転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第730話 王都の大聖女、リモート会談を行う

うす暗い深夜の礼拝堂、月が天に上り、天窓の明り取りから差し込む月明かりが、幻想的に部屋の中を照らし出す。

部屋の最奥、女神様像の前には神聖な気配を纏う一人の女性。外からの入り口である扉は大きく開かれ、入って直ぐの場所に跪くシラベル司祭とその脇に立つ御神木様とグランド。

 

「ふむ、<共振憑依>、つまり今のあなたはシスターミレーヌでもあるが大聖女イブリーナ・ボルグ殿でもあると。

そのような方法で遠隔の意思伝達を行うとは、人とは本当に面白い事をする。確かに余程の高位存在でもない限り念話による伝達の範囲には限界があると聞く。情報の共有だけであれば伝達の魔道具を各所に設置する事でいずれ可能となるやもしれんが、より深い情報の共有にはこうした手法の方が優れているという事か」

御神木様は目の前の女性の状態にいたく感心し、腕組みをしながら頷かれます。

 

「いや~、しかしこんな場所でボルグ教国の秘匿されし大魔術を目にすることが出来るとは。確かこれって儀式魔法の一つでしたよね、緊急事態が起きた際の各国教会間の伝達手段、王都の大聖堂のような特別な聖域同士でしかやり取りできないって聞いていたんですけど、実は違ったんですね。

まぁ俺が話を聞いたのはそれこそ百六十年近く前の事だからあれですけどね。それに今じゃバルカン帝国やリフテリア魔法王国が新たな通信の魔道具を開発してるっていうし、今後は特別な儀式以外では使われなくなるのかな? 何にしてもいいものが見れました」

グランドはまるで観光客気分、偶々有名なお寺に参拝に訪れたら数十年に一度の御開帳に出くわしたって感じでしょうか。

 

「なっ、なぜこのような所にこれ程の高位存在が。それに現在の勇者はナミビア王国とガジン王国、それとここオーランド王国のジェイク・クローの三人だけの筈、四人目の勇者が誕生していたなどという報告は・・・」

目の前の人物たちを見つめ信じられないといった言葉を向ける女性、その在り様からここでは敢えて大聖女イブリーナ・ボルグ様としておこう。

 

「あぁ~、俺が<勇者>であるって事が分かるって事は、その<共振憑依>って儀式魔法はただ互いの通信手段として用いられるものだけじゃないって事なのか。

それこそ言葉を交わすだけなら通信の魔道具でもいいし、まだまだ技術的な問題で大型化は避けられないだろうけど、王都からこの辺境マルセル村までくらいならギリギリ何とかなるって聞いた事があるからな。

これ、カマを掛けてるとかじゃないから、王都諜報組織“影”の耳目からの情報ね。

で、大聖女様が儀式魔法であるとはいえ直接出張ってきたって事は、それだけこのマルセル村の状態とケビン・ワイルドウッド男爵という存在を重要視しているって事なんだろう? 関係各所から上げられた報告書だけじゃ意味が分からなかったって事なんだろうな、うん、分かる分かる」

そう言い腕を組みウンウン頷くグランド。・・・あの野郎、すっかりマルセル村に染まりやがって。肝が据わったというか開き直ったというか、最近じゃ人の事をカオス様呼ばわりして来やがるし、楽しくやってるみたいだからいいんですけどね。

 

「・・・えぇ、そうですね。我々はここマルセル村、そしてケビン・ワイルドウッド男爵に注目しています。

この数年立て続けに起きたオーランド王国の内紛、事の始まりはランドール侯爵家とグロリア辺境伯家との地方貴族同士の紛争であった。だがそれはバルカン帝国の策略、続いて起こるダイソン公国の独立戦争、バルカン帝国のヨークシャー森林国への侵攻、全てはバルカン帝国の侵略戦争の布石。

それらの騒動解決の中心的役割を果たしたのは現在のホーンラビット伯爵家であり、ホーンラビット伯爵家躍進の陰の功労者がケビン・ワイルドウッド男爵。

過去の歴史を紐解けばこうした英雄は幾度となく登場し、国の発展に寄与したり大きな功績を遺したりもした。そしてそうした特質した存在はその在り様がステータスにも表れている。

ですが彼は違った、いえ、ある意味特殊過ぎた。職業は<田舎者(辺境)>、珍しくはあるものの特質した才能を示すようなものではない。

ホーンラビット伯爵家の双璧と呼ばれる“鬼神ヘンリー”や“剣鬼ボビー”は元々冒険者時代に才覚を表し金級冒険者、白金級冒険者に上り詰めた者、そうした者たちが更なる研鑽を積み大きな功績を遺した、これは納得できる話です。ですがケビン・ワイルドウッド男爵は違う、いくら優れた指導者に鍛えられたからとは言えステータスと実績とがかみ合わないのです。

そして称号、それ程の実績を残しているにしては簡素に過ぎる、そこで我々は専門機関にこのステータス結果の分析を行わせました。

彼らの結論はケビン・ワイルドウッド男爵のステータスは情報の多くが秘匿されているというものでした。

どのような方法でそうした事が行えたのかは分かりませんが、統合系スキルのように全ての情報をまとめて仕舞い込んでいるのでしょう。称号の後ろに付いていた(*)の印がそれを物語っています。

そして何より・・・」

 

捲し立てるように話し続けた大聖女様、結構今の状況に一杯一杯だったりするのかな? ボルグ教国の大聖女といったら女神様の下にお呼ばれして謁見してるんじゃなかったっけ? だったら高位存在を前にしたくらいで動揺するとも思えないんだけど。

 

「種族:<人>、これまでの教会の記録では一切発見された事のない新種族、十二歳の授けの儀の時にははっきりと<普人族>であったと記載されている者が種族変化を起こした、これは一体どういう事であるのか。

オーランド王国の各貴族家からは数多くの告発文が送られてきていました、“オーランド王国が魔王に乗っ取られようとしている”と」

 

大聖女イブリーナの言葉に口元を固く結び、小刻みに肩を震わせるグランド。

・・・あれって絶対笑いを堪えてるよね。結構今シリアスなシーンなんだからね、大聖女様、目茶苦茶真剣だから、頑張れグランド。

それと月影、「魔王カオス様にお着替えを」とか言うんじゃない、そんな事したら俺の命がデンジャーなの!!

コホンッ、眉間に皺をよせ眼光を鋭くさせるグランドに、大聖女イブリーナはなおも言葉を続ける。

 

「“誰それが魔王であり人々を苦しめている”、そうした告発は度々我々の下に送られる事、我々とてその程度の事で動く事はありません。ですが今回は状況が違った、注目すべき事象は積み上がっていた。そんな時です、ボルグ教国の複数の聖女たちにある神託が下ろされた。

“北の大地、厄災の種誕生せり”、私たちが異端審問官による調査を行う事になった経緯、何故私がこうして訪れたのかといった事がお分かりいただけたかと。

<勇者>グランド、いえ、“剣の勇者”よ。嘗て人々のため剣を取り魔王を打ち破った英雄よ、どうか今一度その力を人々のため、女神様が創りたもうた世界のために使ってはいただけないでしょうか」

 

「・・・<神眼>、だったか。相手の過去も全て丸わかりになる究極の<鑑定>だったかな。だったら敢えて説明するまでもないな、大聖女様が言う通り、俺は嘗て<勇者>と呼ばれた者、今はお茶農家として働いている。

いまさら人の国家に復讐しようだなんて考えはないさ、だから俺が<勇者>の力を使い厄災となることはないから安心してくれ。

その代わり勇者として動く気もない。最初にお宅のところのシラベル司祭が言っていただろう? “お茶農家のグランド”って。

俺はただここマルセル村の一人の村人としてあらぬ騒動が起きないようにとこの場に来ただけだ。

確かにこの村は異常だ、人にしろ魔物にしろな。だがそれでも平和に毎日を送っている。神託だかなんだか知らないが、マルセル村にちょっかいは出さない方がいい。

そうだな、ここの礼拝堂を神眼で鑑定してみればいい、俺の言いたい事が少しは分かると思うぞ?」

 

大聖女イブリーナの要請を肩を竦めながら断るグランド。大聖女イブリーナはその言葉に眉をしかめながら言われた通り礼拝堂に目を向ける。

 

「なっ、“祝福されし礼拝堂”、女神様に祝福された礼拝堂、このような場所が辺境の地に・・・。これは世界の宝、守るべき聖域」

「あぁ~、気持ちは分からんでもないが既に高位存在によって守られているから、余計な事は考えない方がいいぞ? それよりも肝心なのはその製作者だ」

 

「・・・製作者:ケビン、これは」

「あぁ、考えてる通りだ。聞いたらまだ叙爵する前、ただの村人だった頃に作ったものだって言ってたぞ。

これは同じ<鑑定>の力を持つ者としての警告だ、<神眼>でケビン・ワイルドウッド男爵のステータスを暴く事は止めておけ。

後悔とかで済むのならまだいい、この世界や女神様に対する信仰心が大きく揺らぐ事になる。

どうせこの後もシスターミレーヌはこの村で<鑑定>をし続けるんだろう? その結果だけで満足する事をお勧めする。

まぁそれだけでもとんでもないんだけどな、世の中には知らない方がいい真実ってものが存在するって事を改めて教えられたよ」

 

そう言いどこか遠くを見つめる<勇者>グランド。おい、人のステータスを見るだけで精神を侵す特級呪物みたいに言うんじゃない。俺のステータスは封印されしグリモワールか、王家の地下倉庫に厳重に保管されてるとでもいうのか!!

因みにオーランド王国の特級呪物は毎日楽しそうにアルバのお世話をしていますけどね!!

 

さて、そろそろ俺の出番かな~。俺は月影に合図を送ると、自身も舞台に上がるべくスタンバイに入るのだった。

 

―――――――――――――

 

“コトッ”

その音は緊張感漂う夜の礼拝堂に、静かに響き渡るものでした。

この場には私と司祭シラベル、そして礼拝堂の管理を行う高位存在である御神木様と名を変えた嘗ての剣の勇者グランドがいるだけの筈。

視線を音のした方へ向けると、そこにはメイドによって出されたのであろう丸テーブルの上のグラスに手を伸ばす人物の姿が。

 

「豊潤で力強い香り、今宵に相応しいワインだね。<Departure>、出発や旅立ちを意味する言葉だったかな? 王家や高位貴族家でも特別な席で用意される特別なワイン。でも人族って本当に面白いよね、これから女神様の下に送ろうとする者にこれ程の味わいのワインを用意するんだから。

“死ぬほど美味しい”っていう言葉があるけど、このワインはその言葉を体現しているよね、だって飲んだら本当に死んじゃうし。

でも暗殺者ギルドって、これ程のものをどうやって用意しているんだろう? もしかして特別なワイン用のワイナリーで製造されているとか? 今度その辺もマスターに聞いてみないとね」

 

そう言い手元のワインに口を付ける何者か。

 

「やぁ、大聖女イブリーナ・ボルグ様とマルセル村の皆さん、今宵は素晴らしい舞台をありがとう。

いつも思うけど、人族の営みは本当に面白いよね。特に今回はボルグ教国の秘匿されし大魔術まで見ることが出来たしね。

<共振憑依>だったっけ、憑依対象であるシスターと魂の波動を合わせ、まるでその場にいるかのように振る舞うことが出来る秘術、更に言えば、憑依状態であれば自身のスキルも使うことが出来る。

これはかなり強力な技だよね。神聖魔術の応用ってところかな?

この技術を授けたのはどの天使か、まぁボルグ教国の担当者は決まっている訳だし追及するまででもないか」

 

そう言い楽しげにワイングラスを弄ぶナニカ。

 

「・・・一体何を言ってるのです? それにあなたは何者ですか」

私は突然この場に現われた正体不明の人物に鋭い視線を向けます。この者は一体何を知っているというのか。

 

「う~ん、僕の事は既に報告書で読んで知ってると思うんだけど、オーランド王国の諜報組織“影”の人たちは僕の事を“鑑賞者”とか呼んでるかな?

まぁ僕は人の営みを見るのが好きだしね、人の文化って本当に面白いよね。愛し合う者同士で争い合う、このワインにしても相手を殺す為のワインなのに最高級ワインといってもいいような深い味わいに仕上がっている。

相反する思いと矛盾に満ちた生き方、そんな不完全で醜くて懸命に生きる人々を眺め続けるのが趣味のただの鑑賞者。

 

君だって似たような存在なんでしょう? 大聖女イブリーナ・ボルグ。

今は第八十四代イブリーナ・ボルグだったかな? 随分と頑張っちゃったよね~」

 

背筋を走る戦慄、このナニカは一体どこまで。

私はまるで時が止まったかのような礼拝堂で、ただじっと目の前の人物を見つめ続ける事しか出来ないのでした。




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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