転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第734話 それぞれが動く、そして世界は廻る

“バサッ、バサッ、バサッ”

冬の澄み切った空を何かの影がよぎる。

 

「観測手、首尾はどうだ」

「目標の視認に成功。騎馬四十七体、歩兵二百五名、<描写>に問題はありません」

 

「よし、これより予定行動の通り帰投する。お前は直ぐに観測結果を描写し司令官に報告しろ」

「了解、班長も安全航行でお願いしますよ?」

 

それは雲一つない空の上、上空八百メートという人の身では到達困難な場所。

 

「何を言ってる、俺がいつそんな無理をした? 俺とバーニアンだけであればもっと高い場所で訓練を行っているんだぞ?

よし、お前にも高度千メートルの世界を」

「やめてください、凍えちゃいますから、そんな所で飛行訓練を行ってるのなんて班長だけですから!! こないだも司令官からこっぴどく怒られてたじゃないですか!!」

 

観測手が抗議の声を上げるも、操獣手はどこ吹く風。従魔の首筋をポンポンと叩き帰投の指示を行う。

 

「バーニアン、基地に帰る。戻ったらうまい飯を食わせてやるからな」

“キュワ~~~”

風を切り、飛び去っていく彼ら。その表情は希望と誇りに満ちた男の顔であった。

 

「司令官、飛竜部隊の訓練は順調かな」

「ハッ、バルザック伯爵閣下。航空戦力のもっとも有効な運用法として閣下が提唱された情報収集任務ですが、操獣手と観測手による偵察任務方式は誠に見事かと。

本日の訓練でも魔獣討伐任務で大魔境周辺域の遠征に向かった部隊の偵察に向かわせましたが、騎馬数歩兵数ともに事前の報告を受けていた人数を正確に観測、移動時の部隊編成も確り記録し報告書と共に提出されました。

まさに鷹の目、敵の全容が丸見えとなれば相手方は丸裸にされたも同然でありましょう」

 

敬礼し部下の成果を誇らしく語る司令官。バルザック伯爵はその姿に大きく頷きで応える。

 

「我がオーランド王国は未だバルカン帝国からの脅威に晒されているといっても過言ではない。これは極秘情報とされてはいるが、昨年の王都武術大会開催時にもバルカン帝国の工作部隊により陛下のお命が狙われたとの事だ。幸いその計画は王都諜報組織“影”と協力者の手により未然に防ぐことが出来たとの話ではあるが、ダイソン公国との戦争が終わったからといって油断する事の出来る状況ではないのだ。

これからの戦争に必要なのはいかに素早く正確な情報を集めるのかという事に掛かっている、飛竜部隊の登場は我が国の軍事力に大きく寄与する事だろう」

「ハッ、閣下のお考え、私も全面的に支持いたします。ですが少々懸念が・・・」

 

司令官はそう言うと眉根を寄せ困り顔を作る。

 

「・・・あぁ、ターレル子爵たち猛竜隊の連中か、彼らはベイル伯爵の肝入りだからな。飛行訓練に対する姿勢は認めるが、ワイバーンの運用法がどうにもな。

確かにワイバーンは鋼の剣では傷一つ付ける事の出来ぬほどの頑強な身体を持っている、だが白金級冒険者という存在がいるように決して無敵の存在ではない。ミスリルの剣のように魔力を通し易い武器であれば傷付ける事も可能だ。

高高度からの偵察であればバルカン帝国の最新式石火矢であろうがどうという事もないが、近距離で攻撃されればどうなるのか分からない。

ワイバーンの代わりはそうそう準備する事など出来ないというのに、なぜわざわざ上空から接近戦を仕掛けるような攻撃訓練を行うのか理解に苦しむ。それであればいつだか国王陛下が第二王子殿下にお話になられたというマジックバッグに岩でも詰めておいて上空から落下させた方がどれだけ有効な攻撃となるのか。同じ訓練ならばそちらを優先的に行なえばよいものを」

 

ハハハと乾いた笑いを浮かべるバルザック伯爵と司令官。「本当は物流の手段としての運用が理想なのだが」と呟くバルザック伯爵に、何と言葉を返せばよいのかと悩む司令官なのであった。

 

―――――――――――――――

 

王都の夜は更ける、とある貴族屋敷では多くの貴族家の当主が集まり会合を開いていた。

 

「聞きましたかな、ボルグ教国の大聖女イブリーナ・ボルグ殿のお話は」

「はい、何でも神託に従い例の伯爵領の調査を行っていたとか。あの家は調子に乗っていましたからな、これで国王陛下もお考え直しになられるでしょう」

 

「大体辺境の一村長が貴族籍を持つ事もそうだが、伯爵という地位を賜るなど前代未聞、これはオーランド王国の汚点ですぞ」

「然り然り、我らの祖先が築き上げてきたオーランド王国の伝統と格式を踏みにじる暴挙、決して放置してよい問題ではありますまい」

 

出席者の口から次々と上るある貴族家の名前。

 

「だがこれであの家もお終いですぞ。噂では異端審問官の調査が入ったとか、あの地の異常性がこれで白日の下に晒されるというもの。

魔物を使って領地を豊かにしようなど正気の沙汰とは思えない。そのような家は即刻正義の鉄槌を受けるべきなのだ、そうではありませんかなエラブリタイン卿」

「ハハハ、そうですな。私も以前陛下のご命令で彼の地の視察を行った事がありましたが、現在ではその時よりもさらに多くの魔物を領地で飼育しているとか。

私の行いも無駄になってしまったようで悲しく思いますよ」

 

会合が行われている会場で、出席者の一人であるロベルト・エラブリタイン伯爵は自身の内心をグッと押し殺しながら、周囲の言葉に合わせ笑顔を浮かべる。

“ホーンラビット伯爵家にちょっかいを掛ける? こいつらは馬鹿なのか? なぜあの厄災の地に自ら手を出そうとするのだ、自殺願望でもあるのか?”

思い出されるのは厄災の魔獣ヒドラの姿、アスターナ草原出兵以降大分症状が緩和したものの、未だに軽い身体の震えは治まらない。マルセル村での体験は、それ程までに私の魂に確りと刻み付けられているということ。

 

“ガチャリ”

部屋の扉が開かれる、入室して来た者はマルス侯爵・バルデン侯爵をはじめとした中央貴族勢力の有力者たち。

 

「皆、今宵の会合に集まってくれた事、大変嬉しく思う。これは我らの結束が固いというばかりでなく、それだけ多くの者が今の国政を憂いている証拠、我々の言葉に耳を傾けようとしない現王政に対する反発の現れであろう。

我らの同志であるベイル伯爵をはじめとした軍部の者たちも、現在着実に力を貯えている。これは我らの大願が女神様の御意向に沿ったものであり、その果たされる日が着実に近づいている証左であろう。

 

我が何故そのような言葉を口にするのか、それは皆が知っての通りボルグ教国の大聖女イブリーナ・ボルグ殿の来訪があったからに他ならない。

表向きは戦後復興を果たしたオーランド王国に対する表敬訪問となってはいるが、その真の目的は全くの逆。我がオーランド王国を混乱せしめた元凶、辺境の蛮族どもに対する調査。

心ある同志がボルグ教国へ送った親書は、確かに教会へと届いていた、そして彼らを動かした。

女神様は常に我々をご覧になっている、あの様な蛮族の蛮行を見逃しはしない。

“北の大地、厄災の種誕生せり”

ボルグ教国の複数の聖女に齎されたこの神託が何よりの証拠、断罪の時は近い!!」

 

ざわめく会場、「やはりそうであったか。我らを愚弄せし魔王め、奴の命運もここまでよ」、口々に語られる“魔王”という言葉。それは彼らにとって邪魔な者に対する蔑称、その言葉の示す相手とは果たして誰の事を差しているのか。

 

「皆の者よ、今は力を貯える時。それぞれがいざという時に力を発揮できるよう備えるのだ。

我らが支えるべき次期国王は誰であるのか、それぞれが確りと胸に秘める事こそが、オーランド王国の輝かしい未来に繋がるのだから。

今宵は互いの意見を交わし、より結束を高めようではないか。オーランド王国の栄光の未来のために」

「「「「「オーランド王国に栄光を」」」」」

 

掲げられたグラス、皆が嘗ての栄光が再び自分たちの下に訪れると信じ気勢を上げる。

そんな彼らの様子をじっと眺めながら、“この泥船から抜け出せる者がどれほどいるのだろうか”と心の中で大きなため息を吐く、エラブリタイン伯爵なのであった。

 

――――――――――――――

 

「それで、前回納品した気配遮断の魔導装置の調子はどうだったん? 僕ちん結構頑張って小型化したから、使い勝手は良かったと思うんだけど?」

そこは嘗て帝国の流刑地と呼ばれていた未開の大地、北部タスカーナ地方アーバンビレッジ。風光明媚といえば聞こえはいいが、森と山以外何もないような辺鄙な土地。

そんな魔獣蔓延る流刑地が変わったのは約二年半前、若き天才軍師と呼ばれたホーネット・ソルティアがヨークシャー森林国侵攻作戦において大敗を喫した事に対する責任を問われ、特別行政官として赴任してきたことが切っ掛けであった。

ホーネットはこの不毛と呼ばれた大地に息吹を吹き込んだ、私財を注ぎ込み道路網の整備や公共施設の充足を行い、地域経済の活性化に成功した。

またホーネットが呼び込んだ技術者たちはそれぞれの分野において高い才能を有した者たちであった。

彼らは独自の技術により鉱山開発に成功、タスカーナ地方に新たな産業を作り出したのであった。

 

「あぁ、確かに素晴らしいものであった。計画は成功し、その成果を導入する事で帝国軍に新たな戦力、ワイバーン部隊を導入する事が正式に決定した。

ここタスカーナは帝国でも北の外れだからな、本来であれば移動に一月半は掛かるところが、途中中継基地での補給を受ける事でわずか五日で辿り着く事が可能となった。

これは呪術通信に並ぶ帝国軍の新たな武器となるだろう」

 

アーバンビレッジの行政官屋敷に併設して作られた研究施設、その応接室で顔を突き合わせるのはバルカン帝国東部方面軍の技術武官と研究所の女性研究員。彼らは帝国軍に齎された新たな可能性について議論を交わす。

 

「確かにね~、上空からの視点はこれまでの軍事行動の在り様を一変させる可能性があるからね~。そこに呪術通信が加われば作戦本部は時間的損失のないビッグクローの目を持つ事になる。

変化する戦局に即時に対応、これ程怖ろしい軍隊は他国にはないんじゃない? いや~、この脅威に晒されるオーランド王国やスロバニア王国が可哀想になっちゃうよ。

で、今日はそんな話をするためにわざわざ僕ちんのところに会いに来たんじゃないんでしょ? 一体どんな無茶振りをしに来たん?」

技術武官の顔を楽しげに眺めながら言葉を向ける、女性研究員。

 

「流石は帝立技術院先端技術研究所の特許王と呼ばれたケトル研究員、話が早くて助かる」

「そんなにおだてても何も出ないよ? ここって大したものないし。それに僕ちんの特許だってどうせライアン所長が懐に入れちゃってるんだろうしね。研究所職員の全ての名声と利益は自分のものっていうのがライアン所長の座右の銘なんじゃないの? 知らんけど」

 

そう言い肩を竦めるケトル研究員に苦笑いで返す技術武官。賄賂や横領が横行するのもバルカン帝国の一側面だと知るが故の反応であった。

 

「作って欲しいものは高濃度魔力に耐えうる魔力抵抗魔導装置だ」

「へっ? それこないだ作らなかった? ワイバーンの巣の周りは魔力濃度が濃い場合もあるからって全くの新兵でも大魔境深層域で活動できるような優れ物を納品したはずだったけど?」

 

ケトル研究員は腕組みをして首を捻る。それは求められている物の性能が全く予測できないからであった。

 

「確かにあの装置は優秀であった、気配遮断の魔導装置もあり、目的地の途中までは侵入することが出来た。だがその先がさらに濃厚な魔力汚染地帯であった為作戦を断念せざるを得なかったのだよ。

これがその時の回収物だ」

そう言い技術武官から差し出された物に、ケトル研究員は目を見開く。

 

「これって、マジ!? いや~、流石帝国軍人、頭のネジがぶっ飛んでるというか、正気の沙汰じゃないというか。って言うかこれってもっとあるの?」

「あぁ、研究に必要かもしれないと思ったからな。引き受けてくれるというのなら「是非、引き受けさせていただきます。それと魔力結晶とファーレン社製の魔力濃度検査機、マーブル社製の超精密魔力結晶加工機も。

この二つの開発には僕ちんも参加したからその性能は保証するよ? おそらく要求される性能を満たすものをこの研究所の設備で作ろうとしたら、二メート四方のボックスタイプになっちゃうんだよね。

小型化するには精霊砲の核を作った時くらいの設備が必要なんですよ、旦那~」・・・分かった、二週間後までに用意しよう。それで完成までにどれ程かかりそうだ?」

 

技術武官の質問に真剣な顔でテーブルの上の素材を手に取るケトル研究員。

 

「早くて五カ月、掛っても六カ月もらえれば何とか。ここの素材は当然使うとしても、おそらくこれを加工する事自体が相当に骨の折れる作業になると思うんだよね~。でもそういうの僕ちん大好き、人生は常に挑戦だよね~」

そう言いニヤリと笑うケトル研究員。技術武官はその態度に満足そうに頷くと、契約成立といわんばかりに右手を差し出すのだった。




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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