転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第757話 転生勇者、新入生を迎える

春、それは新たな始まりの時。夢や希望を胸に、新たな環境に飛び込む時。

オーランド王国の最高学府、王都学園。人々から中央学園と呼ばれるその学び舎に、今年も新しい風が集まってくる。

 

「新入生保護者の皆様方、本日は誠におめでとうございます。生徒保護者の皆様方はこちらに記帳の上、コサージュをお受け取りになり胸にお付けください。

こちらは学園の通行許可証の代わりとなります。くれぐれも無くされませんようお願い申し上げます」

「新入生の皆様はそのまま正門にお進みください、生徒保護者の皆様は受付を済ませましたら関係者通用門からお進みください。

くれぐれも胸のコサージュは無くされませんようお願い申し上げます。

王都学園は生徒の安全を考慮し様々な結界により守られております、関係者以外立ち入る事の出来ない施設もございますのでご注意ください」

 

新入生と新入生の保護者達は、これまで入る事の許されなかった名門中の名門である王都学園の門を潜り、笑顔を浮かべ先へと進んでいく。

だが中には人の話を聞かぬ者が一定数存在するもので、そうした場合に備え警備の者や学園生徒が正門前に多く待機しているのである。

 

「ウグッ、なんだ、前に進めんではないか!!それにだんだん気分が、一体どうなっている!?」

「失礼します、どうぞこちらへ。正門から離れさえすれば効果はなくなりますので。新入生の保護者の方ですね、こちらの受付にご記入の上コサージュを胸にお付けください。

当王都学園は現在フレアリーズ第五王女殿下、アルデンティア第四王子殿下が在籍している為警備がより厳重に施されております。

学園内の各施設も場所により関係者以外の立ち入りが禁じられている場合がございますので、ご注意ください」

 

「ウッ、うむ。手数を掛けたな、感謝する」

「はい、ありがとうございます。では生徒保護者の皆様はこちらの通用門よりお進みください」

 

ここは高位貴族の令息令嬢が通う王都学園、高位貴族家の人間である生徒保護者はこの学園出身の筈なんだけど、何で毎年ああしてトラップに引っ掛かって逆切れするお貴族様が出るんだか。

俺は“そう言えば去年もいたよな~、そんなお貴族様”と一年前を思い出しながら生徒保護者の誘導を行います。

 

「ジェイク、エミリーからの伝言で“コサージュの追加分を事務所に取りに行ってほしい”との事だ。俺も付き合うから一緒に行くぞ」

「分かった。ジミー、ちょっと抜ける、ロナウド、待たせたな」

 

冬季休暇も終わり、多くの生徒が王都の屋敷に帰ってきている今日この頃。二年生三年生は基本的に休みで一部の生徒が入学式の手伝いに集まっています。俺達マルセル村出身者は全員寮生なので当然のように手伝いに参加、というか二年生三年生の寮生は皆何らかの手伝いに就いているんですけどね。

今年はロナウドみたいに積極的に手伝いに参加してくれる生徒が多かったため、去年の俺たちみたいに一年生なのに受付に立つなんて生徒はいませんが。

 

「やぁジェイクにロナウド、どうしたんだ? 何か問題でも起きたのか?」

事務所で声を掛けてきたのはアルデンティア第四王子殿下。こんな所で一体何をなさっているんでしょうか?

 

「いえ、今のところ大きな問題もなく生徒並びに生徒保護者の誘導は行えております。受付でお配りしていますコサージュの追加分をいただきに参りました」

「そうか、ご苦労だったな。これが追加分のコサージュだ、学園内の警備に関わる物だからな、落とさぬよう気を付けて運んでくれ。

何か問題が起きたらすぐに知らせを寄越すように、皆にもそのように伝えてほしい」

 

「「はい、分かりました。失礼いたします」」

俺たちはアルデンティア殿下からコサージュを載せたお盆を受け取ると、気を付けながら正門へと戻るのだった。

 

「なぁロナウド、アルデンティア殿下、何かあった? 凄く気さくって言うか、角が取れたって言うか。なんかやたら雰囲気が変わったんだけど」

冬季休暇が明けたら王子様(厄介)が王子殿下(フレンドリー)になっておられました。俺は隣を歩くロナウドに“これって一体何事?”と声を掛ける。

 

「そうか、ジェイクはマルセル村に帰ってたから王都の出来事は分からないよな。詳細は後で教えてやるが、簡単に言えばアルデンティア第四王子殿下のお立場がかなり変化したって感じだな。

以前はご自身の立場を確立しようとかなり四苦八苦していたみたいだが。こうも状況が変わるとな。どこか吹っ切れたんじゃないのか?

それよりも気を付けながら急ぐぞ、エミリーが待っている」

「うわ、スゲー気になるところで話止めないでくれる? ロナウド様、私奴《わたくしめ》にお話の続きを~!!」

俺はロナウドから情報の続きを聞くべく、急ぎ正門前受付に向かうのでした。

 

―――――――――――――

 

「新入生の諸君、入学おめでとう。諸君も知っての通り現在我がオーランド王国は大きな転換期を迎えている。

ダイソン公国との戦争は諸君らの記憶に新しいと思うが、バルカン帝国からの執拗な牽制が未だに続いている事は事実である。

我が国はバルカン帝国の脅威を排除すべく、スロバニア王国と軍事同盟を結び共にこの難局を乗り切るため戦う決意をした。我が姉であるカルメリア第四王女はスロバニア王国の侯爵家へ嫁ぎ、フレアリーズ第五王女はスロバニア王国侯爵家子息との婚約を決めた。

これはオーランド王国とスロバニア王国とが固い絆で結ばれたことを示している。

諸君らはこれからの時代を作り上げていくオーランド王国の希望である。この王都学園で多くを学び、多くの者と友好を深め、我が国を盛り立てる素晴らしい人材に育ってもらいたい。

私、第四王子アルデンティア・ウル・オーランドは、諸君らの入学を心より歓迎する」

 

“““““パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ”””””

講堂内に広がる盛大な拍手、アルデンティア第四王子殿下の激励とも取れる挨拶は、新入生のみならず生徒保護者の皆様からも大いに評価されたようです。

 

「アルデンティア殿下も大変よね~。上の二人の姉が大きく国に貢献して、スロバニア王国との懸け橋になるわ、信頼していた側近のピエール君が退学しちゃうわ。

殿下の側近って教会勢力からピエール君、軍閥貴族からラグラ君、内政関係からカーベル君とかなり調整の取れた人材を集めていたじゃない?

それに当初は貴族派閥筆頭だったバルーセン公爵家令嬢のラビアナ嬢とも親しくしていたらしいし。

もっともバルーセン公爵家は先代当主がアスターナの戦場で戦死、現当主が国王派に宗旨替えした事で貴族派からは降りちゃったし、ピエール君と一緒に貴族派のパーティーにも積極的に顔を出していたみたいだけどそこまで効果はなかったみたいだしね。

噂では貴族派はクロッカス第三王子殿下を、軍閥貴族はブライアント第二王子殿下を次期国王として擁立しようと画策しているらしいわ」

 

本年度の入学式が行われている大講堂の隅、多くの教職員に隠れるように立つ私は、隣の魔法講師シルビーナ先生からありがたいお話を拝聴しております。

しかしながらシルビーナ先生はこのような晴れ舞台で教諭陣の間に隠れるように姿を隠されていてよろしいのでしょうか?

魔法学の権威としてその名を馳せているシルビーナ先生は、もっと全面的に前に出なければいけないお立場ではないかと愚考するのですが。

 

「王都の情報にも精通なさっておられるとは、流石はシルビーナ先生ですね。冬期休暇中は各貴族家のパーティーや夜会にもご招待されていたとか、そうした噂は社交界でお耳になさったのでしょうか?」

 

シルビーナ先生は私からの問い掛けに一度はどうよとばかりに胸を張られるも、すぐにげんなりした表情を見せられます。

 

「まぁね、私ほどになれば様々な家のパーティーに呼ばれるわね。私も色々な家から支援を受けている手前、そうした誘いも無下には出来ないのよ。

招待してくださる御方が魔法好きならいいのよ? 私も魔法談義は好きだし、魔法初心者から専門知識を持つ研究者まで、相手に合わせて話をすることはできるわ。

でもただ見栄や箔付のために呼ばれると、それ以外の話が多いのよ。さっき話したような貴族の情勢やその動きについての話題はまだましな方で、誰それがどこの誰とくっついただの最新の流行がどうだの。

この前呼ばれたパーティーでは仮装パーティーの趣向といって、ウルフ耳と尻尾を付けさせられたわよ。仮面パーティーなら聞いたことがあっても、ケモ耳尻尾パーティーなんて初めてよ。恰幅のいい男性がラクーン耳と尻尾を付けてるのを見た時は腹筋との闘いだったわね、あれは反則よ。

ネイチャーマンの方こそ冬期休暇はどうしていたのかしら? 教務室には全然寄り付かなかったみたいだけど」

 

そう言いこちらに視線を向けるシルビーナ先生。冬期休暇が明ける前に久しぶりに訪れた臨時教務棟はトラップの巣窟になっていましたからね。私がバウマン学園長へ報告、その後散々怒られたことはなかったことにする気なんでしょうか?

 

「そうですね、妻が子供を産みましてその世話を手伝っていたものですから王都からは離れておりました。本当はもう少し一緒にいてあげたかったのですが、何かとお金もかかりますし、名誉ある王都学園の臨時講師という職をご紹介くださったワイルドウッド男爵閣下の顔に泥を塗るわけにも参りませんので、後ろ髪を引かれる想いで王都に戻ってまいりました」

「・・・・・・」

 

私の言葉に目を見開いて固まるシルビーナ先生、一体どうしたというのでしょうか?

 

「ネイチャーマン、あなた結婚してたの? というか子供って、あなたみたいに草臥れた男性を好きになるもの好きがいただなんて、何よこの敗北感は、この裏切り者!! 勝手に独身同盟から離脱しないでよ!!」

・・・酷い言い草です。私、これでも妻が三人いるのですが。何か余計怒らせそうなので黙っておきますが。

 

「ハハハハ、これは失礼しました、シルビーナ先生にはお話ししていませんでしたか。妻は私がなかなか芽が出なかった時代からずっと支え続けてくれたのですよ。王都学園講師の職を得て生活が安定したことで妻も安心したのか、子宝にも恵まれまして。それでも女手一つでの子育ては大変ですので、私の実家のある田舎に越してもらったんですよ。実家には私の両親と妹がいますから、何かと気を掛けてもらえますので」

「ウッ、ネイチャーマンがまともな大人に見える。何かすごく悔しいんですけど」

 

シルビーナ先生が凄く失礼な事を仰っておられますが、私ビーン・ネイチャーマンはごくごくまともな王都学園の臨時講師ですよ?

 

「これは大変失礼な事かもしれませんが、シルビーナ先生はお相手を決められないのですか? シルビーナ先生ほどの名声があり美貌も兼ね備えている女性にお相手がいないという事の方が信じられないのですが。

多くのパーティーにお誘いを受けるのも、そうした要望があるからかと思っていたのですが」

私の言葉にものすごく嫌そうな顔をなさるシルビーナ先生、何か嫌なことでもあったのでしょうか?

 

「まぁネイチャーマンは分からないかもしれないけど、貴族って碌な物じゃないのよ。なんで私が愛妾や後添えにならないといけないの? そんなものになるくらいなら独り身で十分、魔法の研究をしてる方がよっぽどましね。

そんな感じでのらりくらりと躱していたら今に至ったって感じ? でもこの仕事って意外に出会いって少ないのよね」

そう言い肩を竦めるシルビーナ先生、キャリアウーマンの悲哀、あなた様と話が合いそうです。

 

「・・・あの、ご迷惑でなければ心当たりの方をご紹介いたしましょうか? この方は私の直接の知り合いではないのですが、お世話になっているワイルドウッド男爵閣下のお知り合いで、地方商会の王都支店勤務の方なのですよ。ワイルドウッド男爵閣下のお話では大変優秀な商会員なのだそうですが、やはり地方出身という事もありなかなか出会いに恵まれていないとのことで、ワイルドウッド男爵閣下が大変気になさっておられたのですよ。

いえ、すみませんでした。このようなお話ご迷惑でしたね、忘れていただければ助かり「お願いします!!」・・・よろしいのですか?」

話を振っておいてなんですが、シルビーナ先生から発せられる圧が凄いのですが。

周りの教諭の方々が身を引いているのですけれど、よろしいのでしょうか?

それとこれは最も重要なことなのですが、今は入学式の最中なのですが。

切羽詰まった女性は時と場所を選ばない、私はまた一つ勉強させていただいた思いを抱きつつ、早く入学式が終わらないかと祈らずにはいられないのでした。




本日一話目です。
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