り除いて王都外の廃棄場に捨てに行くだけだな」

一言声を掛け、掻き出しを手に排水路に入ろうとする俺。だがそんな俺をジッと見詰めるジミーたち。

 

「どうしたジミー、早く始めないと終わらないぞ?」

「いや、ここまでやったんなら触腕で掻き出した方が早くないかと思ったんだが」

 

・・・うん、知ってた。でもな~、それってどうなんだろう。ほら、これって銀貨二枚の仕事だし、あまりやり過ぎちゃうと他の見習い冒険者の迷惑になるって言うか、同じクオリティーをあの料金で要求されても無理って言うか。

俺はそんな思いを抱えつつ、ディアに目を向け判断を仰ぎます。

 

「・・・そうですね、今回は触腕で掻き出してしまってもいいんじゃないでしょうか。それで今後こちらの依頼人が私たちと同程度の成果を要求なさってもそれはそれ、その噂が冒険者たちに流れて誰も溝浚いの依頼を受けなくなるだけでしょうし。

所謂塩漬け依頼というものですね、冒険者ギルドにはそうした依頼もよくありますし。

いくら危険性がないとはいえ、この仕事は依頼内容と依頼報酬が見合っていないんです。泥を跳ねさせて難癖を付けられる危険を考えたら、マジックバッグ持ちの冒険者に依頼しなければいけないような案件です、少なくとも大銀貨の依頼です。

もともと屋敷下男が行っていた仕事のようですし、誰も引き受け手がなければ専門家である彼らに任せるでしょう。

使える技術は何でも使うのが冒険者ですよ、ジェイク」

 

ディアの奴、銀級冒険者昇格試験を受けに行っていた三か月の間に一体どれ程の経験を積んだんだか。あの頃は荒れてたもんな~、よっぽど腹に据えかねてたんだろうな~。

荒み切って一皮も二皮も剥けたディアさん、とっても頼もしいです。

 

「そうか、分かった。それじゃいっそのことこうしたらどうよ」

俺は思い付いたアイディアをみんなに話してみるのでした。

 

―――――――――

 

「すみません。ランサー主任、よろしいでしょうか?」

それは今宵開かれる夜会の準備に忙しなく動き回ってる時の事でした。

 

「何でしょうか? 先程の冒険者たちに何か問題でもあったのですか?」

声を掛けてきたのは使用人通用門を警備する門兵。冒険者ギルドに溝浚いの依頼を出してから暫く、ようやく依頼を受けたという冒険者がやって来たと思えば銀級冒険者の指導を受ける見習い冒険者たち。

冒険者ギルドが新人冒険者育成のためにベテラン冒険者を付けた見守りパーティーというものを推奨している事は知っていましたが、まさかそうした者を送ってよこすとは。更に言えば王都学園の生徒であるとか、依頼の結果がこちらにとって納得いかないものであっても王都学園の生徒相手なら抗議もしないだろうという冒険者ギルド側の考えが透けて見えるような人材の派遣に、苛立ちを覚えざるを得ません。

大体たかが溝浚いの依頼に大銀貨六枚の依頼料を提示するとか冒険者ギルドは我々を侮っているとしか思えない。

今やオーランド王国の外交において最も重要とされるスロバニア王国との関係を我がリットン侯爵家が繋いでいるという事を正確に理解しているのでしょうか?

王都の冒険者ギルド本部の職員がこの程度の事も理解出来ない人材であるのかと思うと情けない限りですが。

 

「いえ、特にそうした事ではないのですが、溝浚いの依頼が終了したから確認を頼みたいと。下男頭のマクジが確認に向かったのですが、直ぐさまランサー主任を呼んで来るようにと言われたものでして」

下男頭がすでに確認を行っている? その上で私を呼び出すとはどういうことなのでしょうか。

 

「分かりました、直ぐに向かいましょう。こちらの準備は任せます、後の事は頼みましたよ?」

「「「「はい、ランサー主任」」」」

私は部下に後の事を任せると、門兵と共に屋敷裏の排水路へと向かうのでした。

 

“チョロチョロチョロチョロ”

そこは屋敷裏の壁沿いに続く排水路、水は澱み、汚泥が積もるそんな場所であったはず。

 

“スイーーーー”

煌めく水面、底のレンガが見える程の透き通った水。汚泥の痕跡はあれ、全くと言っていい程姿を消した泥と汚れ。

 

「これは一体・・・」

「いや~、流石王都学園の生徒さん方だ、全くスゲエものじゃないですか。水路の両端を魔力障壁で塞き止め、排水路から水だけを抜き出して泥を土に変えちまう。更にその土に<クリエートブロック>を掛けて魔法レンガを作製、汚泥の廃棄問題もなくしちまうんだから言葉もない。

最初魔法レンガの購入を相談された時には一体何の事かと思いましたよ。

これがまた素晴らしい出来の魔法レンガでして、即決で購入させてもらったって訳です。

そんで仕切りになっていた魔力障壁のところにこの排水路に棲んでいたスライムを積み上げて両脇の排水路から汚泥が流れ込まないようにしてから、どけておいた水を戻したって感じですか。

出てきた土以外の落ち葉や枯れ枝は火属性魔法で燃やしちまったって事だし、いやはや文句のつけようがない仕事ぶりとはこの事ですかね」

 

そう言い呆れたような感心したような顔で排水路を眺める下男頭。たかが排水路の掃除にそれほどまでに高度な魔法を多用する話など聞いた事もない。

 

「いかがでしょうか、依頼の内容に関しては問題なく達成できたと自負しておりますが」

「えっ、えぇ。問題はありません、問題はありませんが、しかし・・・」

 

そう、問題はないのだ。だがこれだけの仕事を銀貨二枚で頼んだとなると我がリットン侯爵家の醜聞にもなりかねない。

 

「あぁ、依頼料の事でしたらご安心を。先程下男頭のマクジさんに魔法レンガを一つ銅貨五十枚で購入していただきましたので。全部で五百四十個、銀貨二百七十枚をいただきました、仕事としては悪くなかったものかと。

ただ今回の依頼、確かに仕事内容としては排水路の汚泥を取り除くだけの作業ですが、掻き出した汚泥を王都外の廃棄場に運ぶ手間や貴族街を周囲に気を使いつつ運搬する危険性を考えますと今後銀貨二枚では引き受け手がいないものと考えられます。

冒険者ギルド側といたしましても冒険者が何か問題を起こしリットン侯爵家に泥を塗ってしまう恐れがあると、派遣する冒険者の選定に苦慮されておられました。

差し出がましいとは思いますが、御一考いただければと存じます」

 

言葉を発したのは年若の青年、おそらく彼ら見守りパーティーのリーダーといったところなのだろう。

 

「分かりました、それでは依頼書に依頼完了のサインと追加報酬として銀貨五枚を支払う旨の書き足しをしておきましょう。本日はご苦労様「ほう、これは見事なものだ。これは君たちの仕事かな? いや~、大したものだ。良かったらお茶でも飲みながらどうやって清掃を行ったのか詳しく話を聞かせてくれないかね?」・・・」

 

掛けられた声、困惑するリットン侯爵家の者たち。見事に依頼を果たしたジェイクたち見守りパーティー一行は、お貴族様絡みの依頼にありがちな“お貴族様の気まぐれ”イベント発生に、唯々苦笑いを浮かべる事しか出来ないのでした。

 




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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