雲一つない澄み切った空、冬の冷たい空気が気持ちを引き締め自然と背筋がまっすぐになる。
長男アルバが生まれて半年、次男ヴィーゼが生まれて二月、長女ケーナが生まれて半月、母子ともに健康で子供たちも順調に育っている今日この頃。
これも全ては女神様がお見守りくださったお陰、家族全員で感謝の祈りを捧げなければなりません。
っと言う訳で使用人一同を引き連れて村の礼拝堂にお参りに来たって訳なんですけどね、なんか聖職者の皆様方が礼拝堂前でコント、ゴホンッ、お困りになっているようでして。
「御神木様、改めましておはようございます。司祭シラベル様、シスターミレーヌ様、それと司祭見習のピエール様。ピエール様は昨日ぶりでございますね、長旅の疲れは、少しは回復されましたでしょうか?」
俺がそう声を掛けると何か気まずげな表情を見せるピエール君。でもその視線は俺の嫁さんズを行ったり来たり。うん、思春期の若者にうちの嫁さんズは刺激が強すぎるようでございます。
まぁね、赤ちゃんが生まれた女性は精神的に逞しくなると言いますか、魅力的になると言いますか。子供たちに微笑みかける彼女たちってマジ聖母なんだもん、幸せオーラ出まくりなんだもん。
母は強しって言うけど、子供が出来た女性って無敵ですね、これじゃ父ヘンリーが母メアリーの尻に敷かれるのも納得です。
「うむ、して子供たちを連れてきたという事は、女神殿に報告といったところかな?」
「そうですね、今回の出産に際しては女神様に大変お世話になりましたので。
それでそちらの二人は一体どうしたんですか?」
俺は礼拝堂の前の石畳に跪いた格好で横に倒れる司祭とシスターを指差して、話を聞くのでした。
「はぁ、礼拝堂と御神木様を鑑定して感極まってしまったと。まぁここは聖職者にとっては少し刺激が強すぎる場所でしょうからね、仕方がないと言えば仕方がないんですけど、何とも人騒がせな」
俺は呆れたようなため息を吐いてから、二人の聖職者に近付くのでした。
「あ~、はいはい、ちょっとごめんね~。まずは頭に闇属性魔力をドバドバ~、そんで背後に回って癒しの覇気を込めた膝を当てまして、ウリャ!!」
“バキバキバキ”
突然の俺の行動に目を見開くピエール君、そりゃ背骨がボキボキ鳴ったらびっくりするよね~。
「ウッ、ウ~ン、私は一体・・・」
「はいはい、それじゃもう一人ね~、ウリャ!!」
“バキバキバキ”
「グッ、ウッウ~ン、えっと、一体私は・・・」
シスターさんも目を覚ましたようですね、目が覚めたら立った立った。
「大丈夫ですか? 何か気を失われていたようでしたので、“気付け”をさせていただきました。どこか気分が悪いといったことはありませんか?」
「あっ、はい。これはワイルドウッド男爵様、ご迷惑をお掛けし大変申し訳ありませんでした。身体の方は大丈夫です、あまりにも素晴らしい出会いがあり感情が高ぶってしまったようでございます。
女神様にお仕えする身でありながら、心を乱してしまいお恥ずかしい限りでございます」
そう言いゆっくりと立ち上がるや、俺に対し頭を下げる司祭とシスター。この調子なら御神木様ショックは多少
「それで御神木様、女神様に子供たちが無事に生まれたことの御報告と、母子ともに健康であることのお礼をしたいのですが、礼拝堂をお借りしてもよろしいでしょうか?」
「うむ、かまわんぞ? と言うかこの場はケビンのものであろう? 我は管理を頼まれているだけで支配権はケビンにあるはずであるが」
「ゴホンッ、何のことですかね~、礼拝堂は村の施設ですよ~、ハハハハハハ。それじゃお借りしますね~」
あぶね~、御神木様、発言に気を付けて~~~!! この場ってば女神様LOVEの方々が揃っていらっしゃるのよ~~!!
なんか司祭とシスターが俺のことをキラキラした目で見ていますが気にしてはいけません。俺は内心の動揺を隠しつつ、家族と共に礼拝堂の中に進んでいくのでした。
「月白、ここまでありがとう。アルバをこちらへ。・・・月白?」
「アルバ様、しばしのお別れでございますが、月白はいつまでもアルバ様の事をお待ち申し上げております。寂しくなりましたら、いつでも月白の事をお呼びください、何にも優先してすぐにでもお傍に参ります」
「・・・ダッ、ダ~~」
「あぁ、何ともったいないお言葉、月白は、月白は・・・」
“スパーーーーーン”
「$%&’#@*&%$!!」
「パトリシア奥様、大変申し訳ございません。この馬鹿には後できつく申しておきますので、今は女神様へのお祈りをご優先くださいませ」
魂に響くハリセンの一撃に頭を抱え悶え苦しむ月白の襟首をむんずと掴み、後方へと引き摺っていく十六夜。十六夜先生、このところ大好きな恋愛成分を十分に堪能したからか絶好調のようで、なぜか大変頼もしくなっておられます。
うん、男の俺には理解不能の神秘的なサムシングがあるのでしょう、この件には深く触れないでおきましょう。
大きく開かれた礼拝堂の扉、流石にこの人数で礼拝堂に入ると少し狭く感じそうなので、中に入るのは俺と嫁さんズと子供たちだけという事で。
結婚式のときは残月がお祈りしてくれたんだけど、今回は御神木様。とはいっても御神木様は教会関係者じゃないから、小難しい
「ケビン・ワイルドウッド男爵、パトリシア・ワイルドウッド男爵夫人、その息子アルバ・ワイルドウッド。アナスタシア・ワイルドウッド男爵夫人、その息子ヴィーゼ・ワイルドウッド。ケイト・ワイルドウッド男爵夫人、その娘ケーナ・ワイルドウッド。
皆の無事の出産と健やかなる成長を女神殿に感謝するとともに、今ここに報告するものとする。女神像に祈りを」
御神木様の言葉に従い深々と頭を下げ感謝の祈りを捧げる俺たち。パトリシアとケイトはまだしも、中々妊娠しづらいと言われるハイエルフのアナスタシアまでもが妊娠出産に漕ぎ着けたのは、結婚式のときに嫁さんたちが女神様よりいただいた<創造神の祝福>が関係していることは疑いようがありません。おそらくですが、子供たちの健やかなる成長も手助けしてくれているのでしょう、女神様は本当に慈悲深いお方でございます。
そんな俺たちの祈りに合わせるかのように使用人たちも頭を下げ、女神様像は光り輝き、礼拝堂はブロックレンガの一つ一つが神秘的な光を放ち、礼拝堂の周辺一帯がまるで浄化されたかのように神聖な気配に包み込まれ・・・。
“・・・コホンッ。ケビン・ワイルドウッド、パトリシア・ワイルドウッド、アナスタシア・ワイルドウッド、ケイト・ワイルドウッド、子供たちの無事な出産、おめでとう。
アルバ君、ヴィーゼ君、ケーナちゃん、みんなとってもかわいらしい子供たち。みんながこの世界を楽しんでくれることを望みます。みんなの誕生を祝福しましょう”
魂を揺さぶる天上の調べ、畏れ多くもありがたいお言葉に、心の底からの感謝を捧げる。
でもそうか~、祈りが届いちゃったのか~。まぁここの礼拝堂って結構な聖域になっちゃってたみたいですし、俺とアルバ、<創造神の加護>持ちですし、嫁さんズ<創造神の祝福>持ちですし、そりゃ回線開いちゃうよね~。
でも前にあなた様が女神様は力が大き過ぎて影響力が大きいから地上世界に干渉できないみたいなことを言ってなかったっけ? なんでこんなにがっつりお言葉を届けることが出来ているんです?
俺がすごく不思議に思っていると、なぜかご本人からお返事が。
“あぁ、なんでこちらから言葉を掛けられるのかといえば、前回の件で礼拝堂の回線が強化されているからですね。ここまでの出力に耐え得る教会施設は他にありませんから。
いつもは天使経由で意思を伝えていたんだけど、やっぱり直接お祝が言いたくて。いろいろご迷惑を掛けてごめんなさい、それに負担ばかりかけてしまって。
死後はそのお詫びに天上界で「あっ、そういうのはいいんで、気になさらないでください。俺たちはそれなりに楽しんでますからお気になさらず」・・・フリ?”
「フリじゃないから、マジで気にしないで。それと俺は普通に成仏する予定だから」
“成仏? ちょっと待ってね。死んでこの世に未練を残さない、煩悩を捨て解脱する。悟りを開いて仏となる。・・・就職希望? だったら内定出しておく? 色々世話になってるし”
「ダ~~~、なんでそうなる~~~~!! 俺は普通の生活でいいの、あと子供と嫁さんの件は本当にありがとうございました、今後ともよろしくお願いします。
それじゃ今日はこの辺で、失礼いたします!!」
俺は女神様に対するご挨拶を終えると、急ぎ黒鴉先生を出張で呼び出します。
「黒鴉先生、お食事をお楽しみのところお邪魔して申し訳ありません。早速ですが周辺の神力を吸っちゃってください。シルフィーも協力して、俺が神力を集めるから吸い取っちゃってくれる?」
俺はそう言うとお二方のご協力の下、吸引力の変わらぬただ一つの掃除機がごとく周辺一帯の残存神力を回収処分していくのでした。
――――――――――
“ドサドサ”
司祭シラベル、シスターミレーヌに連れられ訪れた村の礼拝堂、そこはこじんまりとしながらもどこか神聖な空気の漂う心落ちつく建物であった。僕がそんな感想を抱きながら礼拝堂に目を向けていると跪き祈りを捧げる配下の者たち、一体何事かと思えばそんな彼らの様子をさも当然といった表情で見つめる司祭シラベルとシスターミレーヌ。
そして僕たちの騒ぎに気が付いたように礼拝堂隣の公会堂から姿を見せた御神木様と呼ばれた偉丈夫、そして御神木様に目を向けた途端満足した表情で横に倒れる二人。
僕はこの状況についていけず唯々狼狽えるも、シスターミレーヌの指示に従い二人を礼拝堂へと運ぼうとした。
そんな僕たちに声を掛けてきた者がいた、それは昨日ホーンラビット伯爵様の執務室で顔を合わせた田舎の農夫といった風貌の男性ケビン・ワイルドウッド男爵、その周りには両腕に赤子を抱えた美しい女性ケイト・ワイルドウッド男爵夫人、少し離れたところに同じく赤子を抱えた村娘といった風貌の女性と貴族風の美しい女性、彼女たちの後ろにはやや大きくなった赤子を抱っこする美しい白髪のメイドと複数のメイドや使用人たち。
先頭を行くケビン・ワイルドウッド男爵と礼拝堂の管理人である御神木様との会話から、この美しい女性たちがケビン・ワイルドウッド男爵の妻たちであり腕に抱える赤子が皆ケビン・ワイルドウッド男爵の子供であることが分かった。使用人たちはワイルドウッド男爵家に仕える者たちなのだろう。
ワイルドウッド男爵は石畳に倒れる配下の司祭とシスターに近寄ると、何か恐ろしい音を立てる技を掛け、彼らの意識を回復させていった。僕がその光景に<聖女>エミリーの撲殺治療を思い出し、血の気が引いたことは致し方のない事だろう。
これは辺境ならではの民間療法なのか、地方では回復魔法やポーションなどではなく各種生活薬を使い病状の改善を図ると聞いたことがあるが、こうした乱暴な回復方法が生活に浸透しているのかもしれない。
そう思うと僕の視線は自然と美しいケイト夫人や隣にいるもう一人の夫人に向いてしまう。彼女たちはこのような辺境に追いやられて幸せなのだろうか、暴力に晒されて無理やり・・・。
僕は彼女たち母子に一体何ができるのだろうか。
「それで御神木様、女神様に子供たちが無事に生まれたことの御報告と、母子ともに健康であることのお礼をしたいのですが、礼拝堂をお借りしてもよろしいでしょうか?」
ワイルドウッド男爵が家の者たちを連れ礼拝堂に訪れた目的、それは女神様に子供の誕生を報告し母子ともに無事に出産を終えられたことを女神様に感謝すること。その敬虔な姿勢は女神様に仕える身としては評価するものの、何とも言えないもやもやした気持ちが心の中を支配する。
これは嫉妬心なのか、ケイト夫人とおそらく他貴族家から嫁いだであろう美しい夫人を解放しろと叫びたい心をグッと抑える。
僕は本当にどうしてしまったんだ、昨日あれだけの失態をしたというのに何の反省もしていないと言われても仕方がない。
その後彼らは礼拝堂の中に入っていった。両開きの扉が大きく開かれ、天窓から日の光が差し込み明るく照らされた室内が外からでもよく見える。
女神様像の前、ワイルドウッド男爵家の者たちが立ち並ぶ中、御神木様の祝詞があげられる。それは単に報告といったような言葉ではあるものの、その声音に含まれる神聖な響きは、僕などでは到底まねできない天上に届きうる祈りの調べ。
“・・・コホンッ。ケビン・ワイルドウッド、パトリシア・ワイルドウッド、アナスタシア・ワイルドウッド、ケイト・ワイルドウッド、子供たちの無事な出産、おめでとう。
アルバ君、ヴィーゼ君、ケーナちゃん、みんなとってもかわいらしい子供たち。みんながこの世界を楽しんでくれることを望みます。みんなの誕生を祝福しましょう”
かくして祈りは届けられた。礼拝堂奥の女神様像は光り輝き、礼拝堂全体から広がる神聖な光が周囲一帯を包み込む。
女神様は存在した。これまでの歴史上多くの聖女が女神様と交流を持ち、その存在は確かなものであると言われてきた。だが実際に女神様の存在を自身の肌で感じる機会が訪れようとは。
溢れる涙、湧き起こる幸福感、魂は震え跪き祈りを捧げずにはいられない。僕はこの瞬間に立ち会うために生まれてきたのだと、僕の事を生んでくれた母と育ててくれた父上に感謝せずにはいられない。
礼拝堂の中では三人の美しい女性がそれぞれの腕に自身の赤子を抱き、子供を見つめ穏やかに微笑んでいる姿が見える。母親とは、我が子に向ける無私の愛とは。
“この先一生会う事は叶わない、私はこの子にとってただ産んだというだけの女。この子が母親を求め寂しい思いをしないで済むように、どうぞこの子の事を、よろしくお願いします”
夢の中で語られた美しい女性の言葉が蘇る。最後の最後まで、僕の将来を案じてくれた彼女、あなたはいま幸せですか?
「そうか、僕は彼女を求めて。お母さん・・・」
僕は幸せそうなワイルドウッド男爵夫人たちの姿を、いつまでも見つめ続けるのであった。
本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora