転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

694 / 861
第694話 辺境男爵、街の顔役とO・HA・NA・SHIする

「ほう、お前さん方が買い取り屋で随分美味しい思いをしたって連中か。話は聞いている、俺のシマで随分好き勝手してくれてたみてえじゃねえか」

 

俺たちが大勢の男達に囲まれ連れてこられた場所は、人足や武芸者などが集まる商家のような場所、見渡す限り筋骨隆々の男達しかいないとてもむさ苦しい所であった。

 

「なぁ白、ここって父ヘンリー以上の筋肉ダルマしかいないんだが、鬼人族ってみんなこんな感じなのか?」

「兄弟子、俺が知る訳ないだろうが。今朝も言ったが俺はオーランド王国育ちなんだっての、扶桑国の事は兄弟子よりも知らないっての」

 

「ほう、この俺を前にして態度を変えねえとは、度胸だけは随分とあるみてえじゃねえか。気に入った。まぁこっちも鬼じゃねえんだ、穏便に済むに越したことはないからよ」

目の前では周りの者よりも二回りは大きいだろう大男が、一段高い位置で胡坐をかきながらこちらを値踏みするように睨み付ける。

 

「なぁ白、ここって笑った方がいいのか? あんなに立派な角を額に付けたいかにも鬼人族の男って感じの見た目で「こっちも鬼じゃねえ」って。お笑い的には出オチって奴なのか?」

「いや、兄弟子、一応あれは脅し文句の一つなんだと思うぞ? 流石にあの見た目でお笑い芸人って事は・・・う~ん、人は見た目じゃ判断出来ないとも言うしな。笑いの道は難しい」

 

俺と白の会話に周りの気配が剣呑なものに変わる。・・・えっと、俺たち何かまずい事でも言ったんだろうか?

 

「クックックッ、どうしてどうして。この“大岩の源蔵”を前にここまで態度の変わらねえ奴は初めてだ。世の中って奴は思いのほか広いのかもしれねえな。

それはそうと伊助、おめえ、なに勝手に客取ってやがるんだ? おめえの仕事は何だ? 言ってみろ」

ギロリと擬音が聞こえてきそうな勢いで眼光を強める“大岩の源蔵”。伊助はその圧に押されるような形でボツリと口を開く。

 

「・・・口入れ屋に・・・人を集める事です」

「・・・そうだよな~、手前は口入れ屋に人を紹介して駄賃を貰う、それが仕事だよな~。客を取って街の案内をして謝礼を貰うのは、ちっと違うよな~。

で、手前は俺のシマで勝手に商売をした、そういう事なのか? どうなんだ伊助」

 

「いえ、その、俺は・・・」

「よく聞こえねえぞ伊助、もっとはっきり話さねえとな、人との会話は相手の目を見てするもんだぞ? どうなんだ伊助~~、あん?」

源蔵は物柔らかに、それでも決して相手を逃がさないように圧を掛ける。

 

「なぁ兄弟子、これは一体何をやってるんだ? 俺にはよく理解出来ないんだが」

「あぁ、これは裏社会でよく行われるある種の恐喝だな。自分からは決して要求を出さずあくまで相手から自主的に差し出す形で金品を要求する。

言葉の端々に誘導する言葉、今回の場合は「なに勝手に客取ってやがるんだ?」や「客を取って街の案内をして謝礼を貰う」といった言葉を入れる事で暗に“お前が田舎者の案内をして大金を手に入れた事は知ってるんだぞ”という事を臭わせて、「おめえの仕事は何だ?」や「人との会話は相手の目を見てするもんだぞ?」という言葉で“お前は俺を敵に回すつもりか?違うなら利益を全部寄越せ”って伝えてるって奴だな。

大概はここで脅しに屈して「俺の仕事は口入れ屋に客を連れて行く事です」とか言って、「それじゃあその金は口入れ屋の利益だよな?」って言われて有り金全部持って行かれちまうんだな、これが。そんで後は只管下っ端としてこき使われちまう、まぁ路上生活を余儀なくされた伊助がこんな場所に身を置く事になったのは仕方がないとして、こうした場所は一度引き込んだ者は決して逃がさないから質が悪い。

伊助みたいに腕っぷしじゃなく口が達者な者の場合、その末路は悲惨だぞ~。

話は逸れたが、これがお貴族様やお偉いさんとの会話になるともう少し複雑になる。言葉の内容とその示す意味が真逆なんてざらだからな、白も追々覚えていった方がいいぞ?」

 

俺の言葉に心底嫌そうな表情になる白。イヤイヤイヤ、そこはもう少しやる気を見せようよ、白雲さんはワイルドウッド男爵家の騎士爵様であらせられるんですから。

俺と白とがそんな感じで現状を確認し合っていると、俺の横にいた伊助が顔色を青くしながら口をパクパクさせていらっしゃいます。ん? 伊助さん、“大岩の源蔵”の脅しに過呼吸になっちゃった? 頭がよくて度胸があってもまだまだ少年って事なのかな?

 

「クックックッ、全く大したもんだよな~、おめえらもそう思うだろう?

この“大岩の源蔵”を前にしてその態度、全く笑えねえよ、客人。

こちとらこれでも男を売りに看板背負ってんだ、嘗められたらお仕舞なんだよ。

手前ら、客人に少し礼儀って奴を教えてやんな」

「「「「「おう!!」」」」」

 

“大岩の源蔵”の言葉にぞろぞろと前に出る大男達。

 

「なぁ兄弟子、さっきの俺たちの会話にどこか不快になるような点ってあったか? 現状を理解しようとしただけなんだが」

「あぁ~、こうした連中は忖度して貰うことに価値を見出してるんだよ。特に偉い立場の者は言わなくても分かるだろうって気持ちが強いし、そうして周りが気を使う事を自分の価値だと思っている。

その事を正面から指摘されると馬鹿にされたと思う傾向にあるんだ。

“言わぬが花”って言葉があってな、お貴族様もそうだが直接的な表現でない方が価値があると考える文化って奴は結構広く浸透しているんだ。

腹が減ったら飯を食う、面白かったら声を大にして笑う、眠くなったら横になる。人なんてものは本来そんなもんなんだが、自分を少しでも偉そうに見せたいんだろうな。それが悪いとは言わないけど、まぁ大変だよな」

 

俺の言葉になるほどと納得顔になる白。横で顔を青くして震えていたはずの伊助も、口をポカンとして冷静さを取り戻している。なんやかんや言って伊助って切り替えが早いし度胸もあるよな、マジで将来有望、期待しております。

 

「何だこの頭のいかれた連中は、状況が全く分かってないのか? 伊助、お前も災難だったな。まぁこれも運って奴だ、死んでも恨むなよ?」

迫ってきた大男の内の一人が一言言葉を掛けながら拳を振り上げ、“ドスッ、ウ~~~~~ッ、ドサッ”

腹を押さえながら土間に沈む大男。

 

「「「「手前~、何しやがった!!」」」」

“ドスドスドスドスッ”

“ドサドサドサドサッ”

 

途端崩れ落ちる男達、その様子に源蔵から怒声が飛ぶ。

 

「何やってやがる!! 構わねぇ、手前ら、こいつらを叩き切れ!!」

“ガチャガチャガチャガチャガチャ”

源蔵の声に懐から短刀を抜き構える男達。俺は白に「殺すなよ~」と声を掛けてから動き出します。

 

「ラビット格闘術奥伝袈瓶、推して参る!!」

「ラビット格闘術皆伝白雲、我が技の冴え、とくとご覧あれ」

それは一方的な蹂躙、吹き荒れる暴風。手にする刃は鋭い痛みと衝撃により一瞬にして叩き落され、次の瞬間には激しい頭の揺れと共に意識が刈り取られる。

自らの配下が次々に倒されるという悪夢に、顔を真っ赤にして怒りをあらわにする源蔵。

 

「何やってんだ手前らは!! 先生方、やっちまってくだせえ!!」

源蔵の言葉に周りに控えていた武芸者たちが刀を抜く。俺と白は収納の腕輪から得物を取り出すと、向かって来る武芸者たちに刃先を向ける。

 

「「「「「セイヤッ」」」」」

“ブンッブンッブンッブンッブンッ”

“シュタンッシュタンッ、ドスドスドス、シュタンッ、ドスバゴ”

“グホッ、ドサドサドサドサドサッ”

 

武芸者たちが振るう刀を体捌きで交わし鳩尾や顎先に蹴りと掌底を当てていく。打ち合わないのか? あのね、刀は本来打ち合う用の武器じゃないの、切るものなの。ボビー流剣術の基本は打ち合わずに切るだから、刃こぼれして切れ味が落ちたらどうするのさ。

それじゃなんで得物を握ってるのか? 気遣いだよ気遣い、“無手の相手に負けたとあっては武芸者の恥”とか言って恨まれたら嫌じゃん。

白は素振り用の石刀を振るってるけど、それって最強生物の垢すり岩製だからね? アダマンタイトの剣でも切れない奴だからね? 不殺みたいな顔してるけど、当たり所が悪ければ普通に死ぬから、武芸者さん刀折られて涙目よ?

 

“ドサッ”

白が最後の一人を倒したのを確認し、周囲に目を向ける。死屍累々、まるで虐殺現場のように地面に倒れる人、人、人。

 

「なっ、くそ、海月!! 何してやがる、そいつらをとっとと倒さねえか、手前は契約上俺に逆らえねえんだろうが!!」

「クッ」

大道芸人の女武芸者が、源蔵に言われ前に出る。

 

「あっ、ちょっと待ってくれるか。このままじゃお互いやりづらいだろう、直ぐに片付ける」

俺はそう言うと自分の影を広げ、足下に転がる男達を飲み込んでいく。

 

「手前、人じゃねえのか!? そんな魔法聞いた事も見たこともねえぞ!!」

「えっ、知らないの? 影魔法。大陸じゃ結構有名な魔法なんだけど、場所が変わると知らないって事もあるのかな?

まぁいいや、白、相手してやって」

俺は騒ぐ源蔵をよそに、海月の相手を白に頼む。海月は因縁の相手の登場に、その表情を鋭くする。

 

「初めから全力で行く」

「あぁ、そうしてくれると助かる。それじゃ始めようか」

 

“バッ、カンッ、カンカンカンカンカンカン、ブンッ、ババッ、カンカンカンカンカンカン”

大通りでの対戦とは違い激しく刀(木刀)と刀(石刀)をぶつけ合う海月と白雲。

 

“ババッ”

「なぁ、一つ聞いてもいいか? あんた武芸者なんだろう? 何で刀を使わないんだ」

「源蔵殿に質草(しちくさ)に取られたんだ。その返済のために契約を結んで働いている!!」

“カンカンカンカンカンカンカンカン、ブンッ、カンカンカンカンカンカン”

 

海月の振るう刀(木刀)に力が入る。白はその打ち込みを上手く受け流しながら、尚も話し掛ける。

 

「もう一つ気になったんだが、御刀之守家の落とし胤って話は本当なのか? 悪鬼織絹に剣の才を認められたとかなんとか」

「フンッ、落とし胤かどうかなどは知らん。だが織絹様が幼い私を抱き上げて「お前は私以上の剣の使い手になるぞ」と仰って下さったのは事実だ。その言葉を否定する事は私が許さん!!」

“ババババババババッ、カンカンカンカンカンカンカンカンッ”

まるで自身の言葉を証明するかのように、より激しさを増す海月の剣。

 

「・・・なぁ伊助。今の海月の言葉って、織絹が幼い女の子を抱き上げてあやしたってだけの話だよな?」

「・・・武芸者には思い込みの激しい奴が結構多いんだよ。俺もこれまでに先祖が龍殺しだったって名乗る武芸者を何人か見た事があるが、全員海月に伸されてたな。

御刀之守家の伝承にある都を騒がした大怪異黒鴉討伐の話も、何処までが本当なんだか」

そう言い肩を竦める伊助の姿に、“まぁ普通は信じないよな”と苦笑いを浮かべる。

 

「そうか、御刀之守織絹殿に掛けられた言葉を信じここまで研鑽を積んだ、その意気やよし。

だがその様子では知らないようだな、鬼ヶ島に囚われていた織絹殿が脱走し大陸に渡ったという事を。俺は縁あって織絹殿と手合わせをする機会を得た。これが、その時の剣だ」

“ブォッ”

白雲の纏う気配が変わる。それは鬼、護国の刀と謳われた魔剣黒鴉を守り伝えてきた御刀之守家の者が持つ修羅の姿。

 

「蒼炎・・・無双」

“ダダダダダダダダダダダダダダッ、ズバンッ”

 

「御刀之守の剣は無魔の剣、己の肉体を極限に鍛え、魔力枯渇状態でも全てを打ち払う鬼の型。織絹殿は旅立たれたよ、新たな目標を手に入れたと言っていたか。

海月殿が己の剣を掴み取る事を心から祈ろう」

“ドサッ”

意識を失い前のめりに倒れ込んだ海月、だがその顔は嬉し気に笑っているのだった。

 

「なぁ伊助、武芸者って皆あんな感じなのか? 討ち倒されると満足気にぶっ倒れるみたいな」

「あぁ、多いな。逆恨みするような奴は大概武芸者崩れだな、酒飲んでこんな場所で用心棒をしているような奴だな。

家付きの侍なんかは“命惜しむな名を惜しめ”って連中ばっかりって聞くぞ?」

うへ~、やっぱり扶桑国は修羅の国で間違いないようです。

 

“ズシッ”

気配が動く、強者の覇気が膨れ上がる。隣の伊助が“ヒッ!?”と小さな悲鳴を上げ、気配のする方向から俺を盾にして身を隠す。

 

「お前ら、結構やるな」

それは修羅、身に纏う気配は本物。長く戦いに身を置き戦場を駆け抜けた者だけが身に付ける事の出来る、本物の覇気。

 

「俺の相手は先ずお前からでいいのか?」

「あぁ、何もしないでいるとあとで怒られるからな」

そう言い一歩前に出た俺に、おかしそうに口元を緩める武芸者。

 

「剛毅なことだ。流石鉄火場に乗り込んで平然としているだけある、これが若さって奴か?」

「さぁ、でもあんたほどの使い手が何でこんな掃き溜めに? およそ似合わない場所だと思うんだけど?」

俺の言葉に口元を歪め、「まぁ、色々な、ただ強いだけじゃ世の中渡れないって事だ」と吐き捨てる武芸者。

・・・蒼雲さんと一緒って事ね、察しました。

 

「お前らに恨みはないが、これも渡世(とせい)の義理。俺は俺の役割を果たすのみ」

“カチャッ”

腰鞘の刀に手を添わせ、膝を曲げ腰を低くする武芸者。

高まる緊張、武芸者から立ち昇る覇気にその場が静まりかえる。

 

「それ、剣鉈って奴か? 珍しい武器を使うんだな」

「あぁ、これ? おれは元々森の脇の村人でね、森に入るにはこれくらいの大きさの得物の方が小回りが利いていいんだよ。頼りになる相棒さ」

 

「そうか、実は俺も元は百姓の小倅でな、子供の頃はよく田植えとか手伝わされたもんだよ。それでもこいつに出会ってからはすっかりのめり込んで、気が付いたら今って訳だ。

人生何がどうなるのか、先の事なんて分からないもんだな」

自嘲気味に笑う男に俺も苦笑いで返す。

 

「太田玄才、“胴抜きの玄才”と呼ばれていた」

「マルセル村のケビン、最近は“理不尽”なんて呼ばれてる。本当に失礼な話だよ」

俺はダラリと腕を下ろし、小さな声でつぶやく。「<プチ天想顕現>」

“シュバンッ、スーーーッ、カチンッ”

 

玄才の刀が腰鞘に戻される。源蔵が勝利を確信し、嫌らしく口元を歪める。

 

「・・・マルセル村のケビン、“理不尽”の名に偽りなし。お見事、グホッ」

口から血を吐きその場に崩れ去る太田玄才。

 

「さて、後はお前だけだけど、どうする?」(ニヤリ)

源蔵は先程までの余裕の笑みを消し、顔を引き攣らせたまま一歩後退るのだった。




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。