転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第726話 天上のOL(総合職)、むせび泣く (3)

“ヒュ~~~、サワサワサワサワ~~”

寒風が枯草の草原を撫でる、窓枠に嵌められたガラスがカタカタと音を立てる。

辺境の冬、草木は枯れ、小動物は姿を消し、魔物ですら長い眠りに就く。

俺はそんな物悲し気で厳しい外の景色に目を向け、指先をそっと「ってこっちを向け~~~、何を一人ポエムに浸ってる~~~、現実に帰ってこないと鑑定して<称号>を読み上げるぞ~~~」

「はい、すみませんでした」

 

何故か超テンション高めで攻撃色に染まったあなた様、薙ぎ払っても突進してきそうな怒涛のツッコミに素直に白旗を上げる俺氏。

 

「えっと、こちらの事情で何かありました? もしかしてお休み中のところを緊急呼び出しされたとか、気持ちよく飲んでたところを邪魔されたとか。

ハハハ、これは冗談です。まさか至高の存在たるあなた様がその程度の事で心を乱されるなど「有休三日間・・・」へっ?」

「明日から三日間の有給だったのよ、今日はようやく激務から解放されて家に帰ってのんびりしてたのよ。そこに緊急呼び出しって、有休取り消しって、通常休養日すら返上して魂の総点検に当たっていたっていうのに」

 

そう言い俺の胸ぐらを掴んで涙ぐむあなた様、これは相当溜まっていらっしゃる。エリート社員と呼ばれるキャリアウーマンが陥りやすい症状ですね、これは。

頑張って頑張って頑張って、魂が疲れちゃったんですね。社畜OL時代はその魂すらボロボロになって痛みに鈍感になっていたものが、大分回復した事で確りダメージとして感じられるようになったと。

 

「・・・あなた様、そう言えば今回は何か天上界で問題が発生したとか、その確認の為に地上に来られたという事でよろしいでしょうか?」

「グスンッ、そうよ、仕事でこうして「でしたら、」・・・」

 

「でしたらきっちり調査して行かなければいけませんよね?

アルバの魂に封印されていた魔王デビルトレントの亡骸がその後どうなったとか、天上界でも相当問題視されているのでは?

本来であれば自分たちの手で消滅処理を施さなければならなかったような特級呪物、確認しない訳にはいかないでしょう。

ですが物が物だけに確認してから一週間くらいは経過観察し、どのような処理が施されているのかの様子を見る必要もあるのではないかと愚考いたします」

俺はそう言うと本部長様に視線を向けます。本部長様はそれだけで何かを察したのか、大きくため息を吐いた後、お言葉を述べられました。

 

「そうですね、私たちは天上界の事情を最優先するあまり地上人であるケビンに大きな負担を掛けてしまっていました。魔王デビルトレントの亡骸処理、本来であれば専門の担当部署を作り対処に当たらなければならない大問題。

あれから半年、一度$$%&がその様子を口頭で確認したとはいえ処理工程を目視で観測した訳ではない。

正直今あなたに抜けられる事は痛手ではありますが、天上界での確認処理は事後確認と調査が主体となります、これは調査部に頑張ってもらう事としましょうか。

$$%&はケビンの子供二人、ヴィーゼ君とケーナちゃんの確認が済み次第、魔王デビルトレントの亡骸の現状確認に向かってください。期限は六日間、報告書は私のところに上げるように」

 

俺の胸ぐらから手を離し呆けた顔をするあなた様。あなた様ってば仕事はできるんだろうけど、こうした方面は要領悪そうだもんな~。真面目と言うかなんと言うか、だから本部長様の信頼も厚くて何かと仕事を振られちゃうんだろうけど。

 

「さてと、それじゃ早速確認作業に移りましょうか。一応子供たち三人を時間遅延空間に呼びますね」

俺はそう言うとアルバ、ヴィーゼ、ケーナそれぞれの傍に行って、おでこの辺りに手を当て、時間遅延空間の影響下に呼び込みます。

この辺、あなた様や本部長様ならそう望むだけで現象が発現するんだろうけど、俺はしがない地上人ですからね、幾つもの手順を踏んで結果を近付ける模倣しか出来ませんっての。

 

「アウ? ダ~、アウアウア~」

アルバが周りをキョロキョロ振り向いて、あなた様方を見てギョッとしています。“お父さん、またなの?”ってよくお分かりで。

 

“・・・ファ~~”

ヴィーゼ君、ブレない、まったく動揺無し。翼を背負ったキラキラ超絶美人(目の下に凶悪な隈あり)を見てもあくびだけって。

流石俺の息子、既に俺を越えているようです。

 

“・・・!? フギャー、フギャー、フギャー!!”

ケーナは天使の御二方を見て一気にヒートアップ、濃厚な闇属性魔力がドバドバと。まぁ今回は俺が吸っときますか、処理場の皆様にご迷惑を掛けるのもなんですし。

そうだよな~、処理場の堕天使様方にはいつもお世話になってるんだよな~。今度何かお供えしておこう、処理場の堕天使様方へって祈ったら送れるのかな? 試してみないと分からないけど。

 

“フワッ”

溢れる涙と共にケーナの身体から溢れ出る闇属性魔力、だがそれらは直ぐに霧散し、宙に溶けるように消えていく。

 

「・・・やっぱりケビンってば普通じゃないわ。なんであれほど濃厚な闇属性魔力に触れても平気なのよ、あまつさえ分散させて吸収しちゃうって意味が分からない。リッチエンペラーと呼ばれる魔物だってそんな事出来ないからね? 少しは自分の規格外振りを自覚した方が良いわよ?」

 

子どものお漏らし処理を頑張ってるとあなた様から盛大なツッコミが。お漏らし処理・・・字面だけ見るとおむつ交換みたいだな~。実際は濃厚な闇属性魔力の分解吸収処理だからそんなに可愛らしいものじゃないんだけど。

 

「まぁ、親として当然ですね。それで見ての通りケーナはまだ生まれたてでして、かなり情緒不安定なんですよ。

これで六歳くらいになれば現状にも納得して安定してくるとは思うんですけど、それまではちょっと。

それで図々しいお願いだとは思いますが、闇属性魔力回収装置を一つ分けていただけないかと思いまして。俺やケイトはこれくらいの闇属性魔力は全く問題ないんですけど、他の人には影響が大きそうでしてね」

俺がそう言うと大きくため息を吐くあなた様。

 

「そうね、ケビンとケイトちゃんが規格外だって事はよく分かったわ。普通であればこれ程の闇属性魔力を放出した段階で赤ちゃんの身体の方が持たないんだけど、闇属性魔力に対する親和性が尋常じゃない両親から生まれたからか、全く影響なさそうなのよね。これ、前世の魂の影響ばかりじゃないからね? ケイトちゃんの二人目の子供が産まれた場合も似たような問題が起こるかもしれないから、よく対策を考えておいた方がいいわよ?」

 

あなた様はそう言うとケイトの腕に抱かれるケーナの傍に寄って、右腕の辺りをスッと撫でます。するとそこには俺が子供の頃付けてたものとは若干デザインの変わった腕輪型闇属性魔力回収装置が。

 

「これは普及型として開発している闇属性魔力回収装置のプロトタイプのものね。基本機能は周辺半径一キロ圏内の闇属性魔力の回収、あくまで余剰に漂っている闇属性魔力の回収を主な目的としたものになるわ。追加機能としては自動魔力障壁機能、物理、魔力、双方の攻撃や障害から使用者を守る事が出来るわ。

それでも限界はあるんですけどね、精霊砲くらいからなら守ってくれるわよ? 起動と停止は任意で出来るから、身体強化訓練時なんかには停止させるといいんじゃない?

後ケーナちゃんは自身の身体から闇属性魔力が勝手に溢れちゃうみたいだから、半径二メート以内に関しては強制的に徴収するようにしてあるわ。徴収した闇属性魔力は腕輪に溜め込む事が出来るようにしておいたからもう少し大きくなったら活用してみてちょうだい」

 

ケーナ専用魔力の腕輪さんが出来たことで、俺は魔力を吸い取ることを中止。これからは何の憂いもなくちょっと変わった女の子くらいの感じでケーナと接する事が出来る事に、ホッと胸を撫で下ろすのでした。

 

「それじゃ早速調べてみるわね。<管理者権限:ステータスオープン:モニター表示>」

“ブワンッ”

中空に現れる巨大なステータス画面、これには驚いたのかケーナは泣くのを止め、モニター画面に顔を向け目を見開きます。

 

名前:ケーナ・ワイルドウッド

年齢:零歳

種族:人族

職業:なし

スキル

剣術 体術 身体操作 身体強化 気配察知 魔力感知 魔力操作 魔力制御 魔力超回復 魔力生成(闇) 魔力異常耐性 毒耐性 算術 交渉術 速読 死霊術 死霊使役 アンデッド生成

葬送

魔法適性 闇

称号 なし

加護 なし

 

「・・・闇魔導士? 死霊使い? 黄色い呪符を用意しないといけないかな?」

俺がそんなボケたことを言っていると、真剣な顔で本部長様とあなた様が相談事を始めておられます。

 

「ケビン、よく聞いてくれる、これはまず間違いない話だから」

そう言い真面目な口調で話し掛けるあなた様、どうやらケーナはよっぽどヤバい事態に巻き込まれているようです。

 

「前にアルバ君の魂に魔王デビルトレントの亡骸が封印されていたって事があったじゃない? その事を受けて天上界の天使たちは自身の職務を一時停止してすべての転生待ちの魂の精査を行った。その結果それらの魂に隠されるようにクリーニング処理の行われていない魂が幾つか見つかったって話はしたわよね」

「ガチガチに条件設定を行って転生の流れに乗らないような状態にして保存していたって話ですよね、結構ヤバ目の魂が三件見つかったとか」

 

「そうね、あれからさらに二件、それと準厄災級の魂が十五件見つかったわ。古いものは三万年程前のものからね、記録を見た時は流石に開いた口が塞がらなかったわよ。

どうやら秘かに準厄災級の魂を使って、思い通りに転生を行わせることができるようにする実験を行っていたみたいね。その結果さらに危険な魂に成長すれば死後保存、そうでなければ通常のクリーニング処理に回すといった事を行っていたみたい。

それでも厄災級の魂というもの自体が貴重みたいで、めったに登場する事はなかったみたいね、この事はアルバ君の事件を引き起こした中級天使から押収した資料から明らかになったわ。

そして一応全ての魂の精査を終える事は出来た、でもその確認を逃れてしまった魂たちがあった。それがアルバ君の事件が発覚する以前に既に受胎してしまった魂、ケーナちゃんがそれにあたるのよ。

冥王グレイシス、嘗て一国の王として国を治めていた者。ただそのやり方が特殊でね、スケルトンやリビングアーマー、死霊馬を国内の農業生産や防衛に採用して人的リソースを補完、高い生産性を以って国を豊かにした人物だったの。

ただそれは周辺各国からしたら脅威以外の何物でもない。疲れを知らない無尽蔵の労働力、安くて質のいい農産物や加工製品、国内のインフラ整備が急速に進み物流が格段に良くなっていく隣国から流れ込むこれらの品々に圧迫される国内商品。

富の集中は羨望から脅威へ、そして憎悪へ。

死者を操る不死の王、冥王グレイシスの国は周辺各国から殲滅戦争を仕掛けられ滅亡した。

でも話はそれだけでは終わらなかった、グレイシスの国へ攻め込んだ周辺各国の連合軍は自国に帰りつくや造反を起こし、各国は大混乱に陥り複数の国が滅びてしまった。

人々はこの出来事を冥王グレイシスの呪いと恐れ、この地域は数百年の混乱を迎える事となった。

厄災の魂冥王グレイシス、ケビンの子はそんな魂の生まれ変わりなのよ」

 

そう言いどこか悲しげな瞳を向けるあなた様。俺はあなた様の話を聞いた後、ケイトとケーナの下に行き、腕に抱かれているケーナを優しく抱きかかえてから言葉を向けます。

 

「かつて自国を滅ぼし刃を向けし複数の国に厄災を振り撒きし厄災冥王グレイシスよ」

真剣に見つめ語り掛ける俺の言葉に、瞳を震わせ動揺するケーナ。濃厚な闇属性魔力を放出させ対抗しようにも、既に魔力の腕輪によりその行動は封じられている。いくら前世の記憶があろうとも今のケーナはただの力のない赤ん坊、その命は弱く儚い。

 

「ぼろ布の包帯を巻く? 怪しい魔法陣が描かれた眼帯もあるよ? いや~、流石我が子、素晴らしい。

“この身に封印されし闇の魂が~~”を素で出来るって。ケーナ先生、半端ないっす。

お父ちゃん、そういうの大好物です、格好いい衣装が欲しくなったらいつでもご相談ください、ケーナ専用冥王装備は直ぐにでも用意でき「やめんか~~~!!」“スパーーーン”グホッ」

 

「このド阿呆!! ケビンの冥王装備はシャレにならないでしょうが!! **#@様、悩むだけ無駄です。この理不尽よりもヤバイ魂は存在しません。

ケーナちゃんに何かがあってもこの理不尽がどうにかします、責任はすべて親であるケビンに取らせましょう」

そう言いハリセンを持ちながら腰に手を当てるあなた様。

 

「・・・そうですね、$$%&の言う通り、悩むより慣れろという事なのかもしれません。ケーナちゃんの魂は一応調べさせていただきますが、その後の対処はケビンさんに一任いたしましょう。

天上界の者として、重ね重ねご迷惑をお掛けした事、心よりお詫び申し上げると共に、地上世界に厄災の被害が広がらないように対処していただけましたこと、感謝申し上げます」

そう言い深々と頭を下げる本部長様とあなた様。

 

「御二方とも頭をお上げください。先程も申しましたが赤ん坊のケーナが癇癪を起すのは自然な事、その結果濃厚な闇属性魔力を噴き出す事はケーナの個性。

その事に特に問題があるとは思えませんし、問題は既にあなた様に対処していただきました。後はケーナが立派な勇者病<仮性>に目覚めるように導いてあげる事が父親としての務め「うん、それは止めてあげようね、ケーナちゃんがドン引きしてるからね。子供はのびのびと育ててあげるのが一番だと私は思うな~」・・・。

えっと、装備が欲しくなったらいつでも言ってね、勇者なんか歯牙にもかけない最強の冥王装備を「お~い、魔王を作ろうとするんじゃない、限度を考えろ限度を。“貴族怖い、商人怖い、冒険者怖い、王都、駄目、絶対”はどこにいった、ケーナちゃんをどうするつもりだケビンは」・・・」

 

頭を抱えるあなた様と本部長様、そんな中ケーナは訳が分からないといった表情で、俺の事を見つめ続けるのでした。




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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