夜空に瞬く星々を見ていると思う事がある。
自身がいかに小さく矮小な存在であるのかという事を。
星の光、これは恒星の輝き。光の速さという途轍もないスピードで放たれたそれは、数万光年という時を経てこの星に辿り着いている。
そこにはどれ程の歴史と物語が詰まっているのか。わずか十数年という年月しか生きていない自分には窺い知れない多く出会いと別れが、この星の、そして広大な宇宙の中で繰り広げられ「はいはいそこまで~、ケビンは夜空を見上げながら何んでポエムを作っちゃってるのかな? って言うか今度は何をやらかしちゃったのかな? ??%&から苦情が入ってるんだけど? “自己領域でのやらかしは監視できません”って。今度この領域の中にも監視用の神器を「それじゃ居酒屋ケビンのカウンターの前に」やっぱりそれはよくないわね。自己領域は監視対象外、??%&には私の方からよく言っておくわ」
流石あなた様、掌くるっくるでございますか。
「ようこそおいで下さいました、天上に住まいし至高なる御方様。私、ケビン・ワイルドウッドはこの感動と喜びを「だからそういうのはいいから、用件があるのなら早く言いなさい」・・・トライデントのお姫様抱っこはお気に召さなかった「だから~~~~!! そういうのはいいから用件を言え~~~!!」・・・かしこまりました」
あなた様、徹夜明け? 本日も絶好調なあなた様でございます。
因みにトライデントはあなた様の後方に控えていますね、なんやかんや言ってトライデントのお姫様抱っこはお気に召していただけているご様子、良きかな良きかな。
俺はトライデントにサムズアップを贈ると、あなた様と共に魔王デビルトレントの処理施設でもある結界の中に向かうのでした。
「・・・ねぇ、アレ、何?」
「魔王デビルトレントの亡骸(切り株)ですね。流石に根っこの広がりが大き過ぎたんでかなり切り離しましたけど、それでも結構な大きさがあったんで四等分したうちの一つになります」
俺たちの目の前には巨大な切り株がどんと置かれ、魔王デビルトレントの威容を物語っています。
「あっ、うん、それもそうなんだけど、その切り株に齧り付いている巨大な何かが見えるのは私の気のせいじゃないわよね?」
「流石あなた様、お気付きになられましたか。あちらが本日お呼び立てした“ご報告しておかなければいけない事態”でございます。言い方を変えれば、“魔王デビルトレントの亡骸を使った人類間引き作戦”の全容ですかね。
あなた様は多くの魔物が魔力に惹かれ、魔力豊富な土地に集まってくるという事は御存じですよね?」
「えぇ、この辺りだとフィヨルド山脈周辺の大森林と呼ばれる場所がそうかしら?」
俺からの問い掛けに、あなた様は目の前の光景から視線を逸らす事なく言葉を返されます。
「そうですね、魔力豊富な土地は魔力豊富な植物や獲物に溢れている。魔物にとって魔力とは生きる糧であり、強くなるための、進化するための鍵である。
しかし強過ぎる魔力は逆に毒になることもあります。フィヨルド山脈の中心部に魔物がほとんど生息していないのがその証拠と言えるでしょう、あの場所はドラゴンの塒内に匹敵するほど濃厚で濃密な魔力に溢れていますから。
ではどうしたら魔物に必要な魔力を与え尚且つ進化を促すことが出来るのか、その答えの一つがこの魔王デビルトレントの亡骸です。
あなた様、あちらをご覧ください」
俺が手を向け指し示した場所、そこには魔王デビルトレントの枝葉が山と置かれ、そこから溢れる強烈な呪いの力を自身の身に取り込もうと吸収し続ける異形なる者たちの姿が。
「あのように魔王デビルトレントの枝葉からは世界を蝕む呪いが放出されています。ですがその呪いは魔物を殺すものではなく、魔物を闇に染め、闇の魔力をより多く取り入れるようにするためのものであることが分かったんです。
それは基本的な魔力属性が光の者にとっては毒のような苦しみを与えますが、徐々にその性質を闇に変えていく変質の呪い。変質したモノは多くの魔力を求め只管に魔王デビルトレントの亡骸に喰らい続ける。
そうして強化され、殺し合い、喰らい続けた末に生み出される進化の末が・・・」
俺は再び切り株に向きなおり、四体の巨大魔物を指差しながら結論を告げます。
「人類を滅ぼし得る魔物の誕生、それこそが“魔王デビルトレントの亡骸を使った人類間引き作戦”の全容ではないかと考えられるのです」
“ゴクリッ”
隣ではあなた様が事の重大さに生唾を飲む。目の前で切り株に齧り付く存在が、それ程の怖ろしい力を有していると理解できるからなのだろう。
「ケビンに聞くわ。さっきの話、魔王デビルトレントの呪いの話、アレはどうやって調べたのかしら?」
「はい、先ずは四千年前の魔王デビルトレントの話になります。魔王デビルトレントは多くの強力な魔物を支配し徐々に支配地域を広げていっていたとか、では樹木である魔王デビルトレントがどうやってそれほど多くの強力な魔物を支配できたのでしょうか? 魔王デビルトレントの発生地域がフィヨルド山脈のような魔力異常地帯であればまだ話は分かりますが、周辺に多くの国々が存在するような地域にそのような魔力異常地帯があるものなのでしょうか?
言われてみれば他に説明のしようがないのですが、魔王デビルトレントが魔物を強化したと考えるのが自然です。その為に使ったものが呪いの力であり、自身が溜め込んだ闇属性魔力であった。
周辺地域を呪いにより汚染し魔物同士を戦わせて強力な個体を作っていったのか、はたまた自身の身を喰らわせて強化していったのか。
そうであれば亡骸に残る呪いも説明がつく。
それとその呪いの裏付けですが、黒鴉、匠、エリザベス、闇喰らい、こっちに来てくれ」
俺の声に“呪い食べ放題”を開催していた異形たちが集まってくる。
「彼らは呪いの専門家、呪われた魔剣たちです。黒鴉の事は既にご存じだと思いますが、向かって左から匠、エリザベス、闇喰らいになります。
皆、剣の姿に戻ってくれるか?」
俺の言葉に姿を変える異形たち、それは鞘に収まったショートソードとサーベルとロングソード。
「はっ? えっ、はぁ!? 今人型を取ってたわよね? 死霊とか、そういうのとは違ったわよね?」
「はい、魔王デビルトレントの呪いを吸い続けた結果、ただの魔剣から進化しちゃったみたいですね。いや~、呪いって怖いですね~。
で、先程の呪いの特徴というか、効果は彼らが教えてくれました。元々呪われた魔剣ですから、呪いの影響でおかしくなる事もなく美味しくいただいてたんですけどね、知性と理性が発達しまして、呪いの性質やどういった効果があるのかまで分かるようになったんだそうです。
黒鴉は剣に封印された異形ですからそうした事には疎くて、ただ美味しくいただいていただけみたいですが」
俺の説明にポカンとするあなた様、すると三振りの魔剣は再び異形に姿を変え、あなた様に言葉を掛ける。
“初めてお会いする、私は魔剣“匠”、味噌や醤油と言った発酵食品の製造を任されている者だ。よろしくたのむ”
陣羽織を羽織り前掛けをした全身甲冑姿の偉丈夫が、腰を曲げ礼をする。
「お初にお目に掛ります。私は魔剣“エリザベス”、嘗てブラッディ・クイーンと呼ばれていた者です。この度御主人様よりお子様の子育ての手伝いを仰せつかりました。何卒よろしくお願いいたします」
黒ドレスに黒い帽子を被り、顔の半分をベールで隠した喪服姿の女性が、カーテシーを決め敬意を示す。
“ギィギャギャギャギャギャッ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ!!
あっ、どうも。体験型お化け屋敷のスタッフをしています、魔剣“闇喰らい”といいます。頑張って恐怖を振り撒きますんで、よろしくお願いします”
前に伸びた巨大な口を持つ異形が、時折身体のあちこちに目や口を開きながら自身の化け物ぶりをアピールする。
うん、やっぱり闇喰らいは最高、分かっていらっしゃる。
「・・・ケビン、これ見なきゃダメ?」
「どうぞご自由に。俺は報告したって事で」
こめかみを揉みながらそんな言葉を掛けてくるあなた様に、俺は優しく返事をします。そんな俺の言葉に大きくため息を吐いた後、正面を向き声を上げるあなた様。
「<管理者権限:ステータスオープン:匠・エリザベス・闇喰らい:モニター表示>」
“ブオンッ”
中空に現れる巨大モニター、そこには三体の異形のステータスが示される。
名前 匠
年齢 不明
種族 ファーメンテーションウェポン
スキル
魔力支配 空間支配 発酵醸造 腐食腐敗 武具化
魔法適性
闇 光
称号
なし
名前 エリザベス
年齢 不明
種族 ヴァンパイアクイーン(真祖)
スキル
魔力支配 空間支配 集団支配 血界支配 剣身化
魔法適性
闇
称号
なし
名前 闇喰らい
年齢 不明
種族 狂魔
スキル
魔力支配 身体自在 呪い喰らい 身剣同体 狂気凶刃 血流血魔
魔法適性
闇
称号
なし
「・・・まぁいつもの事ですね、比較的大人しい方かと」
「ヴァンパイアクイーンの真祖相手に大人しいって・・・。やっぱりケビンの所っておかしいわ。一応見ていくけど」
<ファーメンテーションウェポン>
詳細:発酵と腐敗は表裏一体。両者を司る究極の武器。
<スキル詳細>
<発酵醸造>
発酵と醸造は文化。醸すぜ!!
<腐食腐敗>
全てのものを侵食し腐らせる。
<武具化>
様々な武器や防具に姿を変える事が出来る。変幻自在。
<ヴァンパイアクイーン(真祖)>
詳細:始まりの者、生まれながらのヴァンパイアにして全て。統べる者。
<スキル詳細>
<集団支配>
集団を捉え、操り、支配する。群れの長。
<血界支配>
血を操り、血を支配する。血の世界を作り出す。
<剣身化>
剣身に姿を変える。
<狂魔>
詳細:狂いし者、狂気の存在、究極の悪夢。魔を振りまきしナニカ。
<スキル詳細>
<身体自在>
不形にして変幻自在、あらゆる姿に変わる事が出来る。
<呪い喰らい>
呪いを喰らい続けるモノ。
<身剣同体>
剣であり実存在である。
<狂気凶刃>
狂い続けるがゆえに安定した者、殺傷に特化せし者。
<血流血魔>
生み出した地獄を自在に操る。血の海こそ安らぎの楽園。血を操る。
「・・・うん、まさしく魔物、呪いの海から生まれた厄災、素晴らしい!!」
「ケビンが好きそうな内容ね、匠は微妙だけど、エリザベスと闇喰らいは都市壊滅程度ならすぐにでもできるんじゃない?」
ですよね~、危ないっすよね~。でもそれ、匠でも余裕でできます。“腐乱剣”時代でも相当だったんだよな~、匠って。
やっぱり世界樹のドラゴンに挑んだ魔剣は半端ないよな~。
「はい、皆さんご苦労様。状況は確認できたかと思いますが、スキルは使いようです。というか魔物のスキルは何が出来るのかという事を示しているだけですので、そこまで気にすることでもないです。
どうぞ、引き続き呪い食べ放題をお楽しみください」
俺の言葉に一礼をし、魔王デビルトレントの枝葉に戻っていく異形たち。
「さて、いきますか。本日の主題です、緑、黄色、キャロル、マッシュ、シャロン、集合!!」
““““クワーーーーオ、キュワッキュワ~~!!”””””
“キュオ? クワックワ~~!!”
「こうやって傍で見るとデッカイな~」
「そうね、エイジアン大陸の南東部を中心に生息するドラゴンの亜種で、龍と呼ばれる種類の魔物がこうした姿をしていたわね。
でもこの子たちって元々ビッグワームなのよね、それが完全に龍種になってるって。ケビンが“魔王デビルトレントの亡骸を使った人類間引き作戦”って説明をした訳が分かるわ、流石にこの子たちが何体も増えたら危険よね」
あなた様も緑たちの見上げる程の威容に、声にならない声を漏らします。
「それじゃ調べさせてもらうわね。<管理者権限:ステータスオープン:緑・黄色・キャロル・マッシュ・シャロン:モニター表示>
名前 緑
年齢 八歳
種族 地龍(New)
スキル
薬液濃縮生成 剣聖 龍鱗 魔力支配 身体支配 空間支配 健啖爆食 飛行(New)
魔法適性
水 土
称号
進化せし者 畑の守護者 付き従いし者
名前 黄色
年齢 八歳
種族 地龍(New)
スキル
薬液濃縮生成 棍聖 龍鱗 魔力支配 身体支配 空間支配 健啖爆食 飛行(New)
魔法適性
水 土
称号
進化せし者 畑の守護者 付き従いし者
名前 キャロル
年齢 四歳
種族 呪龍
スキル
魔力支配 身体支配 空間支配 健啖爆食 龍人化 龍鱗 飛行
魔法適性
闇 水 土
称号
進化せし者 畑の守護者 呪いを取り込みし者
名前 マッシュ
年齢 四歳
種族 呪龍
スキル
魔力支配 身体支配 空間支配 健啖爆食 龍人化 龍鱗 飛行
魔法適性
闇 水 土
称号
進化せし者 畑の守護者 呪いを取り込みし者
名前:シャロン
種族:精霊女王(ダークドラゴン種)(New)
年齢:不明
スキル
重力操作 眷属生成 魔力支配 魔力増幅 飛行 空間収納 精霊領域生成
魔法適性
土 闇
称号
オークの勇者のペット 理不尽の従業員 進化せし者 精霊の頂点(New)
「龍ですね」
「龍ね」
「って言うかシャロン、スケルトンドラゴン種からダークドラゴン種になってるんだけど? ちょっとドラゴンの姿になってくれる?」
“キュワーーーーーー!!”
“いきまーーーす”との声と共に変身するシャロン。その身体は見る間に大きくなっていき、そして。
“キュワーーーーー、ガァーーーーー!!”
「あっ、ブレス吹いた。っていうか、普通にドラゴンなんですけど? 誰がどう見てもドラゴンですよね」
「そうね、ドラゴンが五体、ドラゴンが五体、ドラゴンが・・・。これ、報告書にしてまとめるのか~、なんて説明しようかしら。マルセル村の村人に倣って“ケビンがケビンしました!!”とでも言っておこうかしら。
ケビン、本当にこれ、どうするの?」
どうと聞かれても別に何かするってことはないんですが。でもそうか~、ドラゴンになっちゃったのか~。
俺は心の中で“大福を含めたら六体ドラゴンじゃん、ドラゴン軍団飛行ショーが出来るじゃん!!”と自身を鼓舞しながら、「俺は大丈夫、俺は大丈夫」と呟き続けるのでした。
本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora