転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第696話 辺境男爵、街の偉い人とO・HA・NA・SHIする

“チョロチョロチョロチョロ、ジャ~~、カコンッ!”

玉石の敷き詰められた美しい庭園、石に囲まれた池にはコイが泳ぎ、魔道具の鹿威しが静かな庭に音のアクセントを加える。木製の家屋に瓦屋根、武家屋敷といった平屋の建物の奥座敷では、二人の男性が向かい合わせに言葉を交わす。

 

「伊藤様、日頃から何かとお世話になっております。これはほんの手土産でございます」

「ほう、扇屋、いつもすまんな。先代夫婦が亡くなり番頭であったお主が後を引き継いでどれ程になるか。今ではすっかり貫禄が出てきたではないか」

 

差し出された木箱、伊藤様と呼ばれた侍は上蓋をパカリと開く。そこにはきれいに並ぶ茶饅頭。

 

「ほう、これは名月屋の月見饅頭か。私は昔からあそこの饅頭が好きでな、これは良い土産をいただいた」

「はい、伊藤様に喜んでいただこうと()()()作らせた月見饅頭でございます」

伊藤は木箱の端の饅頭を摘まみ、底の敷紙をチラリと捲る。そこには黄金色に輝く大金貨の敷台が。

 

「ふむ、して今度は何を企んでおるのだ扇屋?」

「いえいえ、企むなどと滅相もございません。ただ少々関所周りでお目こぼしいただければと」

ニタッと擬音が聞こえて来そうな笑顔を浮かべ言葉を返す扇屋に、同じように口角を引き上げる伊藤。

 

「扇屋、お主も悪よの~。あまり派手にやり過ぎるでないぞ? 私にも庇える事と庇えぬ事があるでな」(ニヤリ)

「いえいえ、お代官様ほどでは。おっとこれは口が過ぎました、“何事もほどほどに身のほどを弁えて”、これは先代店主の口癖でございましたか」(ニヤリ)

 

水清ければ魚棲まず、豊かな街のナマズとガマガエルは、互いに相手を利用していると考えながら、その事はおくびにも出さず会話を続けるのだった。

 

「失礼いたします。伊藤様、口入れ屋の源蔵がみえましたがいかがいたしましょう?」

「うむ、丁度良い。扇屋も“大岩の源蔵”の事は知っておろう。代官所のあるこの辺り程ではないが、源蔵が仕切る街も中々に活気がある。

扇屋もいずれ頼みにするやもしれんからな、顔繫ぎをしておくのもいいだろう。よし、ここへ通せ」

 

「ハッ」

下がっていく配下の者の声に口元を緩める伊藤。全ては己の思うがまま、伊藤は我が世の春を思い、月見饅頭を口にするのだった。

 

――――――――

 

「伊助、案内ご苦労さん。お陰で満足のいく買い物が出来たよ、これが約束の半金だ」

米問屋石田屋さんでのお買い物、それは大変満足のいくものとなりました。購入したお米は玄米二千俵(百二十トン)、精米五百俵(三十トン)、籾米五百俵。それと大型精米機も譲っていただく事が出来ました。これは籾摺りから精米まで出来る優れ物、旧式の魔道具との話でしたが、精米性能は最新式のものとほとんど変わらないとの事。ただ構造が古いため大型で場所を取るという事で、最近新しい機種を購入し倉庫行きになっていた魔道具なんだそうです。

支払金額は魔道具代込みで金貨千七十枚、大量購入という事で切りのいい金貨千枚、大金貨十枚を支払い夢のお米様を手にする事が出来ました。

若干石田屋さんと繋ぎが出来たことでお米に関してはこれでいいんじゃないかという思いもありますが、それはそれ、これはこれ。自己領域でのお米栽培は目指していきたいかと。

折角知り合った元米農家の玄才さん、是非とも米作りの技術を伝えていただきたい。本人の了承? そんなものは現地で説得すればいいのさ。命あっての物種、ちゃんとお給料も払うし、米栽培の技術を伝えてくれた後であれば扶桑国であろうが暗黒大陸であろうが、好きなところにお送りしますとも。

 

「一応口入れ屋の件は源蔵が手を引いた形にはなっているが、あの源蔵だ、ただで引き下がるとは思えない。伊助は暫く食品雑貨屋の庄吉さんのところにでも世話になるといい」

「袈瓶さん、なにからなにまですみません。俺、都で確り修業して、いつか店を持てるような立派な商人になって見せます」

伊助はがま口型マジックポーチに金貨の入った皮袋を仕舞い込むと、俺に真っ直ぐな瞳を向け力強く宣言するのだった。

 

「おう、期待しているぞ。扶桑国の旨いものは伊助に任せたからな」

“バサバサバサバサ”

俺が伊助と別れの挨拶を行っていると、そこに一羽のビッグクローが降り立ってきました。

 

「ご苦労さん。それで源蔵はどうした?」

“クワッ、カッカッカッ、クワッ”

 

「そうか、分かった。それじゃ案内してくれるか?」

“クワッ、バサバサバサバサバサバサ”

俺の言葉に再び上空に舞い上がったビッグクロー。その光景をただ茫然と眺める伊助と海月。

 

「袈瓶さん、今のは」

「ん? あぁ、式神だな。源蔵がどう動くか分からなかったからな、ビッグクローの式神たちに見張らせておいたのさ。今のところ動きを見せたのは源蔵と配下数名みたいだから本格的に動くのはまだ先、これから仕込みを行うってところなんじゃないか?

でだ、伊助が源蔵だったらどう動くと思う?」

 

俺からの問い掛けに腕を組み、しばらく考えを巡らせる伊助。

 

「そうですね、ケビンさんが別れ際買い物に行く事を強調していました、そうした事から源蔵はケビンさんがよそ者で買い物が終わったらすぐに街を引き払うと考えると思います。

それと俺に都までの護衛として海月を付けたくらいですから、途中までは一緒に移動すると考えるものかと。そうであれば代官所に行き関所で俺たちを捕まえる算段をしているものかと思います」

「ほうほう、それは中々筋が通った考え方だな。まぁこれから式神に案内してもらってその答え合わせをするんだけどな。

という訳で伊助とはここでお別れだ、スリに遭わないように確り海月に守ってもらえよ。それと別れ際の海月の報酬だ」

 

“カチャカチャ”

それは小さな皮袋、聞こえる音から数枚の硬貨が入っている事が窺える。

 

「金貨十枚、後は伊助の判断で増やすなり減らすなりしてやってくれ。海月、伊助の事は頼んだぞ。それじゃあな」

そう言いその場を離れる俺と白。

 

「待ってください袈瓶さん、俺たちも関係者なんです。邪魔になる事は重々承知で頼みます、俺たちも連れて行ってください!!」

そう言い頭を下げる伊助、後ろでは海月も一緒になって頭を下げている。

 

「・・・どうする白」

「いや、別にいいんじゃないのか? 伊助の護衛は海月が務めるんだろう? 確かにさっきの戦いじゃ簡単に負けたように見えるかもしれないが、海月の実力は相当なものだと思うぞ?」

白の言葉に暫し考える。子供の頃の憧れを胸にあれほどの実力を見せた海月、叩けば化ける? 少なくとも“胴抜きの玄才”くらいの実力を付ける事が出来る可能性はあるみたいだし。

 

「まぁいいか。でも安全は保障しないからな? 自分の身は自分で守るんだぞ?」

「はい、ありがとうございます!!」

 

こうして俺たちは式神ビッグクローの導きのまま、源蔵が向かった御屋敷へと向かうのでした。

 

―――――――――――

 

「突然の訪問、大変申し訳ありません。少々伊藤様にお力添えいただきたい事態が起こりまして」

代官所に到着し待たされること暫し、代官所奥座敷に通された源蔵は代官である伊藤源之進の前に跪き、その大きな身体を小さくしていた。

 

「おぉ、源蔵、顔を上げよ。巨漢であるお主が跪くと圧迫感がな。

してなにがあった、先触れを出してすぐにやって来るなど、源蔵にしては珍しいではないか」

「へい、少々面倒な事になりまして、伊藤様の御手を煩わす程の事ではないのですが、松ノ木峠の関所で少々騒ぎが起こるかもしれません。

伊藤様には前もってお知らせしておくことが先決と、こうして伺わせていただいた次第でして」

 

「ふむ、松ノ木峠と。源蔵、女にでも逃げられたか? 縁は異なもの味なもの、好いた男と女は身分や立場に関係なく共に手と手を取って旅立っていく。向かう先は都、多少の苦労はお互い力を合わせ乗り切ろう。

若さって奴は時に人を大胆な行動に走らせるものよ。源蔵、しつこい男はモテんぞ?」

「いえ、その、そういう訳では。それとそちらの御方は、確か扇屋の」

 

源蔵は話を誤魔化すように、同席している別の人物について言葉を向ける。

 

「おぉ、そうであった。源蔵、紹介しておこう。この者は扇屋の現在の店主で勘兵衛、先代夫婦が亡くなった事を受け後を継いだ番頭だった男よ」   

「扇屋勘兵衛でございます。“大岩の源蔵”のお噂はかねがね。今後何かとお取引いただける話もありましょう、その際はよしなに。

本日は伊藤様の御引き合わせでこうしてお顔を拝見出来ました事、誠にありがたく。このご縁、大切にいたしたく存じます」

 

そう言いニヤリと笑う扇屋勘兵衛に、同じくニヤリと笑みを返す源蔵。

そこには親愛というよりも、互いに相手をどう利用してやろうかという欲望が渦巻いているのだった。

 

「それで源蔵、本当のところなにがあった。私と源蔵の付き合いであろう、揶揄ったりせんから有り体(ありてい)に申せ」

言葉とは裏腹に顔のニヤツキの隠せない伊藤や興味深げな扇屋に不快感を持ちつつも、この場で不興を買う訳に行かない源蔵は今日起こったこれまでの事をつまびらかに語って聞かせるのだった。

 

「ほう、それでは買い取り屋で大金を手に入れたよそ者からうまく金を巻き上げようとして逆に返り討ちにあったと。まぁそれは仕方がないのではないのか? 相手はお主のところの“胴抜き”も倒す程の猛者なのであろう? ここは大人しく手を引くが正解と思うがの」

「いえ、しかし相手は少数、確りと準備を整えた上での待ち伏せであれば、数の利は覆しようがないかと。それに聞けば相手は石刀と剣鉈を使っていたとか、であれば一角の武芸者という訳でもありますまい。

確かに“胴抜きの玄才”は名の売れた侍ではありましたが政争に破れ野に下った身、失礼ながらその剣技は現役時代とは比べるべくもないかと」

 

源蔵の話に手を引く事を進めるも、扇屋の言う事も一理あると腕組みをする伊藤源之進。何が最も自身にとって利となるか、ここで源蔵に許可を出すことは容易い、だが相手は腐っても居合抜きの名人と謳われた“胴抜きの玄才”を下す程の実力者、その力を侮ってよいはずがない。

 

「伊藤様、これでも私は“大岩の源蔵”と呼ばれる男、ここで引き下がる訳にはいきません。なに、確かにあの若造は強い、だがそれだけだ。今日知り合っただけの小僧に大金を与え、あまつさえ護衛まで手配する甘ちゃんだ。

それは世間では称賛される事なんでしょうが俺から言わせれば世の中が分かっちゃいないボンボンの思考だ、何処の出の者だかは知らないが、きっちり方を付けさせていただきますよ」

 

その時の様子を思い出し大きな身体から覇気を溢れさせる源蔵、その光景に冷や汗を流す扇屋勘兵衛と面白くなって来たと口角を上げる伊藤源之進。

だがそんな彼らをあざ笑うかのように、その声は庭先から掛けられた。

 

「ほう、源蔵さんは早速自身の言葉を反故になさると。任侠道に身を置き男を売りになさる“大岩の源蔵”、蓋を開ければ我がままで自分の思い通りに行かなければ癇癪を起こす自己中心的なお子様だった。

いや~、天下の大親分が大勢の若い衆を前に交わした約束事をこうも易々と反故にしちゃ駄目でしょう。そんな事じゃ心から慕ってくれる子分なんかできないんじゃないですか?

これ、今はいいですけど年を取って力が衰えたら、簡単に親分の座から引き摺り下ろされちゃうんじゃないですか? 単に力関係で成り立っている組織は厳しいですよ~。

 

それとそちらの扇屋さん、商売の世界については詳しいかもしれませんが、あまりこっちの世界には首を突っ込まない方がいい。悪鬼織絹じゃないが一騎当千を冗談じゃなく行う者がいるのがこっちの世界です。

数の利? そんなものは似たような力の者同士での話、銀貨も十枚を超えれば大銀貨に勝てる、百枚を超えれば金貨にだって勝てるだろう。でも相手が大金貨だったら?

その点伊藤代官様は素晴らしい、清濁併せ呑む、冷静に自身の利を追求する。是非ゆっくりとお話をしたいものですな~」

 

「手前、いつからそこにいやがった!! お侍様方、侵入者です!! 庭先に怪しい男が入り込みました!!」

源蔵の大きな声が代官所に響く。代官所に務める侍がその声に急ぎ庭先に詰め掛ける。

 

「貴様、何奴!! 大人しく縛に付け!!」

“ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ”

引き抜かれた刀、本気の覇気を纏う戦人(いくさびと)たちの威圧が庭先の侵入者に向けられる。

 

「あぁ、どうもどうも、お仕事ご苦労様です。私の名は袈瓶、決して怪しい者ではないのですが、そうは言ってもこの状況、信じては貰えないですよね~。

ですのでここはひとつ話を聞いてもらえる場を作りましょう」

侵入者“袈瓶”はそう言うと、腰の剣帯に下げていた黒鞘の直刀に手を伸ばす。

“スーーーッ”

引き抜かれた刀身、それは美しく輝き、見る者の視線を惹き付ける。

 

「黒鴉、重力三倍」

“ズンッ、バタバタバタバタバタバタバタバタバタバタ”

突然その場にしゃがみ込む侍たち、その表情は困惑に染まるも、原因が目の前の男だと知り必死に剣先を向ける。

 

「お~、行き成りの事態に拘らず刀を取り落とさないのは立派立派。それじゃ今度は十倍で」

“ズンッ、ドシャドシャドシャドシャドシャドシャドシャドシャドシャドシャ”

それはとんでもない体験、まるで巨大な手で地面に押し潰されるかのように身動き一つ出来ず、意識を失わないように必死に抗う侍たち。

 

「海月、お前が御刀之守の姓を名乗るのなら知っているだろう。かつて御刀之守家で守り伝えられてきた護国の直刀、黒鴉の事を。

その刀に認められし者、真の力を振るうだろう。結局御刀之守家の者たちはその上辺の力しか発揮できず、その上辺の力を恐れた者たちの画策により、守るべき刀を失う事となった。

御刀之守織絹殿はこう言っていたよ。「私たち御刀之守家の者は朝廷政治に負け“魔剣黒鴉”を手放した愚か者。その扱いが不要の物として忌み嫌われているのならともかく、黒鴉に認められ完全に扱いきっているような方から取り上げようなどとは思いません」とね。

吸え、黒鴉」

“ブワッ”

袈瓶の言葉と共に意識を失う戦士たち、その光景に顔を青くしガタガタと身を震わせる源蔵と扇屋。

 

“シュタンッ、スパンスパン、スーーーーッ、カチンッ”

<縮地>のような速さで一瞬にして座敷に上がるや、サッと刀を振るい鞘に納めた袈瓶。吹き抜ける風、自らの死を悟り身を縮こまらせた源蔵と扇屋、だがいつまで経っても訪れない死の気配にホッと安堵した、その時であった。

 

“ボタボタ”

目の前に何かが落ちていく姿が見える、それはとても大切な、鬼人族にとっての力と誇りの象徴。

 

「「あっ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~」」

代官屋敷に響く叫び声、その声は袈瓶が「うるさい」と言って二人を魔力枯渇で黙らせるまで、止まる事なく叫び続けられるのだった。




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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