転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第704話 転生勇者、故郷に帰る (3)

“ガシャガシャガシャガシャ、ガチャッ”

「よし、全員馬から降りろ、ここで一旦休憩とする」

 

王都学園の冬期休暇に入り、学園正門前でマルセル村からの迎えであるグルゴさんギースさんと合流した僕たちマルセル村若者軍団。高貴なる方々からの予期せぬ申し出(強制力を持ったお願い)により同行者が六名追加されたものの、そこは辺境ホーンラビット伯爵家騎士団に所属するお二方、そんな俺たちの無茶振りも快く(若干引き攣りながら)受け止めてくださいました。

で、隊列を作り正門前から移動、ホーンラビット伯爵領に向かう為王都北街門を目指し移動すると思ったんですけどね。

 

「グルゴさん、ここって商人街ですよね」

「あぁ、ワイルドウッド男爵家王都屋敷だな」

 

よく手入れの行き届いた緑の庭園、冬に咲く花々が蕾を膨らませ、これからの季節に彩を添えようとしている。レトロな外観にもかかわらず新築のように美しい建物、ここだけ王都の時の流れから切り離されているのかと錯覚してしまうようなそんな場所。

 

「いらっしゃいませ、グルゴ・ナイト男爵様、ギース・ブレイド男爵様。

ジミー様、エミリー様、ジェイク様、フィリー様、ディア様、皆様よくぞおいで下さいました。

本日より王都学園は冬期休暇に入られたとか、どうぞゆるりとおくつろぎください」

挨拶と共に慇懃に礼をする屋敷執事のジェームスさん。

 

「ジェームスさん、今朝振りですね。突然伺ってしまい申し訳ない、少々問題が発生しまして。伊織さんに話があるんだがいいだろうか」

「はい、伊織は屋敷内におります。何はともあれ皆様、一度屋敷の中へどうぞ、庭先で立ち話もなんでしょうから」

そう言い笑顔で俺たちを屋敷へと案内してくれるジェームスさん。

 

「ねぇジェイク君、これっていつものアレだよね」

「多分ね、この流れってアレ以外にあり得ないでしょう」

俺とエミリーの会話に、ジミーたちも頷きで同意を示す。王都に来てから何度も経験したお約束、壁に耳あり廊下にエミリー、トラブルの影にケビンお兄ちゃんあり。

 

“ガチャリ”

開かれた玄関扉、その向こうには毎度おなじみの・・・。

 

「ジェームス、お客様ですか? あら、あなた達はいつかのフレアリーズの後輩の子達じゃない。お久し振りですね、その後あの子は元気にしているかしら?」

 

「「「「「はぁ~!? アーメリア様!? アーメリア様が何でここに」」」」」

想像の斜め上、王都三大禁足地アーメリア別邸の主アーメリア様の登場に、驚きに目を見開く俺たち。

 

「フフフ、(わたくし)も色々あったのですよ。今はこちらの屋敷に世話になっています。

ワイルドウッド男爵家王都屋敷代官の仕事の傍ら王都のあちらこちらを回ったりして、日々楽しく過ごしているのですよ」

そう言い楽し気に微笑まれるアーメリア様、その御姿はアーメリア別邸で出会った時のようなどこか張り詰めた雰囲気はなくとても自然で朗らかなもの。

 

「ジミー、俺、まだまだケビンお兄ちゃんを嘗めていたみたい」

「いや、これは流石に無理だろう、どれだけ発想を飛躍させてもこの展開は読めないって」

予期せぬ再会に喜ぶエミリーたちを尻目に、ケビンお兄ちゃんの理不尽振りを改めて再認識させられる。

 

「ねぇジミー、あちらの御方はどなたなのかしら? どこか高貴な雰囲気を纏っていると言うか、とても普通の身分の御方には見えないのですけれど」

後ろから掛けられた声に振り返れば、困惑した顔のラビアナ様とラグラ、コリアンダさんとラグラの従者さんも戸惑っておられます。

 

「あぁ、ラビアナはこの屋敷が王都三大禁足地の一つ“商人街の悪夢”と呼ばれている事は知っているよな、その悪夢が未だ去っていない事も。

王都の禁足地は後二つ、初代国王陛下が眠るバルセリア霊廟と悲劇の王妃の伝説が残るアーメリア別邸。

俺たちはフレアリーズ第五王女殿下の誘いでアルジミールたちと共にそのアーメリア別邸を訪れたことがあったんだ。あちらのご婦人はそのアーメリア別邸で知り合った御方だな、フレアリーズ第五王女殿下は親しみを込めて“アーリー様”と呼んでいたな」

 

ジミーの言葉に怪訝な顔をするラビアナ様、だがすぐに何かに気が付いたようで顔を引き攣らせながら口を開く。

 

「それでなぜその“アーリー様”がこちらの御屋敷に? と言うかこれって大丈夫ですの?」

「さぁ、どうなんだろうな。さっきアーリー様が言っていたんだが、現在アーリー様はここワイルドウッド男爵家王都屋敷で代官の仕事をしているらしい。どうやらケビンお兄ちゃんが雇ったみたいだな。

まぁ気にするな、よくある事だ」

 

そう言い肩を竦めるジミーと両方のこめかみに中指を当ててグリグリ揉むラビアナ様、ラグラは話について行けていないようで、俺に視線を送ってきます。

 

「あ~、ラグラは何でこの屋敷が王都三大禁足地の一つに数えられているか知っているか?」

「あぁ、昔この屋敷に住んでいた商家の者が何者かに襲われ、以来怪奇現象が絶えないとか。高位冒険者や教会関係者の悉くが解決に失敗したと聞いている」

 

「そうだな。で、その怪奇現象の一つ、彷徨い出る怨霊があそこでお茶の準備をしている執事のジェームスさんとメイドの伊織さんだね。

俺は体験した事がないけど、この家の持ち主であるケビンお兄ちゃん曰く、結構おっかないらしいよ?

で、あちらのアーリー様はアーメリア別邸で長年屋敷の管理の仕事をされていた御方だね。ここから先は王家や教会に関わる話になるからいえないけど、物凄い御方だから怒らせない方がいいよ、うん」

 

俺の言葉に目を白黒させるラグラ。でもラグラ、これは入り口だ、この程度の事で躓いているようじゃマルセル村じゃ持たないぞ?

そう言えばシルビア師匠とイザベル師匠は元気かな~。お化けには病気もなんにもないから元気だとは思うけど、もう死んでるしね。

 

「皆様、お茶の準備が出来ましたのでどうぞこちらへ。グルゴ男爵様、ご主人様との連絡が取れました、直ぐにこちらに向かうとの事ですので今しばらくお待ちください。ご到着になられましたらお知らせさせていただきます」

そう言い一礼をするメイドの伊織さん、出されたお茶はマルセル茶、お茶うけに小皿に載せた五平餅が並べられ・・・はぁ!? 五平餅?

 

「あの、伊織さん、このお茶うけって・・・」

「はい、こちらは扶桑国に伝わる“味噌焼き”という料理になります。ご主人様にレシピを教わりまして作らせて頂きました。お口に合うと宜しいのですが」

 

そう言いどうぞお召し上がりくださいと勧めてくる伊織さん、俺は戸惑いを隠せないまま一口。炊いたご飯を潰して粘りが出たものを平たい棒に張り付け、周りに味噌ダレを塗り付けて焼いたもの。

 

「おいしい、モチモチした変わった食感だけど、周りの焦げた甘辛いソースと相まって、独特の風味を醸し出してる。エミリーは好きかも、ジェイク君はどう思うってどうしたのジェイク君、何か涙が出てるよ? それにラビアナお嬢様も、二人とも一体・・・」

 

・・・駄目だ、涙が止まらない。これは反則だろう、こんな行き成り、心構えなんかまったく出来てない状態で前世の料理を出されたら誰だって感傷的になるっての。

旨い、旨いよ、味噌が、醤油が、甘みは何で出してるのか分からないけど、目茶苦茶旨いよ。

 

“カチャッ”

追加で差し出されたのは味噌焼きがいくつも盛られた平皿。

「まだたくさんございますから、ごゆっくりお召し上がりください」

伊織さんの優しげな声が心に染みる。俺はコクコクと頷きながら、心行くまで味噌焼きを味わうのだった。

 

「ごめん、エミリー、何か恥ずかしいところを見せちゃって」

平皿一杯の味噌焼きを満足行くまで堪能した俺は、何か温かい眼差しを向けられている事に恥ずかしさを覚えつつ、エミリーに謝罪の言葉を向ける。

 

「ううん、別にいいんだよ? ジェイク君が泣いちゃうくらい美味しいって思ってくれたんなら、調理した伊織さんも作った甲斐があったと思うしね。

それにジェイク君だけじゃなくてラビアナ様も泣きながら召し上がっていたし、この味噌焼きには魂を揺さぶる何かがあるんだと思うよ、きっと」

そう言いスッと湯呑を勧めるエミリー。俺は熱くなった顔を誤魔化すように湯呑を口に運ぶ。あ~、マルセル茶が旨い。

 

「伊織さん、この味噌焼きはどうやって作るんですか? ジェイク君がここまで喜ぶ料理のレシピは是非憶えておきたくて」

そう言い拳に力を入れるエミリー。いや、本当、勘弁して。これってあまりに懐かしくてつい泣いちゃっただけだから、ちょっとしたホームシック症状だから、異国の地で故郷の食べ物を振る舞って貰って感極まったって言うか、二度と味わえないと思っていたものを不意に口にしたって言うか。

改めて言われるとスゲー恥ずかしいから。

 

「はい、作り方はそれほど難しくはないのですが、原材料となる米・味噌・たまり醤油・甘木汁が王都では入手困難であるかと。後程御主人様にお伝えしておきますので、マルセル村に向かわれましたらお譲りいただければと存じます。

先ずは米を炊くというところからなんですが」

「あの、お話し中のところすみません。ケビンおにいちゃんは米を持ってるんですか? それに味噌やたまり醤油も」

 

思わず伊織さんの話を遮ってしまったけど、こっちはそれどころじゃない。ケビンお兄ちゃんが米を持っている? それも人に譲れるほどに?

 

「はい、何でも以前エルフの里を訪れた際に扶桑国から輸入された米・味噌・たまり醤油を購入されたそうなんですが全て使い切ってしまったそうで、我慢しきれず直接扶桑国に買い付けに行ったとか。マルセル村全体で三食食べ続けても数年は持つ量を購入してきたとか仰っておられました」

「あぁ、どこかで食べた事があると思ったら、これはあれか、味噌焼きおにぎりと同じ材料だったのか。米料理というものは調理法と味付けの違いで随分と印象が変わるものなんだな」

 

そう言いしみじみと味噌焼きの串を眺めるジミー。

・・・ジミーーーーーーーー!! 味噌焼きおにぎりを食べたことがあるって、食べたことがあるって~~~~~!!

 

「ん? どうしたジェイク、そんな血の涙を流しそうな顔をして。それにラビアナも、何か怖いぞ?

味噌焼きおにぎりってのは、米料理の一つだな。米を炊くという調理法で柔らかくし、三角の形に形成してから表面に味噌という調味料を塗り、炭火で炙り焼きにしたものだな。

香ばしさと味噌の深い味わいが絶妙に絡まった趣のある料理だったぞ?」

「「ダ~~~~、涎が止まらんわ(止まりませんわ)、ジミーの鬼~~~~!!」」

 

「ん? それは鬼人族の国である扶桑国と掛けてるのか? なかなかうまい事を言うな」

そう言い爽やかに笑うジミーにそこはかとない怒りが、ダーーー、羨ましい!!

 

「皆様、お待たせいたしました、ご主人様が到着いたします。準備が出来次第ホーンラビット伯爵領に向け出発するそうですので、玄関前でお待ちいただけますようお願いいたします」

伊織さんの言葉に立ち上がるグルゴさんとギースさん。俺たちも席を立ちあとに従います。

 

「すみませんグルゴさん、ちょっとお聞きしたいんですけど、伊織さんはどうやってケビンお兄ちゃんと連絡を? さっきもずっと俺たちの傍で世話を焼いてくれていたし、何か魔道具のようなもので連絡を取っているようには見えなかったんですけど」

俺からの質問に何を言ってるんだといった表情を向けるグルゴさん。

 

「・・・あぁ、そういう事か。ジェイクはケビンが大福やグラスウルフたちと遠方からでもスキルでやり取りができる事は知ってるだろう?」

「はい、確かケビンお兄ちゃんがテイムスキル<魔物の雇用主>の内包スキルの一つ、<業務連絡>で連絡を取り合ってるって言っていました」

 

「だからそれだよ。ジェイク、伊織さんは何者だ?」

「・・・あっ」

 

あまりに自然に屋敷の使用人をしているから忘れそうになりますが、ワイルドウッド男爵家王都屋敷の使用人は全員人じゃありませんでした。

グルゴさんは「そういう事だ」と呟いて俺の肩をポンと叩くと、玄関に向け歩いて行くのでした。

 

屋敷の玄関前、横一列に並ぶワイルドウッド男爵家王都屋敷の使用人四名とその周りに散らばる俺たち。

 

「ねぇジミー、貴方のお兄様がいらっしゃるというお話だけど、庭先の馬車はどけなくていいのかしら?それに鉄柵門も閉まったままですけれども」

ラビアナ様の心配はもっともなもの、普通急な呼び出しでどこかからかやってくると聞かされたら馬車を想像しますよね、それも王都かその近郊にいた人間が呼び出されたと。

 

「まぁ見ていろ、直ぐに分かる。来たか」

ジミーはそう言い人差し指を上に向ける。その動きに釣られ空を見上げるラビアナ様。見上げた先には雲一つない高く澄み渡った青空、そこに極小さな黒い点が一つ。

“シューーーーーーシュン、ブワッ”

吹き抜ける風、まるで何事もなかったかのように庭園の中央に降り立つ一人の人物。

 

「エミリーお嬢様、大変お待たせしました。ラビアナ嬢、ラグラ殿、お待たせいたしましたこと、深く謝罪いたします。

私の名はケビン・ワイルドウッド男爵、ホーンラビット伯爵家騎士団所属騎士にしてワイルドウッド男爵家王都屋敷の主人でございます」

胸に手を当て騎士の礼をするケビンお兄ちゃん。その芝居掛かった意外過ぎる登場に、口を半開きにして固まるラビアナ様とラグラなのでありました。(合掌)




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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