転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第724話 天上のOL(総合職)、むせび泣く

“ガチャガチャガチャ、カチャリッ”

「ただいま~」

 

玄関を開け、疲れた身体を引き摺りながらもなんとか部屋に入る。無論出迎えてくれる人なんていないけどこれは習慣、なんか無言で帰宅してベッドに倒れ込むのは負けた気がするので玄関での声掛けだけは死守している。

帰宅後即ベッドは・・・天上界の社畜OLと呼ばれてた事を考えればお察しだ。仕事着から部屋着に着替え、保存庫から摘みを取り出したらテーブルへ、棚のボトルとグラスを取りだしたら定位置にイン。正面の壁際にモニターを表示、ボトルからグラスへ光属性魔力マシマシマシカクテル(甘太郎の甘木汁バージョン)を注ぎ入れる。

 

「黄金の輝きを放つ至高の一杯。やっぱり神級バーテンダーケビンの作ったカクテルは一味も二味も違うわ」

透明なグラスに注がれた黄金の輝きを放つ美しいカクテルを眺めてからそっと唇を近付ける。口いっぱいに広がる力強い光属性魔力、ただ甘いだけじゃない深みのある優しい味わいの口当たり、スッキリとしつつも身体の奥でどっしりと広がる得も言われぬ飲み心地。

 

「ク~~~~ッ、旨い!! 連日連夜の過剰業務から解放された記念日にはやっぱりこの一杯よね~♪」

半年ほど前に発覚した中級天使による大失態、魔王デビルトレントの亡骸を人の魂に固定化させ保存するなどという暴挙。

本来魔王は地上に溢れる闇属性魔力を回収するための装置、死亡したデビルトレントの魂は天使により回収され、闇属性魔力処理場に送られた。地上に残った遺骸はいずれ天上界側で回収し消滅処分を行うはずであった。

天使は人の事象に不干渉、過度の干渉は人の世の発展を著しく妨げる。

元々下級天使であった担当者は魔王デビルトレントの亡骸を人に処分させる事で地上の魔力汚染を最小限に抑えることに成功、その功績を以って中級天使へと昇格した。

 

「でもその裏であんな阿呆な事を考えてるだなんてね。「穢れた世界に粛清と浄化を、女神様の作られた完璧で美しい世界を正しく導くために」ってお前は小説に登場するラスボスか!! 思わずツッコミを入れた私は悪くないわよね」

 

天上界の天使たちは女神様によって創られた存在、その役割は地上世界の管理。この世界を創造なされた女神様は、その強大過ぎるお力の為矢鱈に世界に干渉する事は出来ない。下手に女神様が干渉すれば折角御創りになったこの世界を壊しかねない、それ程に女神様の御力は凄まじい。

そんな女神様に代わりこの世界を管理運営する役割を賜ったのが、私たち天上人であり補助神と呼ばれる者たち。

女神様の願いは私たちの願い、女神様のために働く事は私達の喜び。

 

「天上人の中でも直接地上界に干渉する事を許された天使、だというのに何で自らが女神様の代行者面して地上界を粛清しようとしちゃうかね~」

 

確かにこれまで幾度となく地上界の粛清が行われた。だがそれは詳細な調査による事実確認と幾度もの警告の末に行われたもの。女神様のお与えになったスキルと職業、そのシステムを悪用し人類を支配しようとした者たちへの最後通告。

だがその事を生ぬるいとして現在の人類を一掃し新たな世界を創造しようと主張する者や、より積極的に天上界からの干渉を行い人類を導くべきだと主張する者など様々な考えを持つ天上人がいる事もまた事実。

 

「いや、口に出すだけならいいよ? 考え方はそれぞれだし、女神様に上申する事もまたそれぞれの自由だしね。

でも地上人の魂を自らの計画の為の兵器に使おうとしちゃ駄目でしょうが。なに、“厄災の種計画”って、複数の厄災の元となる魂を補完、必要に応じ誕生させ地上人自身に滅びの道を歩ませる。

お前らは勇者病かと言いたい、どこぞの“勇者病<仮性>重症患者”と比較してやりたい。正しい浄化の道には痛みが必要、我々も苦渋の選択であったのだってお前ら全然痛くないじゃん、痛みも苦しみもこうむるのは地上人だし!!

って言うかその後始末に追われる私が一番苦しかったわ!!」

 

思わず零れる愚痴の数々、でもこれってしようがないのよ、内に溜め込んだらまた堕天しかねないくらいの騒動だったんだから。

でもそんな騒ぎもなんとか目途が立ったというか、魂の精査が終わり、発見された“厄災の種”を正しいクリーニング処理に掛け浄化再生し正しく来世への道に戻し。

 

「あとは他に馬鹿どもが余計な事をしていないか、阿呆な計画を企てていなかったかの取り調べなんだけど、その辺は調査局の仕事だから私たち一般職の天使には関係ないし、ようやく元の仕事に戻れるって感じよね」

私はそう呟きながら摘みのレッサードラゴンジャーキーをパクリ。やっぱりケビンの作るお摘みは旨いわ、居酒屋ケビンが週一しかやってないって事が本当に悔やまれるのよね。そうは言ってもここ何カ月も仕事が立て込んでて行けてないんだけど。

このお摘みやカクテルだってケビンが祭壇に供えてくれたから受け取れたんだし、本当にありがたいわ。

それに明日から三日間は有休、そう、働いていないのに勤務した扱い。

不労所得万歳(意味が違うけど気にしてはいけない)、有給最高!!

この三日間はゴロゴロするぞ~~!!

 

「さてさて、特異点ケビンはどうなってるんでしょうね~」

私はモニターを操り掲示板をチェック。最新の情報は、“ケビンパパになる(三人目)”ですと!?

 

「あぁ~、そういえばアナスタシアちゃんとケイトちゃんも妊娠してるんだったわ、ケビンもやるわね。

でも三児のパパね~。あの世界を引っ掻き回すだけ引っ掻き回していた男の子が今やお父さん、なんか感慨深いわよね~」

初めて出会ったのはミルガルの大聖堂の女神様像の脇で私が神力の回復を図っていた時。あれから五年、今じゃ立派な大人になって。

身長もそれなりに大きくなったし、まぁ私より低いし世間の男性の中じゃ小柄な方だけど、家を持って男爵になってと随分立派になったみたいだしね~。

 

「でもそうなるとアナスタシアちゃんとケイトちゃんの赤ちゃんも確認しに行かないといけないわね。アルバ君は、まぁ特別としても種族が<人族>になってたし、残りの二人もどうなってることやら。

何々、“第二子ヴィーゼ君はエルフ耳のケビン”って何それ? 凄い気になるんですけど。

でもまずは“実況、第三子出産目前”をチェックしなくちゃ」

 

“ブンッ”

モニター画面に映し出されたのは廊下の椅子に座り両手を組んで女神様に祈りを捧げつつも、小刻みに右足を震わせるケビンの姿。

 

「おぉ~~、ソワソワしてる。なんかこんなケビンって新鮮だわ。コメントにも“ようやくケビンにも人の親の自覚が出たのか!?”とか書かれてるし。

これはお酒が進むわね~♪」

 

すると今度は部屋の扉が開き中から慌てた様子のメイドが現れ、ケビンの腕を引っ張って部屋の中へ。

 

「おっ、問題発生!? これは見逃せないって何ここ、聖域結界ってケビンの奴なに分娩室を結界で聖域化しちゃってるのよ!? 聖域じゃ特別な許可がない私たちじゃ様子が分からないじゃない!!

そこいら中にバカスカ聖域を造るな、あのド阿呆~~~!!」

 

コメント欄大荒れ、“やっぱりケビンはケビンだよ、意味解らないよ”といったコメントが方々からですね。

 

“!? はい、$$%&です。**#@様、どうなさいましたか? 今からですか? はい、分かりました。直ぐにそちらに伺います”

**#@様からの緊急連絡、嫌な予感しかしないんですけど?

私は壁のモニター画面を消し去ると、テーブルの上を片付け、急ぎ**#@様の執務室へと向かうのでした。

 

――――――――――――――

 

「へ~、ケーナは前世では王様をやってたんだ、凄いな」

俺はすっかり気持ちが落ち着いたケーナをケイトに渡すと、ベッドの脇に椅子を持ってきて腰掛けます。

現在ケーナは授乳中、セシルお婆さん曰く、初乳は赤ん坊の成長にとってとても大切なものなんだとか。そういえば在りし日の記憶にも出産後の初乳は赤ん坊の免疫機能向上に必要な栄養が詰まってるとかなんとかって話があったような?

その辺は余りよく覚えてないんだけど、どうやらそうした事はこっちの世界でも経験的に知られているみたい。どこかのお貴族様あたりが鑑定士に鑑定させれば詳しく分かるのかな? 俺は別にそこまでやる気はないけど。

 

“ゴクゴクゴクゴク”

ケーナさん、魔力の大量放出でお腹が減ったのかおっぱいに夢中になって喰らい付いておられます。

カロリーナさんの報告に慌ててやって来たドレイク村長も、この姿にはホッと一安心。

 

「ケビン君、念のために聞くけど、またかね?」

「はい、二人目ですね。しかも今度の子は凄いですよ、前世王様です。バリバリの政務経験者、ホーンラビット伯爵家の事務方にとってこれほど心強い味方はいませんよ、きっと」

 

俺の言葉に目を輝かせ胸の前で握り拳を作るホーンラビット伯爵閣下、文官不足はホーンラビット伯爵家の重要懸念事項の一つですからね。

クルーガルの爺さんにくっ付いてきた御付きの人にも打診してみたんだけど「自分は剣士ですので」って言われて断られちゃったんだよな~。

でもあの人、目茶苦茶優秀で臨時事務官として働いてくれてるんですよね、滞在費用を稼ぐとかなんとか、何でクルーガルの爺さんなんかに付いちゃってるんだか。

 

一時はケーナから溢れ出した大量の闇属性魔力に慌てた分娩室でしたが、今ではすっかり落ち着いてケーナ誕生に対するお祝いムードに包まれております。

何かあっても直ぐにシルフィーが対処してくれるんで大丈夫なんですけどね、何故か未だ顕現したままのシルフィー、現在は某緑の空飛ぶ少年の相棒よろしく、俺の右肩に半透明の小さな姿で座っておられますが。

シルフィーの事については何も聞かれなかったのかって? なんか目を合わせた途端顔を逸らされちゃうんですよね、「ケビン君だから仕方がない、ケビン君だから仕方がない」って久々に聞いたぞ、その台詞。

 

“!? パタパタパタパタ!!”

急に俺の顔の前に飛び出して、何かを訴えるシルフィー。

 

「はぁ!? あなた様が? 分かった、連絡してみる。ありがとうシルフィー」

どうやらそれはあなた様から入った連絡だったらしく、俺に連絡を取って欲しいとの事。シルフィーは元々あなた様が生み出した闇属性魔力回収装置の腕輪だったためか、貴方様との間に繋がりがあるらしく、神の欠片が宿り明確な意識が芽生えたことで直接連絡が取れるようになったらしいです。

 

「ケイト、ちょっとごめん。何か緊急連絡が入った」

「そう? ケビンも何かと大変ね。ケーナ、お父さんが頑張ってお仕事してくれてますよ~、応援してあげてね~」

ケイトが優し気に話し掛けると嬉しそうにするケーナ。本当にケイトの事が(歌姫モードに限る)大好きなんでしょう。

俺は席を立つと部屋の隅に移動して一言。

 

「<召喚術:あなた様>“あなた様、どうしました? 居酒屋ケビンは今週はお休みさせていただきますのでご了承ください”」

“ちょっ、それ聞いてないんですけど!? このところずっと行けてないのよ、その辺どうにかならないの?”

 

「“いや、誠に申し訳ありません。少々家の事でバタついていまして。落ち着きましたらご連絡差し上げますのでどうかご勘弁いただければと”」

“そうね、三人目のお子さんですって、おめでとう。それじゃ落ち着いたらってそうじゃないわよ、その子の事で連絡したの。

そっちは大丈夫だった? 特に問題は発生しなかったの?”

 

何か慌てた様子でまくしたてるあなた様、まぁ今のところうちは問題といった問題はないんですけどね。

 

「“あぁ、うちの子、ケーナって名付けたんですけど、ケイトに似た美人さんで。将来の事を考えるとちょっと問題かな?

まぁマルセル村にいる分には余計な虫は捻り潰してやりますけどね、ハッハッハッハッハッ”」

“そう、特に問題ないんならいいんだけど。そうなると他の場所で誕生したって事に・・・。ごめんなさいね、おめでたいところを邪魔しちゃって。ちょっとこっちで騒ぎがあったものだからもしかしたらって思って連絡したんだけど”

 

「“えっと、因みにそれって俺が聞いちゃってもいい感じの話ですか? 駄目ならこのまま切りますけど”」

“そうね、ケビンも全く関係ない訳じゃないから話しておこうかしら。つい今しがたなんだけど、天上界の神託システムが自動神託を下ろそうとしたの。今回偶々システムチェックを行っていた下級天使がそれに気が付いて神託自体は差し止めたんだけど、内容が問題でね。

<北の大地、厄災の種誕生せり>、この神託がある魂に紐づいてその魂の再誕と共にボルグ王国の聖女たちに向け下ろされるように登録されていたのよ。

場所に関してはその誕生地点により自動的に変更されるようになってたから、初めから狙ってというより条件指定で生まれるように仕組まれた魂だったみたい。

これって誰かの話に似てると思わない?”

 

貴方様の言葉にしばし沈黙する俺、それってアルバじゃん。

 

“それで急ぎ神託記録を確認したら半年ほど前にもボルグ王国の複数の聖女に自動神託が下ろされた記録が確認できたの”

「“あぁ、それでですか。何か異端審問官が来てるんですよね、ボルグ教国から”」

でもそうか~、そんな曖昧な神託でマルセル村を特定したって、凄いな異端審問官。

 

“えっ、そうなの!? でも今のアルバ君は魔王デビルトレントの亡骸を所持している訳じゃないし、特に問題はないのかな?

まぁ、一応気にしておいてね”

「“そうですね、ありがとうございます。でもアルバは確りしてますし、転生者の先輩としてケーナの面倒も見てくれると思うんですよね。

なんかケーナ、前世はどこかの国の王様だったらしいんですけど、相当酷い目に遭ってたみたいで、生まれたばっかりの時は<この腐った世界を滅ぼす>みたいな事を言って濃厚な闇属性魔力を溢れかえらせてたんですよ。けど大分落ち着いたのか、さっきから元気におっぱいを吸ってるんですけどね。

産まれてすぐに魔力を溢れさせちゃ駄目ですね、お腹が減ってしようがないみたいで“やっぱりそこか~~~~い!! ケビン、直ぐに私と**#@様を召喚しなさい、確認しに行くから!!”・・・”」

 

何かヒートアップなさったあなた様、俺はこの事態をどう乗り切ろうかと、一人頭を悩ませるのでした。




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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