転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第692話 辺境男爵、衝動に走る

米が切れてどれくらいになるのだろう。秋の味覚にピッタリの万能食、炊き立てご飯。失ってからどれ程その有り難さを実感する事になったか。

味噌は元々量が心もとないと思っていたので致し方が無い。これは致し方のない事なのだ。

そしてついにたまり醤油が姿を消した。たまり醤油は更に購入量が少なく、初めから年間消費スケジュールをある程度立てていた。立ててはいたのだが、予想外の来客(あなた様等がたんとお召し上がりになられまして)に振舞う料理に使用した結果・・・。

 

「形あるものはいつかは壊れる。

食料は食べればなくなる。

行く川の流れは帰らない。

あぁ、人生はままならない」

 

「・・・なぁ兄弟子、詩を口ずさむのはいいんだが、ここはどこなんだ? 行き成り「出かけるぞ」って言われて影空間に引っ張り込まれて半日以上って、突然過ぎて訳が分からないんだが?」

そう言い周りをキョロキョロ見回す白。

 

「あぁ、ちょっと買い物の手伝いをしてもらおうと思ってね。いや~、ちょっと切らしちゃった食材があったんだけどさ、オーランド王国じゃ手に入りそうになくてさ~。

いっそのこと本場に買い出しに行けばいいんじゃねって思って」

「本場に買い出しって、なんでそこで俺が引き摺り出されるんだよ。荷物持ちだったら収納の腕輪があるし、護衛も俺である必要はないだろうが。

こっちは聖茶の茶摘みが忙しいってのに、アイツら年間を通じて若葉が出る上に茶摘みをしないと抗議してきやがるんだよ。

あれ、絶対トレントだろ。根を伸ばしてブンブン振るって、トレント以外の何物でもないだろう。

大体鬼人族の俺がうろついても問題のない土地なんていったら暗黒大陸か? ジミーの話じゃ鬼人族の隠れ里があるって話だったが・・・」

 

そう言いながらある一点をじっと見つめる白。その視線の先には小脇に籠を抱えた着物姿の女性。

 

「・・・なぁ兄弟子、ここって本当にどこなんだよ。今の女性の格好、前に親父に聞いた事のある着物って奴じゃないのか? それにあの額にあるのって・・・」

白が見詰める女性の顔、その額から伸びるものはまごう事なき角。

 

「前にエルフ族の里に行った時に米と味噌を大量に買ってきたんだけど、一年で切らしちゃって。こうなったら本場の扶桑国に買いに行った方が早いかなって思って。

蒼雲さんの話じゃ扶桑国で普人族を見たことはないって話だし、だったら同じ鬼人族の白を連れて行った方が話が通るかなと思って。聞いた話じゃ蒼雲さんは国外追放処分された身らしいし、顔バレしたら大変じゃん? その点白の事は誰も知らないしね~。

って事で白、色々よろしく~♪」

 

「・・・阿呆か~~~~、行き成り扶桑国に連れて来られて俺がどうにか出来る訳ないだろうが!! 俺はなんやかんやでオーランド王国育ちなの、扶桑国は完全に外国なの、米だって兄弟子が譲ってくれて初めて口にしたの!!」

突然の事態に混乱する白。でもしようがないよね、自己呪いや幻影でやたらに姿を変えたりしてバレたら、なにされちゃうか分からないしね。

完全脳筋種族鬼人族、この国では考える前にぶった切るが基本らしいからな~。それでよく様々な食文化が育つと思うけど、それはそれ、これはこれといった事なんでしょう。

 

「まぁまぁまぁ、取り敢えず街らしきものが見えた方向に向かってみようよ、なにか問題があるにしても話はそれからって事で。

それに俺、扶桑国のお金もってないし、どのみち魔物素材か手持ちの品を売らないといけないし」

そう言いスタスタ先を進む俺に呆れた表情を向ける白雲。こうして俺っちは予期せぬ形で(主に俺の衝動)扶桑国の地に足を踏み入れる事になったのでした。

 

「いらっしゃい、いらっしゃい、寄ってらっしゃい見てらっしゃい。冬といったら鍋物、鍋といったらデーコンだろう。そこのお姉さん、今夜はふろふきデーコンなんかいかがだい? 味噌ダレでいただく熱々のふろふきデーコン、旦那さんも大喜びだよ~。

さあ買った買った~」

「薪はいかがかな、一束銅貨五枚だ。薪の買い置きは大丈夫か~」

 

ガヤガヤと賑わう街の大通り、店舗を構える八百屋からゴザを広げた露天商まで、様々な店が軒を連ねている。

 

「いや~、活気があっていいね~。でも思いのほか注目されていないみたいでよかったよ、それに流通貨幣も銅貨や銀貨が使われているみたいだし」

取り敢えず“目立たない外套”を羽織って街に潜入、ここでも路傍の石計画の成果は遺憾無く発揮されております。

 

「まぁ兄弟子の髪は黒いし容姿も派手じゃないからな。ジミーと違って“目立たない外套”がちゃんと仕事をするんだろうさ。

ジミーの奴、腕輪と髪留めと眼鏡を掛けてやっとって話だろう? 何だったらケイト奥様みたいに自己呪いも教えておいた方がいいんじゃないのか? 眼鏡を外してあの顔が出るよりも、一重の細目だったりした方が周りの反応がマシになると思うが」

 

確かに。暗黒大陸から追い掛けてきた二人も、ジミーが地味顔だったらどう立ち回ったかわからない、これは今度ジミーがマルセル村に帰ってきた時にでも提案してみよう。

 

「それよりも先ずは手元の魔物素材なり何なりを売って金銭を手に入れないと。何処かで両替してもらえるんならそれでもいいんだけど、こんな場所で外国の金貨銀貨を出したら怪しい事この上ないしね。

蒼雲さんの話じゃ扶桑国との交易が許可されている港は創国と取引をしている一か所に限定されてるんだとか。実際はエルフの里と密貿易をしているところがあるし、武連国と関係を持っている集団がいてもおかしくないけど、そういうところは尚の事外国の貨幣を警戒しているだろうし、下手したらお役人様に捕縛されかねないしね」

「やめろ、マジでやめろ。兄弟子の場合分かっていてやりかねないから怖い。

ちょっと待ってろ、俺が聞いてくる。兄弟子は余計な事をするなよ!!」

俺に強い口調で念押ししてから近くの店に情報収集に向かう白。アイツ、名目上とはいえワイルドウッド男爵家の騎士なんだけどな。俺、一応主人に当たるんだけど? ちゃんと毎月の給料も払ってるんだけど?

因みに蒼雲さんは契約農家、聖茶の所有権以外は蒼雲さんの采配にお任せしております。

だってアレってヤバイしね、いざとなったら御神木様の結界内か俺の自己領域に移植しよう。

マルセル茶に関しては完全にお任せ、今後マルセル村の主要農産品の一角を支えてくれるものと期待しております。

 

「ん? 何だあれ」

それは何かの催し物でもやっているかのような人集り。俺はこっそりとその人集りに近付きます。

 

「さあさあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい。腕に覚えのある旦那さん方はお立ち会い。

ご覧に入れますこの娘、ただの女武芸者と思いきやさにあらず。世間を騒がした大罪人悪鬼織絹の父、破軍と謳われた御刀之守天海の落とし胤、御刀之守家最後の系譜、御刀之守海月。

その腕前、悪鬼織絹を以ってして御刀之守家の次代を継ぐのは海月であると言わしめた天賦の才の持ち主だ!

さあさあ、我こそはと思う剛の者は居られないかな? 見事海月を打ち破る事の出来た御仁には金貨五枚を進呈しようじゃないか。挑戦料は大銀貨一枚、今こそ漢を見せる時だ!!」

 

ブホッ、悪鬼織絹ってアレン君のところのメイドさんの織絹さんだよね。織絹さんのお父さんの天海さん、他所の女性に手を出していた模様。

って言うかさっきの口上だと織絹さん公認だよね? なのに落とし胤? それっておかしくね?

まぁ十中八九偽物なんですけどね、もし本物なら織絹さんが悪鬼と呼ばれる切っ掛けとなった戦いで死んでいるか、同じくらいに名の売れた大罪人となっていたはずだしね。

 

「兄弟子、勝手にうろつくな。何処に行ったのかと思って探しただろうが。

それで魔物素材の売り先が分かったぞ。扶桑国には冒険者ギルドがないが、代わりに口入れ屋というものがあって魔物討伐の手配やら魔物素材の買取なんかをしているらしい。

ポーション類は薬屋、武器や防具は武器屋、壊れた金属製の物はクズ屋、その他様々な品は古道具屋だそうだ。

で、この坊主が口利きをしてくれるらしい、案内賃銅貨十五枚だそうだ」

そう言い後ろにいる少年を紹介する白。少年は俺の方に顔を向けるや、純朴そうな瞳を輝かせぺこりと頭を下げます。

俺は膝を折り少年の目線にまで身を屈めると柔らかい口調で話し掛けるのでした。

 

「こんにちは。俺の名前は袈瓶(けびん)、突然こんな事を頼んで悪かったね」

「ううん、このお兄さんが困っていそうだったからちょっと声を掛けさせてもらったんだ。なんかこの街に慣れてないみたいだったからね」

 

「そうか、どうもありがとう。それで君に世間を知らない田舎者を捕まえさせてうまい汁を吸おうとしている欲深商人からは、どれくらい報酬を貰えるんだい? 筋者の連中なら全員ぶっ殺してしまえば事足りるんだけど、中途半端な連中が一番面倒でね。

ヘタに手配書が回ったんじゃ街で買い物もできない。

でもそうか、目撃者が一人もいなければいいのか、それなら手配のしようもないし」(ニヤリ)

 

俺の言葉に途端顔を引き攣らせ小刻みに震え出す少年。あれだけの会話で言葉の意味を正確に理解できるとは、この子は結構頭がいいようです。

 

「なに、俺たちは手持ちの品を換金して金を手にいれられればいい、君は俺たちをまともな店に案内すればいい。

俺たちの目的はその金で米や味噌、醬油やその他調味料類の買い出しでね、マジックバッグを持っているから大量に買い込む事が出来るんだよ。

報酬はそうだな、俺たちの買い物の付き合い込みで、買取金額の二割でどうかな? 上手い具合に高額買い取りになればその分報酬が増える。買い取り終了後に報酬の半額、買い物終了後に残りを渡すという事でどうだろう? 何なら証文も書くぞ、それにどれほどの信用を持ってもらえるのかは分からないけどね」

 

そう言い笑顔で少年の返事を待つ。少年は暫しの逡巡の後、鋭い目つきでこちらを睨みつける。

 

「三割だ、こっちも危険を冒すんでな。その代わりに一番の値を付けてくれる真面目な買い取り屋と混ぜ物無しの米屋、品揃えと品質が一番いい雑貨屋に案内しよう」

先ほどまでの純朴な雰囲気はどこへやら、人が変わったように擦れた空気を纏った少年に驚きの表情を向ける白。白君、甘い甘い、都会は田舎者を食い物にする連中で溢れているのだよ。

扶桑国は疑わしきはぶっ殺せの武闘派社会、その中で生き残る事に必死な平民が、あんなに純朴な目をしてる訳ないじゃん。

 

「よし、契約成立だ。ところで少年、あそこで力試しの見世物を行っている女武芸者は結構有名なのか? 周りの見物客が賭け事をしているんだが、みんなあの女武芸者が勝つと信じて疑っていないんだが」

そう言い俺は人だかりの中心でオーガのような剣客と対峙する女武芸者について聞いてみる。

 

「あぁ、流れ者の海月か。旅の武芸者だったらしいんだが、街の商人に嵌められて用心棒みたいなことをしていたみたいだな。

今じゃああやって見世物にされている、いくら腕が立とうと世の中を渡っていくには何の役にも立たないっていう典型だな」

そう言い肩を竦める少年に「ほう」と呟く俺氏。

人集りの向こうでは、(くだん)の海月がちょうど大男を木刀の一振りで吹き飛ばしているところだった。

 

「ところで少年、大銀貨一枚持ってるか? 外国の金貨でよければ交換しないか? 上手くいったら後でこっちの金貨と交換してやるぞ?」

俺の言葉にしばらく考えた少年は、「物を見せてもらおうか」と手を差し出して来た。

 

「ふむ、いいだろう。それと俺の名は伊助、袈瓶といったか、アンタとはいい取引が出来そうだ」

そう言い懐の巾着から銀貨十枚を取り出す伊助。

 

「白、いってこい。ただし圧勝するなよ?押されつつ偶発的に勝ったって感じにまとめてくるんだ」

「はぁ? 一体何を企んでやがる、まぁいいけどよ」

白は収納の腕輪から木刀を取り出すと、頭をぼりぼり掻きながら人集りの中へ向かっていくのでした。

 




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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