転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第7話 転生勇者、宿敵と再戦する

“ブンッ、スー、ブンッ、スー、ブンッ”

振り下ろされた刀身。腰だめに重心を置き、木刀を頭上に上げただ振り下ろす。一振り一振りに思いを込めて、只管(ひたすら)に、ただ振り下ろす。

身体が出来上がらない今は土台を造る時。焦らず、(たゆ)まず、まるで巨大な城塞を築き上げるかの様に。基礎となる力を積み上げる。

 

「えい、えい、えい」

隣ではエミリーちゃんが可愛らしい掛け声と共に木刀を振るう。

“ブンッ、ブンッ、ブンッ”

そんな愛らしさとは裏腹に力強く振るわれる木刀。

 

「・・・・」

えっ、ちょっと待とう。

俺がボビー師匠に入門した日に母親のミランダさんに連れられやって来たエミリー、修行実績は俺と大差ないし実力が同等なのは仕方がないと言われればその通り。でも考えてみよう、いくら俺の腕が六歳児のぷにぷにボディーとはいえ女の子のほっそりした可愛らしいモノとは違うのよ?

 

握られてる木刀は俺と同じ練習用の物、つまり重さも同じ、どう考えても同じ振りが出来るだなんて思わんやん。それがたったの一週間でブンブン唸りを上げるって。俺なんか剣術スキルの補正を受けてこれなのよ?何の補正もないエミリーちゃんがこんな才能を見せるなんて彼女は天才か?スキル有りきの俺とは基礎能力が・・・スキル有りき?

俺はそっと<鑑定>を使ってみる。

 

名前 エミリー・アルバート

年齢 六歳

種族 普人族

スキル

祈り 棒術 力持ち

魔法適性

 

スキル<棒術>って。確かに木刀も“棒”だけど、これって判断基準どうなってるの?

って言うか<祈り>ってあの祈りだよね。パーティー全体の回復を行ったり防御力を上げたりする奴。単体の回復力はヒールやハイヒールには及ばないけど全体に対する汎用性はこっちの方が上。状態異常にもある程度効くもんな~。

敵が強くなってくると途端ゴミスキルになるんだけどゲーム開始当初は凄くお世話になった覚えがある便利スキル、中盤くらいまでは役に立つんだよね。

それと<力持ち>ってのは知らないスキルだけど、おそらくエミリーがあの細腕で木刀を振り回す事が出来るのはこのスキルのお陰なんだろう。<棒術>との相性もよさそうだし、エミリーは将来“殴りヒーラー”になりそうだな。

 

「ジェイク君、修行って楽しいね」

そう言いニッコリ笑うエミリー。その可愛い笑顔とは裏腹に豪快に振り下ろされる木刀。

 

「う、うん。そうだね」

俺はそんなエミリーに若干引きつつ“負けられない”と更に気合を入れて修行に励むのでした。

 

「よし、そこまで。ジェイクにエミリー、お前たちが儂の所に来て一週間になるが素振りの方は慣れて来たかな?身体が痛かったり怪我をしたらすぐに言うんだぞ?

今はまだ体作りの時、無理をしたからといって強くなれる訳ではないのだからな?」

 

「「はい、分かりました。ボビー師匠!」」

ボビー師匠から見たら僕たちはまだまだ身体の出来上がっていないひよっこ、少なくとも一カ月はこの修行を続けなさいとの事。いずれは走り込みや変化を付けた振りの練習も入れて行くらしい。

“一見地味なこの訓練が後々大きく響いて来る”とは兄弟子ジミー君の言葉である。

 

「「「ありがとうございました」」」

俺たちはボビー師匠に見送られ、本日の訓練を終え帰路に就いた。

 

「ねぇ、ジェイク君。お昼食べたら何して遊ぼっか?」

ニコニコ笑顔で聞いてくるエミリー。お昼の後何をするのか、俺はこの一週間ずっと温めてきたプランを実行に移す。

 

「ジミー君、エミリー、僕、宿敵に戦いを挑みたい。この一週間の成果を奴らに、スライムにぶつけたいんだ」

そう、俺はずっと思っていた。ジミー君の一撃を見たあの日から、いつかあんな剣技を使いたいと。今はまだその足元にも及ばないかもしれないけど、何処までやれるか、宿敵(スライム)に一週間の成果(この思い)を全部。

 

「はい、はい、私も行く~。スライムさんをやっつけるんだ~」

手を上げピョンピョン跳ねながら脳筋な事を言うエミリー。

 

「そうだね、ずっと素振りばかりじゃ嫌になっちゃうかもしれないもんね」

そう言い爽やかに微笑む師匠(ジミー君)。

 

こうして俺の再戦が決まったのだった。待ってろライバル、今度こそズバンズバンのギッタンギッタンだからな!(スライムは非常に大人しい益獣です)

 

 

――――――――――――

 

俺がスライムを使ったビッグワームの肉質(臭み)改良実験を初めて一週間。

 

「これは、タンパクでありながら全体に広がる旨味、イノシン酸が染みわたる。例えるのならしっかり処理された白モツ?ワームと言う全身が筋肉で構成された生物の特性と相まって、何と言うかこう、何でここに焼き肉のたれと白飯が無いんだ~!!」

 

はっ、いかんいかん。心の声が口から零れ出てしまっていた。俺はヘンリーさんちのケビン君八歳、まだまだお子様、バレてないバレてない。

しかし危険だわ、このスライムで泥抜きしたビッグワーム肉。これまで問題になっていた臭みが一切感じられない。しかも水辺のスライムを使ったからか余計な香りも加わっていない、ビッグワーム本来の旨味が十分に引き出されている。

いや、それだけじゃない。このお肉全体に感じる瑞々しさ、食べた傍から身体に広がる心地よさ。まるでプチヒールを掛けてもらった時の様な。

 

これってビッグワームがスライムの魔力を吸収してより肉質が改善したって事?以前元冒険者のお爺さんが魔物の肉はその強さに比例して美味しくなるって言ってたけど、それって魔物肉に含まれる残存魔力が体内に吸収されるときに感じる”旨味”って事なの?

って事はこの世界には甘味・塩味・酸味・苦味・うま味、そして刺激である辛味・渋味の他に身体で感じる“魔味”ってのがあるって事かよ。この全身に満たされて行くような感覚と満足感、“旨い”って表現が一番しっくりくるんだよな。それにビッグワーム肉の本来の旨さも引き立ててる様に感じるし、魔物食材侮りがたし。

 

でもこう岩塩でもいいから振り掛けたらもっと上手くなる様な、食卓に上るかどうかは母親が食材として受け入れてくれるかどうかなんだよな~。

先ずは干し肉にして父親にプレゼンして行くしかないか~。それと村長から塩を融通して貰えないか交渉だね。保存用の干し肉にするんだったら塩は必須だからね。

 

魔力量の多い魔物の肉は基本腐りにくい。例外はゴブリン種、奴らはなぜか腐りやすい。で、魔物肉はその腐りにくさからかただ天日乾燥しただけの干し肉でも結構持つ。冒険者なんかが森に行く際に持ち歩くのはこうした日干し干し肉。一週間くらいなら問題ない。

ただ長期保存や流通にはあまり向かない、賞味期限の関係で。

ではどうするのか、しっかり塩漬けをした状態で干すと長期保存用に耐えられる様になるんですね~。

この際の溶液の作り方は各地区各家庭でまちまちみたいだけど塩は必須。ビッグワーム干し肉作りを成功させて冬場の食糧事情を改善させねば。夢が広がリングですな~。

 

これは次の実験に向けてスライム狩りをせねば。俺は午後の予定を決め、ルンルン気分でお昼を食べに家に戻るのでした。

 

 

で、お子様軍団登場と。ジェイク君を筆頭にエミリーちゃんとジミーによるスライム討伐隊。

了解了解、お兄さんは見守り係になりますね。俺は予定を水辺の薬草採取に移行します。

 

“バンッ、バンッ、バンッ”

水辺からはジェイク君とエミリーちゃんのスライムを叩く音。ジェイク君、以前は”ボスンッ、ボスンッ”って音をさせてたのに今回はしっかり力が伝わってる感じ。その証拠に激闘を繰り広げるまでもなく宿敵(スライム)を仕留めておられます。

お隣のエミリーちゃんもなかなかいい感じ、ウチの村のチビッ子はみんな強いな~。すでに俺より背の高いノットチビッ子の我が弟ジミーはそんな二人を微笑ましく見守っておられます。

 

ジミーの場合“スパンッ”だからな~。一撃で終わっちゃうから。彼の場合スライム倒すくらいなら素振りしてた方がましって感じなんだろうな~。スライム如きじゃ必要経験値が得られませんって感じなんだろうか、知らんけど。

ゲームじゃないんだしそんな事分からないっての。強さの数値化なんてカラオケの採点システムより難しいんだろう。

 

冒険者の場合はレベルではないけど等級ってのが存在します。これは代表的な魔物で表されていて、ゴブリン級から始まりマッドボア級・オーク級・オーガ級って感じに上がるそうです。(元冒険者のお爺さん情報)

冒険者の持つドッグタグ(冒険者ギルドカード)には討伐ランクと採取ランクが記載されており、依頼に応じて条件を求められるとの事。

ただしこれらは資格試験の資格みたいなもので、依頼を受ける事の出来る俗に言う“冒険者ランク”は別にあり、こっちは依頼達成率や依頼者の評価、昇格試験等で決まるとの事。

うん、ザ・実力社会。聞いただけで無理だわ~、胃に穴が開くわ~、野垂れ死にの未来しか見えないわ~。しかも危険手当とか武器防具の補償制度なんかないんだよ?常に上を目指せば自転車操業まっしぐらよ?薬草の買取価格なんて雀の涙よ?どないせいっちゅうねん。

 

ま、それは俺みたいな弱々の人間の話で、ジミーみたいに才能溢れる者ならあっと言う間にランクを上げて左団扇生活になっちゃうんだろうけどね。そんな人の才能を羨むよりも俺は地道にポーションの材料を集めるのさ。

これをミランダさんの所に持って行くと十束でポーション一本分換算で引き取ってくれるんですね~。

ミランダさんは作ったポーションを瓶詰めして村長の所に卸し、それを村長が行商人に売るって言うサイクル。

何と村長、時間遅延のマジックバック所持者なんですね~。しかもかなりの容量、なんで村長の所は村の雑貨屋の役割もしております。

 

村での換金アイテムは村長の所へ、必要な物は村長の所から。村のお金は村長宅と村人の間で行ったり来たり。そこで私考えました、“先に欲しい物を頼んでおいて村長の所でお金をプールしておいて貰えば現金がなくても問題なくね?”と。互いに記録だけ残しておけばいいんだしね、何だったら木札でもいい訳だし。

村長にそれとなく提案したところ、村長悪そうな顔をして快諾。現在村通貨(木札)が流通しております。現金は何かと入用だからね~。(お役人への賄賂とか商人への支払いとか)ウチの村長やり手です。

 

お、ここは先週スライムを撒いた場所、やたら薬草の生育が良くないですか?水辺から少し離れていた為かスライムの食害も少なかったようですくすく生育なさって。生育なさって?

スライムのこま切れを撒く⇒地面に吸収される⇒薬草が良く伸びる

これって大発見じゃね?この辺で薬草が多いのもスライムのお陰だったとか?

 

「えい、えい、えい」

愛らしい掛け声と共に木刀を振り下ろすエミリーちゃん。

“バンッ、バンッ、バンッ”

その声とは裏腹にスライムに激しく打ち付けられる木刀。

“バンッ、バンッ、バンッ”

そんなエミリーちゃんに負けじと木刀を振り下ろすジェイク君。

 

「・・・・・!」

お二人さん、スライムの供給、よろしくお願いします。

今後の実験材料確保に目処が立ち、悪い笑みを浮かべるケビン君なのでありました。




本日一話目です。
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