転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第711話 辺境男爵、父になる (二人目)

それは穏やかな冬の朝。いつものように朝靄の中、村の健康広場に集まり体操をし、家に帰って朝食を食べてから妻アナスタシアのところに顔を出している時の事。

 

「それでさ、ジミーの奴ミッシェルちゃんに懸けられた一言に玄関先で膝から崩れ落ちちゃったんだよ。

流石にこれにはヘンリーお父さんとメアリーお母さんも苦笑いだったみたいで慰めようがなかったって言って笑ってたよ」

「フフフ、ジミー君もとんだ災難だったわね。無自覚とは言え自分から撒いた種といえなくもないし、ミッシェルちゃんの言い分も分かるけど。

そういえばクルンとラビアンヌの二人はどうしてるの? あれだけ恋焦がれたジミー君が帰ってきたんだから仕事そっちのけでジミー君のところに張り付いちゃったりしていない?」

 

「あぁ、その辺は十六夜が確り指導してるから大丈夫だよ。ジミーと再会した時、眼鏡と髪留めを外したジミーに一瞬で魅了された二人を捕まえて説教してたし。“恋とは戦いでありロマン。一方的に魅了されてるだけじゃダメ、自分自身をしっかり持って相手を惚れさせるくらいの気概を見せろ”、十六夜なりの恋愛美学なんだろうけど、いい事言ってるなって思ったよ。

だからまぁ、女性陣の事は十六夜たちに任せておこうと思ってさ。エミリーちゃんやパトリシアもなんか面白がってるみたいだし、下手に男が首を突っ込むと碌でもない事になりそうだしね。

流石にやり過ぎだと思ったら口を出すつもりだけど、甘味と美容商品を全面的に打ち切るって言えばどうとでも収まるでしょう」

 

そう言い肩を竦める俺に苦笑いで返すアナスタシア。だって仕方がないじゃん、マルセル村の女衆ってみんな我が強いんだもん、普通に話しても聞く耳持たないんだもん。

だったら一番大事にしているモノを人質にするしかないじゃん、多用すると暴動起こされかねない諸刃の剣だけど。

 

「フゥ~、まぁ程々にね。あまり話が大きくなりそうだったらちゃんとホーンラビット伯爵閣下に相談・・・ウッ、なんかきたかも」

「!? 分かった、今直ぐセシルお婆さんを呼んでくる。月影、後を頼む」

 

「畏まりました、旦那様。アナスタシア奥様、騒がしくなりますがお気を鎮められてお待ちください」

 

アナスタシアが産気づいた事で緊張感に包まれる室内、俺は出産間近ということでホーンラビット伯爵家の屋敷内に待機している助産師のセシルお婆さんに声を掛ける為、急ぎその場を後にするのでした。

 

「さて、清潔な布よし、盥桶よし、光属性魔力水(ぬるま湯)よし、すべてよし。それじゃ始めようかね、アナスタシア、言っておくがこれは一般的な出産とは違うからね? あんたの子供や子供の嫁が出産は苦しいものじゃないのかって聞いて来ても、安易にこの事を話すんじゃないよ? 後で話が違うって恨み言を言われるのはあんたになるんだからね?

ケビン、やっとくれ」

「了解した。アナスタシア、外で待ってる。なに大丈夫、セシルお婆さんは王都でも指折りの助産師だったんだ、無事な出産は約束されたようなものだからさ。<清浄化><聖域結界><癒しの覇気>」

“ブワッ”

途端周囲の空気が変わる、それは神聖な神の庭、部屋の調度品の一つ一つが別の輝きを以って煌めいているかのように感じる不思議な場所。

“パタンッ”

部屋の扉が閉まり、その場には助産師のセシル、月影をはじめとした手伝いのメイド三名、出産を迎える妊婦のアナスタシアが残される。

 

“スポンッ、トサッ、フワァ~~~、ムニャムニャ”

「くそ、また取り上げる前に産まれちまったよ。月影、鋏をおくれ。包み用の布の準備は出来てるかい? 産まれて直ぐにあくびをして寝ちゃうって、この子は大物だね~。

アナスタシア、安心しな。無事に元気な赤ちゃんが産まれたよ」

 

忙しなく動くメイドたち、アナスタシアはあまりにあっけない出産に呆然としながらも、心地よい解放感と隣に寝かされた我が子の寝顔に、これまでにない幸福感に包まれるのであった。

 

―――――――――――――

 

“コトッ、トクトクトクトク”

ローテーブルに置かれたグラスに注がれる赤い液体、部屋の主であるドレイク・ホーンラビット伯爵はボトルの蓋をキュッと閉めると、前に座る娘婿にグラスを差し出す。

 

「ケビン君、無事な出産おめでとう。男の子だってね、ミランダとデイマリアが話しているのを聞いたよ。何にしても母子ともに無事に出産を終えることができて本当によかった、出産により身体を弱らせて母親が亡くなったり死産だったりって事も少なくないからね、こればかりは女神様に感謝しないといけないかな?」

 

ケビンはグラスを受け取ると、疲れた笑顔を浮かべつつ言葉を返す。

 

「ハハハ、本当にその通りですね。こればかりは人の力でどうこうできる範疇を超えていますから。パトリシアの出産のときは初めてという事もあり緊張と喜びの方が勝っていましたけど、今回は二度目でしたんで変に余裕が出来た分心配の方が強くって。

アナスタシアの前ではそんな顔は見せられないんで務めて平静を装いましたけど、何処まで誤魔化せていたんだか。あれでいて結構鋭い所がありますから。

それに・・・」

 

ケビンはグラスを口に運ぶとゆっくりと傾ける。わずかな酸味とどっしりとした深みが、じっくりと身体に染みていく。

 

「エルフ耳、母親であるアナスタシアさんの特徴を確りと引き継いだって感じかな」

「はい、しかも顔が俺に似てるんですよ。いや、普通エルフ耳で生まれたって事になったら母親似の美形になるって思うじゃないですか、何でここで顔が俺似なんですか、本当にびっくりですよ。

アナスタシアや月影は凄く喜んでいましたけど、手伝いに就いてくれたメイドさん方、肩震わせてましたから、セシルお婆さん大爆笑してましたから、「ケビンがエルフになった」とか言って過呼吸になってましたから」

 

そう言い然も心外ですといった風にグラスを空けるケビン。話を聞いていたドレイクはそんなケビンの様子に堪らず笑い声を上げる。

 

「アッハッハッハッ、ごめんごめん、でも「ケビンがエルフになった」って、ブフッ、駄目だ、我慢できない」

「はいはい、いいですよ、分かりましたよ、どうせ俺はゴブリンリーダーですよ。因みにあの子が大人になったらこうなります」

 

ケビンはそう言うや自身に幻影魔法を掛け、以前エルフの里に訪れた際に行ったエルフ耳を付けた顔に変わる。それを見たドレイクは我慢の限界が来たとばかりに腹を抱えて笑い出し、その声に驚き部屋に入ってきた執事のザルバがその場で噴き出した事は致し方のない事なのであった。

 

「お義父さん方、娘婿に対して酷くないっすか、二人して腹を抱えて笑うって」

「いや、ごめんごめん。エルフといえば美男美女の美形揃いっていう先入観がね、そこにケビン君の顔をはめ込むだけでこれ程に面白いとは思わなくってつい」

 

「うむ、本当にすまなかった。アナスタシアさんの子供が男の子でエルフだと聞いた後、ケビン君に似ていると言われてどうも想像がつかなかったものが急に目の前に現れたものでね。

そうか~、ケビン君の子供は将来エルフのケビン君になるのか~。

でもどうする、将来あの子の周りに「あなたの呪いは私が解いてあげる」なんてことを言う勘違い女が現れたら」

「力一杯ぶん殴ってやれって教えておきます。でもまぁ考えようによってはこれはこれであり? アナスタシアに耳だけエルフ耳になって貰えば似たもの夫婦の出来上がり? いや、駄目か。それこそ呪い解除の秘薬を探す旅が始まっちゃうかも。

思い込みって怖いからな~、賢者ユージーンなんか思い込みの力だけで世界を旅して世界樹の葉を手に入れてきたくらいだしな~。

そうそう、知ってます? 賢者ユージーン、マルセル村から旅立った後無事に王都に辿り着いて、ベルツシュタイン伯爵閣下の計らいで王家にエリクサーを献上したのはいいんだけど案の定騒ぎに巻き込まれたって話でしたよ。

王家からは褒賞と名誉男爵の地位を賜ったそうなんですけど、要は世界を旅して何かいいものを見つけたらまた持って来てねってことらしいですよ。前も思ったけどゾルバ国王陛下って結構ちゃっかりしてますよね、ポンポコラクーンもビックリですよ」

 

交わされるグラス、並べられる空き瓶。義父と娘婿の楽しい語らいは、酒という潤滑油を得て尽きる事なく続いて行くのであった。

 

―――――――――――

 

マルセル村の理不尽ケビンの第二子誕生の知らせは、さほど広くもないマルセル村の中に瞬く間に広がっていった。中でもケビンそっくりのエルフというニュースは村人たちの間に困惑と爆笑を齎す事となったのである。

 

「うん、これは不味いな」

アナスタシアの子供が生まれた翌日、朝の体操を行う為いつものように健康広場に向かった俺は、村人たちのどこか浮ついた雰囲気に眉をしかめる。

子供の心は繊細である、普段から毎日を面白おかしく過ごして時々とんでもないやらかしをする俺であれば何を言われようが大した事はない、慣れてるし。でもこれから大きくなる我が子が嘲笑の的になるのはいただけない。

あの子、結局ヴィーゼになっちゃったしな~。俺の顔をしたエルフのヴィーゼ・・・すまん、アナさんに勝てなかった不甲斐ない父ちゃんを許しておくれ。せめてもの抵抗でゼノンとかライザーとかダリルとか提案したんだけど、全部却下されちゃったんだよ。

この子が嫌がってるからダメって何だよ、お腹減ったと眠いしか考えてなかったよ。

 

俺はそんな浮ついた村人たちの間を真っ直ぐ進んでいく。彼らの視線は一度俺に向くや、噴き出して腹を抑えてしゃがみ込む。

 

「みなさん、おはようございます。今朝も元気よく体操を行いましょう」

広場の前、用意された台に上がった俺に向けられる好奇の視線。

 

「ちょっ、ケビンお兄ちゃん、その耳はどうしたのさ。まるでエルフみたいに大きな・・・」

「ん? あぁ、これ? なんか俺の息子が俺によく似た顔のエルフって事で騒ぎになってたみたいなんでね、今のうちに慣れてもらおうと思って。

大体俺に似ているっていっても、子供の頃はそれなりに可愛かったんだからね? 周りからはやんちゃなケビン君って言われてたのよ? まぁその後がその後だからこんな騒ぎになっちゃってるんだけどね。

で、実際どうよ、エルフ耳の俺。エルフの里では特に問題なかったのよ? なぜか強く生きてって言われまくったけど」

 

俺の言葉に爆笑に包まれる健康広場、まぁ自虐ネタはお笑いの基本だから仕方がないんですが。

 

「ケ、ケビンお兄ちゃん、そのネタ卑怯だから、腹筋直撃だから。でもいつまでそんな格好してるのさ、みんな回復できないじゃん」

「えっ? そんなの周りが俺のこの格好を見慣れるまでだけど? だいたい普人族の顔に大きな耳が付いているだけだよ? かわいいじゃん、大きな耳、これよく聞こえるんだよ?

まぁ何でも慣れだって、二週間もすれば見慣れて誰も笑わなくなるし、ちびっ子たちに至っては何が面白いのかが最初から分かってないみたいだしね。

それじゃ本日の体操を始めます。腕を前から上にあげて背伸びの運動から、一・二・三・四、二・二・三・四」

 

人とは慣れるものである、物珍しい、変わっている、そうした者は自分達とは違う者としてからかいの対象になるものの、それがあまりに堂々と当たり前に存在した時、それはただの日常の一部となる。

“エルフ耳ケビン”の生活はその後三週間に渡り続けられ、村人の誰もがそれを当たり前として受け入れた時、ケビンとアナスタシアの子供のお披露目が行われた。その際可愛いという声は出たが誰もその容姿を笑う者はいなかったという。

だが・・・。

 

「ケビンお兄ちゃん、流石にヴィーゼ君って名前はちょっと。ケインとかライアンとかもう少し普通の名前にしてあげた方が・・・」

「言ったんだよ、俺もそう言ったんだよ、でもアナスタシアが譲ってくれなかったんだよ!!」

ジェイクの一言にガックリと肩を落とすケビン、村人たちからは同情の視線が送られる。

 

「ヴィーゼ、この子に似合いのいい名前よね?」

「そうでございますね、旦那様似の凛々しいお子様にとてもお似合いだと思います」

そう言い互いに首を捻るアナスタシアと月影。エルフ族の感性は普人族には伝わりづらかったのであった。




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