転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第755話 王都の偉い人達、報告を受ける

オーランド王国王都バルセン、その象徴的建物である王都教会大聖堂。その一室に王都教会の中枢に当たる者たちが、ある人物たちの報告を聞くため集まっていた。

 

「ボルグ教国異端審問官よ、極秘のお役目、ご苦労であった。して此度の騒動の発端である“北の大地、厄災の種誕生せり”という神託に対する調査はいかばかりのものであったか」

言葉を掛けたのは王都教会の枢機卿の一人、異端審問官シラベル司祭は深い礼をし、その質問に口を開く。

 

「はい、まず初めにこれから申し上げる調査結果の内容は、本国ボルグ教国へ提出する調査結果と同一のものであるという事を宣誓させていただきます。その上でこの調査結果は私共が自分たちの目で見、耳で聞いた事を纏めたものであり、他者から吹き込まれたものではないという事をご了承ください。

それでは先程ご質問がありました“北の大地、厄災の種誕生せり”とのご神託に対する調査結果ですが、どれを以ってして厄災の種としてよいのか分からない程、あの地には多くの力が集まっていたと申し上げておきます」

 

そうして語られるマルセル村の実態、強大な力を持つ魔物の集団、一騎当千の力を持つ村人たち、そんな村人に紛れる強大な力を持つ人物たち。

その報告に理解が追い付けず、口を半開きにして呆気にとられる枢機卿たち。

 

「なっ、そのような村が存在する訳がなかろう!! そのような存在が集えばどれ程膨大な魔力が生じると思っているのだ、これまでの記録を見れば強大な魔物の巣窟はその魔力により多くの魔物集まる魔の森と化すは必定、村が原形をとどめている事がそうではないと証明しているではないか!!」

一人の枢機卿が声を荒らげる、それはこれまでの経験と信じたくないという思いから来る心の叫び。

 

「はい、確かにこれ程強大な力を持つ魔物が集まって魔力汚染が起きない事はおかしいというご意見はもっともであるかと、それについてはこちらの魔物の鑑定結果をご覧いただければご理解いただけるものと存じます」

シラベル司祭はそう言うと一枚の鑑定用紙を取り出し、部屋に備え付けられている投影の魔道具の上に載せる。

 

<鑑定>

名前 大福

年齢 十二歳

種族 フーディースライム

スキル

魔力支配 空間支配 粘体自在 学習進化 環境適応 水中生活 金剛柔体 美食 無限胃袋 龍装 飛行 咆哮

魔法適性

全属性

称号

進化せし者 共に歩みし者 勇者の師匠 スライムの王

 

「こちらは“マルセル村の守護者”と呼ばれているスライムの鑑定結果です。皆さんの中には“マルセル村にはヒドラに姿を変えるスライムがいる”という話を聞いた事のある方もいらっしゃると思います。

この大福というスライムがそれに当たります。

大福がヒドラに姿を変え村の戦士たちと戦う様子を何度か見学させていただきましたが、アレはいけません。王都など軽く壊滅するだろうことは疑いようがありません、彼の大剣聖クルーガル・ウォーレンをはじめ鬼神ヘンリー、剣鬼ボビー、勇者ジェイク、剣天ジミーが束になっても相手にならず、手加減をされているくらいでしたから。

マルセル村に魔力が充満しない事にはこの大福の持つ<魔力支配>というスキルが関係しています。大福は周囲に漂う余剰魔力を集め自身に取り込むことが出来るのです。

この事はスキル<魔力支配>を再鑑定した際にハッキリといたしました。

 

また、これはマルセル村の魔物たちの特徴なのですが、必要以上に魔力を放出せず、普段はその辺のスライムやグラスウルフ程度の魔力しか発生させていないのです。

これはこれらの魔物と契約を結んでいるケビン・ワイルドウッド男爵様の訓練により身に付けた技能であり、村に溶け込むために必要な措置であったとの事でした」

 

淡々と語られる驚愕の事実、それはケビン・ワイルドウッド男爵がオーランド王国を壊滅させ得る戦力を有しているという事。

 

「教皇猊下、今すぐ国王陛下にこの調査結果をご報告申し上げ、ケビン・ワイルドウッド男爵の処分を行うべきです。このままではオーランド王国が「その判断は早計かと存じます」・・・どういう事だ」

教皇に進言する枢機卿の声を遮るように発言するシラベル司祭、睨み付ける枢機卿にシラベル司祭は別の鑑定用紙を投影する事で応える。

 

<鑑定>

名前 ケビン・ワイルドウッド

年齢 十六歳

種族 人(+++)

職業 田舎者(辺境)

スキル

棒 自然人 田舎暮らし(*) 自己診断

魔法適性 無し

 

称号 

辺境の勇者病仮性患者(*)

 

加護

創造神の加護

 

「こちらはこの冬にケビン・ワイルドウッド男爵様の鑑定をした際の鑑定結果です。注目していただきたい項目は加護を示した部分となります」

「・・・<創造神の加護>、ではこの者が女神様の使徒だとでもいうのか、我々教会関係者を差し置いてそのような事が」

そんな枢機卿の言葉に、シラベル司祭は首を横に振る。

 

「いえ、その疑問は私も持ちましたので直接ケビン・ワイルドウッド男爵様にお聞きいたしましたが、“女神様からは使命といったものは特に受けてはいない”とのお返事をいただきました。

ですが加護を授かった事と関係のありそうなものがマルセル村には存在しました」

シラベル司祭は別の鑑定用紙を魔道具に載せる。

 

<鑑定>

名前:祝福されし礼拝堂

詳細:女神様に祝福された礼拝堂。新たな家庭を築き、人生の一歩を踏み出す男女を心から応援する女神様の想いが残された神聖なる祈りの場であり聖地。心の憂いを払い、活力を与える効果がある。

製作者:ケビン

 

「こちらはマルセル村に存在する礼拝堂を鑑定したものです。鑑定結果は驚くべきものでした。

女神様が加護をお与えになった事と関係の深い建物である事は間違いなく、我々がマルセル村滞在中に赤子を連れて祈りに訪れたワイルドウッド男爵一家の者たちに女神様からの祝福が行われた事からも、ケビン・ワイルドウッド男爵様をはじめとしたワイルドウッド男爵家の者たちが女神様からの歓心を得ている事は明らかかと」

「なっ、そのような奇跡が起こるはずがなかろう、いくら異端審問官と言えどもいい加減な報告をいたすと許さんぞ!!」

 

“ドンッ”

激高しテーブルを叩く枢機卿に、一礼をし口を噤むシラベル司祭。

 

“サッ”

緊迫した空気の中、教皇ベルトナ・オーランドが手を挙げ枢機卿を制する。

 

「異端審問官シラベル司祭、情報の共有感謝する。後はこれらの情報を基にオーランド王国教会の方針を固めていきたいと思う。

この調査報告はあまりにも両極端な内容を含み、いたずらに人心を乱すものである。よってこの場以外での他言を禁じる。

シラベル司祭には調査結果についてオーランド王国教会教皇ベルトナ・オーランドの名において虚偽のものではないとの添え書きを加える事としよう。後程届けさせる故今は下がって休んでいただきたい」

「教皇猊下のお心遣い、感謝いたします」

 

報告者は下がるも会議は続く、異端審問官シラベル司祭の齎した調査報告は、その後のオーランド王国王都教会の者たちの考えに大きな影響を与える事となるのであった。

 

―――――――――――――

 

「何だこの報告書は、貴様らはマルセル村の何を調査してきたというのだ!!」

王都貴族街の一角にあるベイル伯爵家屋敷、代々騎士団長を輩出してきた名門中の名門であり、王都では知らぬ者がいない程の名家であるベイル伯爵家では、当主であるマホガニー・ベイルの怒号が響き渡っていた。

 

「大剣聖クルーガル・ウォーレンを歯牙にもかけぬ多頭ヒドラ、まるで地這い龍のような二体の魔物、神聖な気配漂う礼拝堂。歓楽街の酔っぱらいでももう少しまともな嘘を吐くわ!!

唯一真面な報告はラグラが大剣聖クルーガルの指導の下“魔纏い”を習得したといったものだけではないか。

大体“貴族令嬢の幽閉地”と呼ばれるマルセル村にバルーセン公爵家の先代令嬢であるラビアナ・バルーセン嬢が同行しただの、一日と経たずマルセル村に到着しただの馬鹿も休み休み言わんか!!

我々が計画しているワイバーンによる移動ですら五日は掛かるわ!!」

 

報告者たちは思う、“やはり信用してはいただけなかったか”と。

自分自身同様の報告書を受け取ったならば「馬鹿にするな」と怒鳴り散らすような内容の物、誇り高いベイル伯爵閣下が受け入れようはずもない。

 

「貴様らの処遇は追って決める、それまで謹慎しておれ!!」

“コンコンコン、カチャリッ”

それはベイル伯爵が怒りのまま報告者たちに退室を言い渡した時であった。

 

「失礼します、父上。入室の許可を待たず扉を開けた事、お許しください」

それは共にマルセル村へ出向き、大剣聖クルーガル・ウォーレン卿の下修行を積んでいたベイル伯爵家次男ラグラ・ベイルの姿であった。

 

「父上にお願いがございます。その両名の処分ですが、私付きの専属騎士としていただければとお願い申し上げます」

ラグラの申し出に不快といった表情を示すベイル伯爵、だがラグラはそんな伯爵に構わず言葉を続ける。

 

「現在父上が何か重要な仕事をされている事は薄々気が付いております。それがどういった内容の物かまでは私のような未熟者では思い至りませんが、父上が深く国を憂いている事は察することが出来ます。

ですので現在当屋敷に余剰な人材はいないものかと。であれば私の世話役を忙しい屋敷の者に行わせるのは忍びない、丁度良く余剰人員が出たのならばその者に当たらせることが効率的です。

どうぞ父上は余計な事に煩わされる事なく大願をお果たし下さい。

私の事はご安心を、アルデンティア第四王子殿下の側近としてのお役目を全う致したく存じます」

そう言い深く頭を下げるラグラの態度に、「ふむ」と考えをめぐらすベイル伯爵。

 

「ラグラ、その方の考え、確かに理に適っておる。これは大事の前の小事、余計な事に気を惑わされるなというその方の言葉、父親として嬉しく思うぞ。

その方はこの冬の修行で一段と我がベイル伯爵家の一員としての自覚が出たようだな、これは大剣聖クルーガル・ウォーレン卿に感謝せねばならんな。

して、クルーガル殿には次の王都武術大会への出席打診は行ったのであろうな?」

「はい、その件に関しましては最優先事項でございましたので。クルーガル先生には大変良いお返事をいただくことが出来ました、父上は何もご心配なさらず」

 

「うむ、相分かった。この二人の処遇はラグラに任せるものとする、すきに使うがいい」

「ハッ、ありがたき幸せ」

ラグラは改めてベイル伯爵に礼をすると、二人の従者を連れ部屋を下がるのであった。

 

「ラグラ様、少々よろしいでしょうか?」

廊下の途中、専属従者となった者が声を掛ける。

 

「ん? どうした?」

「ハッ、先程はベイル伯爵閣下へおとりなしいただきありがとうございます。ラグラ様に庇っていただかなければどうなっていたか。

それとお話にありました大剣聖クルーガル卿の件ですが」

 

「あぁ、この事態は当然予測出来たからな、父上があのような報告を信じるはずがない。お前たちに咎が下るのは明白、であれば自ずと手立ては決まるだろう。

それとクルーガル先生は「気が向いたらな」と大変良い返事をくださったではないか、俺は嘘は言ってないぞ? それにな」

ラグラはそこで一拍置き、ニヤリと笑ってから言葉を続ける。

 

「クルーガル先生の事はワイルドウッド男爵に頼んできた。あの方が快諾くださったのだ、どうとでもなるだろうさ」

ラグラの言葉に「「あぁ、それなら」」と納得の呟きを漏らす従者達。

ラグラはそんな彼らに笑顔を向け、「さぁ、行くぞ、お前たちには調べてもらいたい事がある」と言い自室へと戻っていくのだった。

 

――――――――――――――

 

「そうですか、分かりました。この件に関しては引き続き状況を見守ることとしましょう。ご苦労様でした」

「はい、畏まりました、奥様」

 

豪奢な調度品の並ぶ室内、報告者は胸の前に手を当てると屋敷当主夫妻に頭を垂れる。

 

「なぁ妻よ、この時間はホーンラビット伯爵領に関する報告を聞く場であったのではないのか?」

当主であるオルセナ・フォン・バルーセン公爵は、隣の席に座る妻に声を掛ける。公爵夫人は夫の質問の意図が分からないとばかりに小首を傾げる。

 

「であるにもかかわらず何故私は妹の恋愛事情の報告を受けねばならんのだ? いや、確かにあの妹が地味メガネの男子生徒に翻弄されながらも青春を謳歌している様子は聞いていて心擽るものではあったが、ホーンラビット伯爵領に関する報告が「“影”の報告は正しかったが、現状はより深刻であった」だけというのもどうかと思うのだが?

それと「大量のフェンリルとゴールデンハニーベアのモフモフに包まれる感覚は最高でした」というのはどういう意味だ? どちらも出会ったら即退散を選択すべき高位魔物であったと記憶しているのだが?」

オルセナ・フォン・バルーセン公爵は、バルーセン公爵家の暗部として長年仕えてきたメイドの報告にこめかみを揉みながら言葉を向ける。

 

「はい、アレはまさに至福、生けるぬいぐるみの頂点。今まで最高級と思っていた寝具が安宿のベッドに感じてしまう程の夢の一時。

あの大きな身体に包まれ優しく背中をポンポンされたとき、今まで無意識に溜めてしまった心の(おり)が一斉に吐き出され、涙が止まらなくなって「これは自分の目で確認する必要がありますわね。ホーンラビット伯爵家に先触れを出し訪問の連絡を」その際は是非お供を」

「二人とも落ち着け、ホーンラビット伯爵家には極力負担を掛けないようにとゾルバ国王陛下からきつく言明されている事を忘れるんじゃない!!

だがラビアナがそこまでジミーという青年と親しくしているとなるとこの話はどうしたものか。ヘルザー宰相閣下の要請ゆえ無碍にも出来んからの」

 

兄としての思いと公爵家当主としての責務との間に揺れるオルセナの様子に、メイドは“本当にこの御方は変わられた”と口元を緩める。

 

「僭越ながら判断はラビアナお嬢様にお任せになられる方がよろしいかと。ラビアナお嬢様は既にご自分で物事を判断できるお歳でございます故」

メイドの言葉に「それも一理あるか」と頷きを見せるオルセナ。

 

若者の甘酸っぱい恋には様々なスパイスが必要である。困難や障害は、若者の思いを一気に燃え上がらせる。

“今度の調味料はお嬢様の恋をどう彩りますやら”

報告を終え部屋を下がるメイドは、胸に宿るワクワクした気持ちもそのままに自身の仕事へと戻っていくのであった。




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