転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第708話 辺境の若者たち、故郷の家に帰る (2)

「クルン、ラビアンヌ、久し振りだな」

静かな室内にジミーの声が響く。

 

「ジミー、何か雰囲気が変わったようだが、その内に秘めた静かな闘気。中央大陸に帰ってもジミーがジミーのままであって良かった」

クルンはジミーをじっと見詰め、静かに微笑む。

 

「ジミー、ようやく捕まえましたわ。私たちにあれだけの恩を与えておいてよくも何も言わずに逃げてくれましたね。

お父様からの伝言です、「孫は三人は欲しい」との事です。もう逃がしませんからね」

ラビアンヌは花の咲いたような笑顔で、言葉を向ける。

 

ジミーはそんな二人を交互に見やりニヤリと笑みを深める。

 

「二人共、本当に強くなったな。こうして傍にいれば分かる、魔都総合武術大会の決勝に残った事は決してまぐれなどではないという事が。

そうか、俺に会いに来てくれたのか・・・」

“ブワッ”

高まるプレッシャー、戦いに対する熱い思いが闘気とも呼ぶべき気配となって部屋の中を“スパーーーーーン”

“#$%&&~~~~~~~!!”

 

「阿呆か~~~~!! 帰村そうそう暴れようとするんじゃない!!

フィリーちゃん、この馬鹿王都学園でもこんなことしてるんじゃないよね? 高位のお貴族様を捕まえてボコボコにしたりしてないよね? 大丈夫だよね?」

「昔は素直ないい子だったのに、いつからこんな戦闘狂蛮族になっちゃったんだか」と頭を抱えるケビンに、「「「「いやいやいや、それはケビンお兄ちゃんやヘンリー師匠やボビー師匠のせいですから!!」」」」とツッコミを入れる一同。

 

「イッタ~、何するんだよケビンお兄ちゃん。折角魔都総合武術大会の優勝者と準優勝者の二人が俺の事を訪ねてきてくれたんだよ? 剣と拳を交わすのは礼儀「だ~か~ら~、違うでしょうが。ジミーの余りの天然振りに気配を消して様子を窺っていた十六夜が膝を突いて項垂れちゃったから、うちのアルバ君が“えっ、ジミー叔父さん、それってマジ!?”って顔しちゃってるから、お目目見開いちゃってるからね?」・・・」

 

ケビンの言葉にウンウンと頷く室内の者たち、ジミーはそんな周りの反応を見ながら困ったように片手で頭を掻く。

 

「そうは言ってもさ、実際よく分からないんだから仕方がないんだよ。

俺だって分かるよ? クルンは昔から俺との子供が欲しいって言い続けてたし、二人がこうして中央大陸にまで来てくれたって事はただ俺に会いたかったってだけじゃないって事ぐらいは。

でもさ、俺って生活基盤も何もないただの十三歳の学園生徒なんだよ? 代々続くお貴族様の家庭とかだったら婚約による家同士の繋がりだのって事があるかもしれないけど、ウチにそんなの一切ないじゃん。基本農家だし。

ケビンお兄ちゃんは俺ぐらいの歳には既にしっかり稼いで家まで持ってたじゃん、剣術馬鹿の俺とは状況が違うじゃん」

そう言い腰に手を当て頬をぷくりと膨らませるジミー、そんなジミーの態度にフィリーとディアが黄色い声を上げる。

 

「グッ、ジミーの奴、先にこっちの言葉を潰しに来やがって。しかも子供口調、フィリーちゃんたちも“ジミー君可愛い~”とか言ってるんじゃありません。

この二人が真剣だって事はマルセル村の者みんなが知ってる事なんだからな? フィリーちゃんとディアさんのことも含めてちゃんと話し合いなさい、ちゃんと。

後ラビアナお嬢様は流石に関係ないよね? ジェイク君とエミリーちゃん、何でそこで顔を逸らすのかな? 相手はバルーセン公爵家の公爵令嬢様だよね?」

「ケビンお兄ちゃん、気にし過ぎだって。王都学園には学園ダンジョンと呼ばれるものがあって、ラビアナとは学園ダンジョン攻略パーティーを組んでいるいわばパーティー仲間だから。今回だって王都のゴタゴタが嫌になって逃げだしてきたってだけなんだからさ」

 

そう言い肩を竦めるジミー、そんなジミーにジト目を向けるマルセル村若者軍団の面々。

 

「あっ、そういう事ね、了解。クルン、ラビアンヌ、一名追加で。あとうちの弟が残念な奴でごめん、フィリーちゃんとディアさんには苦労をお掛けして申し訳ない。

クルンとラビアンヌがそれぞれ真剣な思いで中央大陸にやって来たって事は、二人の面倒を見てきたワイルドウッド男爵家の者はみんな知っているし、このお馬鹿がどんな結論を出そうが我が家の者が二人を邪険にすることはないから。

ただね、今のジミーはヤバいのよ。暗黒大陸でジミーが“サキュバスを視線で孕ませる男”って呼ばれてた事は二人も知ってると思うけど、今のジミーはその数倍はヤバいのよ。

ジミー、ちょっと髪留め外してみてくれる?」

 

ケビンの言葉に髪を後ろで縛っていた組み紐を解くジミー、すると途端存在感が強くなるジミーに目を見開くクルンとラビアンヌ。

ジミーはメガネのフレームに両の手を掛けスッと取り外すと、折り畳んでからポケットに仕舞い、右手で髪を掻き揚げてから大きく息を漏らす。

 

「フゥ~~、やはりメガネがない方が視界に余計なものが映らなくてスッキリするな。しかし大分髪も伸びたな、折角だし後でメアリーお母さんに切ってもらうか? でもそうなると地味装備が一つ減る事になるのか、その辺どうしよう。

クルン、ラビアンヌ、どう思う?」

 

向けられた視線、ただ見られている、それだけで胸の高鳴りが止まらない。

 

「「あっ、うん。いいと思う♡」」

「はい、終了~。ジミー、やっぱり装備外すと危ないわ、少なくとも髪留めはしておけ。短く切り揃えたかったら組み紐を首から掛けてネックレスにしておけばいいから。

それとラビアナ様に眼鏡なしジミーを見せるのは暫くなしで。ただでさえ精神的負担が大きい状態でジミーの素顔を見たらどんな精神障害に陥るのか分からないから、お前だって昼夜問わず付きまとわれるのは嫌だろう?」

 

ケビンの言葉に慌てて眼鏡を掛け、髪を結ぶジミー。その脳裏には兄ケビンに“売約済みの呪い”を発動した義姉アナスタシアの姿が映る。

「あの二人は放置したらどれだけ症状を悪化させるか分からないから」

乾いた笑いと共に兄ケビンが語った言葉が耳の奥に木霊する。束縛系執着女、駄目、絶対なのである。

 

「ジミー君、焦らなくてもいいからじっくり考えて。今はまだ恋愛や結婚といった事はよく分からないだろうけど、彼女達が真剣だっていう事は伝わったと思うの。あまり頼りにはならないかもしれないけど、ケビンに相談するのも一つの手よ? こう見えて私が選んだ旦那様なんですから」

そう言いにこやかに微笑むパトリシアの笑顔は、今がとても幸せだという事を物語る。

 

「分かりました、パトリシアお義姉さん。クルン、ラビアンヌ、悪いが今すぐどうのという事は言えないし言わない。俺はまったく何も考えていなかった、だから二人の事も真剣に考えてみる事にする。

二人に紹介しておく、もしかしたら話くらいは聞いているかもしれないが、フィリーとディアだ。この二人は俺が暗黒大陸に渡る以前から好意を寄せてくれていた女性たちだ。

彼女達は俺に直ぐに答えを出さなくてもいいと言ってくれていてな、その言葉に甘えて自分の事ばかりやっている無責任で自己中心的な人間が俺なんだ。

二人は戦いの場に臨む俺の姿しか見ていないから分からなかったと思うが、俺は決して完璧な人間なんかじゃない。

王都学園の冬季休暇期間、俺はマルセル村で過ごす。その間によく俺の事を見定めて欲しい」

「「はい、分かりました、ジミー君♡」」

 

ジミーの言葉に、胸の前で手を組みながら返事をするメイド二名。

“スパンッスパーーン”

間髪入れず振るわれる十六夜のハリセン。

 

「クルン、ラビアンヌ、そうじゃないでしょう!! 恋とは戦いなのよ、ロマンなのよ。一方的に魅了されてるだけじゃダメなの、自分自身をしっかり持って、相手を惚れさせるくらいの気概を見せなさい!!

旦那様、申し訳ありませんがこの二人を引き取らせて頂きます。少々恋愛に対する心構えについてOHANASHIしておく事ができましたので。

二人共今夜は説教です、眠れると思わないように!!」

 

荒ぶる観察者、魔都総合武術大会の優勝者と準優勝者は襟首をむんずと掴まれたまま、十六夜により強制退場となったのでありました。

 

「ハハハハ、まぁ、そういう事だ。ジミー、焦らなくてもいいからじっくり考えてやってくれ。あの二人の事も、フィリーちゃんとディアさんの事も、そしてラビアナ様の事も」

「あぁ、分かったよ、ケビンお兄ちゃん。ところで何でそこにラビアナの名前が出てくるんだ? まぁ確かに面白い女だとは思うし、一緒にいて楽しいとも思うけど」

 

そう言い心底不思議そうにするジミー。

 

「・・・ねぇエミリーちゃん、ラビアナ様とジミー君の関係ってどうなってるの? ジミー君、相手にしていないみたいなんだけど」

「・・・凄く面白い事になってます。この関係は下手にいじらない方がいいです、ラビアナ様って物凄く良い反応を示してくださいますので。

しかもツッコミ師の才能もお持ちなんです、大切に育てていかなければいけない逸材なんです!!」

そう言い拳を握りしめるエミリー。そんなエミリーの様子に、“ラビアナって子も不憫ね”と思うパトリシアなのでありました。

 

――――――――――――

 

マルセル村の夜は更けていく。帰村しそれぞれの自宅へと戻った若者たちは、自分たちの家のこの一年の変化に目を見開く。

 

「エミリーお姉様、お帰りなさいませ。ロバートはエミリーお姉様のお帰りを首を長くしてお待ちしておりました。エミリーお姉様の元気なお姿を見ることができ、とても嬉しく思います」

「「エミリーお姉しゃま、お帰りなしゃい!!」」

 

「ロバート君、バーミリオン君、マリアンヌちゃん、ただいま~。みんなおりこうさんになって、お姉ちゃん感激しちゃった~♪」

三人の弟妹に抱き付き頬ずりをするエミリー、しばらく会わないうちに確りとした挨拶ができるようになったチビっ子たちに、デレデレと相好を崩すのは致し方がない事であろう。

 

「お帰りエミリー王都学園はどうだったの? 寂しかったり大変だったりしなかった?」

悲しくも辛い思い出の残る王都、そんな王都の学園に大切な娘を向かわせなければならない事は、ミランダにとって重く苦しい決断であった。だが娘は無事に帰ってきた、元気そうな娘の表情に、ミランダはホッと胸を撫で下ろす。

 

「ただいま、ミランダお母様、デイマリアお母様。お陰様で王都学園では色んなお友達が出来て、毎日楽しく過ごすことができました」

その後共に夕餉の席に着き、グリルの作る料理に舌鼓を打ちながら王都での出来事を語るエミリー。その内容にミランダとデイマリアが頭を抱え、ドレイクが苦笑いを浮かべた事は言うまでもないのであった。

 

「「シルビア師匠、ボビーお義父様と結婚されたんですか!?」」

ボビー師匠の訓練場と呼ばれる広場の脇に建つ自宅に戻ったフィリーとディアは、魔法の師匠である大賢者シルビアから告げられた言葉に目を丸くする。

 

「フフフ、本当は手紙でも出せばよかったんだけど、ボビーが恥ずかしいから勘弁してくれって言うものだから知らせてなかったのよ、ごめんなさいね?」

そう言い幸せそうな笑みを浮かべるシルビアに、“シルビア師匠、そんな表情も出来たんですね。と言うか甘々な空気が半端ないんですけど!?”と気圧される二人。

 

「ごめんね二人共、お義母さん、生涯独身だったから三百年越しに訪れた春に舞い上がっちゃって。私もボビー師匠だったらお義母さんを任せられるし、頼りになるお義父さんができてうれしいの。

これからは姉妹って事になるけど、よろしくね」

もう一人の師匠である賢者イザベルから掛けられた言葉に複雑な気持ちになるフィリーとディア。自分達もボビー師匠に拾われた身、そんな義父が幸せな結婚を迎えたことに否やはない、否やはないのだが。

 

「でもシルビア師匠って既に亡くなられてますよね? ボビーお義父さんはそれでいいんですか?」

「うむ、その辺は気にならんかったな。と言うか逆にありがたいというか。儂もいい年じゃからな、先の事など正直分からん。そんな儂でもええと言ってくれよる。すでに死んでおるから気にする必要もないと言われてしまえば返す言葉もないわい」

 

見るからに気力も体力も充実し自分たちより長生きするのではと思える義父ボビー、だが老いや死というものはどのような者にも必ずやってくる。

いずれ家を出て愛する者と共に世界を旅しようという自分たちにとって、義父より先に逝く心配のないすでに亡くなっているシルビアたち程心強い者はいないだろう。

 

「分かりました。シルビア師匠、いえ、シルビアお義母様、これからもボビーお義父様の事をよろしくお願いします」

「えぇ、任せておいて。それにボビーが亡くなってもすぐに女神様の下には向かわせないから、あなたたちは存分に人生を楽しんでちょうだい。私たちは飽きるまでマルセル村での暮らしを楽しむつもりだから」

そう言いニコリと笑う超越者たちに、思わず顔を引き攣らせる生者たちなのであった。

 

「チェリーちゃん、お土産だよ~!! チェリーちゃんに言われた通り、ちゃんとエミリーに選んでもらったからね。

お兄ちゃんとしては可愛いぬいぐるみとかフリルの付いたエプロンとかがいいかなって思ったんだけど、エミリーが小洒落た髪飾りの方が良いって。

チェリーちゃんにはちょっと早いかなって思ったんだけど、チェリーちゃんならこれくらいの方がよく似合うって言われたらそうかもって思って」

 

チェリーは兄ジェイクから渡された小箱を開けるとニコリと笑みを浮かべる。

 

「ジェイクお兄ちゃん、ありがとう!! マリア母さんに見せてきてもいい?」

「あぁ、見せておいで。後でお兄ちゃんにも髪に付けたところを見せてね」

 

「分かった~、お兄ちゃん大好き!!」

チェリーは一度ジェイクに抱き付くと、マリアの下に走っていく。手に入れた武器をどう有効に活用するか、相談する為に。

 

「ジミーお兄ちゃんお帰り、暗黒大陸で引っ掛けた女が押し掛け女房しに来てるよ? 色んな女に粉を振り撒くのはいいけど、背中から刺されない様にしてね? とばっちりを喰らうのは勘弁です!!」

自宅に帰って早々、玄関先でエッガードに跨った妹(ミッシェル四歳)に告げられた言葉に、ジミーが盛大にダメージを受けた事は言うまでもないのであった。

 




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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