転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第742話 領都の司祭長、辺境を楽しむ

静まり返った室内、唯々呆然とする三人の聖職者。

そんな裁判所の法廷で判決が下ったあとのようなホーンラビット伯爵邸の客間で、一人楽しげにニヤニヤと笑うメルビン司祭長様。

アレだね、この御方、断頭台の死刑囚を正論で叩きのめしてからギロチン落とすタイプだね、今もなんかスゲー楽しいって顔してるし。

 

でもまぁこの三人に関しては相当な温情判決なのよ? 今回の失態は使いようによってはマジでさっき言った事に繋がりかねないんだからね?

それでも王都で魑魅魍魎相手に権力闘争を繰り広げているベルトナ教皇猊下やルビアン枢機卿猊下がそうそう簡単に転ぶとは思えないんだけど、面倒な事はO・HA・NA・SHIで解決するのがホーンラビット伯爵家の流儀だからな~。

やっぱりうちらは蛮族だわ、辺境から出掛けちゃいけませんね、うん。

 

「メルビン司祭長様、領都グルセリアからのわざわざのお越し、大変ありがとうございます。ホーンラビット伯爵家としてもこの一件をどう扱って良いものかと思案していたのですよ。

何もしないというのは貴族としてあってはいけない事、事と次第によっては王都教会に兵を差し向けなければならないのかとヒヤヒヤ致しました。

そろそろ春の作付け準備もありますし、そうなると一気に滅ぼすしか道はなく・・・」

「ハハハハ、それはお困りだったことでしょう。なに、この者たちも今回の件で自分たちが一体何に喧嘩を売ってしまったのか骨身に染みた事でしょう。

しかし十二万もの将兵を葬ったダイソン公国をたった三十騎の騎士団で完全制圧し、たった八騎の騎兵で王都騎士団を壊滅させたホーンラビット伯爵家に対し、何の心構えもない若者を送り込むとは。

ルビアン枢機卿猊下は相当にお疲れと見えますな」

 

そう言いギロリとピエール君たちに鋭い視線を送るメルビン司祭長様、何その視線だけで人を殺せそうな表情、感情の振れ幅がヤバいんですけど、めっちゃ怖いんですけど。

ピエール君たち、顔を真っ青にしてガタガタ震えてるじゃないですか。ドウドウドウ、落ち着きましょう、メルビン司祭長様!!

 

“フェッ!?”

メルビン司祭長様の豹変ぶりに驚いて思わず変な声を出したのはケーナちゃん。ケーナちゃんは元王様だけあってこうした断罪劇には興味津々だった模様。

にこにこ笑顔で相手を追い詰めるなんて事は多分やってこなかったんだろうな~、話を聞いた限りケーナってどこか生真面目というか理想を追い掛けるようなところがあるし。

まぁそんなんだから周辺国全てを敵に回して殲滅戦なんて仕掛けられちゃったんだろうけどね、クラスに一人はいそうな漫画に出てくる委員長タイプだったんだろうね。

 

「ん? あぁごめんね~、おじちゃん怖がらせちゃったかな~」

そう言いケーナをあやそうとするメルビン司祭長様、前から思ってたけどメルビン司祭長様って結構子供好きだよね、子供の頃荷馬車でご一緒した時もいろんなお話を聞かせてくれたし。

 

「お久し振りでございます、メルビン司祭長様。ほら、ケーナ、メルビン司祭長様ですよ、とてもお優しい御方だから驚かなくても大丈夫よ」

ケイトはケーナに優しく微笑むと、気持ちをなだめるように声を掛けます。

 

「・・・すみません、どこかでお会いした事がありましたかな? ケビン・ワイルドウッド男爵殿、貴殿の奥方は私と面識があるような事を言われているのだが」

「あっ、すみません、分かり難かったですよね。ケイト、ケーナを渡してくれる?」

 

俺はケイトに声を掛け、ケーナを預かるのでした。

 

“シュイン”

「ん、やっぱりこっちのほうが落ち着く。メルビン司祭長様、久し振り。ビッグワーム干し肉ピリ辛味は欠品中、申し訳ない」

「・・・はぁ!? 干し肉屋のケイト嬢? ってどうなってるんだケビン、声も姿も別人だったんだが?」

 

地味モードに変身したケイトに驚きの声を上げるメルビン司祭長様、ピエール君、大混乱でございます。

 

「その事ですが、昔ケイトが呪いの傷を負った少女だったことはお話ししたじゃないですか? ケイトは昔王都で男爵家令嬢をしてまして、“王都に舞い降りた天使”とか呼ばれて持て囃されていたんですよ。

そんなケイトを侯爵家の三男坊が気に入りましてね、事あるごとに屋敷に招待される様になったんだそうです。

あとはお決まりの流れ、嫉妬にかられた周囲の底辺貴族共から嫌がらせの嵐に遭い家は崩壊、ケイトは声を潰され呪いを掛けられ、暗殺者ギルドに追われながら辺境に逃げ延びた。でもそんな厄介事は辺境でも勘弁ですからね、扱いは相当に酷かったようですよ?

で、そんなケイト親子を救ったのが我らがホーンラビット伯爵閣下、当時は一介の村長代理でしたけどね。

以来ケイトは自身と周りの者を守るためにこの地味ケイトとして過ごしていたって訳です。本人はこっちの格好の方が気楽といっていまでも地味ケイトで過ごしてるんですけどね」

 

俺の言葉にお口ポカンのピエール君、そりゃそうだよね、自分のやろうとした事が実は一番相手を傷付ける行為だったんだから。自己陶酔型青春野郎が陥り易い罠って奴ですね、うんうん。

 

「はぁ~、あのケイト嬢にそんな壮絶な過去がね~。大聖堂に干し肉の行商に来ている時は全くそんなそぶりは見せなかったから、気付かんかったわ。すまなかったね、ケイト嬢、女神様にお仕えする司祭という職にありながら気が付いてあげることが出来なくて」

「ん、何も問題はない。私はケビンの妻、子宝にも恵まれてとっても幸せ。ただケーナは私に似て美人さん、将来が心配。ケビンに似たヴィーゼ君が羨ましい」

 

そう言い田舎娘姿のアナさんに抱かれたヴィーゼに視線を向けるケイト、そんなケイトに釣られ視線を移すメルビン司祭長様。

 

「おお、これほんにケビンにそっくりな可愛らしい・・・はぁ? エルフ耳? ケビン~~~!!」

「はいはい、アナさん、自己呪い解いてもいいよ」

 

“シュイン”

「はじめまして、私はアナスタシア・ワイルドウッド、“森の風の里”出身のエルフでございます。縁あって主人と出会い子供にも恵まれました。これも偏に女神様が見守り下さったお陰と日々感謝しております」

そう言いニコリと微笑んでからヴィーゼをあやすアナスタシア。

 

「・・・お~い、そこの三人。この事は既に調査していたのか?」

背後を振り返りピエール君たちに声を掛けるメルビン司祭長様、三人は首を横に振り知らなかったという意志を伝えます。

 

「そうか、ならこの事は他言無用な、要らぬ騒ぎに繋がるからな。でもそうなるとヴィーゼ君が・・・ブホッ、なんだこれ、後からじわじわくるんだが? うん、この子は大丈夫、強く育ててやって欲しい」

「はい、ありがたいお言葉、感謝いたします」

 

そう言い一礼を返すアナスタシア。

 

「パトリシア様、お久し振りでございます。パトリシア様のご活躍は聞き及んでおりました。

パトリシア様はマルセル村に移られて本当にお強くなられた。私は憔悴しきったパトリシア様のお姿を拝見しておりましたから、お元気な姿を拝見出来、心の底から女神様に感謝申し上げたい気持ちで一杯でございます」

そう言い深々と頭を下げるメルビン司祭長様、確かにあの姿を見ていたら今のパトリシアの変貌ぶりに驚くのも無理はないだろう。

 

「メルビン司祭長様にはお心配りをいただき感謝に堪えません。最後にお会いしたのは四年前でしたか、ミルガルの大聖堂で憔悴しきった私に<祝福>を掛けていただいて。

この四年間、本当に様々な事がありました。婚約破棄騒動に始まり、ランドール侯爵家との戦いやヨークシャー森林国の疫病騒ぎ、一年戦争にケビン様との結婚、今ではこうして子供にも恵まれ穏やかな日々を過ごしております。

出会いというものはどこでどう繋がっていくのかなど全く分かりませんね。“人と人との縁は行く川の流れのようなもの、付き離れ、いずれ大海に至る。誕生と死、その道程の出来事に過ぎないのだから”、メルビン司祭長様から頂いたお言葉は、一日たりとも忘れたことはありません」

「そうですか、パトリシア様はちゃんと自らの足で歩まれてこられたのですね。お子様も大変聡明そうなお顔をされている、パトリシア様に似た芯の強い御方にお育ちになられる事でしょう」

 

メルビン司祭長様はそうおっしゃられると、優しげにニコリと微笑まれるのでした。

 

――――――――――

 

「お~、これは何とも旨そうな料理、領都でも食べたが角無しホーンラビット肉は柔らかいうえに旨味が凝縮されていてスープ料理には最高だからな~」

 

場所は変わって健康広場脇の食堂、ホーンラビット伯爵邸でのゴタゴタを終えたメルビン司祭長様が食堂の食事が食べたいと仰られて移動する事になりまして。

まぁ領都に連行されるピエール君たちの荷物整理もあって宿屋に戻らないといけなかったんでついでではあったんですけどね、ホーンラビット伯爵閣下は是非お食事をと仰られていたんですけど、食事は連絡をして正式に訪れた際にお願いしますとやんわり断られておられました。

 

「うむ、“ナンパ師メルビン”、久しいの。すっかり爺になりおって、最初はどこの誰かと思ったぞ」

「ふん、こ奴はこんな好々爺とした見た目で未だに女遊びに忙しくしておるわい。儂が領都に行くたびにどこから聞きつけるのか集りにきおって。それで今日はどうしてマルセル村に来たんじゃ」

 

そんなメルビン司祭長様のテーブルにドカドカとやって来た爺さん二名。

 

「よう、大剣聖、久し振り。って言うか聞いたぞ、王都武術大会に呼ばれてるのにすっぽかそうとしたらしいじゃないか。お前ってば相変わらず自分勝手というか自己中心的というか、何で大剣聖と呼ばれ尊敬を集めているのかまったく理解出来ん。

それとボビーの質問だが、ホーンラビット伯爵様の所でやらかした司祭見習いの件で頭を下げにな。“愛の狩人”の話を聞いた時は王都の若造も馬鹿やるもんだと思って大爆笑したけどな」

「「あぁ~、納得。お疲れさん」」

 

そう言いドカドカと腰を下ろしエールを注文する爺さんズ。何でこうも都合よく二人の爺様が食堂に来たのかといえば俺が呼びに行かされたからですね。クルーガルの爺さんがマルセル村に入り浸ってるって話をしたら、メルビン司祭長様が久し振りに会ってみたいと仰られまして。

まぁ使い走りはいつもの事なんでいいんですが。

 

「でもそうか、あの若造は“ナンパ師メルビン”が引き取ると。まぁ、あの者は世間知らずのボンボンといった感じだから丁度よいのではないか?

貴族社会には詳しそうだが、どうも考えが凝り固まっているように見受けられるからな」

「お主は若い頃からいい加減過ぎじゃっただろうが。儂とメルビンが何度お主のやらかしに振り回された事か、あのワイバーン討伐の一件は絶対に忘れんからな!!」

 

「あ~、あれは酷かったな~、正直死ぬかと思ったもんな~。そう言えばあの時一緒にワイバーンぶった切ってた騎士団長様ってどうしたんだっけ? その後すっかり話を聞いてないんだけど」

「あぁ、あ奴は家の跡目争いに巻き込まれて死んだよ。ワイバーン討伐で一気に名声を挙げたからな、長男次男にしたら邪魔者以外の何物でもなかったんだろうさ。

私は疾うの昔に剣の道に生きると宣言して継承放棄しておったからそういった面倒事はなかったが、こうした事はよく聞く話であろう?」

 

大剣聖の言葉に何か納得といった顔をする二人。

 

「ところでメルビンは聞いておったか? この偏屈屋、生意気にも嫁を貰っておった」

「はぁ? お前、養女二人が王都に行って寂しくなっちまったのか? まぁ今までずっと独り身だったからな、人の温かさに触れちまったせいで失った時の衝撃が大きかったのかな?

そんでどこの婆さんを捕まえたんだよ、紹介しやがれこの色男」

 

「いや、それがな」

「ボビー、ここにいたのね、探したわよ。ちょっと相談したい事があるんだけど、ってお客様だったの? ごめんなさい、お邪魔しちゃって。

はじめまして、ボビー・ソードの妻のシルビアと申します。主人がいつもお世話になっております」

 

「・・・いえいえ、こちらの方こそ、ご主人には大変仲良くしていただいて。所用でマルセル村に来たものですからな、呼び出してしまい申し訳ない。直ぐに返しますのでご安心いただきたい」

「いえ、私の方は急ぎではありませんのでごゆっくり。ボビー、また後で。それでは失礼いたします」

 

一礼をし食堂を去っていくシルビアさん、そんな彼女の背中を真剣な表情で見詰めるメルビン司祭長様。

 

「・・・ボビー、これから話す事は真剣な話だ。おふざけでもなんでもないから聞いてくれ。お前の嫁さん、あまり長くないかもしれない。本人は気丈に振る舞っているようだが、薄っすらと死相が出ている。

いつまでという事は言えんが、残念ながら・・・」

そこまで言うと、悔しげに口を結ぶメルビン司祭長様。人の命は流転する、生まれた命は天寿を全うしいつか必ず女神様の下に旅立っていく。

 

「そうか、メルビンも気が付いたのか。私もボビーに聞かされた時は驚いたのだが・・・」

「ボビー、お前知ってて・・・」

 

メルビン司祭様の言葉に、黙ってエールに口を付けるボビー師匠。

 

「うむ、でも驚きではあるな、普通英霊を嫁にはせんであろう? 後に残して寂しい思いをさせる心配がないからとか意味が分からん。

最初はボビーが死霊にでも取り付かれているのかと思ったが、見ての通りぴんぴんしているしな、と言うか村公認の幽霊って何だって話なんだが?

死んでるのに住民登録されておるとは、ホーンラビット伯爵閣下は懐が広い御仁であるな」

「・・・はぁ!?」

 

口を開けたままポカンとするメルビン司祭長様。ボビー師匠はそんなメルビン司祭長様に、「何か照れるわい」と言って、頭をポリポリと掻くのでした。

 




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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