転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第746話 マルセル村の春祭り、若者たちの旅立ち

そこは村の健康広場と呼ばれるマルセル村の中心地、多くの村人たちが集まり春祭りの余興であるお芝居の話で盛り上がる。

 

“カチャカチャカチャカチャ、ドン、ドン、ドン”

「この宿六たち、おしゃべりしてる暇があるんなら食器を並べることぐらい手伝いな。女衆はあんたらの小間使いなんかじゃないんだからね!!」

 

ベネットお婆さんの一喝に慌てて走り出す男衆、女衆は予め作り置きしておいた料理を収納の腕輪から取り出し次々とテーブルに並べていく。

テキパキと動く男衆の働きにより宴席の準備はすぐに整い、皆が席に着いたところでホーンラビット伯爵家当主ドレイク・ホーンラビット伯爵閣下が席を立ち言葉を述べる。

 

「マルセル村の皆さん、マルセル村にご滞在の皆さん、今年もまた無事に春のお祭りを行う事が出来たことを喜ぶとともに、皆さんと共に厳しい冬を乗り切る事が出来たことを感謝申し上げます。

昨年もまたここホーンラビット伯爵領は様々な事がありました。嬉しい出来事としては村を離れていた若者たちが家族を作り帰村してくれたことでしょうか、それぞれが街での生活よりも故郷マルセル村での生活を選んでくれた。

これは私の長年の夢であった「若者たちが帰りたいと思える故郷マルセル村を造る」という目標に一歩近づいたことにほかなりません。これも全て皆さまの御協力あってのこと、ホーンラビット伯爵領を治める者として心より感謝申し上げます。

今一つはホーンラビット伯爵領が自治領宣言をしオーランド王国の干渉から離れたこと、子供たちの自由教育権を得られたことでしょうか。

王国からの支援もない代わりに王国や王国貴族からの干渉も拒否する事が出来る。この事は辺境の地でのんびり暮らしたいという我々にとって最も嬉しい知らせにほかなりません。

子供たちの自由教育権に関してはその言葉の通りです、十二歳の授けの儀に於いて子供たちがどのような職業を授かろうと学園に行く行かないを選択する事が出来ます。

男爵家以上の貴族籍がある家の者は嫡子の学園入学義務は生じますが、例え上位職であっても王都学園に進学するしないを選べるというのは大きい。

子供達にはより多くの選択肢を残してあげたいという事が、私の偽らざる本音ですから。

 

さぁ、カップをお取りください。無事に春を迎えられたこと、今年も新しい一年を始められることを祝して乾杯をいたしましょう。

皆さんの健康と本年度の豊作を祈って、乾杯!!」

「「「「「かんぱーーーい」」」」」

“カツンッ、カツンッ、カツンッ、カツンッ”

 

それぞれのテーブルで打ち付けられるカップ、マルセル村の春の宴は人々の明るい笑顔とともに幕を開けるのでした。

・・・すまん、嘘を吐いた。約一名めちゃくちゃどんよりしておりました。

 

「・・・なんで、なんでクルンはよくて私は駄目なんです。私たちは同じ暗黒大陸の女ですよ?  互いにジミーを追い掛けて中央大陸に渡ってきた者同士ですよ、私とクルンに何の違いがあるっていうんですか~~~!!」

愛に生き、愛に死ぬ女ラビアンヌ嬢、ジミーに一世一代の愛の告白をするも盛大に撃沈。使用人たちに囲まれて管を巻いておられます。

そりゃそうですよね、マルセル村に来るために、ジミーに愛を伝える、その為だけに魔都総合武術大会で準優勝できるくらいになるまで努力を重ねたんですから。

クルンはね、もともと戦闘民族だから己の生き方を貫いてるだけだしなんてことなかったんだろうけど、ラビアンヌは違うもんな~。ま、俺的にはその辺の価値観の違いが大きかったんじゃね? と思わなくもないんですが。

 

「何とか言ってくださいよ、白雲さん!!」

「いや、俺に言われてもな。俺ってば人間関係の経験値が低いからな~」

 

で、そんなラビアンヌに捕まっちゃったのが白雲っていうね。まぁ白雲はワイルドウッド男爵家の騎士ですんで、クルンとラビアンヌとは面識があるどころか戦闘訓練の相手もしていましたしね、この流れは致し方がないかと。

 

「正直に言わせてもらってもいいか?」

「何ですか、私に何かあるっていうんですか」

 

「はっきり言ってラビアンヌは重い、激重女だからな、大概の男はドン引きするんじゃないのか?

いや、これはラビアンヌから聞いた話を俺がどう感じたのかって話だから、決してお前を非難するものじゃないと予め言っておくぞ?

ジミーは暗黒大陸に武者修行に行っていたんだよな、確か武勇者って言ったか、暗黒大陸中を放浪して強い相手を求めては戦い続けるって奴。

で、たまたま困っているラビアンヌを見つけた。言い方は悪いがジミーにとってラビアンヌの抱える厄介事は都合がよかったんだよ、好きなだけ暴れられるからな。

ラビアンヌは何の恩も返せなかったとか言っていたけど、ジミーにとっては厄介事の解決した相手に用はない、次の強敵を求めることのほうが重要だからな。前にラビアンヌに暗黒大陸の武勇者の事について聞いたけど、“媚びぬ、恐れぬ、顧みぬ”だったか?

まさに聖人といってもいいような清廉な行いだが、要するに強い敵と戦った後はその場に固執する必要がないってだけなんだと思うぞ?

 

そんな武勇者気質のジミーにとってラビアンヌの考え方は相いれなかった、それだけだったんだろうな。ジミーは己というものをしっかり持っている、そのうえで自身が決して人に褒められるような人物ではないことも自覚している。

剣に生き、剣に死す。聞こえはいいかもしれないが、家庭人としては最低だからな?

嫁も子供も放置してふらふら戦いに行くってことなんだから。

それでもヘンリーさんみたいに家庭に落ち着くこともある、ボビー師匠みたいに歳を経るまで一人で過ごすかもしれない。ジミーはそんな父親と師匠を見て育ってるからこそ、ラビアンヌにはもっと落ち着いた男性と幸せな家庭を築いて欲しいと言ったんだと思うぞ?

変に気を持たせずはっきりと自分の考えを言うあたりジミーらしいとは思うけどな」

 

白雲からの正論に何も言葉を返せずに黙って俯くラビアンヌ。そんなラビアンヌに白雲は「それとな」と言って追い打ちを掛ける。

 

「ラビアンヌ、お前さん、いいところのお嬢様か何かで、あわよくばジミーを実家に連れて帰って共に家を盛り立てていこうとか考えてなかったか? ラビアンヌを送り出した家族もジミーなら大歓迎だから絶対捕まえてこいとかなんとか言って送り出したんじゃないのか?」

「ウグッ、なぜそれを・・・」

 

図星を突かれ言葉を失うラビアンヌ、そんなラビアンヌに白雲の言葉が降り注ぐ。

 

「確かにジミーは人品共にいい男だ、他人を思いやり人を大切にする。曲がったことはしないし、清濁併せ持つ度量も持ち合わせている。だからラビアンヌやラビアンヌの家族の思惑を知ったところでお前を嫌いになったりすることはないしそんなに思っていてくれてありがたいといった言葉すら掛けるだろうよ。

でもな、ジミーの本質はやっぱり剣士なんだよ、その言動や見た目がどうであれ剣に生き剣に死ぬ風来坊、それがジミーなんだって。

フィリーやディアは当然そのことを知っていて“だったらともに並び立ってやろうじゃないか”って己を鍛え上げてるし、クルンは自身が似たような人種だからな。

そんな彼女たちに慕われともにいたいと言われたら、好きにしろって言うのがジミーって奴だよ。

ジミーの兄貴のケビンもそうだが、あの兄弟は“愛だの恋だのはよく分からん!!”って本気で言ってるからな? そういう意味では本能に則したクルンの考え方は受け入れ易かったんじゃないのか?」

 

颯爽と現れ自分たちを救ってくれたジミーに憧れ恋をしたラビアンヌ、ただ強い敵を求め戦いに身を置くジミー。愛に生き、愛を求め、愛を育む女と、剣に生き、戦いを求め、修羅を貫く男。身も蓋もない言い方だが立っている場所、見ている景色が違っていた、そういう事だったのだろう。

 

俯きプルプルと震え涙するラビアンヌ、そんな彼女に寄り添い話を聞く白雲。周囲は春祭りの喧騒に包まれるも、人々の耳は諜報員のそれのように二人の会話を捉え続ける。

 

「白雲さん、私・・・」

「最初に言ったがこれはラビアンヌを非難するものでも何でもない、単に二人の在り様が違ったというだけの話。今後ラビアンヌがどうしたいのか、自分の価値観に近しい男性を探すもよし、自身を変えジミーを追い求めるもよし、ラビアンヌの人生はラビアンヌのものなんだからな。

兄弟子はラビアンヌがジミーに振られたからって出て行けとかは言わんと思うぞ? 兄弟子は変に懐が広いからな、一度受け入れた相手はきっちり面倒を見るって人だからな。

暗黒大陸に帰るにしろ中央大陸を旅するにしろマルセル村に残るにしろ、よく考えてから結論を出したらいい。分からないことがあったら俺たちに聞け、なんせ俺たちはワイルドウッド男爵家に仕える仲間なんだからな」

 

そういいエールの入ったカップを“コンッ”と軽く当てる白雲に、黙ったままコクリと頷くラビアンヌ。

 

「白雲さん、お料理取ってきましたよ? ラビアンヌさん、少しは元気が出たみたいでよかったです。果実水のお代わりをお持ちしましょうか?」

「ルイン、ありがとう。お前も座ってゆっくりしろよ」

 

そう言い隣の席を進める白雲に、ニコリと笑顔を返す頭部にラクーン耳を付けた可愛らしい女性。

 

「えっ、ルインさん? あの、白雲さん、お二人の関係は・・・」

「ん? あぁ、近々一緒になりたいとは思ってるんだが、今はお茶畑の方が忙しくてな。それでも秋の収穫祭のときには正式にお披露目しようってことにってどうしたんだラビアンヌ? 頭をテーブルに付けて」

 

グホッ、ここにきて白雲の恋人が発覚~~~~!! 傷心な自分を気遣ってくれた優しい男性には既にかわいらしいお相手が~~~~、この攻撃にラビアンヌ選手のHPがレッドゾーンに突入だ~~~~!!

周囲のオーディエンスもこの展開には大歓喜、春祭り会場にもかかわらず一切の音が消えるという異常事態が発生しております!!

 

“プルプルプルプル”

「ど、どうしたラビアンヌ、どこか具合でも悪いのか? だったらすぐに残月さんに」

テーブルに頭を下げたままプルプルと肩を震わせるラビアンヌ、そんな彼女を気遣い声を掛ける白雲、事態は一瞬にして変化する。

 

“ガバッ、ガシッ”

突如顔を上げるや白雲の胸ぐらを掴むラビアンヌ。

 

「白雲さん、子供は好きですか!!」

「おっ、おう。嫌いじゃないぞ、子供は宝だからな、元気な笑顔を見るとこっちも元気になれる気がするしな」

 

「白雲さんは強い敵を求め放浪する戦闘狂ですか!!」

「いや、確かに俺も戦うこと自体は好きだが戦闘狂とは違うかな? 大体俺は騎士とはいっても名ばかりのお茶農家だからな? お茶畑の管理があるってのにフラフラ出掛けたりなんかできないだろうが」

 

「白雲さんは次から次に女を作って放置するような薄情者ですか!!」

「はぁ? 何言ってんだ? 俺はこれからマルセル村でお茶農家としてルインと一緒にだな・・・」

 

泣き腫らした顔もそのままに、胸ぐらを掴み真剣な瞳で言葉をぶつけるラビアンヌにタジタジになりながらも返事を返す白雲。

これってなんてメシウマ、マルセル村のオーディエンスはこの後の展開がどうなるのかとワクワクとドキドキで取り繕う事も忘れガン見しております!!

デバガメ最高~~~~!!

 

「白雲さん!!」

「はっ、はい」

 

「私も一緒にもらってくれますか!!」

「はっ、はい~~~~~!? ちょっと落ち着けラビアンヌ、って酒臭!! お前いつの間に飲んでやがった! それに俺にはルインという相手がな「白雲さん、ちょっと」・・・いや、ちょっと待とう、ルイン。これは完全な不可抗力であって俺は何も「これは好機です」・・・はぁ?」

 

ルインの不意の発言にピタリと動きを止める白雲、そんな白雲をよそに言葉を続けるルイン。

 

「今、私たちのお茶畑で最も重要な問題がなんだか分かりますか?」

「まぁ、そりゃ。人手不足だろう? お茶畑を広げマルセル村の特産としようにも圧倒的に人手が足りない。よしんば収穫自体は問題なくともお茶の加工には手間暇が掛かるからな、今の人員ではとてもじゃないが求められる注文に応えることは難しいだろうな」

 

「そうです。それにアノお茶畑にはやたらな人間を入れる事が出来ない訳もあります」

「あ~、うん、そうだよな。連中が何するか分からないもんな。信頼できる人材の確保、本当にどうしたらいいのか・・・て、えっ?」

 

白雲をじっと見つめコクリと頷くルイン、そんな彼女に顔を引き攣らせる白雲。

 

「ラビアンヌさん、あなたには暗黒大陸で待つ家族がいるはずです。残念ですが白雲さんはお茶農家、暗黒大陸に連れて帰るわけにはいかないんです、それは承知していますか?」

「私、家族に必ずジミーと一緒になるって言って飛び出してきたんです。ジミーを捕まえるまで戻る気はないって啖呵を切って。

そんな私がどの面を下げて家に帰れるというんですか」

 

「そうですか、ですが家族の絆というものはそんな程度で切れてしまうほど脆いものではないはずです。家族の事を深く愛しているラビアンヌさんならそのことはよく分かっているはず、いずれにしろ一度ご家族の元に戻り、今回の顛末はお話ししたほうが良いと思います。

そしてその上で尚マルセル村に来たい、白雲さんと共に家庭を築きたいというのなら私は止めませんし喜んで歓迎します。

私たちはお茶農家です、朝早く毎日単調な作業の日々が続きます。そんな生活でもいい、そんな生活の中で何気ない幸せを白雲さんと共に感じていたいというのなら、ご両親の了解を得たうえで再びマルセル村にお越しください。

私はラビアンヌさんがその場の雰囲気に流されていい加減なことを言う女性でないことを願っておりますので」(ニッコリ)

 

ルインからラビアンヌに向けられた慈愛に満ちた優しい笑顔、そんなルインにコクリと頷きで返すラビアンヌ。

そんな彼らのやり取りを見ていたマルセル村の者たちは思った、“ルインちゃん、コエ~~~~!!”と。

春ももうすぐ、暖かい日の光が村の健康広場を照らす。マルセル村の春祭りは、まだまだ始まったばかりなのであった。

(実況は、ケビン・ワイルドウッドでお送りいたしました)

 




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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