春、それは別れと旅立ちの時。若者たちは新たな道に向かい旅立ち、一人の大人として人生を歩み始める。
「リリアーナ先輩、ご卒業おめでとうございます。私たち、リリアーナ先輩方が築き上げた栄光に恥じぬよう、魔法研究部を盛り立てていきます!!」
「フフフ、ありがとう、そう言って貰えると嬉しいわ。これからはあなた達の時代、私は何の手助けも出来ないけど、皆の活躍を応援しているわね」
「「「「「リリアーナ先輩~~~!!」」」」」
「何よ皆して、そんなに泣かないの、こっちまで寂しくなっちゃうじゃない。皆なら大丈夫、何って言ったって私の可愛い後輩たちなんですから。北の大地から皆の事を見守っているわ」
離れがたい思い出、別れがたい人たち。王都学園という学び舎で彼らは多くを学び、様々な交流を経て成長していった。
「バルド先輩をはじめとした卒業生の皆様方に対し、敬意を払って。抜剣!!」
“““““シュッ””””””
「正面に構え!! 剣先を天に掲げ!!」
“““““バッ、ガシャンッ”””””
「「「「「我ら、オーランド王国の戦士なり!! 我らの思いは一つ、王国の剣として使命を果たさん!!」」」」」
「返礼!! 卒業生、抜剣!!」
“““““バッ”””””
「正面に構え!! 剣先を大地に突き立てよ!!」
“““““ザッ、ガギンッ”””””
「「「「「我ら、オーランド王国の戦士なり!! 我らの思いは一つ、王国の盾として民を守らん!!」」」」」
「我ら、今この時を以って王都学園を巣立たんとす。皆の研鑽を期待する」
「「「「「先輩方の思いを引き継ぎ、剣術部の伝統と誇りを守ります!!」」」」」
後輩たちは旅立つ先輩方を激励し、先輩方は後輩たちに後を託す。若者たちはこうしてまた一つ、大人へと成長していくのであった。
「先輩方も卒業だね、リリアーナ先輩とバルド先輩、結局どうなったんだろう」
俺は隣のエミリーの声に耳を傾ける。本日は王都学園の卒業式、学園には卒業生と生徒保護者が集まり、いつにない賑わいを見せていた。
在校生である一学年二学年の生徒はまだ冬季休暇が明けていないので休みなのだが、卒業生を見送るために集まる生徒や卒業式の手伝いを頼まれた生徒などが、学園内で忙しなく動いていた。
因みに俺たち寮生も手伝いに呼ばれていたりします、その為早めに王都に戻ってくる必要があったんですけどね。
「昨日ナバル先輩に聞いたんだけど、無事に婚姻が認められたらしいよ? リリアーナ先輩はナバル先輩の家であるパイロン伯爵家に養子に入って、バルド先輩のシュティンガー侯爵家にも祝福される形で婚姻を結んだんだって。
バルド先輩は卒業後シュティンガー侯爵家騎士団に入団し、騎士として働くことが決まっていて、リリアーナ先輩はシュティンガー侯爵家の魔法師団に入ることが決まったって話だったよ」
俺の言葉に目を輝かせるエミリー、卒業パーティーでの二人のダンスを見たいがために手伝いを買って出たくらいだもんな~、クライマックスは見たいよな~。
同様の理由で手伝いに集まった生徒や学園職員が多数。でも卒業生と関係のない生徒保護者がいるのは何故なんでしょうか?
バルーセン公爵夫人ってクルドア先輩のお母さんだよね? クルドア先輩二年生だよね?
「エミリー、ジェイク、ごきげんよう。あなた達も卒業式の手伝いかしら?」
「ラビアナ様、こんにちは。旅のお疲れは大丈夫ですか?」
声を掛けてきたのはラビアナお嬢様。ラビアナ様も手伝いなのかな?
「えぇ、お陰様で。家でゆっくり休みましたからすっかり疲れも取れましたわ。これからご卒業される侯爵家の方々にご挨拶に向かいますの、よろしければお二人も参りませんこと? 皆様も<勇者>ジェイクと<聖女>エミリーに声を掛けてもらえば喜ぶと思いますし」
俺とエミリーは互いに目を合わせて暫し考えます。
「ラビアナ様、それは無論シュティンガー侯爵家の御令息のところにも・・・」
俺の言葉にニコリと微笑まれるラビアナお嬢様。
「「お供いたします」」
俺たちは他の係りの者に少し抜ける断りを入れると、ラビアナお嬢様と共に挨拶回りに向かうのでした。
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「アルデンティア殿下、お久し振りでございます。長らくお傍を離れました事、深くお詫びいたします」
「いや、構わない。ラグラが剣術を通じ<勇者>ジェイク、<聖女>エミリーとの交流を深めに行った事は私も了承した事だ。それで、成果の方はどうであった?」
王都学園の生徒ラウンジの一室、そこに集まり言葉を交わす男子生徒たち。
「ハッ、幸いホーンラビット伯爵領マルセル村には剣鬼ボビーの下を訪ねていた大剣聖クルーガル・ウォーレン様が居られたため、クルーガル先生の仲立ちもあり共に修行を付けていただくことが出来ました。
剣の修行という事もあり、<勇者>ジェイクとは身分の差を超えた関係を築けたものと自負しております。
<聖女>エミリーに関しましては<勇者>ジェイクを通じ親しくなれたものかと。帰りの際には敬称抜きで名を呼びあう程度には関係性を深めることが出来ました」
ラグラからの報告に、満足そうに頷くアルデンティア第四王子。アルデンティア第四王子はそのまま視線をもう一人の人物に移す。
「それでカーベルの方はどうだった? アリスの故郷ブレイク男爵家に向かって貰っていたが」
「ハッ、アルデンティア王子殿下もご存じかと思いますがブレイク男爵家は南方スロバニア王国との国境を接する野山の多い土地であり、人口の少ない寒村地域となります。主要産業は農業ですが、他領との取引は少なく主に自分たちの食糧生産を行うに留まっているといった状況です。
ブレイク男爵家に赴く前にアリス嬢より生活状況について話は聞いていましたので、ブレイク男爵殿に詳しい話を聞いたところ、領地経営は慢性的な赤字体質である事が分かりました。
小麦に関しては税収の内上納分を除いたすべてが借金の返済に回され、領民はマッシュを主食に飢えをしのいでいる状態です。
幸い冬場の寒さはそこまでではなく凍える事などはないものの、住民は常に貧困に苦しむ状況にありました。
そこで抜本的対策になるかは分かりませんが、北西部貴族連合において急速に普及していますビッグワーム農法を取り入れ、収量拡大の手助けをしてまいりました。
これは南部地域の盟主であるリットン侯爵家でも取り入れ始めた農法と聞いております。ブレイク男爵家でも噂には聞いた事があるものの様子見といった感じであったようです」
カーベルはアリスの生家であるブレイク男爵家の現状を観察し、具体的対策としてあらかじめ用意していたビッグワーム農法の普及に努めてきたのであった。
「なるほど、ではブレイク男爵領では主に農業指導を行っていたという訳か?」
「・・・いえ、穴を掘っていました」
「「はぁ?」」
「ビッグワーム農法を普及するにあたりビッグワームプールの建設を行う為穴掘りを。それとレンガ作りですか、掘り出した土を使い<クリエートブロック>で大量のレンガを作っておりました。
ビッグワームプールの作製には領民一丸となって協力してくれたため冬季休暇中に全ての住民の家にビッグワームプールを建設し、ビッグワーム飼育の研修を行ってまいりました。
アリスもずっと一緒に穴掘りとレンガ積みを行っていました。以上がブレイク男爵領での報告となります」
・・・これは果たして<聖女>アリスとの交流を深められたと言えるのだろうか? アルデンティア第四王子はほぼ農民のような生活をして来たカーベルに何と言っていいのかが分からず、「ご苦労だった、今はゆっくり休んでくれ」と当たり障りのない労いの言葉を掛けるのだった。
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「卒業生の諸君、卒業おめでとう。君たちは我がオーランド王国を担う中核であり、新たな時代を作る精鋭である。
今、オーランド王国は大きな転換期を迎えている。長い歴史と伝統は確かに大切であろう、だが時代の波は我が国を容赦なく呑み込もうとしている。
諸君らはそんな波乱の時代に漕ぎ出さねばならない、一人一人が王国を支えているという自覚をもって全力で困難に立ち向かって欲しい。
この記念パーティーは社会の荒波に旅立つ諸君らに対するささやかな激励である。友との別れを惜しむもよし、自身の決意を語るもよし、存分に楽しむように」
“““““ザッ”””””
「「「「「ゾルバ国王陛下に感謝を、オーランド王国に栄光あれ!!」」」」」
卒業生、生徒保護者を迎えた王都学園の卒業記念パーティー。舞台の上で激励の挨拶を行った国王ゾルバ・グラン・オーランドは、臣下の礼を行う彼らに笑顔で応えるとその場を後にする。
パーティーは進み、生徒同士は最後の別れに涙する者あり、夢を語り合う者あり。
そんな中奏でられるダンスのメロディー、若者たちはそれぞれのパートナーと共に会場中央に集い始める。
「リリアーナ、遂にこの日を迎える事になったな。この卒業記念パーティーが終わったら俺たちは王都から遠く離れたシュティンガー侯爵領に向かう事となる。
改めて聞くが、リリアーナに後悔はないか?」
シュティンガー侯爵家四男バルド・シュティンガーは、その大柄な身体からは考えられないようなか細い声で己の不安を吐露するように愛する女性に声を掛ける。
リリアーナはそんなバルドの様子に呆れ混じりのため息を吐きながら、その顔をジッと見つめ言葉を返す。
「あのねバルド、私の覚悟は疾うの昔に決まってるのよ? 確かに平民出身の私が侯爵家四男のバルドの下に嫁ぐ事に不安がないかと言ったら嘘になるわ、だってやってる事は傍から見れば私が王都で世間知らずの貴族家の令息を誑し込んだって事なんですから。
でもね、私はそれを込みにしてあなたの下に嫁ぐって決めたの。私の両親も賛成してくれたし、周りからの嫉妬は織り込み済みよ。
それに私の事はバルドが守ってくれるんでしょう?」
そう言い悪戯そうな笑みを浮かべるリリアーナに、胸を張って「当たり前だ!!」と答えるバルド。
二人の目が合う、会場には優しいワルツの曲が流れる。
「リリアーナ、俺と一緒に踊ってくれないか? 一曲とは言わずこれからもずっと」
「フフ、喜んでお受けしますわ、バルド様。これからもずっと共に踊りましょう、嫌と言っても逃がさないから覚悟してね? 私、結構しつこいわよ?」
見つめ合うバルドとリリアーナ、取り合う手と手。そこには共に困難を乗り切り幸せを掴もうとする男女の姿。
優しいワルツの曲が流れる中、ステップを踏む二人は新しい人生の始まりを誓い合う。周囲の人々はそんな二人を祝福するかのように温かい眼差しで彼らを見守る。
「ジェイク君、私たちも踊りましょう!! リリアーナ先輩とバルド先輩最高!!
ジレジレの恋愛劇完結、王都学園万歳!!」
「落ち着けエミリー、俺たちは手伝いだから、主役は卒業生の皆さんだから!
って言うか他の連中も仕事しよう、仕事。会場に乱入して踊ろうとしないで!?」
甘酸っぱい思いを蘇らせる青春の一幕、“バルド先輩とリリアーナ先輩の恋を見守る会”の面々は、心の内から湧き出すキュンキュンする思いを抱きながら、最高の恋を成就させた二人に祝福の拍手を送るのだった。
本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora