転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第728話 天上のOL(総合職)、暫しの休息をとる

“ザザ~~~、ザザ~~~、ザザ~~~”

寄せては返す波の音、南国特有の温かな風が、潮の流れに沿って優しく髪を撫でる。

広がる砂浜に伸びる何本ものヤシの木、大きな葉が緩やかに揺れ、砂の上に映る影を小刻みに揺らす。

 

“コトッ”

ビーチパラソルの下、ゆったり足を伸ばす事の出来るリクライニングチェア。私は隣に置かれたサイドテーブルにグラスに入ったヤシの実ジュースを置くと、読みかけの小説に手を伸ばす。

題名は「異端審問官~傾国の黄昏~」、とある国で繰り広げられる異端審問官と邪神教徒との壮絶な戦い。邪神教徒は魔王を復活させ世界を混沌へと陥れようとするが、その陰謀に気が付いた異端審問官が潜入調査を行い、邪神教徒の陰謀を暴いていくというストーリー。

 

「“神聖降臨、天使合一”、これ、呼ばれてるのって下級天使かしらね。頻繁に地上人に呼ばれての肉体労働、ちゃんと特別手当は出るのかしら?

恐らく勤務時間外の呼び出しもあるだろうし、この天使もなんでこんな契約を結んじゃったんだか。

でも以前初めてケビンに召喚された時は焦ったわ~、“まさか休日に読んでいたラノベの異世界召喚が自分の身に起きるなんて”って大パニック、悪魔と戦わされるはめになるって本気で心配したんだけど、蓋を開ければ地上人初の召喚魔法って。

本当にケビンってば意味が分からないわよ」

 

揺れる木漏れ日、穏やかな一時。私はふとこの島に来た日の事を思い出すのだった。

 

――――――――――――

 

「やめて、お願い、ケビンの阿呆~~~~~~~」

自身が光の粒子に変わる中、私の虚しい叫び声だけが部屋の中に木霊する。ケビンは必死の私の願いを完全に無視し、ニッコリ笑顔で<送還>を敢行したのだった。

<召喚術>、それはこの世界でケビンが初めて行った新しい技術、対象との間にある種のバイパスを作り、魔力を消費する事で対象を自身の下に呼び寄せるというもの。消費魔力は対象の存在値に比例し、力ある高位存在を召喚する事は普通の地上人には難しい。計算上、数十名の魔導士が協力して儀式を行っても数分しか呼び出しを行うことが出来ないだろうというのが天上界の見解であった。

それをこの大特異点はたった一人で何の苦痛もなく行ってしまう、中級天使である私であれば数分どころか数時間でもまったく問題なく<召喚>し続けることが出来るだろう。

そんな異常性が私の目を曇らせたと言われればそれまでなのだが。

 

通常天使が地上に降臨する場合は複数の手続きを踏み予定を明確にしてから行われる。緊急事態であるとして頻繁に天使が降臨する事は、地上世界にあらぬ混乱を招くばかりか、地上世界の人々の正しい発展を阻害する恐れがあるからだ。

だがケビンの<召還>はそうした一般業務による降臨とは質を異にする。地上人からの呼び出し、これまでになかった手法、その行為がスキルとして成立している以上、召喚術は天使と地上人との新たな交流手段として女神様より認められたという事になる。つまり複雑な手続きを踏まずとも地上に降臨することが出来るのだ。

これは今回のように緊急性の高い事態の確認の際は、非常に有効な手段であった。

私と**#@様はケビンに依頼し、**#@様の執務室から地上世界のケビンの下へ召喚される事となったのであった。

 

下級天使のシステムチェック中に起きた自動神託システムの起動、ケビンの第三子として誕生してしまった封印されし厄災の魂。これは最悪の事態から考えればマシではあるものの許される失態ではない。

しかも全ては天使の思惑が絡んだ“地上人浄化計画”の一環。どのグループが行った犯行かまでは分からないものの、地上人の魂をモノとして扱い兵器として運用しようとした悪質かつ悪辣な行為である事には変わらない。

**#@様がブチギレつつ天上界に戻られた事は致し方がないとは思う、思うんだけども、せめてあと一時間<送還>は待って欲しかった。

全身から怒りを迸らせ神力を爆発させる**#@様、天使が勤める丈夫な本部建物が揺れる揺れる、執務室内は神力の嵐が渦巻く異常地帯、エネルギー波が稲光のように鳴り響き物凄い速さで渦巻く神力に、室内のあらゆるものが吹き飛ばされ時空の穴に吸い込まれていく。

そう、あらゆるものが、その場に送還された私も全くの例外ではなく、神力嵐の中の時空間に放り込まれてですね。

 

そこは時間と空間が捻じ曲がったエネルギー渦巻く地獄、抵抗する事も出来ず竜巻に巻き込まれたかのようにグルングルンのグチャグチャにされる私。永遠とも思える時の中、ようやく解放されたのは**#@様が神力を暴れさせるだけ暴れさせてある種の賢者タイムに入った時。

一瞬にして**#@様の執務室に戻された私は這う這うの体で執務室を脱出、同僚の目をかいくぐりリクリエーションルームに置かれた居酒屋ケビンへの扉を<オープン>、カウンターに立つトライデントに泣きついたのであった。

 

その後徹夜で飲み明かした私は完全に意識を失い、気が付いたのは天蓋付きのベッドの上。

「お目覚めになられましたか、あなた様」

声を掛けてきたのはいつだかマルセル村の礼拝堂で顔を合わせた事のあるケビンのメイド、名前は確か・・・。

 

「お久し振りでございます、あなた様。ケビン・ワイルドウッド男爵閣下に仕えております月影と申します。本日より六日間、あなた様の身の回りのお世話をするようにと旦那様より申し付かっております。

御入用な物やご要望がございましたら何なりとお申し付けください」

そう言い深々と頭を下げる月影、地上人との無用な接触は天上界で固く禁止されている特記事項、私はこの状況を如何したらいいのかと頭を悩ませる。

 

「ご主人様よりの伝言でございます。“今回の視察はただ魔王デビルトレントの亡骸がどう処理されているのかといった事の確認に止まらず、自己領域空間がどのような状況になっているかの確認も兼ねたもの。であれば自己領域空間で過ごすワイルドウッド男爵家の使用人との接触は不可欠。

潜入任務を行うシスターアルターナとして、確りと任務を果たされますよう”、以上でございます。

ですが残念ながら我が家にはシスター服のご用意はございません、こちらのクローゼットに幾つかのお着替えをご用意いたしましたので、お好みでご自由にお着替えください」

そう言い一礼をし部屋を下がるメイドの月影、私は勧めに従いクローゼットを開ける。そこにはケビンの所有する自己領域内に存在する南の島によく似合いそうなおしゃれなワンピースや探検家のような衣装がずらりと並んでいるのだった。

 

「よくお似合いでございます。アルターナ様、お食事のご用意が出来ておりますがお召し上がりになられますでしょうか?」

それからの日々は至れり尽くせり、一応仕事の名目として魔王デビルトレントの亡骸処理の現場や島全体の様子を見学しなければいけない事を伝えると、「案内の者をお付けします」といってトライデントを呼び出してくれた。

 

「では向かいましょうか、アルターナ様」

“バサッ”

広げられた一対の翼、普段居酒屋ケビンで会う時とは雰囲気の違う執事のようなトライデントの様子に、少しドキリとしてしまった事は内緒だ。

 

“ヒョイッ”

「えっ、ちょっと何を」

突然私を両手で抱え上げるトライデント、まるで小説の一場面のような状況に混乱する私。

 

「マスターより$$%&様滞在中は“夢のお姫様”のように接するよう申し付かっております。詳しい事は同僚のメイド(十六夜)に指導を受けてまいりましたのでご安心を。では参りましょう、アルターナお嬢様」(ニコリ)

私の目を見詰めながら優しく微笑むトライデント、思わず顔を赤くする私。ってあなたの顔ってまんま#@&&(元堕天使・呼び名:御方様)の顔なんですけど!? 私今度#@&&に会ったときどんな顔したらいいのよ~~!!

 

“バサッ”

舞い上がる翼、空から眺める島の景色はとても雄大で、そして美しくて。

 

「たまにはこうして人の翼で空を飛ぶ事もよろしいかと。$$%&様は常に自分の翼で飛ばれている、折角の休養、のんびりと過ごされてはいかがかと。

おっと失礼いたしました、これは視察、大変重要な任務でございました。先程の言葉はどうかお忘れください」(ニコリ)

 

・・・グホッ、なに、この超ド級の攻撃は。トライデントは私を如何したいの? 私ってば実は口説かれちゃったりしちゃったり?

いや待て待て待て待て、落ち着け私。トライデントは魔物だから、何処をどう見ても天界人って言うか、その存在は天界人に酷似しているけど人造の魔物だから。ケビンのスキル友達生成によって作り出された特殊個体だから。

<私は中級天使、地上人を導く存在。私は中級天使、地上人を導く存在>

よし、私は大丈夫、仕事は仕事。この状況は“夢のお姫様体験”という名の接待、自分をしっかり持つのよ、私!!

 

“ヒュ~~~~~~~”

「あちらに見えます黒い箱状の物、あそこが魔王デビルトレントの処理場になります。全体はマスターの結界術により覆われており、周辺に呪詛による闇属性魔力汚染が広がる心配はございません。

結界内には四本の魔剣が交代で控え、魔王デビルトレントの亡骸より溢れる呪詛を全て吸い上げています。

本体に関してはマスターの契約魔物であるスライムの大福、ビッグワームの緑と黄色、キャロルとマッシュ、精霊王女であるシャロンが処理に当たっております。

では下降します」

 

“ブワサッ、ブワサッ”

ゆっくりと地上に降り立ったトライデントの腕からそっと地面に足が下ろされる。

 

「アルターナ様、空の旅はいかがでございましたか? 何か至らぬ点などはございましたでしょうか」

「えっ、えぇ、快適でしたわ。ありがとう、トライデント」

 

「それは宜しゅうございました。では早速視察を行いましょう。本日の処理係はキャロルとマッシュ、それとシャロンですね。魔剣は“闇喰らい”と“ブラッドソード”でございます」

「何か物騒な名前の魔剣ね。まぁケビンの所有物って段階で物騒なことこの上ないんですけど」

 

私はトライデントの言葉に一抹の不安を覚えつつ、案内に従い処理場となっている大結界に足を踏み入れたのでした。

それは異様な光景、目の前にドンと姿を現す巨大な何か、そしてその巨大な何かに喰らい付く大きな姿をした二体のスネーク系魔物とブラックドラゴン。

 

「・・・トライデント、これは一体」

「はい、あの二体はビッグワームのキャロルとマッシュですね。種族名はカースファームドラゴンワーム、ここでデビルトレントの亡骸処理を行うようになってからというもの、身体付きがどんどん大きくなりまして、今じゃあれ程立派に。

隣で食事、オホンッ、失礼しました。隣で同じく処理を行っている者は精霊王女(スケルトンドラゴン種)のシャロンになります。今はドラゴン体型を取って作業に当たっているところです」

 

「えっ、でもあの姿はどう見ても世界を大混乱に落とし多くのドラゴンを屠った同族殺しのブラックドラゴンじゃ、たしかドラゴン同士の戦いに敗れて現在のローレライ大砂漠地帯のどこかで遺体となって眠っているはずじゃ・・・」

「いえ、あれはシャロンです。ドラゴン体型のシャロンは骨そのものなんですが、デビルトレントの亡骸を吸収していくうちにドラゴンゾンビ体型を取れるようになりまして、今ではまるで生きているような姿も取れるように。人型ですとどうしても口が小さく処理も少量だったのですが、あの姿を取れるようになって処理速度が格段に上がったのですよ。

人型の時の姿も大人びてきたといいますか、主人であるブー太郎に一杯甘えられるととても喜んでおりました」

 

「それと、あえて触れてなかったんだけど、あの宙に浮いているどう見ても危なそうなロングソードとサーベルなんだけど」

それは鈍色の刀身に血管が浮き出た誰が見ても呪われていると答えるだろうロングソードと、デビルトレントの亡骸に対抗するかのように呪詛をまき散らすサーベル。どちらも常人が目にすれば発狂してもおかしくない程の危険物。

 

「あの二振りが呪詛を吸収している魔剣です。お陰で魔王デビルトレントの亡骸の味が良くなったと処理担当の従業員からも好評でして。呪詛を吸い上げる事で雑味がなくなるといいますか、純粋な闇属性魔力素材の旨味が前面に引き出され、味わいがぐんと高まるとの話でございます。

流石にそのあたりの事は私にはよく理解出来ないのですが」

「ハハハハハ、うん、そうね、私にもよく分からないわ。でも安全な処理が行われている事、周囲に残渣が広がってはいないという事は確認できたし、見たままの状況を報告させていただくわ」

私はそうして乾いた笑いを浮かべながら、一回目の処理場視察を終えたのだった。

その後二回ほど視察を行い、フーディースライムの大福による処理、ファームドラゴンワームの緑と黄色による処理、魔剣黒鴉と匠の呪詛吸収の様子を見学した。

 

―――――――――――

 

“コトッ”

「アルターナ様、フルーツの盛り合わせでございます」

サイドテーブルに置かれた美しく盛り付けられた南国フルーツの数々、食べ易いように切り分けられている気遣いがうれしい。

私はフォークをオリンジの実に刺すと、口に運ぶ。甘酸っぱさが口いっぱいに広がり、気分を爽快にしてくれる。

 

“ザザ~~~、ザザ~~~、ザザ~~~”

波の音が鼓膜を揺らす、穏やかな時間が過ぎていく。いつまでもこうしてゆったりと・・・。

 

「$$%&様、この度は魔王デビルトレントの遺体処理と特異点ケビンの自己領域の視察、大変ご苦労様でございました。お迎えが来ております、と言うか私がお迎えなんですが。

さぁ、休暇は終わりです。**#@様がお待ちですよ?」

そう言いニコリと微笑むトライデント・・・。

 

「えっ、もしかしてあなた、#@&&だったり・・・」

「はい、こちらには時々リハビリの為伺っているんです。トライデントとして振る舞っている分には誰にも不審に思われませんので。それでも一部の者には事情を説明してあるんですが」

 

「因みにいつからこっちに・・・」

「昨日からですね、**#@様にも様子を見てくるように頼まれていましたので。森のスライム調査、畑の視察、デビルトレントの亡骸処理の視察、確り職務を果たされていたと報告させていただきます」

 

「・・・という事は昨日私を抱えて空を飛んでいたのは」

「私になりますね。腕の中に抱かれ楽しげにされている姿がとても可愛らしく、思わず頬を赤らめてしまいました」(ニッコリ)

そう言い私に微笑みかける#@&&。

 

「いや~~~~~~!! 私を殺せ~~~~~!! あが、あが、あが、いや~~~!!」

美しい砂浜に響く女性の叫び声、そんな様子を森の一部となって観察していたメイドは、ここから始まる恋の予感にニヨニヨする表情を止められないのであった。




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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