「次の方、ご身分と目的をお願いします」
「私はホーンラビット伯爵家騎士ジェイク・クロー、王都に向かうため途中立ち寄らせていただいた。これらの馬車はバルーセン公爵家令嬢ラビアナ・バルーセン嬢、ベイル伯爵家令息ラグラ・ベイル殿がお乗りになられている。
最後尾の馬車は旅の友連れとして教会司祭であるシラベル司祭とシスターミレーヌが乗られている。入街を許可されたし」
マルセル村を出発して五日、無事にグロリア辺境伯領領都グルセリアに到着した俺たちは、北西部貴族連合の盟主であるグロリア辺境伯閣下へご挨拶を行うべくグロリア辺境伯家居城へと馬車を向けていた。
「よく立ち寄ってくれた。エミリー嬢、ジェイク殿、息災のようで何よりだ。マルセル村の者たちも皆良い顔をしている、王都学園での活躍は我が耳にも届いておるよ。
そちらはバルーセン公爵家のラビアナ嬢とベイル伯爵家のラグラ殿であったな。王都の社交パーティーで何度か目にした事はあったが、すっかり立派な淑女と青年に成長されて、最初誰だか分かりませんでしたぞ」
そう言い俺たちを歓迎してくれたグロリア辺境伯閣下。これが大物貴族の社交辞令、大変勉強になります。
「タスマニア・フォン・グロリア辺境伯様、突然の訪問にもかかわらずお目通りをお許しいただき感謝いたします。王都ではグロリア辺境伯家王都屋敷の代官様にお心配りいただき楽しく過ごさせていただいております。
義父ドレイク・ホーンラビット伯爵に代わりお礼申し上げます。
今後ともホーンラビット伯爵家をよろしくお願いいたします」
エミリーの口上に合わせ俺たちマルセル村の者は一斉に頭を下げる。
「タスマニア・フォン・グロリア辺境伯様、突然の訪問、失礼いたしました。此度はエミリー様の友人としてホーンラビット伯爵領を訪れさせていただいておりました。
お陰様で大変有意義な冬期休暇を過ごす事が出来ました。
今後ともエミリー様の友人として公私ともに親しくさせていただきたいと思っております」
「タスマニア・フォン・グロリア辺境伯閣下、面会の機会をいただき心から感謝申し上げます。マルセル村には私の剣の師である大剣聖クルーガル・ウォーレン様が滞在されており、冬期休暇期間を利用し修行をつけていただいておりました。
ホーンラビット伯爵家騎士団の噂はかねがね伺っておりましたが、あれ程精強な者たちであったとは正直驚きを隠せませんでした。そんなホーンラビット伯爵家を傘下に収められている、これもすべてグロリア辺境伯閣下の人望の賜物かと。上に立つ者の在り方を学ばさせていただいた思いです」
うん、やっぱりお貴族様の会話って大変。ただの挨拶にも様々な衣を着せ相手の歓心を得る心配り、ラビアナお嬢様は勿論の事、ラグラもアルデンティア第四王子殿下の側近として様々な社交の場で鍛えられてきたんだろうことが窺えます。
というか現在のアルデンティア第四王子殿下ってお一人様じゃね? 側近中の側近であったピエール君はやらかしの結果地方に左遷、王都学園も自主退学だし、ラグラは俺たちとの交流を言い訳に剣術三昧だし、最後の砦のカーベル君はアリス嬢と一緒にアリス嬢のご実家に行かれちゃってるし。
・・・これって側近的にどうなの? 非常によろしくないようなそうでもないような? 新人が補充されちゃったりするんだろうか、少なくともピエール君の穴埋めは必要だし。
俺が顔に出さないようにそんな余計な事を考えているさなかも会話は進み、グロリア辺境伯閣下との謁見は無事終了、一度お城を下がり教会のメルビン司祭長様へご挨拶に行くという事となりました。
個人的には街の宿屋で宿泊といきたいところですが、なんといってもホーンラビット伯爵家はグロリア辺境伯家の寄り子ですしね、バルーセン公爵家のご令嬢とベイル伯爵家の御令息もおられますしお城で御厄介になる事は致し方がありません。
因みに異端審問官のお二人は先に大聖堂に向かわれております。だって教会関係者ですから、お城についてくる訳にもいきませんし。
「なぁジミー、ピエールの奴どうしてると思う?」
お城から大聖堂に移動する馬上で、並走するジミーに声を掛けます。
「そうだな、最初は戸惑うと思うが、あれでもアルデンティア第四王子殿下の側近だった男だ、周りの人間と打ち解けるのは得意なんじゃないのか?
本心はどうあれ外面の良さは王都学園での様子を見れば明らかだったしな」
そうでした、ピエール君は女子受けするそのお顔を最大限に利用し、学園内に情報網を構築しちゃう猛者でした。アルデンティア第四王子殿下の作戦参謀はカーベル君だったけど、情報担当官はピエール君だったもんな~、この時点でピエール君が側近から抜けるのはアルデンティア第四王子殿下的に大打撃だろうな~。
「ねぇ、これってアルデンティア第四王子殿下的にはまずくない? ピエールの代わりが務まるような人材なんて王都学園にいたっけ?」
「いるにはいる、ただ本人がどう思うかだな。おそらくだが王城側から本人に打診が行くと思うが、これでアイツの立場がどうなる事か。
こればっかりは俺でも手を貸してやることが出来ないからな」
ジミーの言葉に「あぁ、そういう事になるの? 貴族社会って面倒くさ」と思わず本音が漏れる俺。俺は王都に戻った後特大の厄介事に巻き込まれるだろう友人に同情しつつ、無事に送り届けようと決意を新たにするのでした。
「いらっしゃいませ、エミリー・ホーンラビット様。お話は先に到着しておりますシラベル司祭より伺っております。
メルビン司祭長がお待ちです、どうぞこちらへ」
大聖堂に到着した俺たちを迎えてくれたのは教会のシスター様、先に到着したシラベル司祭が俺たちが訪れることを話していてくれたとのことでした。
「こうしてゆっくりお話しすることは久しぶりになりますかな? エミリー嬢にジェイク殿、王都でのご活躍は耳にしておりますぞ。
特にエミリー嬢の王都教会での武勇は素晴らしかったですな、“撲殺聖女エミリー”、<聖女>エミリーを取り込もうとしていた王都教会の者たちが青い顔をしたのかと想像するだけで愉快愉快。どうせ碌でもない企みを行っていたものをエミリー嬢に叩き潰されたのでしょうが、ぜひともそのままご自身の信じる道を邁進していただきたい。私はいつでもエミリー嬢を応援しておりますからな?」
そういいウインクをする好々爺といった雰囲気のメルビン司祭様、確かにケビンお兄ちゃんと仲良くなる訳です。絶対破天荒だわ、このおじいちゃん。
「そうそう、それよりもお気にされているのはピエール司祭見習いの事でしょう、シスターアマンダ、ピエール司祭見習いを呼んでくれるかの?」
メルビン司祭長の言葉に一礼をし部屋を下がるシスター様。待つこと暫し、部屋の扉を叩いてから入室してきたのはどこかやさぐれた雰囲気を漂わせた司祭見習いの姿。
「失礼します、メルビン司祭長様、今度はどんな悪さを企んでいるんですか? 流石に夜のお店は勘弁してくださいね、メルビン司祭長様のお酒にお付き合いできるほど僕の身体は出来上がっていませんから」
開口一番この場の最高権力者であるメルビン司祭長に文句をぶつけるピエール司祭見習い。しかもそのことを誰も咎めないって、むしろもっと言ってやれって顔をしてるんですけど?
「これ、ピエール司祭見習い、お客様の前であるぞ、少し場を弁えなさい」
「これは大変失礼いたしました、不快な思いをさせてしまったのでしたら心よりの謝罪を・・・ってジェイクにエミリー嬢? ラビアナ嬢にラグラにジミーも。
そうか、そろそろ王都に戻らないといけない時期だもんな、それで領都グルセリアに立ち寄ったといったところか。
いえ、失礼いたしました。ラビアナ・バルーセン公爵令嬢様、ラグラ・ベイル伯爵令息殿、エミリー・ホーンラビット伯爵令嬢様、ジミー・ドラゴンロード男爵令息様、ジェイク・クロー騎士爵様、フィリー・ソード騎士爵様。王都学園在学中は大変お世話になりました、皆さまが無事に王都に帰られますことを女神様にお祈りさせていただきます」
そう言い深々と俺たちに頭を下げるピエール司祭見習い、王都学園を退学になってしまったといった悲壮感はみじんもなく、しっかりと今の生活を頑張っているという意気込みが見て取れるのでした。
「ピエール、少し会わない間にずいぶんと雰囲気が変わったな。こう取り繕わなくなったというか、言葉に力が籠るようになったというか」
「失礼いたします、少々言葉遣いを崩させていただきます。ラグラの言いたいことは分かってるよ、ガサツになったって言いたいんだろう? ガサツにもなるわ、この爺、とんでもねーぞ。
領都に来た初日から俺が世の中を知らないとか言って昼間から女性が接客してくれる飲み屋を何軒も連れまわすわ、教会でのお務めが終わるたびに付き合えとか言って飲みに引き摺り回すわ、俺はまだ旅立ちの儀前だってのに三日連続で徹夜で飲み屋巡りって頭おかしいだろう?
それだけ無茶苦茶してるのに一人元気なんだよ、昼間は全く普通に教会の仕事もこなすんだよ、意味が分からないから。こっちは三日徹夜でフラフラだっての!!
自身のやらかしを反省して大人しくしてればいい気になりやがって、やってられるか~!! しかもこれが僕の直属の上司って、上司って~~~!!
教会中の人間が優しい目で“頑張って”って言うんだぞ? 信じられるか?
嫉妬しろよ、奪おうと思えよ、というか誰か代わってください!!」
・・・ピエールの奴、ストレスマックスでやんの。あいつ腹黒だけど根がまじめだからな~、人を利用することばかり考えるような奴だけど、それは権力欲とかいった方向の利用するで、自身が楽して結果だけ手に入れようとかいった方向とは真逆だから。
遊び人なメルビン司祭長様のような生き方は受け入れがたいんだろうな。
でもケビンお兄ちゃん曰く、メルビン司祭様の遊びって多くの人を惹きつける人間関係の潤滑油だから、結果的に自身も周りも幸せにしちゃうんだよな。
現にピエールは視野が広がってるし。俺から見ても別人と言っていいくらい親しみやすくなってるし。
「ピエール、お前の現状は分かった。だが諦めろ、誰かに付いて学ぶという事はそういう事だ。
特にお前の場合下手をすれば内紛の切っ掛けになりかねないほどの事態を引き起こしたんだ、よく反省し自身とは価値観の違う人物の生き方から、もう一度自身のこれまでを振り返るんだ。
多分お前は本当の意味で自身の罪と向き合えていないんだと思うぞ? 不満が出るのはまだ変わり切れていない証拠だからな。
先ずは三か月頑張ってみろ、その頃には今とは違う心持ちになっているはずだ。
アルデンティア第四王子殿下には俺の方からよく言っておく、ピエールは余計なことは考えずメルビン司祭長様のお世話を頑張るんだ」
「そうだな、それでもケビンお兄ちゃんのお世話係になるよりかはよほどましだと思うぞ? ケビンお兄ちゃんは理不尽の塊だからな」
ジミーの言葉に「「「「「確かに」」」」」と頷くその場の一同、ピエールはただ一人意味が分からず困惑といった表情を浮かべる。
「ピエール、安心していいよ、そのうち嫌でも分かるようになるから。その頃になればピエールももっと物事を深く考えられるようになってると思うよ。
いずれにしても頑張って、大変だって事には変わらないから」
俺の言葉に乾いた笑いを浮かべるピエール、でも残念ながらこれって事実だから。今のうちにメルビン司祭様とのお付き合いで免疫を付けておかないと、後が大変だと思うよ?
俺たちは一足先に社会人になった同級生に声援を送りつつ、頑張れと背中を押すことしかできないのでした。
本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora