““ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ””
若者たちが再び村を離れ、マルセル村に静けさが戻る。村人たちは新しい一年の始まりをその身に感じながら、
““バサッ、バサッ、バサッ、キュワッキュワッ、クワッ””
土起こしを行なった畑には、各家で育てているビッグワームプールから集めてきたビッグワーム肥料をばら撒き、よくすき込んでいく。
““ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ””
““クワックワッ、キュワッ””
一通りすき込み作業が済んだら畝立て、いつでも種まきが出来る状態を作り上げたら、準備完了である。
しかし相変わらず畑の守護者たちの作付け準備は大胆というか大迫力というか。体表の鱗をバシッと立てて横に転がる緑と黄色、身体が大きくなった事もあり耕運機も真っ青の勢いで畑の硬くなった土をひっくり返しまくるし。本来なら数日は掛かるはずの畑の土起こし作業も、わずか数時間で終わらせちゃうって言うね。
流石は畑の守護者ファームドラゴンワーム様方でございます。畝立ても完璧、いつでも種まきが出来る体制は整ってございます。
この畝立ても凄いのよ? よく耕した畑を真っ直ぐ掘り進んで行くだけで両脇に畝が出来ちゃうんだから。細かい調整は触腕で行えばOK、ク〇タに就職できますね、うん。
まぁマルセル村の農場は表向き農家やってますって主張するためのものなんでそこまで力を入れなくてもいいんですけどね。島の農業生産の方はえらい事になってますし。
自己領域の島の農作業の中心は鷹の目コッコたち、島の畑を任せる条件でアスレチック場と子育て自由権を与えたら増える増える、その内この島コッコ島って呼ばれるようになるんじゃないかな~。
他にも畑管理用にビッグワームを十数体育てて大型化しております。こいつらは緑と黄色にお任せ、確り教育を施して貰っております。
そんな感じでワイルドウッド男爵家の新年度は始まろうとしていたんですけどね、ちょ~っと色々と問題がですね~。
以前から緑と黄色、キャロルとマッシュに身体的な変化が出て来てはいたんですけどね、<昇進>可能通知がですね~。
<自己診断>
<魔物の雇用主>
現在の契約魔物・・・<長期雇用契約>六十一体・<短期雇用契約>三体
昇進可能魔物
緑(ファームドラゴンワーム)・黄色(ファームドラゴンワーム)・キャロル(カースファームドラゴンワーム)・マッシュ(カースファームドラゴンワーム)・シャロン(精霊王女)
うん、そりゃそうだよね、あれだけ闇属性魔力の塊みたいな魔王デビルトレントの亡骸を踊り食いしていれば進化もするよね。って言うかそれでも進化の通知が来ない大福先生がどれ程のものかって事の方が怖ろしいんですけど?
大福先生、人類を滅ぼさないでください、お願いします。
「はい、という訳で本日は皆さんの<昇進>を行いたいと思います。みんな~、進化したいか~!!」
““クワックワックワ~~♪””
““キュワッ、クワックワ~~!!””
“クワ~~♪”
時刻は深夜、人々が寝静まり空には星々が煌めく時間帯。
本日の進化会場は自己領域の島の中、魔王デビルトレントの処理場ですね。どうせ進化後は“お腹が空いた~~~!!”とか言って餌をねだられるので魔王デビルトレントの亡骸(巨大な切り株)も準備済み、処理場の結界もそれに合わせて大きくしてあります。
まぁそれでも何が起きるのか分からないのが<昇進>の怖ろしいところ、魔剣の皆さんには頑張って魔王デビルトレントの亡骸から呪いを吸収してもらっていますが、念のため待機してもらっています。
「それじゃまずそこに集まってね~。全体を覆うから、<シェルター>」
俺は五体の魔物たちに一カ所に集まって貰い、生活魔法<シェルター>で大型倉庫二軒分くらいの広さのドームを作り周囲を覆います。
広くしたのは緑と黄色対策、こいつら絶対巨大化しそうなんだもん、今でも相当大きくなっちゃったけど。小型化の魔法を覚えさせた俺氏、Good Jobです。
「黒鴉、匠、ブラッディ・クイーン、闇喰らい、何があるのか分からないから、緊急時には対処をおねがいします。
<昇進:対象:緑・黄色・キャロル・マッシュ・シャロン>」
“ブワ~~~~~~”
進化が始まったのか、五体の魔物を覆った土のドームが白色電球のように光り出します。もっと壁を厚くすればよかったかと若干後悔し始めた、その時でした。
“バコーーーーーーン”
弾け飛ぶドーム飛び出す四体の魔物、魔物たちはそのまま周囲を覆う結界も壊し、夜空の闇の中へ。
「ウォ~~、何だ一体!?」
吹き飛んできたドームの壁の直撃を受け吹き飛ばされるも、何とか起き上がった俺は、処理場の結界が壊されたことに唖然。アレ、魔王デビルトレントの亡骸の危険性も考慮して、相当丈夫に造ってあったんですけど? 三重構造の大結界だったんですけど? 大福先生にもお墨付きをいただいた代物だったんですけど?
そんな感想を抱きながら星空を見上げれば、月明かりの夜空を舞う四本のシルエットが。そう言えば在りし日の記憶にある昔話を題材にしたテレビアニメでデンデン太鼓を持った男の子があんな感じの魔物に跨ってたよな~と、ぼーっと夜空を眺めながら自己逃避。
よし、あれは後で考えよう、腹が減ったらそのうち帰ってくるだろう。
視線を下げて正面を向けば、ものの見事に破壊された土のドームの残骸とその中央に鎮座する大きな卵。どうやらシャロンは今回も卵からの登場のようです。
“コツコツ、コツコツコツコツ”
卵の中から殻を
“ピシッ、ピシピシピシピシッ”
全体にひびが広がり大きな亀裂の入る巨大卵、そして。
“バリッ、キュワーーーーーーー!!”
白い肌、長く伸びた白い髪はそのままに、少女は淑女へ、そして大人の女性へと進化する。
「<出張:紬>、急に呼び出してごめん、悪いんだけどシャロンの服を用意してやってくれる? いつものツナギと布製の靴で。
流石に今のシャロンをそのままって訳にもね。シャロンもお腹が空いてるのは分かるけどちょっと我慢しよう、すぐに紬がシャロンの服を用意してくれるから」
“キュワ~~~”(ショボン)
お腹を押さえながら落ち込むシャロン。でも全裸美女が巨大切り株に喰らい付く光景はヤバいから、ちょっと人様にお見せ出来ないから。
そんなこんなで待つこと暫し、紬先生が急造してくれたツナギを着込んで布製の靴を履いたシャロンが魔王デビルトレントの亡骸に突貫をかましたころ、ひとしきり夜空を満喫した方々がお帰りになられまして。
““““キュワ~~~~~~””””
「喧しい、“お腹空いた~”じゃないわ!! そんだけ巨大化したのに行き成り空を飛び回ったら腹だって減るっての、気が済むまで切り株でも食ってろ!!」
““““クワックワックワ~~~♪””””
俺の言葉に嬉し気に切り株に飛びつく四体の巨大魔物。
・・・これ、どうしよう。絶対あなた様案件だよね、言わないと後から怒られちゃうけど直ぐに報告しても怒られる奴だよね?
俺は暗澹たる未来に頭を抱え、“ツンツンツン”・・・。
「えっと、御三方揃ってどうかなさいましたか?」
“カタカタカタカタ”
“ギシギシギシギシ”
“ギャリギャリギャリギャリ”
何故か俺の後方に集まってきた三本の魔剣、その背後には三本を見下ろすように宙に浮かぶ魔剣黒鴉。
「・・・もしかしてお前らも<昇進>がしたいとか? って言うか出来るのか? まぁ
べつに俺的には構わないけど、やってみる?」
“カタカタカタカタ!!”
“ギシギシギシギシ!!”
“ギャリギャリギャリギャリ!!”
なんかめっちゃ喰らい付いて来る魔剣たち、って言うか切っ先をこっちに向けるな、危ないだろうが!!
「それじゃまず雇用契約からね、<長期雇用契約:匠・ブラッディ・クイーン・闇喰らい>」
スキル<魔物の雇用主>が発動し、互いの関係が結ばれたことが伝わってくる。
“キンコン♪
<昇進>の条件を達成した魔物が三体確認されました。昇進を行いますか?”
そして透かさずの昇進通知、そりゃあれだけ呪いを吸いまくったら進化もしますよね、って言うか今までリビングソードとして進化しなかった方が不思議なくらいですし。
<自己診断>
<魔物の雇用主>
現在の契約魔物・・・<長期雇用契約>六十四体・<短期雇用契約>三体
昇進可能魔物
匠(ファーメンテーションソード)・ブラッディ・クイーン(ヴァンパイアソード)・闇喰らい(バーサーカーソード)
うん、なんかヤバそうなのが一振りあるよね、これって大丈夫なんだろうか? 大丈夫だと思いたい。
「はい、それじゃみんな集まって~、チャチャッと<昇進>しちゃうから。黒鴉のときは鞘ごと変化してたからそのままでお願いね、<シェルター>」
俺は三振りの魔剣? 魔物? を土のドーム(厚め)で覆い、<昇進>を行うのでした。
「<昇進:対象:匠・ブラッディ・クイーン・闇喰らい>」
・・・多分何らかの変化が起きているドーム内、壁の厚みをマシマシにしたからか中の変化が一切分かりません。まぁ五分くらい待っていれば進化も終わってるでしょうから、そうなったら破砕でドームを壊して“シュパンシュパンシュパンシュパンシュパンシュパン”・・・はぁ?
“ガラガラガラガラッ”
細切れになって崩れる土のドーム。
“ガシャッ”
開いた穴から土壁に手を掛けるようにガントレットが伸びる。
“ガシャンッ、ガシャンッ、ガシャンッ”
それは騎士、陣羽織を羽織り前掛けをした西洋全身甲冑姿の偉丈夫が、“ガシャンッ、ガシャンッ”と足音を鳴らしながら現れる。
“スーーーーーッ”
それは女性、黒いドレスに黒い帽子、目元は黒のベールに覆われ窺い知ることはできない。その代わり妖しく艶めく真っ赤な唇が、視線を集めて離さない。
“ギャリギャリギャリ”
それは口、狼のような、ワニのような、ただ喰らうだけの大きな口。そんな口を持ったナニカは鈍色の脈打つロングソードを手に持ち、獰猛に笑う。
「うん、まぁ、個性は大事だよね、うん。それとブラッディ・クイーン、その見た目でブラッディ・クイーンってどうだろう? この際改名しちゃう? なんかダサいし」
俺の言葉にコクコクと頷くブラッディ・クイーン。喪服の女性がブラッディ・クイーンってのもね~、凄い違和感だし。
俺はしばし瞑目し考える、喪服ドレスの女性、顔はベールに隠れているうえに黒い手袋までしていてなんかそこはかとない上流階級な雰囲気がですね。
「エリザベス、エリザベスなんてどうだ? なんかお前って高貴な人物って雰囲気が凄いし。意味は“我が神は我が誓い”、存在的には真逆かもしれないけど、皮肉が効いてていいかなって。
お前がどういう経緯で世界を呪ってるのかは知らないけど、その思いの根底には譲れない信念や誓いのようなものがあるように感じるんだよね。っていう訳でお前は今から魔剣“エリザベス”な。<名付け:エリザベス>」
“ブォッ”
エリザベスの周りを強い魔力が取り囲む、これは闇属性魔力を吸い込んでいる?
エリザベスの身体が淡く光り、より存在が濃く、より深く。
あっ、なんか結構俺の魔力も減ってるみたい。これってばやっぱ<名付け>の影響だよね、エリザベスってば実はかなり強力な存在だったっぽいっす。
で、肝心のエリザベスといえば、存在値が上がったって感じかな? パッと見の感じはさほど変化なし、変わってたとしても気づかないだろうけどね。
「それで匠は・・・まぁ人型の方が味噌の仕込みには都合がいいだろうし、今後ともよろしく」
“ガチャッ”
匠は“押忍!!”とでも言わんばかりに勢いよく頭を下げます。
「ブラッディ・クイーン改めエリザベスは・・・お前、子育てに興味ある? 俺の娘なんだけど、闇属性特化型でさ。一応強制的に闇属性魔力を吸い上げる腕輪をしているから問題ないと思うんだけど、やっぱり闇属性魔力の扱いに長けた存在が傍にいてくれると心強いと思うんだよね。どうかな?」
「・・・
おっ、エリザベス、どうやら<名付け>の影響かしゃべれるようになった模様、これは好都合。
「まぁ大丈夫じゃね? 今のお前なら。なんか存在が明確になった影響か、思考が落ち着いたみたいだし。ただまぁ、さっきも言ったけど娘に取り付けた腕輪の影響がどこまでかってことも確認する必要があるんだよね。
とりあえずお試しってことで考えておいて」
俺の言葉に優雅にカーテシーを決めるエリザベス。
「・・・闇喰らい、お前最高。やっぱ呪われた剣はそうじゃないとな、もうなんって言うか言うことなしの優勝。これからも脅し役、よろしくお願いします」
“ギャリギャリギャリギャリギャリギャリ!!”
“任せろご主人!!”という強い感情が闇喰らいから伝わってきます。体験型お化け屋敷のスタッフとして闇喰らいには今後とも活躍していただきましょう。
「あ~、お前たちも腹が減ってるだろう、アイツらとは別に魔王デビルトレントの亡骸を出してやるから好きに食べてくれ。黒鴉も一緒に食べていいからな」
俺がそう言うと、嬉しそうにこちらに近付いてくる黒鞘の直刀。
俺は四匹の魔物が破壊した結界を再構築すると、収納の腕輪から魔剣たち用に魔王デビルトレントの亡骸(枝葉部分)を取り出すのでした。
「<召喚術:あなた様:あっ、あなた様、お忙しいところすみません。少々ご報告しておかなければいけない事態がおきまして。はい、自己領域です。
つきましては居酒屋ケビン経由で魔王デビルトレントの処理場までお越しいただければと、案内はトライデントがいたしますので。
はい、なんならお姫様抱っこも・・・そうですか、分かりました。ではよろしくお願いいたします>」
連絡終了、あとは沙汰を待つのみ。俺は食べ放題に夢中な従業員たちを尻目に、一人結界の外であなた様の訪れを待つのでした。
本日一話目です。