転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

693 / 861
第693話 辺境男爵、友釣りをする

「あ~、惜しい。素晴らしい剣の使い手でいらっしゃいましたが、わずかばかり海月には届かなかった、本当に惜しい。

さぁさぁ、他に我こそはと名乗りを上げられる御方はおられませんかな?

嘗て扶桑国の守護家とも呼ばれた御刀之守家、その血を受け継ぐ最後の者御刀之守海月、天下に名を轟かさんとする志を持った御方なら是非にとも挑戦していただきたい。

挑戦料は大銀貨一枚、見事海月を下された御方には金貨五枚を進呈だ~!!」

“ガヤガヤガヤガヤ”

 

大通りに響く男の口上、取り囲む観衆も「扶桑の男なら根性見せろ~!!」だの「情けない武芸者ばかりだよ、海月ちゃんが呆れてるじゃないかい」だのと、思い思いに好き勝手なヤジを飛ばす。

 

「ちょっといいか」

そんな観衆を割るように前に進み出た一人の若者。年の頃は十六か十七、この辺ではあまり見慣れない服装ながらも、その体捌きからかなり鍛え上げていることが窺える。

 

「この試し、金を払えば誰でも受けれるのか? それと本当に金貨五枚も貰えるのか? 金の受け渡しと言ってどこかの裏路地に連れ込まれてなんて事になったら堪らんのだが」

若者は精悍な身体付きとは裏腹に、随分と心配性な事を口にする。

 

「おいおいおい、言い掛かりは他所でやってくんな。こちとら真面も真面、この往来で公明正大に挑戦者を募ってるんだ。無論勝者にはそれ相応に遇するってもんだ」

「それじゃ金はこの見物人の前で貰えるのか? それは凄い、だったら安心だ。こっちもなけなしの金を払うんだ、勝ったはいいがこの女武芸者だけ残して金を持って逃げられたなんて事になったら堪らないからな」

 

若者はそう言うと手に握った銀貨十枚を差し出すのだった。

 

“カンカンカンカンッ、スッ、カンカンカンカン”

若者は手に持つ木刀を振るい、海月の打ち込みをギリギリ防いでいく。

口上の男に銀貨十枚を渡した若者は、手持ちの木刀を振るい果敢に海月に挑んでいった。それは若さ溢れる勢いのある剣筋で、見守る観衆も大いに盛り上がり声援を送るものであった。

だがそれも徐々に太刀筋を鋭くした海月の木刀の前では及ばない。押していたはずの若者は次第に防戦一方に追い込まれ、その顔は必死の形相へと変わっていったのである。

 

「クッ、ウォォォォォォ!!」

“ガツンッ”

渾身の打ち込みで海月を後方に弾いた若者は、ここがチャンスとばかりに海月に向かい上段に振り上げながら飛び込んだ。

だがそれは海月の誘い、吹き飛ばされた振りをして自ら身を下げた海月はがら空きの胴を目指し横薙ぎに木刀を振り抜いた。だが・・・。

 

‟フッ”

突如目の前から姿を消した若者、そして。

“ドスッ”

鳩尾に走る衝撃、暗転する視界、何があったのかも分からず激しい痛みと共に断ち切られる意識。

“ドサッ”

崩れ倒れる海月の姿に、暫しの沈黙の後、大きな歓声が沸き起こる。

地面に倒れていた者は二人、一人は苦しげな表情のまま気を失った海月、そしてもう一人は。

 

「アイタタタタ、思いっきり鼻を打っちまった。皮むけてないよな、これ。えっと、状況的には俺の勝ちって事でいいんだよな? しっかり木刀で海月とやらを倒したんだし。先に転んだから負けとか言い掛かりみたいなことは言わないよな?」

少し赤くなった鼻を押さえながら立ち上がった若者が見据える先、そこにいるのは顔を引き攣らせた口上の男性。

 

「おい、海月、何やってやがる、早く立ちあがりやがれ!! えっ、あの、旦那、その、ちょっとお待ちいただいてですね」

「すぐに貰えるんだよな? 金貨五枚」

そう言いグイッと前に出る若者に、額から汗を流す男性。周囲の観衆からは「そうだそうだ、ちゃんと払えよ!! 俺たちが見届けてやるからな!!」といったヤジが飛ぶ。

 

「一枚、二枚、三枚、四枚、五枚。確かに金貨五枚いただいた。これでまた剣の鍛錬に打ち込めるというもの、感謝する。皆の衆も見守り感謝する、それでは俺はこれで」

若者はそう言い観衆に何度も頭を下げると、人々の間を抜けその場を去っていくのだった。

 

後に残された口上の男性はチッと舌打ちをすると、一度どこかに目配せをした後「本日は店じまいだ、また来てくんな」と周囲に声を掛け、荷物を片し地面に倒れる海月を担ぎ上げ、その場を下がるのだった。

 

―――――――

 

「ほらよ、伊助、さっきの金貨と交換だ」

俺はそう言い白が手に入れてきた金貨を一枚もらい受けると、伊助に先程渡したオーランド王国金貨と扶桑国の金貨を交換するのだった。

 

「へ~、そっちの兄さんも中々やるんだな。偶然とはいえあの海月に勝っちまうとは。連戦無敗、この街で海月に土を付けたのは兄さんが初めての筈だぞ?」

伊助は掌の金貨を繁々と眺めた後、巾着に仕舞ってから声を掛けてくる。

悲報、扶桑国の金貨、小判じゃなかったです。四角く時代劇で見たことがあるような形だけど、小判の下の貨幣だった様な?

流石にその辺の記憶はな~、時代劇といえば小判と投げ銭と十手、男だったら一つに懸けるのです。

 

「そうか、目の肥えていそうな伊助にもそう見えたのか。流石だな、白、仕込みはバッチリだ♪」

そう言い楽し気に前をいく俺に、「兄弟子がまた何か悪巧みをしているよ」と失礼な事を呟く白。失敬な、俺は悪巧みなんてしていませんよ? 平和を愛する一村人です。

俺は白からの疑わし気な視線を受けながらも、伊助の案内の下、魔物素材を売るために買い取り屋へと急ぐのでした。

 

「「「「「どうもありがとうございました、またのご利用をお待ちしております!!」」」」」

伊助の案内してくれた買い取り屋は結構な大店でございました。商品の品質にこだわりを持つ店で、状態の良い品には高い金額を付けるが傷もの素材には厳しいとか。あまり商品の品質に気を回す事の出来ないような駆け出しには敷居の高い店なんだそうです。

逆に言えば出入りする武芸者はいずれも腕の立つものばかり、やたらな者の横槍は自力で跳ねのけるだけの力のある店なんだとか。

要するに伊助に試されたって事ですかね。

 

でもそこは大森林素材を抱える私、逆にありがたいと言いますか、よくこんな店に人を紹介できるコネがあるなと伊助の人脈に驚かされるばかり。

だってオーランド王国でいうところのバストール商会やモルガン商会にコネがあるって言っているようなものよ? 伊助ってどう見てもストリートチルドレンの親玉みたいな感じなのよ? もしかして世を忍ぶ仮の姿だったり・・・ないな、うん。だって擦れ過ぎてるんだもん、伊助の目はマジもんだよね、本当に。この件にはあまり触れないでおこう。

で、そんな大店なものだから結構な量を買い取って下さいましてね。

 

「なぁ旦那、マジでこんなに貰っちまっていいのか」

渡された金貨のズッシリ入った皮袋に顔色を青くする伊助。そりゃそうですよね、田舎から出てきた世間知らずを口入れ屋とは名ばかりのぼったくり業者に連れていって小金を稼いでいた小僧が、今まで見た事もない様な大金を手にしたら。

因みに扶桑国にも大金貨はございました。金板と呼ばれるもので、在りし日の記憶でいうところの金地金って奴に近いものでした。金貨百枚で大金貨一枚というのはオーランド王国と変わらないんだけど、そんなものを伊助が持っていても使えないので幾つか金貨で貰って来たって訳です。

 

「いや~、あるところにはあるね~。レッサードラゴン一体で金貨二百三十枚だもん、もうウハウハだよ。ブラックウルフもいい値段で売れたし、あれって加工してさらに高値で買い取ってくれるところがあるって事なんだろう? 上には上がいるよね~」

収納の腕輪から魔物素材を適当に取り出して売り払った合計金額が金貨八千七百四十枚、その内の三割が伊助の取り分なので二千六百二十二枚、その半額の千三百十一枚を受け取った伊助君なのであります。

 

「で、どうする? このままだと伊助は確実に金を奪われて殺されるけど」

俺の言葉に途端表情を引き締め真剣な顔になる伊助、瞬時に自分の置かれた状況を理解できる辺り、本当に頭がいいんだろう。

 

「俺たちが買い取り屋に魔物素材を売って大金を手に入れたことは、直ぐに噂として広がるだろう。まぁ俺たちは買うものを買って街を出て行けばいいだけだからまだどうとでもなるんだけどな。

問題は伊助だ。伊助が俺たちを案内した事、大金を手に入れたことは俺たちの噂と一緒に広がるだろうな。上手い事やりやがってと羨むのはいい方で、いい獲物が現れたと思う連中は多いんじゃないか?

伊助を直接襲う、家族を攫う、方法は幾らでも考えられるが、金は人を狂わせるからな。

伊助は家族や大切な者はいるのか?」

 

俺の言葉に顔を顰めた伊助は「そんな者はいない」と吐き捨てる。まぁ色々と事情はあるんだろう。

 

「それじゃ誰か後ろ盾になってくれそうな人物に心当たりは? できればさっきの買い取り屋くらいの力のある相手が望ましいんだが」

暫し考え込み首を横に振る伊助。裏町にはそれなりの仕切り屋はいるが、皆搾取するばかりで頼りにはならないらしい。

 

「それじゃ最後、伊助にはやりたい事はあるか?」

「・・・都に行って一旗揚げたい」

俺の質問に力強い瞳で答えを返す伊助。悪くないじゃん。

 

「白、伊助ってなんか昔の白みたいだな。こう自分の力で生き抜いていこうって感じが特に」

「よせやい、兄弟子。俺は伊助ほど立派じゃないぞ、どちらかといえば流されまくりだからな」

そう言い肩を竦める白雲。でも流されまくりと言いながらラビット格闘術の免許皆伝なんだから半端ない。俺、奥伝で止まってます。グヌヌヌ。

隣では俺の言葉を受け何か真剣な表情で考え込んでいる伊助の姿。俺はこの縁が後の扶桑国との個人貿易のとっかかりになることを期待し、悩める若者が大成する事を願わずにはいられないのでした。

 

「いらっしゃいませ。本日はどのような品物をお探しでしょうか」

伊助に案内されたのはよく整理された豊富な品物を扱う食品雑貨の店。陳列棚には酒・醤油は無論、味噌や昆布なんかも並べてあります。

 

「店主、全部買おう!!」

“スパーーーーン”

振り抜かれたハリセン、呆れた顔をする白、頭を抱え悶える俺。

 

「あぁ、すまん。ちゃんとした客だ、今言った事は忘れてくれ。それで欲しいのは味噌や醤油、干し昆布や煮干しといった調味料なんだが」

行き成りの寸劇に呆気にとられる店主を尻目に、伊助が話しを進めてくれます。本当に頭のいい出来た少年です事。

 

「あっ、はい。って伊助さん? 伊助さんじゃないですか。お久し振りです、お元気そうで何よりです」

伊助の顔を見るなり丁寧な態度で言葉を掛ける店主。えっと、もしかして伊助っていいところのお坊ちゃんだとか?

 

「止めてくれ庄吉さん、今の俺はただの伊助、扇屋の跡取りだった昔とは違うんだ。それよりもこっちのお客さんの対応を頼む、怪しい二人組だがちゃんと金は持ってるし払いもいい。

さっきは行き成り馬鹿な事を言ったが、本気でこの店の品物を全部買うくらいの金は持ってるから安心して欲しい。

それと前に庄吉さんから聞いた都の大店に下働きに入った話なんだが、出来ればもう一度詳しく聞かせてくれないか?」

 

伊助の言葉にパッと目を見開き「はい、何でもお聞きください!!」と答える店主。

 

「なぁ白、俺たちは本当に運が良かったのかもしれないぞ? 伊助に出会えたことが最大の幸運だったのかもしれん」

「運がある、その運をものにする力がある。ああした奴は強い、俺なんかよりよっぽどな。伊助が上手い事店でも持ってくれたら、兄弟子が欲しがるような扶桑国の食材が簡単に手に入るようになるかもしれないな」

俺たちは自分の力と人脈で自らの運命を引き寄せようとしている伊助の姿を、なにか眩しいものでも見るように眺め続けるのでした。

 

「袈瓶さん、すみません。何か俺の事で時間を取ってしまって」

知り合いの店主と話し込んでしまい手間を取らせたと、律儀に頭を下げる伊助。

イヤイヤイヤ、そんな事はね、些事ですよ、些事。味噌、醤油、干し昆布に魚木(うおぎ)。魚木ってこれどう見ても鰹節じゃないですか!! 削って使うって、(かんな)はどこですか、鰹節削り器はどこで売ってるんですか~~~!!

伊助曰く台所用品を扱う雑貨屋にあるとの事なので、直ぐに向かって貰う事に。伊助って優秀、マジ優秀。

 

「全く気にするな、伊助。それより良かったな、店主さんから昔使っていたっていうマジックポーチを譲ってもらえて。あの皮袋を持ち運ぶのは大変だったもんな」

それは店主さんが使っていたという、大きながま口財布のようなマジックポーチ。伊助は持ち運んでいた重い皮袋を仕舞い、腰帯に挟んで隠しています。

 

「庄吉は俺が小さかった頃によく遊んでくれた、昔から何かと世話になった男なんです。俺の家は「ようやく見つけたぜ、伊助。そっちの旦那も一緒とは都合がいいや。ちょっと付き合ってくれませんかね~」・・・お前は口利き屋の」

 

それは街の通りで女武芸者の見世物をしていた男性。男性の背後にはガラの悪そうな大勢の男達がにやにやと笑いながら集まってきており、中には先程の女武芸者の姿も見る事が出来る。

 

「兄弟子、こうなることが分かってただろう」

「まぁな。よそ者が派手な買い物をすれば目立つことこの上ない、街の顔役的な連中が絡んで来るのは必然。

だったら初めから顔を売っておいた方が手っ取り早いだろう? 下手に周りに迷惑をかけてお尋ね者にされても困るしな。

伊助、ここは素直に従うぞ。なに、心配するな。これでも俺たちは強いからな」

俺は困惑する伊助に声を掛けると、肩をポンと叩きニヤリと笑みを向けるのでした。




本日一話目です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。