転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第744話 三人の乙女、想いをぶつける

月日が過ぎるのは早い。王都から帰省の為マルセル村に戻ってきていた若者たちも、再びあの喧騒に戻らなければいけない時がやって来た。

 

“ガヤガヤガヤガヤガヤ”

そんな若者たちの旅立ちを前に、マルセル村の者たちが何もしないなどという事があるだろうか。

<勇者>がいる、<聖女>がいる、<剣天>と<賢者>と<聖騎士>と。

勇者パーティーが揃った今、試練の時が訪れる。

 

そこは村門脇に作られた闘技場、冬場は固く閉ざされたその場所に、マルセル村に住むすべての住民が集まっていた。

 

「時は来た、今我々はこの世界に問い掛けなければならない。

人は争う、貧困、食糧難、争う理由は数多くあるだろう。だが人々の争いの原因はそうした純粋な理由だけではない。

領土を求め、他者を支配し、資源や財産、肥沃な大地を我が物にせんと兵を上げる。

そのような醜い争いを続ける愚かなる者どもに、我々は問い掛けなければならないのだ。

お前たちに本当に生きる価値はあるのかと!!」

 

それは闘技場の中央、ナイトドレスにも似た扇情的な衣装を身に着けた女性が両手を広げ観客席に向け呼び掛ける。

 

“ブワ~~ッ”

女性の背後の地面に現われる光る魔法陣、その中心からゆっくりと姿を見せる全身甲冑に身を包んだ女性騎士。身体のラインを強調するようなその姿は、見る者の目を 惹き付ける。

 

“カチャ”

バイザーが上げられ口元が覗く、その赤い唇は蠱惑的に視線を誘う。

 

「我は剣、我は(やいば)。思う者があれば剣を取れ、言葉ではなく行動で示せ。我は動く、我が思いは主様の思い。

主様が死ねと言うのならば喜んで死のう、それこそが我が思い、我が忠誠」

 

“ブワ~~ッ”

再び現れる魔法陣、その中心から現れた者は鎧姿に面頬(めんぼう)を付けた見目麗しい偉丈夫。

 

「「「キャ~~~、ブー太郎様~~~、こっち向いて~~~」」」

ブー太郎と呼ばれたその者は、金色の髪を掻き上げると、ちらりと視線を観客席に向けウインクを一つ。

 

「「「ブー太郎様~~~、素敵~~~!!」」」

観客席の声援を鎮めるように軽く手を挙げたブー太郎は、視線を鋭くし言葉を繋ぐ。

 

「我らは立つ、主様の言葉を受けて。今ここに、時代の変革が始まる!!」

“スーーーーッ”

背中から引き抜かれた大剣、それは特殊な鉱石により作り出された石剣。

 

“コツンッ、コツンッ、コツンッ、コツンッ”

その足音は人々の背後から聞こえるもの

 

“トンッ、トンッ、トンッ、トンッ”

ソレは人々の間を抜け、宙を歩いて闘技場の中央に向かい進んでいく。

 

“バッ、バッ、ババッ、バッ”

それは考えるよりも先に身体が動いてしまったと言った方がいい。観客席にいた“鬼神ヘンリー”が、“剣鬼ボビー”が、“大剣聖クルーガル”が、身体に獣を飼う多くの者たちが、一斉に目の前のナニカに襲い掛かる。

 

「“鎮まれ、今はその時ではない”」

“ズオンッ”

 

向けられたものは魂に響く言葉、身体がまるで岩石のように重く、大地に縫い付けられた如く身動きが取れなくなる。

 

「“落ち着け、戦人よ。舞台は用意した。具体的に言えばこの後のマルセル村春祭りの席で毎年恒例の武術大会を行います。え~、今回は流石に例年の縛りはきついのでこちらもきっちり対抗させていただきますのでご覚悟を。

って言うか皆さん強くなり過ぎ、一体何を目指してるんだ、何を。勇者にでもなって魔王討伐にでも行くつもりなの? 一体幾つだと思ってるの? 年齢的に無理があるよ? その元気を奥様孝行に使ってください。

それとブー太郎応援隊の皆さん、春祭りにはブー太郎も参加しますがあまりいじくり回さないでくださいね、シャロンちゃんがやきもち焼いちゃいますんで。

あとシャロン、これからブー太郎が戦う場面があるけど闘技場に降りて一緒に戦おうとしないように。これ、お芝居だからね? ダリア、ジャスパー、シャロンの事を確り取り押さえておいてくれる? 首をブンブン横に振って無理とか言わない、頑張って。

紬、悪いんだけどシャロンの事をお願い”」

 

“バサッ、トンッ、トンッ、トンッ、トンッ”

ナニカは身を翻し何事もなかったかのように再び歩き出す。その身から黒色の闇属性魔力を溢れさせ、マントを靡かせながら。

 

「皆、揃ったようだな」

“バサッ”

ナニカは大きくマントを広げ、身体を観客席に向ける。その身から発せられる気配は、まさしく漆黒の覇王。

 

「我が名はカオス。我は既に多くの機会を与えた。

人は愚かだ。与えられたものだけでは満足せず、より多くを欲し争う。

お前たちは既に知っているはずだ。人の欲望の愚かさを、戦い争った先の末路を。

欲望の果てに生じるモノ、それは憎しみであり、恨みであり、憎愛であり。

酷く歪で、酷く醜い人の本質。そこから生まれるものは、世界を覆い尽くさんばかりの闇の力・・・」

 

“ブォーーーー”

カオスから立ち昇る闇属性魔力、それは一筋の柱となって天に伸びる。

 

「「「「「待て、魔王カオス、お前の野望は俺たち(私たち)が止める!!」」」」」

絶望が観客席を覆い尽くそうとしたその時、希望の光が観客席後方より齎される。

 

“シュパンッ、シュパンッ、シュパンッ、シュパンッ、シュパンッ”

飛び出した五つの影、それこそマルセル村の希望、人類の救世主。

 

「魔王カオス、人々を惑わし多くの者を苦しめる悪の元凶!! 今日こそこの手で貴様の野望を打ち砕く!!」

 

「北の大地の勇者、ジェイク・クロー!!」

「北風の聖女、エミリー・ホーンラビット!!」

「氷結の剣天、ジミー・ドラゴンロード!!」

「冷徹なる賢者、フィリー・ソード!!」

「氷壁の聖騎士、ディア・ソード!!」

 

「「「「「我らマルセル村勇者パーティー!!」」」」」

“チュドーーーーーーーン!!”

 

「「「「いけー、勇者パーティー!! 悪者をやっつけろ~~~~!!」」」」

観客席から飛ぶちびっ子たちの声援、その声に若干落ち込む魔王カオス。

 

「ちびっ子たちよ、我らの絆はそんなものであったのか。秋の収穫祭の時は串肉をあれ程喜んでくれたというのに」

「「「「魔王カオス様、串肉ご馳走様でした。やっちゃえ勇者パーティー!!」」」」

 

子供というものは時に残酷である。大好きなヒーローを応援する子どもたちにとって、串肉の友情はとても軽いものであった。

 

「魔王カオス、これが子供たちの願い、この世界の未来。貴様を倒し、俺たちは世界の平和を守って見せる!!」

勇者の掲げる木剣が炎に包まれる、それはこれから始まる激しい戦いの合図。

 

「ジミーはブー太郎を、エミリーはシャドームーンを、ディアはムーンナイトを抑えて。

フィリーは魔法による援護とその後の指示を、俺は魔王カオスを叩く!!」

「「「「了解!!」」」」

 

始まる勇者パーティーと魔王軍との戦い(精霊の使用禁止、覇魔混合の使用禁止、魔法はアリ)、勇者パーティーの猛攻が魔王軍を襲う。

 

「水遁<濁流流し>、法術<影分身>」

“ドバーーーン”

押し寄せる濁流、その隙にブー太郎の周囲を取り囲む複数のジミー。

 

「「「「「千剣乱舞“胡蝶の舞”」」」」」

“ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ”

怒涛の如く打ち付けられるジミーの木刀、だがブー太郎はそれだけの猛攻を受けつつも巌のように揺るがない。

 

「フッ、影分身による包囲攻撃、確かにこの身に刻んだ。恐ろしい技を編み出したものだと思う、この技が完成したのならこの俺でもただでは済まなかった事だろう。

だが分身による攻撃は所詮影、魔法により再現された幻影。ジミー本体の攻撃さえしのげればどうとでもなる。

<地龍一閃>」

“ズドンッ”

それは下段からの横薙ぎ、一瞬にして振るわれたそれは、ジミーの本体を正確に捉える。

 

「“ゴホッ”、何故俺のことが分かったのかお聞きしても?」

「あぁ、俺は鼻がいいんでな。魔力により作られた分身体には臭いがないだろう?」

そう言い面頬を指先でトントンと叩くブー太郎。

 

「なるほど。ではこの先は純粋に剣術でお相手願えますか?」

“ブォーーー”

一気に膨らむジミーの覇気、その口元は獰猛に歪む。

 

「ちょ、ちょっと落ち着こう。これは劇だから、あくまで舞台だから。ちょっ、ケビンさーーーん、ジミーに何とか言ってやってくださいよ!! 口パクで頑張れって、マジふざけんな~~~!!」

闘技場に響くブー太郎の叫び、その声に観客席からは笑いと声援の声が飛ぶ。

 

「ハッハッハッハッ、やっぱりマルセル村は最高だ~~!! 一緒に踊りましょう、ブー太郎さん?」(ニチャ~)

「やっぱケビンさんの弟だよ、意味が分からないよ、死にたくね~~~!!」

ブー太郎の決死の戦いは、まだ始まったばかりなのであった。

 

“タンタンタンタン、ガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキン”

「王都に行って腕が鈍ってしまったかと思いましたが、確りと鍛錬を続けられているようですね。安心しました」

全身鎧の漆黒の騎士が、ショートソードを振るいディアを襲う。

 

「イエイエ、残念ながら王都ではマルセル村程の鍛錬を積めませんでしたので。ですがこうした小技は多く身に付けることが出来ました。<多重魔力障壁>」

“ガインッ”

 

それはディアが張った魔力障壁、だがその障壁はムーンナイトの身体を覆い尽くし、その動きを阻害する。

 

「<重撃・シールドバッシュ>」

“ズドーンッ”

一瞬にして吹き飛ばされるムーンナイト、その身体は闘技場の地面を転がり、ディアはゆっくりと息を吐く。

 

「所謂初見殺しという技です。二度は効かないでしょうが様子見の相手には覿面に効く小技、王都では対魔物よりも対人戦の方が盛んでして、こうした駆け引きは多く学ぶことが出来ました」

技後硬直から解放されたディアが油断なく構えを取りながら吹き飛ばしたムーンナイトに目を向ける。

 

「残念、幻影です」

“ズゴンッ”

“グフッ、ドサッ”

死角からの一撃、脇腹を打たれたディアは口から唾を飛ばしその場に崩れ落ちる。

 

「ディア、本当に強くなりましたね、来年が楽しみです。王都も馬鹿にしたものではありませんね」

ムーンナイトはそう言うや優しくディアを抱き上げ、闘技場隅へ移り治療を行うのだった。

 

“ブンブンブンブン、バババババババババッ、ブンブン”

両手で長杖を持ち打ち込みを行うエミリー。

 

“バスバスバスバスバスバス”

その間も無詠唱で放たれる<ライトアロー>を、まるで全てを予測しているかのように避けるシャドームーン。

 

「あなたは本当に眩しい、まるで天に浮かぶあの日の光のように。

でも私は影、光があれば影が産まれる。その光が強ければ強い程、影もまた濃くその深さを増す」

それは舞い、まるで舞踏会で愛しの男性と共にワルツを踊るように、夜の蝶は優雅に羽ばたく。

 

「そうですね、確かにあなたは強い、でも手数では負けません!!

<ライトアロー:全方位>」

それはシャドームーンを包み込む光の壁。

 

「<ダークウォール>」

瞬時に貼られた闇の障壁、だがそんなものは関係ないとばかりに無数の<ライトアロー>が一斉に撃ち込まれる。

 

“パリーーーーーーーーーーン”

闘技場に響く甲高い響き、それは命を守る身代わり人形が割れる音。

 

「光あるところに影あり、強い光はその影をより濃く深くする。だが人は光の眩しさに目を奪われ、影の存在に気付かない。

あなたの敗因はいつまでも私が目の前にいると思い込んでしまった事。来年また戦いましょう、今はゆっくりお休みなさい」

 

シャドームーンはエミリーの背中から突き刺した短剣を引き抜くと、光の粒子となって消えていくエミリーにそっと囁くのだった。

 

「ディア!! エミリー!! クソッ、魔王カオス、絶対に許さん!!」

「ほう、<勇者>ジェイクよ、そんな事を言っている場合かな? シャドームーンは次の標的を賢者殿に向けたようだぞ?」

魔王カオスは剣を交える<勇者>ジェイクに語り掛ける。

 

「ジェイク、カオスの言葉に惑わされては駄目!! 私は大丈夫だから魔王を!! キャーーーー!!」

シャドームーンの攻撃により吹き飛ぶフィリー。ジェイクはフィリーの加勢に向かおうにも魔王カオスがそれを許さない。

 

「ハッハッハッハッ、勇者ジェイクよ、世界は理不尽だろう、不条理だろう。そんな勇者様に更なる絶望を差し上げるとしよう」

 

“ブワ~~ッ”

広がる魔法陣、漆黒の光が漏れる魔法陣から何かが飛び出し、一瞬にしてブー太郎と戦うジミーを包み込む。

 

「ぐぉ、一体何が!? ジェイク~~~~!!」

「ジミ~~~!! 魔王カオス、貴様ジミーに一体何を!!」

 

全身を漆黒の何かに包まれ一切の動きを失うジミー。だがそれは次第に形を変え、全身鎧を身に付けた漆黒の騎士へと変貌する。

 

“シュタン、ガキンッ、ズドーーーーーン”

「グワ~~~~ッ、ジミー、一体何を!? ジミ~~~~~!!」

魔王カオスと剣を交えていた勇者ジェイクを横合いから吹き飛ばした漆黒の騎士、勇者ジェイクは訳も分からず叫び声を上げる。

 

「ハッハッハッハッ、無駄だ<勇者>ジェイク、今のジミーにお前の声は届いてはいない。これは呪い、“愛戦士の呪い”。真に彼を愛し思いを伝える者にしかジミーを救う事は出来ないのだよ」

「そんな、このままではジミーが」

 

勇者ジェイクは立ち上がり観客席に言葉を向ける、心の底から助けを求めるように。

 

「この会場で、真にジミーに愛を向けてくれる方はいませんか!!

どうかジミーを苦しみから救ってください!!」

 

勇者ジェイクの訴えに、闘技場はこれまでで一番の盛り上がりを見せるのだった。

 




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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