転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第74話 村人転生者、色々考える

美声とは一体どういうものを言うのだろうか。曰く天上の祝福、曰く天使の歌声。誰も見た事も聞いた事もない、然れど至高のものであろうと想像されるそんな声音(こわね)

おそらくは透き通る様な聞き心地の良い声音(せいおん)の事を指すのだろう。そんな声音(こわね)により紡がれる煌めく物語、人が、動物たちが、魔物までもがその歌声に聞き惚れ気持ち良さ気に身を休ませる。

 

“木洩れ日~揺れるその場所は

世界樹の揺り籠~♪”

 

森に響き渡るその歌声につられる様に、ホーンラビットが、マッドボアが、フォレストウルフまでもが森の開けたその場所に集まり、魔物ひしめく魔の森ではあり得ない様な穏やかな空間を作り上げている。

 

「・・・何これ。え~っと、お集まりの皆様、本日の公演は只今を持ちまして終了と致します。お帰りの際は争い事を起こさず、お気を付けてお戻りください。本日は誠にありがとうございました」

俺の心からの礼に見送られ、森のそれぞれのテリトリーへと戻って行く動物や魔物達。・・・超焦った。こんな所で一斉に暴れだされた日には、一体どうなる事かと思ったわ。

 

え~、何をしていたのかと言いますと、ケイトの歌の検証をしておりましたです、はい。

名実ともに無事マルセル村の村人となられたザルバさん親子、ジェイク君の<鑑定>でも“ザルバ、ケイト”としか出なかった事から、ザルバさんからの相談事は解決って事になったのは良いんですが、肝心の“天使の歌声と母親譲りの容姿”問題がですね~。

ヨーク村で発見された時は骨と皮だったケイト、肉付きが大分良くなりましてすっかり年相応の体型に。最近身長も伸びて来たんだよな~、これって身体が足りなかった栄養を必死に吸収しようとした結果なんだろうな~。(涙)

 

で、本来与えられる筈だった美しさが徐々にその片鱗をですね~、うん、面倒事の臭いしかしない。

まぁその辺はアナさんの“自己呪い”で何とかするとして、噂の歌声の検証をね。えっと某ランドの歌姫なのかな?ミュージカル調に“生まれ~ては~じめ~て~♪”とかやっちゃうの?動物や魔物が自ら足元にやって来てうっとりって、何処の宗教画?マジでビビったわ。

これは、まぁ、うん、人前で披露は出来ないわな~。もうね、お貴族様ホイホイ?厄介事が自分から到来よ?勘違い貴族のお坊っちゃまが“僕の手を取って”とか言って来そうな勢い?今度ザルバさんに胃薬を作ってあげよう。

 

でもな~、なんか気持ち良さ気に歌ってたんだよな~、ケイトから歌を取り上げるのもな~。某ガキ大将みたいにしちゃうって手もあるんだけど、それをやっちゃうとこっちの被害がですね。“ボゲェ~~~♪”の破壊音波はヤバヤバですから。

アナさん、その辺どう思います?

「・・・・」

「お~い、アナさ~ん」

 

「何なんです!?えっ?天使って本当にいたの?ホーンラビットとマッドボアがフォレストウルフに寄り添っていたんですけど!?」

「アハハハハ、何なんでしょうね~、世界は神秘に溢れてますね~。でもこれだと不味いんですよね、だもんで取り敢えず呪っちゃいましょう。声を変える呪いってそんなに難しくないんですよね」

 

「そうですね、どちらかと言えば嫌がらせ系の呪いですし。習得も大して難しくないですよ?」

「う~ん、だったらもっと低音やシャウトをいかせる感じにですね、ちょっと歌ってみますね」

 

“ハァー、ヤッベーヤッベーヤッベーわ、

王都に行ったら死んじゃいます!

貴族に豪商~冒険者、

明日にはスラム行き、かもね~♪”

 

「ブフォ、なんて歌を歌ってるんですか!しかも何気に上手いって、ケビン君は本当に多才ですね。そうですね、そのダミ声でありながらズンと響く歌声は貴族受けはしないでしょう。どちらかと言えば冒険者向けと言った所でしょうか」

「よし、それじゃ声に関してはそう言う方向性で。あとは容姿の方なんだけど、表情筋が死んでるのは変わらないんだけど全てに絶望した顔から無関心程度には快復してるんだよな。顔立ちがいいからチャレンジャーを惹き付けかねないし、余計な嫉妬や恨みを買いかねない。なのでモブ子になる方向で」

 

目元は一重で細目、眉はやや上がり眉毛、唇は幸の薄い細唇、髪はくすんだ茶髪のストレートヘア。ザ・ファンタジーモブ子、完璧でございます。アナさん良い仕事するわ。

「ケイト~、調子はどうよ?」

 

「ん。」

「おぉ~、中々いい感じに低い声」

 

“お~おきなのっぽの大鐘楼 教皇~様の~鐘楼~♪”

うん、素晴らしい低音のダミ声。いい、これ凄くいい、ケイト最高♪

お貴族様はお好みじゃないかもしれないけど、この力強い歌声と歌唱力は魂を震わせる。

御神木様に見守られた森のコンサートは、俺とアナさんと森の魔物達を観客に、いつまでも続いて行くのでした。

 

――――――――――

 

「お父さん、ただいま」

玄関扉を開けて大好きなお父さんに声を掛ける。

 

「ケイト、お帰り。今日は遅かったね・・・誰?」

驚きにキョトンとした顔で固まるお父さん。

 

「・・・ブフォ、アハハハハハ」

その顔が余りに面白くて思わず吹き出しちゃった。そう言えば声を出して笑ったのって何時振りだろう、昔の事は余りよく覚えていないから。何となく楽しかった事があった様な気はするんだけど、お父さん以外にも色んな大人の人がいたような?

私の昔の記憶って凄く希薄だから。喉が凄く痛くなって、声が出せなくなって、お父さんや色んな大人の人が悲しそうな顔をしていた様な。頭の中がハッキリし始めたのはごく最近、それまでの事はまるで霧の中と言うかただ生きていただけと言うか。

身体が暖かくなって、お父さんが笑う様になって、声が出せる様になって、お父さんが泣いて抱き付いて来て。

多分色々な事があったんだと思う、お父さんには一杯心配させたんだと思う、それが何であるのか迄は分からないけど。

 

「お父さん、私ケイトだよ?お父さんがケビン君に相談してくれたんでしょ?何時も私の事を心配してくれてありがとう」

私がそう声を掛けるも混乱していてオロオロするお父さん。そんなに色々変わったのかな?まぁ声は変わったみたいだけど、余りしゃべってないから正直実感がわかない。今までの声も私の声かと聞かれれば、多分そうなのかも?って言うくらいの感じだし。

 

「えっ、いや、まぁ、そうなんだけど。あの、本当にケイトなのか?余りに変わり過ぎていて、その、実感がな?」

何か驚くと言うか混乱するお父さん、眉毛と目元と唇を多少変更して声を変えただけなんだけど。変装するのって案外簡単なのかも。ケビン君は魔法なんか使わなくても“お化粧”でどうにかなるって言ってたけど、お化粧の道具なんかマルセル村には無いから仕方がないんだって謝られちゃった。

それにケビン君は低い声だったり高い声だったりって色んな声も出せるし、“練習すればケイトも出来るよ”って言ってたし今度教わろう。でもケビン君って一体何を目指しているんだろう?ケビン君は何時も“いざと言う時に必要だから”って言うけど、ケビン君の言ういざと言う時って。

でももしお父さんが混乱してたら変身していいって言ってたし、確か“変身はポーズが基本”だったかな?

腕をぐるっと回して前で重ねて、

“変身、歌姫モード。パララパララ”

 

“フワッ”

煌めく金色の髪、毛先に掛かるウェーブ、二重のパッチリとした目元、可愛らしいぷっくりとした唇。

 

「お父さん、これで私って分かってくれた?」

紡がれる美しい声音、まるで天使の彫像の様な美しい面立ち。彼女はその全てに興味を失ったような瞳を父ザルバに向けながら言葉を続ける。

 

「お父さん、ケビン君から話は聞きました。王都の学園なんて本当は行きたくないけど、でもそうなると一生何処か人がいない様な場所で隠れ住まないといけない。折角マルセル村のケイトになったのに、もう逃げて生きるのは嫌。私は新しい顔と声と名前で生きて行きます」

その凛とした声音は、強い力を持って彼女の意思を伝える。彼女は世界の不条理も人々の悪意も、その全てを受け止め自らの意思で一歩を踏み出す。マルセル村のケイトとして生きて行く為に。

 

――――――――

 

なんとかなった~。ケイトを巡る一連の問題に目処が付きました。流石隠れ住むエルフ族の技術、身を隠す事に関しては完璧でございます。

鑑定に関しては“ドレイク村長代理をはじめとした方々を祝う会”での実験の結果新しい身分を手に出来たし、声と顔は呪いで変更済み。今のケイトが王都の学園に行っても誰も気が付かないんじゃないかな?

 

ケイト自身当時の事は余り覚えていないって言ってたしな~。そりゃ忘れるって、生きるか死ぬかの生活をしてたら思い出す暇もないっての。

ヨーク村で見たケイトってほぼ即身仏だったもんな~、今考えてもよく生きてたよな、魔力による生命維持って凄い。栄養失調上等な寒村の実態とそれを当たり前とする領地運営、この世界全体がこうした魔力による生存補正効果を前提としてるんじゃないんだろうか?

いや、魔力のない世界にも“水飲み百姓”って言葉があったくらいだし、権力者にとって領民は勝手に生えてくる労働力的な思考があるんだろうな。“人とは青い血をひく者の事を言う”とは誰の言葉だったか。そんな“人”の中ですら身分によって人ならざる扱いを受ける貴族社会って一体何なんだろうね。ベネットお婆さんの話を聞いた時も思ったけど、絶対貴族とは関わり合いになりたくないです。マルコお爺さんといい、グルゴさんの所と言い、何なんだよ一体。最近は大森林より王都の方が怖いでござる。

 

もしどうしても行かないといけない事になったら、なるべく存在を薄くして生きよう。完全に消しちゃうと誰にも認識されなくなるから生活出来ないし、周辺の森やスラムに隠れ住んだら確実に悪意が襲って来るしね。

そこそこの区画のそこそこの宿に泊まって薬師ギルドでお仕事を貰うって感じで。あとは狩りの獲物を商業ギルドに売りに出せば完璧?宿代くらいは稼げるでしょう。

何かドレイク村長代理辺りに無理難題を吹き掛けられそうなんだよな~、もしくはグロリア辺境伯様辺り?色々作っちゃったしな~。

 

「ねぇケビン君、黄昏ているところ悪いんだけど、明日の約束忘れてないですよね?」

あ、ホッとして気が抜けたのか、ボーッとしてアナさんの事完全に忘れてた。

そりゃいるよね、だってここ畑脇の小屋だし。この後トレーニングルームに行こうと思ってたところだったし。

 

「ケビン君、もしかして私の事便利な女とか思ってる?もしそうなら私も色々考えないといけないんだけど?取り敢えず背中に売却済みの呪いの刻印でも刻む?」

「すみません、マジですみません、勘弁して下さい。今回色々とご尽力いただきましたアナさんには大変感謝しております。あまつさえケイト専用の変身魔法(呪い)を組んでいただいた事は感謝に絶えません。明日はぜひ森のヒカリゴケ洞窟にご案内させていただきます」

 

野暮ったい村娘に変身する事ですっかりアクティブになられた元隠れ里の民アナさん、私まだ授けの儀前の子供なんですが?大丈夫?普人族はすぐに大人になる?流石長命種、発想が普人族とは違う。

 

森の民エルフ族のアナさんに完全ロックオンをされたケビン少年は、そんな彼を射程に収めたもう一人の少女の存在にはまだ気が付いていないのでした。(合掌)




本日二話目です。
ん?一度見たことがある?
誤爆しなかったか?
さ~、何の事かな~。
い、いってらっしゃい。
by@aozora
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