転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第753話 転生勇者、王都に到着する

「次の方、ご身分と目的をお願いします。それと車内の確認をさせていただいてもよろしいでしょうか?」

「私はホーンラビット伯爵家騎士ジェイク・クロー、王都学園の冬期休暇を終えエミリー・ホーンラビットお嬢様と共にホーンラビット伯爵領より戻ってまいった。これらの馬車はエミリーお嬢様の御友人でバルーセン公爵家令嬢ラビアナ・バルーセン嬢、ベイル伯爵家令息ラグラ・ベイル殿がお乗りになられている。

御二方とも冬期休暇を利用しホーンラビット伯爵領での暮らしを楽しんでくださった。

最後尾の馬車は旅の友連れとして教会司祭であるシラベル司祭とシスターミレーヌが乗られている」

 

季節は春の始まり、多くの貴族家の令息令嬢が冬期休暇を終え次々と王都の街門前へと集まってくる。

 

「お勤めご苦労様です。馬上から失礼いたします、ホーンラビット伯爵家次女、エミリー・ホーンラビットと申します。ご確認、どうぞよろしくお願いいたします」

そう言い一礼をするエミリーに、周囲からざわめきが起こる。「やはり成り上がりの娘は品がない」とか「“辺境の蛮族”はやはり蛮族だな」とか。

まぁ既にエミリーは“撲殺聖女エミリー”として名を馳せてますし、今更お貴族のお嬢様のふりをしても仕方がないって事でホーンラビット伯爵閣下が眉間の皺を揉みながら騎乗での移動を許可してくださったんですけどね。

一般的な貴族令嬢で馬に乗って移動するような者はいないんだそうですが、そこは“辺境の蛮族”ですんで特に誰も不思議に思わなかったって言うね。

グロリア辺境伯様も途中の貴族家でも何も言われなかったもんな~、エミリー、思いっきり騎士服着てたんですけどね。

それでもあえて絡んでくるおバカはおらず無事入街を果たし、俺たちは冬期休暇の里帰りを終わらす事が出来たのでした。

 

途中何もなかったのか? 冷静に騎士が六騎守りを固めている馬列に襲い掛かる盗賊もいないでしょう。まったくないとは言いませんけどね?

今回も道の真ん中で伏せてる旅の女性がいたんで、エミリーが「<ライトアローレイン>」と唱えて光属性魔法を飛ばして周辺の怪しい気配を討伐してから近付いたら、腰を抜かして怯えてたんだよな~。

お茶を飲ませて落ち着かせてから話を聞いたら待ち伏せ専門の盗賊団だったとか、女性は馬車を引き留めるための囮役だったんだそうです。要はブー太郎ですね。

女性には再びお茶をごちそうしてから異端審問官のお二人に頼んで馬車に預かってもらい、俺たちマルセル村の者たちは草むらの魔獣(人科)から剝ぎ取りを行って亡骸をマジックバッグに収納、街道から離れた場所で火葬したって感じです。

 

魔獣が活性化している時期なら放置しておいてもすぐに跡形もなく消えるんだけど、この時期はまだ魔獣も少ないから仕方なしの処理ですね。

そんな俺たちの行動にラビアナお嬢様やラグラは呆気に取られていましたが。まぁ普通高貴なご身分の方々は配下の者たちがすぐに処理に当たるからこうした場面をじっくり見る機会も少ないでしょうしね。

大貴族の馬車がこれ見よがしに家の紋章を掲げているのには、いらぬいさかいを避ける意味合いが強いんだろうなと強く感じた出来事ではありました。

因みに捕まえた女性は次の街で衛兵に突き出そうとしたんですが、女性曰くこの街の衛兵が盗賊団とグルで便宜を図っていたとかなんとか。

面倒なんでその街はスルーして女性を連れたままそこの領地を治める貴族様と謁見、全て丸投げするってことがありました。

いや~、やっぱりバルーセン公爵家の名前は強力ですね、お貴族様はラビアナお嬢様に土下座した後すぐに動いてくださいましたから。

まさに水戸黄門、俺が助さんでジミーが格さんですかね。

 

「皆様、本当にお世話になりました。私たちは王都教会へ挨拶に伺った後、ボルグ教国への帰路に就きたいと思います」

「シラベル司祭様、シスターミレーヌ様、ボルグ教国までは長い旅路となりますがどうかお元気で。義父ドレイク・ホーンラビット伯爵も申しておりましたが我がホーンラビット伯爵家はお二人の来訪を歓迎いたします。

行き場を失ったときはぜひマルセル村を頼ってください。持ち帰った報告を信じてもらえるとは限りませんので」

王都教会の施設である大聖堂前の広場で別れの挨拶を交わすエミリーとシラベル司祭様、司祭様とシスター様、めっちゃ乾いた笑いを浮かべておられます。

でもこの言葉を聞いていたバルーセン公爵家馬車とベイル伯爵家馬車の御者さんも頭を抱えてたんだよな~。情報収集の下っ端は辛いですよね、頑張ってください。

 

「エミリー、ジェイク、ジミー、フィリー、大変世話になりました。今度会うのは新年度が始まってからになりますが、皆お元気で」

馬車から降りたラビアナお嬢様が俺たちに言葉を向ける。俺たちはマルセル村でのラビアナお嬢様の姿を思い出しニヤニヤした顔を向けるも、ラビアナお嬢様はすました表情を貫かれておられます。

これが大貴族のバルーセン公爵家令嬢のポーカーフェイス、大変勉強になります。

 

「エミリー、ジェイク、ジミー、フィリー、俺からも感謝を。お前たちのお陰で俺は剣の道の入り口に立てたと思う。

俺は俺の剣の道を行く、お前たちはお前たちの道を行け、これからもよろしく頼む」

なんか格好いいことを言うラグラ、お前は出兵前の兵士かと言いたい。でもラグラってばこんなにまっすぐな男だったのね、なんか俺はアルデンティア第四王子殿下の側近というだけでラグラの事を色眼鏡で見ていたみたいです。

俺はラグラに拳を前に突き出すように言うと、その拳に自身の拳をコツンと当てます。

 

「おう、また王都学園でな。新年度が始まったら俺からアルデンティア第四王子殿下に挨拶に行ってやるよ、それでラグラの顔も立つだろう。エミリーもそれでいいよな?」

俺の声掛けに笑顔で頷くエミリー。

 

「ジェイク、お前・・・」

“コツンッ”

すると今度はジミーがラグラの拳に自身の拳を軽く当て、「続きは武術訓練場でだ。楽しみにしているぞ?」と言ってニヤッと笑みを向けるのでした。

 

「それじゃこのままワイルドウッド男爵家王都屋敷に向かうぞ、王都学園にはワイルドウッド男爵家屋敷から馬車を出してもらえることになっている。

エミリーお嬢様はそちらで制服にお着替えになられてください。ジェイク、ジミー、フィリー、ディアもそれぞれ着替えて欲しい。それじゃ行くぞ」

「「「「「はい、ギースさん」」」」」

 

王都教会大聖堂前の広場、俺たちはそれぞれの道に分かれ帰路に就く。マルセル村の長い長い冬期休暇は、それぞれの胸に思い出を残しこうして終わりを迎えるのだった。

 

「それではマリルドア・リットン様、詳しい詰めの話は後程行うとして、まずは領地内での栽培実験を行うという事でよろしくお願いします」

「いえ、こちらこそ素晴らしい会談であったと感謝申し上げます。それに米を使った料理の数々には本当に驚かされました、扶桑国に伝わる調味料を使った料理からオーランド王国で手に入る食材を使った料理まで。米の可能性、十分に堪能させていただきました。

栽培実験の件は了承いたしました、既に新たな作付け作物の検証実験の件は現当主デリルブル・リットン侯爵閣下の御裁可を得ております。この件に関する決定権は私に一任されておりますのでね、指導員の育成と指導教官である太田玄才殿の受け入れはお任せいただきたい」

 

・・・ワイルドウッド男爵家王都屋敷に到着した俺たちを待っていたものは、テーブル一杯に並べられた米料理とその料理に舌鼓を打ちつつ会談を行うケビンお兄ちゃんとリットン侯爵家王都屋敷代官のマリルドア・リットン様のお姿でした。

 

「おぉ、これはこれはエミリー・ホーンラビット嬢にジェイク・クロー殿、ジミー・ドラゴンロード殿とフィリー・ソード嬢ではありませんか。

ホーンラビット伯爵領よりの無事なお戻り、心よりお喜び申し上げます。

それとジェイク殿、ワイルドウッド男爵様にお声がけをいただけたそうで、感謝いたします。

以前ジミー殿より稲作の話を聞き独自に調査は行っていたのですが、商業ギルド担当者の話では創国で育てられている米にはいくつか種類があるとのことでしてな。種籾を取り寄せてもらえるように話はつけてあるのですが、いつ届くのかははっきりとは言えないという事だったのですよ。

そこに今回のお話、本当に感謝の言葉しかありません」

 

そう言い深々と頭を下げられるマリルドア・リットン様、俺は慌てて頭を上げてくれるようにと言葉を掛けます。

 

「いえいえ、俺は何も。すべてはケビンお兄ちゃん、ワイルドウッド男爵様とリットン代官様とのご縁、俺はその切っ掛けにすぎませんので。

それに米の話をリットン代官様にお話ししたのはジミーの功績、ワイルドウッド男爵様が種籾をお持ちになっていたことは本当に偶然。これは全て女神様のお引き合わせとしか申せません。

大変申し訳ありませんが俺にはこれ以上お力になれることはありません。リットン侯爵領での稲作が成功することをお祈りさせていただきます」

ケビンお兄ちゃん、めっちゃ行動早いの、俺がリットン代官様にお話を持っていく前に自分から接触して栽培実験の話まで取り付けちゃってるし。

もともと乗り気じゃなくてもやると決めたら本気で取り組む、ケビンお兄ちゃんって昔からそういうところがあるよね。

パトリシア様達との結婚も結婚前まではいかに逃げ出そうかって感じの動きばかりだったのに、結婚を決めた途端ラブラブだし。自分勝手は相変わらずなのに、めっちゃ愛妻家だし。

エミリーが聞いた話では子供のお世話も積極的にやってるってことだし、おむつ交換もお手の物ってどや顔してたらしいしな~。

 

「エミリーお嬢様方も今日は王都学園の寮に帰るだけでしょう。よろしければ我が家で米料理を堪能されて行ってください。私のお勧めはコッコ卵を使ったトメートソース掛けですね。

トメートを煮込んで作ったソースで米を炒めるのですが、ビッグワーム干し肉を加えることでより味に深みが出るのですよ。

その上に半熟のコッコの卵焼きを乗せ、再びトメートソースをトロリ。おすすめの一品に仕上がっております。

米を炒める際は角無しホーンラビットの干し肉を使ってもより深い味わいが「「「「「是非、いただかせていただきます!!」」」」」・・・ではお部屋でお着替えを済ませてからお越しください。伊織、ジェームス、皆の案内を」

 

ケビンお兄ちゃんの食レポ~~~!! あんなの我慢できるかー、お腹がグルグル鳴りまくるわ~~!!

その後俺たちがお米料理を食べつくしたことは言うまでもありません。

泣かなかったのか? 泣きまくりましたが何か?

だってオムライスに豚丼に天丼が揃ってたんだよ? なんで海鮮丼まであるんだよ、海の魚なんかどこで手に入れたのさ!!

もうその辺の事は考えないようにしましょう、美味しいは正義、そういう事で。

俺は“それはそれ、これはこれ”という言葉の意味を理解し、臨機応変に対応することの大切さを学んだのでした。

 




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