転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第714話 男爵家長男、弟と出会う

“カタカタカタカタ”

吹き付ける風が窓を揺らす。硝子窓の向こうに広がる整地された畑、畦道に伸びる枯草が大きく揺れ、冬の寒さと何とも言えないもの悲しさを醸し出す。

僕は赤ちゃんベッドの柵を両手で掴み、確りと両足で立ちながら外の景色を眺める。頬に感じる冷えた空気、暖炉が焚かれた室内ですらこうなのだから外の寒さはどれ程のものか、自身が前世で過ごしていた地域の遥か北方に位置する北国に産まれたのだという事を、窓を叩くこの風が教えてくれている。

 

“ガチャリッ”

開かれた扉、廊下から一礼をして入室してきたのは白い髪の美しいメイド。

「失礼いたします。アルバ様、起きていらしたのですか? もしかしておしめが冷たくなってしまわれたのでしょうか」

メイドの月白が心配そうな顔をして僕の方に近付いて来ようとする。僕は首を横に振り「アウアウ」と返事をする。

月白はそんな僕を見て安心したのかニコリと微笑むと、赤ちゃんベッドの方へとやって来て用件を告げるのだった。

 

「アルバ様、パトリシアお母様がお呼びです。お連れいたしますがよろしいですか?」

「アウア、チーチ、ダ~」

僕はお腹の辺りをポンポンと叩くと、おしっこをしたいと訴える。

 

「はい、それではキャタピラースーツをお取りいたしますね、一度横になって下さい」

僕は赤ちゃんベッドの柵から手を放し、ポテンとおしりから座り込むとゴロンと身体を横にし仰向けになる。月白はそんな僕のお腹のボタンを鼻歌交じりに外していくと、肌着姿の僕をキャタピラースーツから抜き取り、布おむつを外してオマルの上に座らせるのだった。

 

「パトリシア奥様、お待たせいたしました」

おしっこをしたついでとおむつ交換をしてもらいスッキリした僕は、再びキャタピラースーツを着込むと月白に抱っこされたまま屋敷の居間へと向かったのでした。

 

「ごくろうさま、月白。アルバ~、お利口にしていましたか~。今日はね、アルバにお土産があるの。

ジャジャ~ン、ホーンラビットスーツ~。このフワフワモコモコな肌触りを再現するのが凄く難しかったって紬が言っていたんだけど、本当にいい出来なの。

アルバも大分大きくなってキャタピラースーツが小さくなってきたでしょう? これから三~四カ月は厳しい寒さが続くわ、お兄ちゃんになったアルバはキャタピラーは卒業、ホーンラビットに進化しなくちゃね~♪」

 

そう言い花の咲いた様な笑顔を向けるパトリシアお母さん。お母さん、ホーンラビットが大好きだからな~。

因みにキャタピラーはお父さんの趣味。僕のお父さん、時々「キャタピラーになりたい、俺はお布団様にくるまってキャタピラーに進化するんだ」とか言ってるんだよね。

どうもお仕事で疲れちゃってるみたい。お父さん、いつも忙しそうにしてるから。

 

「そうそう、前にアルバにお話ししていたアルバの弟が、今日お家に帰ってくるの。みんなでお出迎えするのにこのホーンラビットスーツにお着替えしましょうね~♪」

いつも忙しそうにしている働き者のお父さん、美人で優しいお母さん、身の回りのお世話をしてくれるメイドさんたち。僕は凄く恵まれている、凄く恵まれているという事は分かっているんだけど、前世の記憶がある分押し寄せる得も言われぬ羞恥心が。

 

「キャ~~~、かわいい~~~♪ どう、更、月白、凄く似合っていると思わない?」

「はい、パトリシア奥様。ホーンラビットスーツはまさにアルバ様の為にあるような物、物凄くお似合いです」

着替え終わった僕の姿を見て、物凄く喜んでくれるパトリシアお母さんとメイドの更さん。

 

「・・・・・・」

「えっと、月白? どうしたの、何かプルプル震えてるわよ? 顔が赤くなって、息遣いも荒くなっているみたいだけど」

 

“えっ、何、アルバ様が物凄く可愛らしいんですけど? 天使なの、ぬいぐるみなの? 両手でギュッと抱き締めたいんですけど? 愛らしくてかわいくて凛々しくて、アルバ様は私を殺しに来ているのかしら? わたし、もう我慢しなくてもいいのかしら? アルバ様と、アルバ様の、アルバ様で、キャ~~~~~、アルバ様のエッチ~~~♥”

“スパーーーーーン”

爽快な打撃音と共に振るわれたハリセン、顔を押さえしゃがみ込む月白。

 

「パトリシア奥様、大変申し訳ございません。今のアルバ様の御姿は、月白には刺激が強過ぎたようでございます。少々外の空気を吸わせてまいりますので、この場を失礼してもよろしいでしょうか?」

「そうね、ホーンラビットスーツのアルバは物凄く可愛らしいですものね。この歳で女性をここまで狂わせちゃうだなんて、アルバもお父さんに似て罪作りな男の子ですね~♪」

 

更さんは月白の襟首をむんずと掴むと、一礼の後部屋を下がっていく。僕はその様子を呆然と眺めながら、更さんの言う事はちゃんと聞こうと心に刻み付けるのでした。

 

“カチャッ”

開かれた居間の扉、更さんと入れ違いのように入ってきたのはお腹の大きなもう一人のお母さん。

 

「ケイト、話は聞いていると思うんだけど、今日アナスタシアが帰ってくるの。旦那様がヴィーゼ君のお披露目を兼ねてみんなで食事をしようって言ってたわ」

「ん、話は聞いている。入れ替わりに私が収監されるという事も。

私はもっとこの家でごろごろしていたかった、パトリシアには世話になった、今までありがとう。

アルバ、短い間だったけどあなたに会えてよかった。あなたはパトリシアに似て顔立ちがいいから女性で苦労すると思う、そんな時は私というもう一人の母がいた事を思い出して。

あなたの為に何の力にもなれなかった駄目な母親でごめんなさい。

それとそのホーンラビットスーツ、とってもよく似合ってるわよ」

 

そう言い握りこぶしに親指を立てて僕に向けるケイトお母さん。ケイトお母さん、どこか遠いところに行っちゃうの?

僕は心配になってパトリシアお母さんに顔を向けます。

 

「ケイト、私の実家を監獄のように言うのは止めなさい。それにホーンラビット伯爵家本邸に向かうのだって出産の為でしょうが、それが何で永遠の別れみたいに言われないといけないのよ。アルバが混乱しているじゃない、本当に悪いお母さんですね、アルバ」

「私にとっては一緒、あの家は敷居が高過ぎる。父ザルバや母カミラはとってもいい人、いい人なんだけど格式が高いと言うか。

私はお布団様にくるまってキャタピラーとして春まで冬眠していたいだけなのに」

 

「それがダメだって言ってるのよ、セシルお婆さんも言っていたでしょう、適度な運動が必要だって。ケイトはお布団でゴロゴロしているかコッコたちと組み手をしてるかどっちかじゃない、適度って言葉の意味を学習しなさい!!」

「ウグッ、流石は王都学園の才女と呼ばれたパトリシア、領都学園の干し肉屋と呼ばれた私とは頭の出来が違う。そこに痺れる憧れる」

 

ああ言えばこう言うケイトお母さん、あのすべての言葉を明後日の方向に返して話をうやむやにする話術って、一種の才能だと思います。

 

「ハァ、何か疲れました。ところでホーンラビット伯爵家本邸に向かう準備は出来ているんですか?」

「その点は抜かりない、全て残月がやってくれている。残月の仕事に足りないなどという事は有り得ない」

そう言い腰に手を当てて胸を反らすケイトお母さん。出来ない事は出来る者にやってもらう、その潔い姿勢、とっても勉強になります。

それに比べ前世の僕は、みんなの為、仲間の為って奔走して、挙句の果てに勇者に殺されて。本当に何をやってたんだか、今世はのんびり気ままに生きてやる、ケイトお母さんは人生の指針です!!

 

“コンコンコン”

「失礼いたします。旦那様、アナスタシア奥様、ヴィーゼ様がお戻りになられました」

“ガチャリ”

メイドの声掛けと共に開かれた扉、入ってきたのは何でこんな人が美人の奥さんを三人も娶ったのかといつも不思議に思ってしまうほど平凡な田舎者といった顔のケビンお父さんと、地味顔に変装したアナスタシアお母さん。

そしてアナスタシアお母さんの腕に抱かれたおくるみにはキャッキャと腕を伸ばして自己を主張する赤ちゃんの姿。あの子がパトリシアお母さんが言っていた僕の弟のヴィーゼ君なんだろう。

 

「ただいま、パトリシア、ケイト。アナスタシアとヴィーゼを連れて帰ってきたよ。

どうしたアルバ、凄く可愛いじゃないかって言うかホーンラビットスーツだと、ついにアルバもラビット格闘術の道に。いや、アルバはのんびりしたいと言っていたから団子流仙術の道という方向性も。

何にしても目出度い、これでワイルドウッド男爵家は安泰だ!!」

そう言い僕を抱っこしてワハハハと笑うケビンお父さん。えっと、ラビット格闘術って畑脇の小屋に棲んでる凄くきれいなホーンラビットの白玉先生が教えている奴だよね? 団子流仙術って、団子って白玉先生の旦那さんのホーンラビットだよね? もしかして僕、これからホーンラビットとして生きていかないといけないの?

 

「ケビン、アルバの衣装が似合ってるからって興奮し過ぎ、少し落ち着く。それとケビンのボケは高度過ぎてアルバに伝わっていない。アルバがドン引きしてるから訂正を要求」

「あっ、すまんすまん。あまりにアルバの格好が似合っていたからついな。アルバ、今お父さんが言った事はちょっとした冗談だ、気にしなくてもいいぞ。

それとお父さんとケイトお母さんはボケ担当だから時々訳の分からない事を言うけど、あまり気にするな。出来れば適切なツッコミを入れてくれると助かります。

その辺は追々ワイルドウッド男爵家のツッコミ担当、パトリシアお母さんに「って誰がツッコミ担当なのよ、誰が。私は普通の男爵夫人だから、もしくはホーンラビット牧場の飼育員兼ラビットショーのお姉さんだから」「因みに歌のお姉さんは私」・・・こんな感じだから」

 

ケビンお父さんの言葉に透かさずツッコミを入れるパトリシアお母さんとその言葉に更にボケを重ねるケイトお母さん。

これがお笑いの世界、僕には厳し過ぎるよ、月白~~~。

 

「そう言えば月白はどうした? 更の姿も見えないようだけど」

「はい、月白はアルバのホーンラビットスーツ姿を見て興奮し過ぎたのか顔を真っ赤にして固まってしまって。更が外に連れ出して頭を冷やさせているところです」

パトリシアお母さんの言葉に部屋の中の人全員が「あぁ、月白じゃしようがないね」と納得といった反応を示す。

月白はどうやらワイルドウッド男爵家の中では残念メイドとして認識されているみたいです。

・・・ごめん、月白。僕も擁護できない。

 

「ところでケビン、ヴィーゼ君を見せてもらってもいいかしら?」

「そうだった、そうだった。ほ~ら、アルバ、弟のヴィーゼだぞ。ヴィーゼ、お兄ちゃんのアルバ君だよ~」

抱っこした僕をアナスタシアお母さんのところに連れていくケビンお父さん。アナスタシアお母さんの腕に抱かれたおくるみから、灰色の瞳が僕をジッと見上げてくる。大きな耳、灰色の髪、大きなあくびをしたその顔は。

 

「ば~ば~」

「おう、アルバもそう思うか。そうなんだよな~、なんかお父さんの子供の頃にそっくりらしいんだよな。そんでもってエルフ耳だろう? エルフと言えば美形と相場が決まってるからな、助産師のセシルお婆さん、大爆笑してやんの。

まぁお父さんとしては女性で苦労するより全然いいと思うんだが、世間はそうは思ってくれないからな~。本当にどうしたもんだか。

アルバ、ヴィーゼのこと、よろしく頼むぞ? もっともヴィーゼはそんなこと気にしそうにもないけどな」

そう言い僕の背中をトントンと叩くケビンお父さん。僕はお父さんに「アウア~(任せて~)」と答えると、ヴィーゼに向かい手を伸ばすのでした。

これからよろしくね、ヴィーゼ。




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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