転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第75話 転生勇者、護衛任務を体験する

カタコト音を立て街道を進む荷馬車、周囲に広がる草原には爽やかな風が吹き抜ける。ポカポカと照り付ける日差し、荷台に座った少年は余りの心地よさにフラフラと舟を漕ぎ始める。

 

「ジェイク君、寝てるでしょ!いくらこの辺がそれ程危なくないからって、油断してたら大変な事になるんだからね?」

 

「ね、ね、寝てなんかいないからね、本当だよ?」

「「「ブフォ、アハハハハハ」」」

急ぎ姿勢を正し取り繕おうとする少年に、周りの者からは笑いが漏れる。少年は顔を赤くし恥ずかしそうにしながらも、“危なく落ちるところだった”と自らの行動を反省する。

 

 

「ジェイク、ジミー、エミリー、いずれ冒険者としてこの村を出るであろうお前たちにこれ迄様々な事を教えて来た。そしてお前たちはそれらを着実に身に付け、村の一員として狩りへの同行を許される迄に至った。それは誇るべき成果であり、お前たちの実力が既に一人前の村人である事を示している」

 

何時もの訓練を終えた後のボビー師匠の訓示、だが今日の話は普段のそれとは少し違ったものであった。それは在りし日の、初めてホーンラビット討伐に向かった日のものに似ていた。

 

「そんなお前たちが村の外へ出ても困らない様に、冒険者としてやって行ける様に、これからはより広い世界を、より多くのものを知って行って貰おうと思う。この事はお前たちの親を含め、村の大人達で良く相談し決定した事だ。明日、マルセル村からミルガルの街に向け荷馬車が出る。お前たちにはその荷馬車を守る護衛任務を行って貰う。

行程は片道五日、途中四回程夜営を取る事となる。今回は敢えて村での滞在は行わない。これも訓練と思って欲しい。

予想される脅威は草原のグラスウルフ、森のオーク、他には盗賊団と言ったところか。

護衛対象はボイルさんとケビン君になる、心して任務に挑む様に」

 

「「「はい、分かりました!」」」

ボビー師匠からもたらされた知らせは、基礎的な修行の終わりを示していた。これから俺たちは本格的な第一歩を歩み出す。一人前の冒険者になる為に、この世界を冒険する為に。

ジェイクの胸に去来する思い、それは自分が転生者であると自覚したあの日の思い出。俺はこの世界でただ力を振るいたかったのか、否、ゲームの知識を使い好き勝手に欲望のままに生きたかったのか、否、断じて否である。あの時宿った思い、それは純粋な憧れ、冒険し、旅をし、この世界を堪能したいと言う子供の様な衝動。

この世界は現実、危険もあれば悪意もある。油断をすればあっという間に破滅する、それは何も魔物との戦いばかりではない事を村の大人達が教えてくれた。

 

家に帰りマリアお母さんに明日旅立つ事を報告する。お母さんは心配そうな複雑な表情をしながらも、“頑張っていらっしゃい”と俺の背中を押してくれた。

トーマスお父さんは難しい顔をしながらも、“お前は強い、後は経験を積んでいく事、頑張れよ”と言って拳を突き出してコツンと当ててくれた。

俺は腰に下げたナイフの鞘を叩き、“大丈夫、僕はお兄ちゃんになるんだからね”と言ってニッと笑うのだった。

 

 

「そろそろゴルド村に着くよ、そうしたらお昼にしようか」

御者席から声を掛けてくれたのはボイルさんだった。ボイルさんは昔商人をしていたらしく、こうした馬車の移動は慣れているとの話であった。

 

「みんな、緊張しなかったかな?護衛任務は仕事の時間が長い、しかもいつ戦闘が始まるのか分からないと言う怖さもある。今回は片道五日と言う行程だけど、それこそ片道半年とか言う依頼もあったりする。そんな依頼の中ずっと警戒し続けるのは余り現実的ではないんだ。

適度な緊張と弛緩、その切り替えが重要になる。それには周りの者との協力が必要不可欠、冒険者同士が酒の席でバカ騒ぎするのには、そんな依頼の際の協力関係を築き易くすると言う意味合いもあるんだよ」

ボイルさんはそう言うと、“まだ君たちにお酒は早いけどね”と言って硬パンと飲み水を配ってくれるのでした。

 

―――――――――――

 

「ケビン君、聖水を買いに行こうか」

最近このドレイク村長代理の突拍子の無さに慣れ始めて来た自分が悲しいです。で、今回はどう言った話なんでしょうか。

 

「うん、理解が早くて助かるよ。基本的な話は村の野菜の販売だね、私のマジックバッグがいくら大容量だとは言え限界があるからね。前に来たバストール商会の行商人ドラゴ氏がいただろう、彼との商談で村の野菜の販売を行う契約を結んでね。ボイルさんとボビー師匠に頼んでミルガルのバストール商会迄運んで貰う事になっていたんだ。

そうしたらケビン君がボビー師匠に聖水の購入を頼んでいるって言うじゃないか、その話しを聞いたのがちょうど村の会議の場だったんだが、それなら村の子供達に村の外に出る為の訓練をさせようと言う事になってね。ジェイク君、ジミー君、エミリーちゃんに荷馬車の護衛任務を体験させようって事になったんだ」

「・・・えっと、今の話だと俺って必要ないですよね?チビッ子軍団頑張れって事ですよね?ボイルさんに聖水購入をお願いするってだけですよね?」

 

「うん、ケビン君はいざと言う時の保険かな?生き残る事に関してケビン君以上の者はマルセル村にはいないからね。いくらボビー師匠が付いているからと言って、子供達迄守って戦う事は負担となるだろう?」

「イヤイヤイヤ、ジェイク君達は俺なんかよりよっぽど強いですよ?俺なんか加わったら足手まといが増えるだけですって」

 

「ハハハハ、それはまともな剣術勝負の話しだろう?何でもありの勝負でケビン君に勝てる人間はマルセル村にはいないよ。ボビー師匠に三連勝しているって事実を自覚した方がいいよ?」

「あれはあの時ボケ老人が絡んで来るからであってですね、その、なんて言いますか・・・分かりました」

 

ニコニコ笑うドレイク村長代理、引く気はないようです。

そんなに娘が大切か!?このおっさん、結婚したとたんエミリーちゃん大好き人間になりやがって、エミリーちゃんの為だったら恥も外聞もなく全てを利用しようと言う清々しさ。

今回の件もただ心配ってだけなんだろうな~。でもその思いやりを何故私には分けてくれないのでしょうか?活動期に入った魔物は元気なのよ?ミルガルの街に行く途中にはグラスウルフの草原にオークの森、街道沿いに出没する盗賊と、危険がデンジャーなのよ?

聖水だけならゴルド村の先にあるエルセルの街でも手に入るんじゃないの?あそこの教会は腐ってるからまともな聖水は期待出来ない!?マジですか、そうですか、分かりました。もののついでですね、はい、後学の為にお供させていただきます。(本当は行きたくないけど)

 

「で、出発はいつなんです?明日?相変わらず急ですね。今頃ジミー達もボビー師匠に話を聞いていると、逃げ道は既に塞いでるんですね、だったら私のやる事は事前準備だけですね」

 

覚悟は決まった、未練タラタラだけど。ケビン少年は畑の小屋に走り、倉庫の保存食を腕輪収納に仕舞い込むのでした。

 

「あ、アナさんはお留守番ですよ?連れて行きませんからね。畑の方をお願いします。後ケイトが魔法(呪い)の修行に来ますんで、変身魔法の方を見てやって下さい。決して便利使いしている訳ではありませんから、売却済みの呪いは勘弁してください。色々精神に来るので。

太郎、緑、黄色、アナさんの事を頼んだ」

“バウッ”

““クネクネクネ””

 

何か人間より魔物の方が接しやすいと思う今日この頃、一通りの準備が済みホッとするケビン少年なのでありました。

 

 

流れる雲、暖かい日差し、爽やかな風。なんとも牧歌的で穏やかな景色、ここがグラスウルフの草原でなければ。グラスウルフごときであればジェイク君の木刀があれば全く問題ないんですが、それだと訓練にならないとボビー師匠がですね~。

安全第一じゃないんですね、子供らの経験と成長第一と、分かります。魔物との戦闘経験を積ませたくてもマルセル村脇の魔の森だとホーンラビットとマッドボア位しかいないからな~。その先の大森林は危な過ぎるしね、キラービーの集団に囲まれたら普通に死ねる。あいつらにロックオンされたら何十匹もの空飛ぶ悪魔を相手にしないといけないからな~。(ボビー師匠情報)

他にもブラックウルフとか言うヤバい狼の群れやオークの上位種、オーガなんかがゴロゴロいるとか。ホーンタイガーって何?何で虎に角が生えてるの?意味分からない。

それに比べたらグラスウルフなんかはホーンラビットと大差ないとの事。本当かな~、相手は狼よ?草原狼、めっちゃ強そうじゃない。

そんな事をボ~ッと考えていたらいつの間にかゴルド村に到着です。道中何もなくて本当に良かった、こんなビビり王選手権みたいな荷馬車の旅は身体に良くないです。

 

「やぁ、ケビン君じゃないか。今度はミルガルの街迄行くんだって?村から出たくないって言ってたみたいだけど、冬場の四箇村訪問で冒険心に火が付いちゃったのかな?」

そう声を掛けて来てくれたのはゴルド村の村長ホルンさん。

 

「ホルン村長お久し振りです。僕は行きたく無かったんですけど、ドレイク村長代理がですね」

「ハハハ、相変わらずケビン君は振り回されているみたいだね。でもこの先のエルセルの街迄の草原にはグラスウルフがかなりの割合で出没する、十分気を付けてくれ。ケビン君にはゴルド村のビッグワーム干し肉をぜひ味わって欲しいからね」

そう言いウインクをするホルン村長、格好いいです。ドレイク村長代理にも是非見習っていただきたい。

そんな暖かな交流も出発の合図は待ってくれず、マルセル村一行はホルン村長に見送られながらゴルド村を後にするのでした。

 

「あ、すみません。ちょっと止まって貰ってもいいですか?」

ゴルド村から出立して暫し、エルセルの街迄はまだまだ遠く、只管続く草原の街道を移動するマルセル村一行。そんな一行に声を掛けて荷馬車を停めた少年ケビン。

 

「どうしたんだい、ケビン君?」

ケビンの奇行に首を捻るボイルさん。すると「すぐに戻ります」と言って荷馬車を飛び出すケビン、その軽やかな動きに誰もが唖然とする中、暫くの後戻って来た彼は「野良犬の群れを見つけました」と言って数頭の大きなグラスウルフを引き連れていたのでした。

 

「えっと、ケビン君、その魔物は一体」

誰もが言葉を失う中、最初に復活したのは今回の一行のリーダーボイルさん。

 

「あぁ、なんかこっちに向かって来ていたんでビッグワーム干し肉で雇いました。エルセルの街迄の護衛を頼みました。今夜は夜営するって話しじゃないですか?夜に何かあったらね~、眠ってるところを襲われたら一溜まりもないですからね」

俺がそう言うと頭を抱えるボイルさんとボビー師匠。

 

「あのなケビン、そう言う危険を察知して対処するのも訓練だから。最低限の安全はわしが確保しとるから。なるだけ子供らが対応する事に意味があるんだからな?お主が安全を確保してどうするんじゃ、お主はこやつらのパーティーに参加して冒険者になる訳ではないのであろう?」

「・・・あ、そっすね、余計な事をしました、すみませんでした。お前さん達、ごめん、お仕事無しで。これ、お詫びの干し肉、またなんかあったらよろしく」

“バウッ、ワオーン”

“““ワオーン”””

一鳴き大きな声をあげて去って行く野良犬の集団、ケビン少年は彼らの後ろ姿に何時までも手を振り続けるのでした。

 

 

「ねぇジェイク君、さっきの“野良犬”って“犬”じゃないよね」

 

「ハハハハ、太郎と同じって事なんじゃないのかな?俺、“犬”ってよく知らないんだよね」

 

「なんかお兄ちゃんがごめん、本当にごめん」

 

初めての遠出、初めての護衛任務、そんな彼らの緊張をぶち壊す護衛対象。

ケビン少年は今日も通常運転なのでありました。




本日一話目です。
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