転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第707話 辺境の若者たち、故郷の家に帰る

「あ~、ありゃ駄目かもな~。このあと少し待ってみて誰も出てこなかったら今日は解散って事で。皆もそれぞれの家に帰って王都での様子を話してあげたいだろうしね。

そうだ、ウチの子見に来る? アルバって名前なんだけど、結構元気な男の子でさ、我が家の人気者なんだよね」

 

王都学園が冬季休暇に入りマルセル村に戻る事になったマルセル村の若者たちは、伯爵家令息のラグラ・公爵家令嬢のラビアナという不意の同行者が加わる事で、急遽ケビン影魔法空間と短時間飛行移動による移送により、半日と掛からず懐かしの故郷マルセル村へと帰郷する事となった。

だがその移動方法やワイルドウッド男爵家王都屋敷での出来事は高貴なる王都貴族のラグラとラビアナには少々刺激が強く、宿泊宿である健康広場前の旧ホーンラビット伯爵家仮本邸に辿り着いた時には、ラグラとラビアナ、そして彼らの従者や御者の者はフラフラといった足取りになっていたのであった。

 

「ケビンさん、ちょっといいですか。さっきのお客さんたちですけど」

「あぁ、ミリアさん、何かすみません、突然たくさんのお客さんを連れて来ちゃって。一応ホーンラビット伯爵家の客人という扱いになりますんで、面倒の方お願いします」

 

ケビンは声を掛けてきた初老の女性に言葉を返す。エミリーとジェイクはその見覚えのある顔に驚きの声を上げる。

 

「えっ、ミリアさんですよね、以前レンドールの別荘でお世話になった。マルセル村に来ていたんですか? 全然知りませんでした」

「これはこれはエミリーお嬢様、それにジェイク様、フィリー様、ディア様も二年ぶりでございます。皆様のお元気そうなお姿を拝見でき、このミリア感激で胸が一杯でございます」

 

そう言い深々と礼をするミリア。

 

「あぁ、エミリーちゃん達には言ってなかったね。レンドールの別荘は引き払う事になったんだよ。

中々訪ねる事が出来なくなったって理由もあるんだけど、ホーンラビット伯爵家の人間が増えたっていうのが一番の理由でね、調理人のグリルさんの手が必要になってお願いしてマルセル村に移り住んでもらう事になったんだ。

調理助手には帰村組のランサーさんに付いてもらってね、ランサーさんは領都で調理の仕事をしていた経験があるとの事で、グリルさんに仕込まれながら頑張ってるって感じかな?

それでここの宿はミリアさんに切り盛りして貰って、従業員としてやっぱり帰村して来たベッキーさんとジェシーさん、ベッキーさんの旦那さんに働いてもらっているんだよ。

レンドールの別荘はマルセル村に移築して、高貴な身分の方々がいらした際にご使用いただく別邸として使う事になっているんだ」

 

ケビンの言葉にへ~と納得顔になる若者たち。人材不足はホーンラビット伯爵家の重要な課題、グリルのような優秀な調理人を別荘地で遊ばせておくなど勿体無いという事なのだろう。

 

「えっ、それじゃ今夜はグリルさんの美味しいお料理を食べれるの? やった~♪」

顔をほころばせ喜ぶエミリーに、ミリアは嬉し気に微笑みを向ける。

 

「あぁ、話の腰を折ってすみません。それでお客さんたちがどうかしたんですか?」

「あっ、はい。どうも皆様大変お疲れだったようで、お部屋に入られてすぐにお休みになられてしまいましたのでお知らせに。王都からいらしたとのお話ですので旅の疲れが出たのでしょうが、起こしてきた方がよろしかったでしょうか?」

 

ミリアの言葉に「あぁ、うん、これは仕方がないよね」と頷きを示す一同。

 

「いえ、お疲れのようですのでそのままで。夕食は食べられるでしょうからその時にでも起こしてあげてください。

その際後日ホーンラビット伯爵家本邸で食事会を行いますので後程ご連絡申し上げるとお伝え願えればと。まぁ身体を休めるにはゆっくり寝るに限りますから」

ケビンの言葉に「そうですね、分かりました」と応え宿に戻るミリア。

 

「そういう事になったんだけど、俺の息子を見に行く人、挙手!」

“““““バッ”””””

 

「はい、全員参加という事で。それじゃその前に馬をホーンラビット牧場の厩舎に移すから馬車から外すのを手伝って~」

若者たちはテキパキと作業を行い準備を済ませると、ケビンと共にワイルドウッド男爵邸、通称ケビンの実験農場へと向かうのでした。

 

「ただいま~」

そこは既に作物の収穫が終わり来年の作付けまでの休息に入った整備された畑の広がる場所、そんな広大な畑の脇に建つ不似合いなほど立派な二階建ての建物がワイルドウッド男爵邸であった。

 

「そう言えばケビンお兄ちゃんって向こうの小屋の方を本邸とか言ってケイトさんやアナさんと一緒に住んでるって話だったけど、その後どうしたの?」

屋敷が近付いたところでジミーがふと気になっていた事を口にする。

 

「あぁ、流石に隣の屋敷の方に移ったよ。子供が生まれたっていうのにいつまでも小屋暮らしって言うのはな、正直狭いし。俺としては自分で建てた小屋だし愛着はあるんだけど、これからアナスタシアとケイトの出産が控えてるだろう? いい加減ちゃんとしないとなって思ってさ」

「「「「「えーーーっ、アナスタシアさんとケイトさんも子供が生まれるの!?」」」」」

何でもないように語られたケビンの告白に、驚きの声を上げる若者たち。

 

「うん、アナスタシアはいつ生まれてもおかしくないかな? 今はホーンラビット伯爵家本邸で出産のための準備中。ケイトは予定日の一月前くらいになったらお世話になる予定です。

エミリーお嬢様におかれましてはご迷惑をお掛け致しますが何卒よろしくお願いいたします。

って言うかいい加減診療施設を作った方がいいよね、マルセル村の場合主に産院って事になりそうだけど。いくらホーンラビット伯爵領にとって子供は宝って言っても、伯爵家の御屋敷を出産のための施設にしているって、そんな貴族ホーンラビット伯爵家だけだと思うよ?」

 

ケビンの言葉に手を振りながら「気にしないで」と言葉を返すエミリー。

実際母であるミランダ夫人は優秀な調薬師であり、エミリーとしてはホーンラビット伯爵邸が医療機関の役割を果たす事はマルセル村に於いて必要な事であると思っていたからであった。

 

「えっ、でもそれじゃケビンお兄ちゃんって三人の子供のお父さんって事になるの? スゲ~」

ジェイクからの称賛の声に、「ハハハハ、まぁこれから頑張らないといけないんだけどね」と答えるケビン。

だが二人は知らない、ジェイクの言葉のあとにエミリーが獲物を狙う狩人のような瞳をジェイクに向けていた事を。

 

““クワックワ~、ギャウギャウ””

「緑、黄色、ただいま~」

 

ズルズルと地面を這って現れた者、それは畑の守護獣緑と黄色。

 

「ケビンお兄ちゃん、緑と黄色、大分大きくなってない? それに肌艶がいいと言うか、鱗の輝きが違うと言うか」

「あぁ、最近良い餌食べてるからな~、多分その影響かな? でもあまり大きくなるようだと畑仕事にも影響が出るし、太郎に言って縮小化の魔法を覚えさせておくわ。

キャロルとマッシュも少し変わってきちゃってるからな~、やっぱり魔物って餌で変わるんだよ、餌で」

 

““キュワッキュワッキュワ””

噂をすれば影、キャロルとマッシュは作業着の白いシャツにオーバーオールという出で立ちで、輝く白い髪を靡かせながら若者たちの前に姿を現すのだった。

 

“ドスッ”

不意打ちの一撃、顔付きは伝承に謳われるドラゴンのようであるにもかかわらずなぜか人目を引くキャロルとマッシュに見とれていたジェイクは、“これは致し方がない事でして”と言い訳がましい事を考えつつ膝を突く。

 

「エミリー今回は仕方がない、勘弁してやってくれ。美しい体毛を持ったフェンリルに見とれるのと同様に、これ程の容姿を持ったドラゴニュートなら男女を問わず目を引かれるものだ。

ケビンお兄ちゃんの言葉にあったように、特別な餌が作用した結果という事なんだろう」

「え~、でもジェイク君、キャロルちゃんとマッシュちゃんの胸ばっかり見てたんだよ? 有罪だよ有罪」

女性は男性の視線に敏感である、それが愛する者であれば尚の事。

色即是空空即是色、煩悩退散!!

ジェイクは己の未熟を恥じ、より繊細なメンタルコントロールを身に付けようと固く心に誓うのであった。

 

「お帰りなさいケビン、今日はアナスタシアについていてあげるって言ってなかった? もう帰ってきちゃって大丈夫なの?」

屋敷に着いてすぐ、声を掛けてきたのはケビンの妻パトリシアであった。

 

「パトリシアお姉ちゃんお久し振りです。無事なご出産、おめでとうございます!!」

そう言いパトリシアに抱き付くエミリー。パトリシアは不意の義妹の登場に驚くも、笑顔でエミリーを抱きとめる。

 

「エミリーちゃん、どうしたの? そうか、今日から王都学園は冬期休暇だったわね。でも馬車で一月掛けて帰ってくるって聞いていたんだけど。

それはそうとお祝いの言葉をありがとう、アルバもエミリーに会えるとなったら喜ぶわ。

誰か、新月、丁度いいところに。月白に言ってアルバを連れてきてもらえる? エミリーとジミー君が遊びに来てくれたの」

 

パトリシアの言葉に一礼をしその場を下がる使用人の新月。パトリシアは「玄関先では何だから」と言って、エミリーたちを広間へと案内するのだった。

 

「へ~、エミリーちゃんのお友達たちが一緒にマルセル村に同行したと。でも公爵家のお嬢様がね~、まぁ私も以前急に多くのお見合い話が浮上してレンドールの別荘に逃げた事があるから人の事は言えないけど、高位貴族は高位貴族なりに色々と付き合いがあって大変なのよね」

パトリシアはエミリーたちから話を聞き懐かしそうに眉を下げる。王都学園はパトリシアにとっての青春、楽しい事、大変だったこと。学園生徒だった頃の思い出は良いにつけ悪いにつけ、生涯心に残る青春の一幕。

 

「懐かしいな~、あの時はシリアル湖で魔力操作の訓練とか空を走る訓練とかして。そう言えば最近ケルちゃんを思いっきり水辺で走らせてあげれてないな~。たまに王都傍の草原で走らせることは出来るんだけどそれだけで、川は門兵さんからやめて欲しいといわれちゃって」

そう言いどこか寂しそうな申し訳なさそうな表情になるエミリー。

 

「そうね、流石に王都で魔物の飼育を行う事は難しいかもしれないわね。この辺の水辺といったら大福の棲む村外れの水辺しかないし、ケルピーが走れるほど広くはないのよね。

その辺は後でケビンともよく相談してみるわ、どうにか出来るとは断言出来ないけど、何が一番ケルちゃんにとっていい事なのか考える事は出来ると思うの」

義姉の優しい言葉に嬉しくなるエミリー。

“お義姉ちゃんがいてくれて本当によかった。お義姉ちゃん大好き!!”

エミリーはパトリシアと姉妹になれた事を、心の底から感謝するのだった。

 

“コンコンコン”

「失礼いたします。アルバ様をお連れしました」

“カチャリッ”

扉を開き入室して来た者、それは白雪のような髪をした美しいメイド。その両手に大きな赤子を大切に抱え、愛おしそうにあやしながらパトリシアの前に歩を進める。

 

「月白、どうもありがとう。エミリーちゃん、この子が長男のアルバよ。凄く頭のいい子でね、おむつが汚れるとすぐに自分から教えてくれるの。

夜泣きも少ないし、本当にお母さん思いで助かってるわ。

ほら、エミリーちゃんも抱っこしてあげて」

パトリシアに勧められ月白からアルバを受け取るエミリー。アルバはよく分からないようなキョトンとした顔をエミリーに向けるも、直ぐ笑顔になってアウアウと話し掛ける。

 

「「「かわいい~♪」」」

エミリー、フィリー、ディアの視線が、アウアウと手を振るアルバに注がれる。

 

“コンコンコン”

「失礼します。旦那様、お呼びとの事でまいりました」

「あぁ、二人とも入って来てくれ」

“カチャリッ”

開かれた扉、入室して来た者は二名のメイド。若者たちはその内の一人に目を奪われる。

頭部にピンと伸びる三角耳、腰のあたりには激しく横に揺れる大きな尻尾。

 

「「「「えっ、ケモ耳尻尾のメイドさん!? ケビンお兄ちゃん、メイドさんに趣味を押し付けるって、それって人としてどうなの?」」」」

「違うから、クルンの耳と尻尾は自前だから!! って言うかジミーお前の知り合いって聞いてるんだけど?

なんかこの二人、お前に会うために本年度の魔都総合武術大会で決勝戦に勝ち上がったんだと。優勝がクルンで準優勝がラビアンヌだったか、秋の収穫祭の時にやってきてな、父ヘンリーとボビー師匠が手合わせしたんだが、二人ともすごく褒めてたぞ。

男女の事は正直俺には分からんが、そこまでして訪ねてきた二人を無碍に追い返す訳にもいかなくてな、ワイルドウッド男爵家の使用人見習いという事にしてお前が帰ってくるのを待ってもらっていたんだ。

ヘンリーお父さんもメアリーお母さんもお前がどういった判断を下そうがその件に関しては何も言わないそうだ、これは俺たちがとやかく言うべき話じゃないからな。

ジミーにとっては迷惑な話かもしれないがお前は女性を引き付けて止まない魅力がある、その事はお前も自覚しているだろう? 更に言えばお前は強い、暗黒大陸の女性たちが夢中になってやまない程の強さを見せ付けてしまった。その中でもこの二人は直接的にかかわってしまった、要するに虜になってしまったって奴だ。

話し合うなり拳を合わせるなりはお前次第、その為の協力はしよう。

冬季休暇は長いんだ、ゆっくり考えるんだな」

 

ケビンの言葉が静かな室内に響く。再びの出会いを果たした男と女たち、そんな三人の様子を静かに見つめる二人の女。

若者たちがマルセル村で過ごす冬季休暇期間は、静かな嵐の予感に包まれようとしているのだった。

 




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