転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第756話 辺境男爵、新年度に向け準備する

“コンコンコン”

「失礼します、ビーン・ネイチャーマンです。学園長、お時間の程宜しいでしょうか?」

 

三年生の卒業式記念パーティーは無事に終わり、彼らは皆それぞれの道に巣立っていった。俺は臨時講師ビーン・ネイチャーマンとして卒業式で怪しい動きをする者がいないかをよくよく監視していたものの、今回はそんな馬鹿な事を企てる者はいなかったようでほっと一安心。

念の為月影・残月・十六夜の三人に気配を消して潜んでもらっていたが無駄な準備に終わった事は喜ぶべき事であった。

ただ十六夜がな~、ラビアナお嬢様の専属メイドコリアンダさんから“リリアーナ先輩とバルド先輩の恋を見守る会”の話を聞いていたからか仕事そっちのけで鑑賞に浸ってたんだよな~。

卒業記念パーティー終了後「ご主人様、是非私を王都学園勤務に!! 伏してお願いいたします!!」とか言って土下座してくるし、こいつはどれだけ学園恋愛ものが好きなんだよ。

「目的は」って聞いたら「ジミーとラビアナお嬢様のジレジレが見たいんです、主にラビアナお嬢様が一人悶えているところが!!」とかぬかしやがるし、仕事する気ゼロじゃん、却下だ却下。

 

でも残念ながらこのところ王都がきな臭いのも事実、王都学園ばかりに構ってられないんだよな~。そこでベルツシュタイン伯爵閣下にご相談申し上げた次第なんでございます。

 

「どうぞ。ネイチャーマン先生、どうかなさいましたか? もしかして例の話、考えていただけたのでしょうか?」

学園長執務室ではシュテル・バウマン学園長がにこにこ笑顔で俺の事を迎え入れてくれます。「まぁまぁお茶でも飲みながら」と言って自ら紅茶まで準備してくれる歓迎ぶり、嫌われるよりも全然いいんですけど、そんな事されても正式に学園の教諭になる気はこれっぽっちもありませんから!!

 

「バウマン学園長、お気遣いありがとうございます。本日お伺いいたしましたのはビーン・ネイチャーマンとしてではなくケビン・ワイルドウッド男爵としてのお話があるものですから。<消音結界>」

“ブワッ”

瞬時に張られた結界、遠隔の魔法や魔道具はおろか呪符や呪いによる傍受も完全シャットアウトの優れものです。

俺は幻影の魔法を解き、ケビン・ワイルドウッド男爵としての姿を見せ改めて席に着くのでした。

 

「既に学園長にはベルツシュタイン卿よりご連絡が入っているものと思いますが、現在王都内は複数の勢力による怪しい動きが見られます。

主なものはベイル伯爵家を中心とした軍部を主体とした者たちの動き、マルス侯爵・バルデン侯爵を中心とした中央貴族勢力の動きです」

俺の言葉に先程までのにこやかな笑顔を引っ込め、真剣な表情になるバウマン学園長。頭の中では様々な危険性を考えているのでしょう。

 

「彼らの動きは王都諜報組織“影”の者たちと複数の協力者により常に監視体制に置かれていますが、どのような形で暴発するのか正直不明といった状況です。

学園として直接関係しそうな事項としては、二学年に進級するラグラ・ベイル伯爵令息、新入生として入学するミルキー・バルデン侯爵令嬢の動向でしょうか。

当然ほかにも中央貴族派閥の者が多く入学いたしますから、緊張を緩める事は出来ません。ですが主だったところでいえばこの二人であるかと。

 

それとアルデンティア第四王子殿下の動向です。王子殿下の側近であったピエール・ポートランド司祭見習いが退学処分になった事は既に王子殿下にも伝わっているはず、ヘルザー宰相閣下が代わりの人材をあてがうにしても混乱は生じるでしょう。

その隙に乗じて中央貴族派閥の者たちが何らかの動きに出る可能性があります。第四王子殿下を内に引き込みたいという思いは強く出るはずですので」

 

“カチャッ、スーーーー”

確か創国産の紅茶だったかな? 俺は紅茶の事は詳しくないけど、モルガン商会王都支店に行った時ロイドの兄貴が色々言ってたんだよな。やはりマメな男は情報収集に余念がない、あれで何で彼女が出来ないのか不思議でなりません。

俺は懐から書状を取り出しバウマン学園長に差し出します。

 

「これは?」

「はい、ベルツシュタイン伯爵閣下に頼み、ヘルザー宰相閣下から許可をいただいた人員補充の許可証です。基本的には清掃員として学園内の見回り役に付かせる形になります。現在はベルツシュタイン伯爵閣下の配下の者が付いていますが、別系統で動く人員となります。

生徒や教職員の間に溶け込み情報を収集する者といったところでしょうか、この者はそうした才能に長けておりますので」

俺の言葉に難しそうな顔になるバウマン学園長、学園としては余計な部外者は入れたくないといった事が本音だろう。

 

「話は分かりました。それでその清掃員とやらはどのような人物なのですか?」

「はい、一言でいえば噂好きなおばちゃん、“リリアーナ先輩とバルド先輩の恋を見守る会”の一員のような人物です。ですが仕事自体は正確にこなすので怒るに怒れないという厄介な点があります。

今回はその点が長所となります。学園内に余計な波風を立てないように調整役も担わせるつもりですのでご安心を。

そういう事だ、出来るな、十六夜?」

 

「はい、全て承りました。必ずやご主人様並びバウマン学園長様の満足いく結果をご覧に入れます」

そう言い俺の斜め後方で慇懃に礼をする一人のメイド。バウマン学園長は突然現れたメイドの姿に驚きに目を見開いたまま固まっておられます。

 

「えっ、いや、どうやってここに。この場所には許可証を持っていない者は侵入できないよう結界が」

「はい、結界に感知されないよう気配と魔力を消し“物”として侵入いたしました。現在も結界の魔道具は人ではなく人形として感知しているものかと。

軽く学園内を見学させていただきましたが、改善した方がいい場所が数カ所ございましたので、後程報告書として提出させていただきたいと思います」

そう言い深々と礼をする十六夜。既にビュースポットチェックは完璧なんですね、流石恋愛もの小説マスター、その名は伊達ではありません。

 

「わ、分かりました。ではよろしくお願いします」

「はい、失礼いたします」

そう返事をして再び姿を消す十六夜、アイツ勝手に学園長執務室を出ていきやがった、これは後で説教だな。

俺は幻影の魔法を掛けビーン・ネイチャーマンの姿を取ると、「お騒がせして申し訳ありませんでした」と頭を下げた後、本年度の授業計画について話を始めるのでした。

 

――――――――――――

 

春を迎えた王都、季節の変化は人々の心も軽くさせ、自然と財布の紐を緩めさせる。動き出した経済は多くの人々を夜の街に呼び込み、王都歓楽街は一層華やかな花を咲き乱らせる。

そんな王都歓楽街でも一部の高貴な者たちにしか利用を許されていない特別な場所、紳士の社交場“倶楽部雪の雫”。

完全会員制のそこは厳しい管理と徹底した秘密主義により会員のプライバシーを完全保護、この場で起きたことはたとえ王都諜報組織“影”でも知ることが出来ないと言われる程超法規的組織として君臨する歓楽街の頂点である。

そんな超高級娼館の更に奥、関係者でもごく一部の者しか知らない秘密の場所に集う闇の者たち。

 

「“料理長”からの追加依頼だ。“鑑賞者”が今回の騒動の裏、バルカン帝国についての詳細を求めているとの事だ」

円卓に座る複数のメンバー、オーランド王国の闇と恐れられる犯罪組織暗殺者ギルドの幹部たちの姿がそこにはあったのである。

 

「ハァ~、このところ多いよな、“料理長”からの依頼。“鑑賞者”は金払いがいいから否やはないけどよ、俺たちよりも遥かに格上だって分かってるとどうもな。

貴族連中の内輪もめは馬鹿が馬鹿やってるとしか思えねえからいいんだけどよ、なんかこう使われている感が半端ねえって言うか、お情けで生かされてるって言うか。

俺たちって王都の闇として恐れられる暗殺者ギルドだよな? いつの間に情報屋に鞍替えしたんだって思っちまうぜ」

 

鋭い視線で周囲を見回しながら、偉丈夫の男は肩を竦める。

 

「まぁ仕方がないんじゃない? ここしばらくは続いたダイソン公国の独立戦争からの戦後処理もほぼ終わったし、後継ぎ問題も初年度で終了。陰湿な家督争いもしばらく起きそうもないしね。

でも中央貴族も元気よね~、折角家督を継いだんだから大人しくしていればいいものを、大きな祭りを始めようっていうんですから」

 

妖艶な雰囲気を纏った美女がワインを傾けながら言葉を繋ぐ。

 

「そうだな。中央貴族然り、軍閥貴族然り、面白いくらいにバルカン帝国の間諜に踊らされている。今度の東部方面作戦参謀長イワノフ・ユーリビッチは相当に慎重な性格のようだ。

王都にも複数の間諜を忍び込ませ同時進行的に混乱の叙曲を奏でようとしておる。“影”の連中もそれぞれの動きは把握しているがその全容は掴みきれていないように見える」

 

髭を摩る紳士は、腕組みをしたまま唸りを上げる。

 

「じゃがこのまま放置も出来まい? これらの作戦のどれか一つでも爆ぜれば王都は終わり、私らもただではすまんのじゃからの」

ジャラジャラと首飾りを身に付けたフードを被った老婆が、どこか悟ったように声を発する。

 

「でもどうするよ? バルカン帝国の連中は軍部の傀儡だろう? こっちが調査を依頼してもまともな情報は送ってこないんじゃねえのか?」

「あぁ、それはわかる範囲で構わないよ。僕はバルカン帝国についてあまり詳しくないからね、一般では知り得ない情報が多少知れれば十分さ。

向こうだって馬鹿じゃない、どの程度の情報なら放出していいか考えながら流してくるはずだしね。

商業ギルド経由、冒険者ギルド経由でも情報は集めているから後はそれらから総合的に判断させてもらうよ。

これだけ大胆に工作を行っている様子からすると、バルカン帝国側としては相当な自信をもってことに挑もうとしているみたいだしね、今度の祭りは盛り上がること間違いなしだよね。

でもその出し物がな~、ほら、僕ってこんな存在でしょう? 色々と柵があってさ、結構おっかない所とも繋がりがあるんだよ。

だから下手に怒らせると後がね。

その点君たちはいいよね、払うものさえ払ってればちゃんと仕事してくれるし。これからもよろしくね。

今日は普段頑張ってくれている君たちに差し入れ、レッサードラゴンとサンダーディアだね。

いつも“料理長”ばかりに差し入れして君たちには持ってきてなかったから悪いなって思ってたんだよ。それじゃまたね」

 

その場にいない筈の者、だがいつの間にか円卓に着いていた者、そして目の前から姿を消した者。だがその光景が夢や幻などではない事は、部屋の隅に重ねられたレッサードラゴンとサンダーディアが物語る。

 

「情報収集を頑張りましょう、それで全部アイツに丸投げしちゃえばいいのよ。多分それで勝手に何とかなっちゃうはずだから」

口を開いたのは妖艶な女性、首飾りを付けたフードの老婆と偉丈夫の男性も頷きで追従する。

 

「ふむ、では我々の方針は決まった。それぞれの仕事は受ける、その上で収集した情報は全て“料理長”へと流す。組織内での情報の共有は大事だからな。

“鑑賞者”との接触の全ては“料理長”に一任し、“鑑賞者”との窓口とする」

「「「異議なし」」」

 

決定された方針、オーランド王国の闇は動き出す。自らの保身と関わり合いになりたくない存在から身を遠ざける為に。“料理長”という尊い犠牲に全てを任せて。




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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