「ほ~ら、ケーナ、ケイトお母さんのところに戻っておこうか。今度はヴィーゼお兄ちゃんを診てもらわないといけないからね」
俺の腕の中で“私のお父さんヤバくない?”といった表情を浮かべるケーナをケイトの腕に戻し、今度はアナスタシアとヴィーゼの下に向かいます。
「ヴィーゼ、ちょっとこっちにおいで。あそこのキラキラしたお姉さんがヴィーゼの事を調べてくれるからね。あのお姉さんは凄いんだよ~、病気から何からみんな分かっちゃうんだから。
そうですよね、あなた様」
俺の向けた問い掛けに苦笑いを浮かべるあなた様。俺、何かおかしなことでも言ったんだろうか?
「そうよね、相手はケビンですものね。落ち着け私、ここでツッコミを入れたら負けよ。向こうがさっきまでの騒ぎをスルーするならそれに乗るくらいの寛容さを見せないと、私は中級天使、地上人を導く者」
何やらあなた様が“ケビンだから仕方がない”や“ケビンがケビンした”に続く言葉を開発しようとしているような。
でもさっきのは仕方がないんです、だってケーナちゃん、前世の呼び名が“冥王”ですよ? 俺の<仮性心>が天元突破ですから、スキルに<アンデッド生成>があるんですよ? スケルトンが作れちゃうんですよ? 簡単な防具を着せて剣を持たせれば、某アニメのオープニングシーンを再現できちゃうんですよ? 駄目だ、溢れる<仮性心>が止まらない。
落ち着け俺、be cool、be cool。
親が子どもの人生を強要しちゃいけない、ケーナにはケーナの考えや生き方があるんだから。
でもな~、ケイトに任せちゃうと白いマットのジャングル戦士にされかねないんだよな~。もしくは丸い土俵の張り手マスター、ケイトの奴、かなり乗り気だから。
ケーナの子育てに関してはホーンラビット伯爵閣下やミランダ奥様、デイマリア奥様にご相談しよう。ザルバお義父さんやカミラお義母さんにも相談すれば何とかなるか? 何とかなるといいな~。
「こんにちは、ヴィーゼ君。私は$$%&といいます。呼びにくいだろうからアルターナって呼んでくれると嬉しいわ。
それじゃ早速調べてみるわね。<管理者権限:ステータスオープン:モニター表示>」
“ブォン”
あなた様が中空に浮かんでいたケーナのステータス画面をヴィーゼのものに切り替えます。
名前:ヴィーゼ・ワイルドウッド
年齢:零歳
種族:人族
職業:なし
スキル
棒 自然児
魔法適性 風 土
称号 なし
加護 なし
「「・・・少ないですね」」
声を揃える本部長様とあなた様、でも普通の赤ん坊ってこんなもんよ? アルバとケーナが特殊なだけだから、あの二人は強くてニューゲームだから。
「でもやはり種族<人族>ですか、どうやらこれで確定のようですね。ケビンと他の人種族が子をなした場合、新種族である<人族>が産まれる。
これはレッサーフェンリルやナインフォックスに見られる現象ですが、新種族発生の際にしばしば確認されています。
人種で言うと獣人族や鬼人族、ドワーフ族やエルフ族などが普人族とは異なる種族として確立していますが、彼らが他の人種と子をなした場合どちらかの種族の特徴が現れる事が多いようです。つまり普人族とエルフ族の場合、エルフ族か普人族かですね。
但しエルフの血を引いて産まれた普人族は潜在的魔力量が多かったり、寿命が一般より長かったり、老けにくかったりといった特徴は出るようですが。
種族としては明確にどちらかの種族として分類されハーフエルフやハーフ普人族といったステータス表記は観測されていません。
つまり今回のケビンのようなケースはこれまでの人種進化過程では見られなかった事、聖転進化を起こした魔物の特徴といえるでしょう」
本部長様からの辛辣なお言葉、どうやらケビン君は魔物認定されてしまったみたいです。でも魔力を取り込み体内に内包する生き物を魔物とするのなら人種だって立派な魔物の筈、外部の手を借りない魔物的進化を果たしたって何らおかしくない。って事でセーフ、証明終了です。(自己弁護とも言う)
「でもヴィーゼも<棒>と<自然児>持ちなのか~、何か懐かしい。俺と一緒だね、流石俺の息子。しかも風と土の属性持ち、将来は魔法使いか何かかな?もう少し大きくなったら魔力制御の訓練を」
「落ち着け親ばか、子供はのびのび育てるんじゃなかったのか~。ケビンがその気になったらどうせやり過ぎになるんだから、少しは自重して?」
透かさずあなた様からのご注意がですね。そうですね、あまり親が押し付けるのは良くないですね。でもこんな感じでステータスを見せられちゃうと親としては一喜一憂しちゃう訳でして、子供が小さなうちはあまりステータスチェックは行わない方がいいですね、子供も親も不幸になる未来しか見えません。
“ファ~~、フア”
“よく寝た、お腹空いた”ってこの状況で? やっぱりヴィーゼはブレない、ドタバタとは無縁ですね。
「ヴィーゼ君、ケーナちゃん、お二人のステータスは分かりました。アルバ君の種族<人族>がアルバ君だけのものではなく確立した新種族であるという確認も取れましたので、この事は記録し、天上界で共有させていただきたいと思います。
最後にケーナちゃんの魂の記録を確認させていただきます」
そう言いケイトに抱き抱えられたケーナの下に歩み出る本部長様。
「本部長様、穏便にお願いします。現状すでにお怒りだとは思いますが何卒・・・」
「分かっています。アルバ君の時はケビンさんと$$%&には迷惑を掛けてしまいましたが、今回はある程度事情もはっきりしていますので、私も心して臨むつもりです」
本部長様はそう言い、一度大きく息を吐かれてからケーナの胸の上に掌を当て、「<上位管理者権限:魂魄履歴開示>」と唱えられるのでした。
「・・・ケビンさん、この度は我々天上界の者が誠に申し訳ありませんでした。
ケーナちゃんの前世、グレイシス王がいかに民を思い自国の為に尽くしていたのかがよく分かりました。結果だけを見れば厄災といえるような実績を残してしまいましたが、周辺各国から殲滅戦を仕掛けられ追い詰められた末の暴走、完全に周辺各国の自業自得と言えるでしょう。
そのような悲しき魂に適切な処理を施さずあまつさえ自分たちの思惑の為の兵器として利用しようとした、決して許す訳にはいかない悪質かつ悪辣な行為です。
アルバ君・ケーナちゃんの魂に対する救済措置として、一時的に仮死状態にし正しく魂の漂白処理を行ってからお身体にお戻しする事も可能ですがいかがいたしますか?
これはアルバ君、ケーナちゃんの意思を第一といたしますが」
ケーナの魂を調べ、謝罪の言葉と共に魂の再処理を二人に提案して来た本部長様。無茶苦茶お辛そうな表情での提案、二人の前世ってそんなに悲惨だったの? 冥王様万歳とか言ってテンションアゲアゲだった俺氏、超気まずいんですけど。
二人が“もう疲れた、消滅したい”とか言い出したらどうしよう。アルバは望んだ田舎暮らしが出来るんだから大丈夫か? でもな~、月白におむつ交換されてる時、死んだような眼をしてるんだよな~。
なんか前世で恋心を抱いていた聖女にそっくりな女性にしもの世話をされるのは精神的にきついとかなんとか、そんでもって月白さんと言えば嬉々としてお世話に励んでいるっていうね。
実は本人ですって事はアルバには内緒にしておこう、下手にばれたら「殺せ~、俺を殺せ~~!!」とか言い出しかねないし。
「“アルバ、ケーナ、本部長様はこう仰っているがお前たちはどうする? 前世の記憶を綺麗に消し去りまっさらな状態で人生をやり直したいというのならお父さんはその事に対して反対はしない。
二人の前世がどれ程のものであったのかという事は、二人にしか分からない事だからな。
ただこれだけは分かって欲しい、たとえ前世の記憶があろうとなかろうと、君たちが俺と奥さんとの子供である事には変わらない。二人は既に俺たちの家族だという事を”」
俺は言葉に魔力を載せ、二人の魂に直接響くように語り掛けます。そしてジッと答えを待つこと暫し。
「ダ~、ダウ~ダ~」
「そうか、分かった。それじゃこれからもよろしくな、アルバ」
アルバは現状を受け入れ、ワイルドウッド男爵家長男アルバ・ワイルドウッドとして人生を歩んでいく道を選んだようです。
“フギャ、フ~、フギャ~~”
“人という醜い生き物、このような腐った世界を生み出した女神という存在を許容する事は出来ない。だがケイトお母さんと共に過ごす日々を思えば何を優先すべきかは明らか。
天使よ、今は矛を引こう。だが貴様らに
ケーナちゃん、言う言う。難しい言葉を使ってるけど、要約すれば“ケイトママ大好き~♥”ってだけなんですけどね。
やっぱり王様をやってただけあって言葉を着飾る癖が抜けないんでしょう。女の子は素直が一番だぞ~、素直になり過ぎるとケイトになっちゃうけど。
「そうですか、天使を代表して改めて謝罪申し上げます。アルバ君とケーナちゃんの今世が素晴らしいものとなることを、この世界に生きる者の一人としてお祈り申し上げます。
大変申し訳ありませんが、私は少しやらねばならないことが出来ましたのでここで失礼させていただきます。ケビンさん、<送還>をお願いします」(ニッコリ)
「ハッ、ハイ、只今すぐに、<送還:本部長様>!!」
“フワ~パ~ッ”
現われる魔法陣、光の粒子となって消えていく天上の御方様。その最後まで変わらぬ笑顔が目茶苦茶怖いっす!!
「・・・あなた様、本部長様目茶苦茶怒っていらっしゃったんですけど、一体何があったんでしょうね」
「おそらくだけど、ケーナちゃんの前世、グレイシス王の生涯を全て閲覧なさったんだと思うわよ。記録に残された全体から見た報告ではなくグレイシス王の視点からの歴史、その上でそんな彼の魂がどう扱われたのかを知ってしまったら、そりゃキレるわよね。
私たちは女神様がお創りになったこの世界を、この世界に生きる人々を慈しみ見守る存在。それがその世界の人々をまるで物のように扱い、あまつさえ兵器にしようとしていた。
**#@様からすればこれまでの行いを全否定するような愚劣な行為ですもの、当然なんだけど。あれ、今頃職場が大荒れよ、本当によく我慢して下さったわ」
・・・危ね~~~~、本部長様の怒り再びだったんじゃん、超危ね~~~。マジで良く堪えてくださいました、本部長様、ありがとうございます。
「え~、それでこの後なんですが、誠に申し訳ないんですが、あなた様には一度天上界に帰っていただいて「ちょっと待って、ケビンのところの視察任務に行くんじゃないの? **#@様の許可はいただいてたわよね? 六日間の視察業務って」・・・ですので一度お帰りになっていただいて扉から居酒屋ケビン経由でお越しいただけないかと」
俺の言葉に胸倉を捻り上げて抗議の目を向けるあなた様、ちょっとタンマ、目の下に凶悪なクマを作った美人に胸倉掴まれてガンつけられるってどんな拷問? むっちゃコワインデスケド!?
「理由としては高位存在であるあなた様方を召喚するのは目茶苦茶魔力を消費するという現実がですね、更にただいま人の身でありながら神聖魔法の行使もしているんですよ。
あなた様も経験なさっていると思うんですけど、地上世界で神聖魔法を行使するのって結構神力使うんですよね。これ、シルフィーに肩代わりしてもらってるんですけど、シルフィーの神力って俺が溜め込んだ魔力を元にしてるんですよ、要するにシルフィーのご飯です。
何が言いたいのかと言えば結構消費がヤバいんです。だから一回帰っていただいて」
「嫌~~~~~~!! 今帰ったら**#@様が大いに荒ぶっておられる現場のど真ん中に送られるって事じゃない、視察の話が吹き飛んでもおかしくないじゃない!!」
あなた様、落ち着いて、そんなにガクガク揺すぶられると首が、むち打ちになっちゃう~!!
「そこは頑張ってとしか、マジでヤバいんでもう<送還>しますね。<送還:あなた様>、居酒屋ケビンでお待ちしてま~す」(ニッコリ)
「やめて、お願い、ケビンの阿呆~~~~~~~」
“フワ~パ~ッ”
現われた魔法陣、光の粒子となって消えていくあなた様。俺は大粒の涙を流しながら天上界に戻っていかれるあなた様を笑顔で送り出しつつ、居酒屋ケビン経由で訪れたあなた様には心行くまでのんびりしていただこうと、歓迎プランを考えるのでした。
「さて、アルバ、ヴィーゼ、ケーナ、大変だったな。まぁ人生は長い、色んな事があるって事だ。
シルフィー、黒鴉、ご苦労様。黒鴉、あなた様たちが残した神力全部吸っちゃってくれる? どうもありがとう。それじゃ、状況を終了する、<天想顕現:解除>」
音が戻る、人々が動き出す、時の流れが刻まれる。
“フエッ、フギャ~~”
「あら、ケーナ、どうしたの? 急に抱き付いたりして。フフフ、ケーナは本当に甘えん坊さんですね~」
優しく美しいケイトの声が木霊する。ケーナは思った、ケビンお父さん、ヤバいと。
和やかな空気が流れる、笑顔が溢れる。ケビンの三人の妻たちの出産はこうして無事に終了した。生まれた子供たちは祝福に包まれ、マルセル村の一員として迎え入れられるのだった。
“ガチャリ、キーーーー”
その夜、山の中腹にある一軒の居酒屋を訪れた常連客が、涙と愚痴を巻き散らかしながら荒れに荒れたことは致し方のない事なのであった。
「ケビンの馬鹿野郎ーーーーー!! トライデント、お代わり!!」
本日一話目です。