転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第735話 若き聖職者、辺境の地を訪れる

“ガタガタガタガタガタガタ”

枯れ草の草原に伸びる一本の街道、石畳に整備された真冬の道を走る一台の箱馬車。

 

「ようやく辿り着いたか。父上のお言葉とはいえ一月の馬車の旅は流石に身体が痛くなる、この馬車もう少しどうにかならなかったのか?」

車内では一人の若者が、これまでの長旅に不平を漏らす。

 

「申し訳ありませんピエール様、この度の我々の訪問の名目はホーンラビット伯爵領の教会建設の打診、そのような交渉を行いにいく教会関係者が伯爵家よりも豪奢な馬車に乗って訪れたとしたらホーンラビット伯爵様はどう思われるでしょうか?

我々はあくまで願い出る立場、教会は貴族社会とは距離を置く別組織というのが名目上の立場でございます。財力や権力を笠に着るような行為は言語道断、ルビアン枢機卿猊下の御心をお汲み取りいただきますよう、お願い申し上げます」

そんな若者に諭すように言葉を向ける司祭。

 

「そんな事は分かっている。父上が僕に与えた“<勇者>ジェイクと<聖女>エミリーの故郷にふれ、二人との付き合い方を模索せよ”との指示が、お前たちに与えられた真の目的を果たす為の目くらましだという事ぐらいはな。

ちゃんと“教会建設を打診しに来た教会関係者”という建前でマルセル村を訪れた王都学園の生徒を演じ切って見せるさ。僕に与えられた使命は<勇者>ジェイクと<聖女>エミリーの両名との交流、余計な事をしはしない。与えられた役割を熟す事がいかに大切であるのかという事は、この一年で嫌という程学んだからな」

王都教会の見習い司祭であり王都学園生徒でもあるピエール・ポートランドは、父親の配下の司祭から顔を逸らすと、窓の外に目を移す。

流れる景色はどこまでも続く枯草の草原、その何処か物寂しげな光景に自身の心の内のようだと苦笑いを浮かべる。

箱馬車は走る、枯草の草原に伸びる街道を車輪の音を響かせながら。その先に待つオーランド王国の最果て、辺境の地ホーンラビット伯爵領マルセル村を目指して。

 

――――――――――――

 

「ハハハハ、ラグラ殿、剣筋がすっかり変わられましたな。以前は杓子定規な正統派王国騎士剣術といったものであったが、すっかり粗野になられて。

これでは王都に戻られてから御父上であるベイル伯爵様にお小言をもらいますぞ?」

“バンッ、ババンバンバンバンバン”

大剣聖クルーガル・ウォーレンは、容赦のない打ち込みを行いつつ弟子である青年に語り掛ける。

 

「今更正統とか伝統とかはどうでもいいです。いや、正確には違いますね、その教えの中に含まれる真の意味、術理さえ理解できれば形式にこだわる必要はないといったところでしょうか。

私はいまだ若輩故その入り口にも立ててはいませんが、これまで自身が拘っていたものが剣術の表層でしかなかったという事はこの二か月でいやというほど理解させられた。

まったくクルーガル先生もお人が悪い。剣術の入り口を示しつつそこへ続く道は自身で模索せよ、こんな教え方をしていながらよくこれまで多くのお弟子さんを教え導けましたね」

“ドカドカドカドカ、バンバンバンバン、ドカドカドカドカ”

青年は悪態を吐きながら鋭い剣技で想いに応える。

 

「ハッハッハッハッ、いやはや本当にラグラ殿が私の教え子の中でも十指に入る高弟に食い込んでくるとは。これだから剣術の指導はやめられん、予想外が起きる時ほどワクワクした気持ちが止められん。

お主もそうは思わんか、“偏屈屋のボビー”よ」

大剣聖クルーガルは楽しげに笑い、すぐ傍で様子を見守る旧友に声を掛ける。

 

「ラグラよ、おぬしも不憫よの。このような自分勝手な爺に師事してしまったばかりに好き勝手にされてしまいおって。

この爺は体裁を繕うことが上手いから分かり難いが、ほんに自分勝手にしたい事をやっておるだけだからの? なんでこんな爺が大剣聖と持て囃されておるのか、意味が分からん。

意味が分からんといえば、“ナンパ師メルビン”がグロリア辺境伯領の司祭長を務めておることも意味が分からんのだがの。

ラグラはもっと自信を持ってもよいぞ? お主はこの二か月で格段に上達しておる、もともと基礎はできておったがそこから先に進めていなかっただけであるからの。

こういう言葉は癪だが、クルーガルの爺はしっかり弟子を育てておったという事、ほんに癪だがの」

そう言い苦虫を噛み潰したような顔をするボビーに、ニヤケ顔を向ける大剣聖クルーガル。

 

「よし、それではラグラ殿、武技を織り交ぜていきますゆえ“魔纏い”と“魔力纏い”を駆使し受けきって見せてくだされ。参りますぞ? <縮地><ダブルスラッシュ><重撃>」

“シュパンッ、ズバズバッ、ドゴーーン”

 

「ラグラの奴、すっかり自信を付けたみたいだな」

「そうだな、王都学園の武術訓練場ではどこか焦っているというか、どうしていいのか分からずがむしゃらになっていたって感じだったもんな」

ジェイクとジミーは、友人であるラグラがただ教えられた剣術ではない、自らの剣の道を歩き出したことに笑顔を浮かべる。

剣の道は深く果てしない。疲れて休むこともあれば、その道を捨て去ることもあるだろう。だがその道はどこまでも続く、剣を志す者は皆、頂を目指し歩き続ける。

 

「王都学園に入った当初はどこか“早くこの三年が終わればいい”という思いがあったが、存外学園というものも悪くはないな」

ジミーは視線をずらすと、別の場所で訓練を行う友人に目を向ける。

 

「クルン、今日こそは決着を付けて差し上げますわ。繊細な魔力運用なくして勝利はありません事よ?」

“シュンッ、タンタンタンタンタンタン、シュンッシュンッ、スパンッスパンッスパンッ”

素早い動きと緩急をつけた体捌き、ラビアナはマルセル村に来てから身に着けた虚実を使った剣技で、対戦者のクルンを翻弄する。

 

「あっ、うん。確かにラビアナの魔力制御は頭一つ飛び抜けてると思うが、戦闘感覚は全然だぞ? 素直というかおバカというか、とっても残念? まぁ今日も付き合ってやるから好きなだけ打ち込んできなさい。

なんか部族の子供たちを思い出して楽しいから」

そう言い尻尾をブンブン振りながら笑顔で受け流すクルン。クルンにとって魔力制御により底上げされた高い身体能力はあるもののまだまだ戦闘慣れしていないラビアナの動きは、訓練し立ての子供がじゃれつくようで、かわいく思えてならないのだった。

 

「キー、ついこの前までは“魔纏い”に四苦八苦していたのに~~!!」

「あっ、その節はとても助かった、どうもありがとう。ラビアナの分かり易い教えのお陰で、私もラビアンヌも無事に“魔力纏い”を身に着ける事が出来た。ラビアナは教育者に向いていると思うぞ?」

 

そう言い身体に魔力を纏って見せるクルン。

 

「ウガ~~、ただでさえ強いクルンとラビアンヌが魔力纏いを行ったら無敵ではないですの、少しは自重なさい!!」

「「いや~、頑張って?」」

 

「悔しい~~~~!!」

“ドカドカドカドカドカドカドカドカ”

マルセル村の外れ、ボビー師匠の訓練場では今日も若者たちが汗を流す。王都から訪れた若者たちは、これまでの自身の殻を破り、この冬で大きく成長しようとしているのだった。

 

――――――――――――

 

「ホーンラビット伯爵様、本日は突然の訪問にもかかわらず面会の機会をいただきありがとうございます。ホーンラビット伯爵領の評判はかねがね聞き及んでおりましたが、聞くと見るとでは大きく違うという事を教えていただいた思いでございます。

マルセル村の入り口にあります闘技場、あのような素晴らしい施設は他領では見たことがありません。まるで王都武術大会が行われます王都闘技場のようであると感心させていただきました。

それにグロリア辺境伯領ゴルド村からこちらマルセル村へ至るまでの街道のすばらしさ、王都の王城前の通りもかくやといわんばかりの立派な石畳に、ホーンラビット伯爵家がいかに力のあるお家であるのかを教えていただいた思いでございます」

 

そう言い深々と頭を下げるのは、王都教会の使者としてホーンラビット伯爵領マルセル村を訪れた司祭見習の青年。

 

「いえいえ、我がホーンラビット伯爵家は名前ばかりの辺境伯爵家、お褒めいただけるほどのことはございません。

それよりも驚きなのは王都教会の重鎮であらせられますルビアン枢機卿猊下の御子息であるピエール殿がわざわざ我がホーンラビット伯爵領にお越しいただけたことでございます。

このような片田舎ゆえ最新の情報に疎く、王都のお話などをお聞かせいただけましたら大変うれしいのですが」

「そうでございますか、私のような若輩がどれほどお役に立てるのか分かりませんが、王都の話題でしたら喜んでお話しさせていただきます」

 

ピエールは思った、何とも歯ごたえのない貴族だと。ピエールはこれまで教会の権威を増大させようと、様々なパーティーに足を運び話し合い機会を作ってきた。

第四王子アルデンティア殿下の側近として、アルデンティア殿下と教会のために奔走した。

いや、教会のためという言葉は正確ではないだろう、その全ては父親であるルビアン枢機卿に認められたいがための行いであったのだから。

そうした活動の中で出会ってきた多くの貴族たち、彼らは皆老獪で、言葉尻や上げ足を取ることに血道を上げるような油断ならない者たちであった。

だが目の前にいるものはどうだ、凡庸を絵に描いたようなのんびりとした雰囲気の者、謀とは無縁といったその様子に、毒気を抜かれたような気持になるピエール。

 

ホーンラビット伯爵の聞きたがる話題は単純なものであった。それはホーンラビット伯爵領から王都学園に入学した四人の若者の普段の様子、特に義娘であるエミリー・ホーンラビットの様子については話の一つ一つに目を輝かせ、相好を崩す様子を見せるのだった。

 

“親馬鹿だな”

その場にいるもの全員がそう感じるほど、ホーンラビット伯爵は分かり易い態度でピエールに接するのだった。

 

“コンコンコン”

「失礼いたします。ホーンラビット伯爵閣下、少々よろしいでしょうか?」

ピエールとホーンラビット伯爵が王都学園の話で盛り上がっていたところに、突然叩かれた扉。

 

「どうしたザルバ、何か急用か?」

「いえ、そうではないのですが、娘ケイトがワイルドウッド男爵邸に戻るにあたり、お世話になりましたホーンラビット伯爵閣下にご挨拶申し上げたいと申しておりまして。

ですがお客様がお越しになられている御様子、娘ケイトには改めてご挨拶申し上げるように言って聞かせ「いや、少し待ってくれるか? ピエール殿、実は我が家に執事長の娘ケイトが出産のため逗留していましてね、つい先だって無事に元気な赤ちゃんを授かったのですよ。体調の事も考慮ししばらく当屋敷で世話をしていたのですが特に問題がないとのことで本日家に戻ることになりまして。ご迷惑でなければ新しい命に<祝福>を掛けていただけるとありがたいのですが」」

 

ホーンラビット伯爵の突然の願いに一瞬驚くも、すぐに快諾するピエール。司祭見習いとして教会に訪れた母子に祝福を施すことは日常的に行っており、信徒に対する<祝福>は布教活動の一環でもあったからである。

 

“ガチャリ”

開かれた扉、優しい風が執務室に流れ込む。歩きに合わせふわりと揺れる金糸、腕の中に抱く我が子に優しげな笑みを向ける聖母がそこにいた。

 

「失礼いたします、私はケイト・ワイルドウッド、この子はケーナ。司祭様の祝福をいただけるなんて、何という幸運でしょう。この子共々お礼申し上げます」

その鈴の音のような澄んだ声音に、その場にいる者たちは心を奪われる。

 

「美しい・・・。我が子に向ける慈愛に満ちた笑顔、天上の調べのような魂を揺さぶる声音、その全てが愛おしい」

「フフフ、司祭様、お口がお上手ですこと。そのような言葉をお掛けいただいてしまうと、恥ずかしくなってしまいますわ。主人はそうしたことは仰ってくださいませんもの」(ニコッ)

“ボッ”

ケイトから向けられた微笑みに顔を赤くするピエール、そんなピエールの様子に唖然とするホーンラビット伯爵家の面々。

 

「そ、それはおかしい。あなたのような美しい女性に賛辞を贈らないなど間違っている。ケイトさん、あなたの美しさは万の言葉を尽くしても語り尽くせるものではないというのに」

「まぁ、司祭様のお言葉、うれしく思いますわ。でもお気を付けくださいまし、私は人妻、夫も子もいる身、そのような者に対し誤解を生むような言葉を向けてしまいますと司祭様のお立場や名誉が害されてしまいます。

それにすぐ隣に夫もおりますし」

 

そう言い困ったような表情を浮かべるケイト、そんなケイトの後ろでどうしたものかといった顔をする冴えない田舎男。

 

「ケイトさん、どうか僕の手をお取りください。あなたとあなたのお子さんは、僕が必ず幸せにして見せます」

そう言い片膝を突き手を伸ばすピエール。恋は盲目、若さゆえの暴走。

「美しいって罪ね、とっても面倒だわ」と呟くケイトを尻目に、「目を覚ますんだ、若いの!!」と声をあげながら力いっぱいハリセンを振り上げるケビンなのであった。

 




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