転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第76話 転生勇者、ミルガルの街に到着する

「よし、今日はここまでだ。日が落ちる前に夜営の準備を終了する」

 

「はい、ボビー師匠!」

マルセル村を出発して四日目、ミルガルの街迄の旅は今のところ順調に進んでいる。

 

「おい、ブー太郎、キャタピラー探しに行くぞ。今夜はキャタピラーの串焼きだ!」

“フゴフゴ”

 

予期せぬ同行者が増えた事を除いて。

 

 

マルセル村から出立した初日、俺たちマルセル村一行はゴルド村を経由し、一路エルセルの街を目指していた。途中ケビンお兄ちゃんがグラスウルフの集団を護衛に雇い入れると言うハプニングもあったが、それだと訓練にならないと言うボビー師匠からの一言で渋々解放、その後草原での夜営を行った。

って言うかケビンお兄ちゃんどうやってグラスウルフの接近に気が付いたのさ、ボビー師匠ですら気が付かないうちから行動を開始したよね?ボビー師匠索敵スキル持ってるんだけど?元白金級冒険者なんだけど?

そんな事をケビンお兄ちゃんに聞いたら、“だってグラスウルフとか予期せぬ魔物とかが来たら怖いじゃん”と言う微妙な答えが返って来た。

 

「ケビンや、さっきお主が引き連れていたのがグラスウルフじゃ。因みにお主が頑なに犬と言っとる太郎、あやつはブラックウルフじゃからな?他の街や村に連れて行くには冒険者ギルドで従魔鑑札を貰う必要があるからな、その辺気を付けるんじゃぞ?」

ボビー師匠からの一言に固まるケビンお兄ちゃん。どうやらケビンお兄ちゃんはウルフ達を本気で“犬”だと思い込んでいた様です。分かっていて犬だと言い張っていたんじゃなかったのね。

“そりゃ精悍な顔付きだとは思うけど魔物蔓延る森や草原で育てば精悍にもなるし”

なんかブツブツ独り言を呟いていましたが、これ迄散々恐れていたグラスウルフを手懐けてしまった事実には納得してくれたみたいでした。

 

初日の夜営準備は、ボビー師匠の指導の下俺たちマルセル村の子供達で行いました。ケビンお兄ちゃんが参加すると魔力のごり押しでパパッと済ませちゃうからな~。さっきも土属性魔力を使って“塹壕”を作って怒られてたからな~。ケビンお兄ちゃんは一体何と戦うつもりだったんだろうか。

 

煮炊きは荷馬車に積んであるレンガを使い簡単なかまどを作り、やはり持ってきた薪を使い火を起こします。草原では火を起こす為の薪が手に入りませんからね。水は生活魔法のウォーター、一般的にはコップ一杯の水を得るだけの魔法と言われてますが、詠唱の一部を変える事でより多くの水を得られる事は冒険者の中ではよく知られた話らしいです。

「“大いなる神よ 我に鍋一杯の潤いを与えたまえ ウォーター”」

要はエミリーのやってる詠唱の工夫と同じって事ですね、人の考える事は一緒って事です。

火種は<プチファイアー>、本当は詠唱無しでも出来るけど他の冒険者の前で短縮詠唱や無詠唱を使うと面倒臭い事になると言われたので敢えて唱える練習です。

 

「お前達は三人でパーティーを組み活動する事になるだろう。理由は単純、周りとの実力差があり過ぎるからだ。

冒険者は実力主義とは言え嫉妬や羨望から逃れる事は出来ない、特にランクが低い実力者を全力で潰しに掛かってくる傾向にある。お前達が自由に活動出来るのは少なくとも金級冒険者になってからと考えた方がいい。

授けの儀で授かる職業次第になるが、上級職を授かり領都や王都の学園に通った者は特例で銀級冒険者からとなる。そうなれば多少は楽が出来るかも知れんがな。だがそれはそれで面倒であったと聞いている。いずれにしても人間関係が一番大変だと言う事には代わりない、その辺は心して置くのじゃ」

 

「「「はい、ボビー師匠!」」」

以前グルゴさんも言っていたけど、人の社会に生きる以上人との関わり合いが一番難しい。ケビンお兄ちゃんの言う“便利なモノはこっそり使う”ってそういう事なんだろうな。

 

「ねぇジェイク君、なんか難しいね」

鍋に野菜とビッグワーム干し肉を刻み入れながら話すエミリー、冒険の最大の障害が人間関係って一体。

 

「ケビンお兄ちゃんが言っていたんだけど、“目立つ事はろくな事にならないがそれでやりたい事を我慢するのは意味がない。冒険者になるのなら嘗められない程度に実力を示すことも大切だ”だって。傍若無人でない限り好きにして良いって言ってたよ。

絡まれて面倒だったら“全ては元白金級冒険者ボビー師匠の教えです”って答えておけば良いんだってさ。

 

ケビンお兄ちゃん、ついこの前迄ボビー師匠が元白金級冒険者だって事を知らなかったみたい。“あの(じじい)、それだけの実力がありながらいたいけなお子様に全力で絡みやがって!”って言って凄く怒ってたから。全部の責任はボビー師匠に押し付けなさいって凄い良い笑顔で言ってたよ」

「「成る程、その手があったか」」

ケビンお兄ちゃんの助言により心配事が解決して良い笑顔になる俺たちなのでした。

 

「街ってこんなに人がいるんだ」

翌日エルセルの街に到着した時のジミーの第一声、立ち並ぶ家々に大通りを行き来する人々、村とのあまりの違いに唖然とするジミーとエミリー。

 

「ハハハ、このエルセルの街はこの周辺の村々から農産物や加工品が届くからね、人の流れが多いのも無理はないんだよ。今回は更に先のミルガルの街を目指す事になるけど、あっちは主要街道沿いの中継地点の役割も持っているから人口はこんなもんじゃない、迷子にならない様に十分気を付けてね」

ボイルさんの話にギョっとした顔になる二人、そして約一名“これより多いのか、人酔いしそう、行きたくね~”と愚痴る者。うん、これは違った意味で訓練が必要なのかもしれない。俺には前世の経験があるからこの程度の人の流れも“これで街か~、思ったより少ないな”程度にしか思わないけど、ケビンお兄ちゃんやジミーにエミリーは“混雑”って状態を知らないだろうからな~。ボイルさんの言葉も本当の意味では理解出来ていないんだろうな。

まるで離島からやって来た子供状態の三人に、一抹の不安を覚えるジェイクなのでありました。

 

「エミリーは馬車正面の警戒、ジミーは馬車右側、俺は左側を受け持つ。後方は警戒しつつ俺とジミーで随時対応、エミリーは馬を守れよ、一番重要だからな!」

 

「「了解!!」」

エルセルの街を離れ街道を進むこと暫し、俺の索敵スキルが感知したグラスウルフは五頭。俺のいる左側面から三頭の強襲、そして正面の馬に一頭、その隙に背後になる右側面から一頭と言う陣形の様だ。この旅が始まって最初の本格的な戦闘、ボビー師匠は基本見守りとボイルさんの護衛、それとケビンお兄ちゃんが余計な事をしない様にする見張り。さっきも臭い玉を出そうとして怒られてたからな~。ケビンお兄ちゃん、僕たちを守ろうとしてくれるのは有難いんですがそれだと僕たちの経験にならないんです。僕たちを信じて見守りをお願いします。

 

“ガウッ、ゴウッ、グガッ”

同時に襲って来た三頭のグラスウルフ、しっかりと連携が取れている、だが・・・遅過ぎないか?

“ボクボクボクッ”

魔力を纏わせた木刀による三連撃、そのまま地面に倒れ伏すグラスウルフ。残身を意識しつつ周囲を警戒する。

エミリーとジミーも各々一頭ずつ仕留めた様だ。

 

「エミリーは周辺を警戒、俺とジミーでグラスウルフを荷台に積み込む。こんな場所で血の臭いをさせたら何が起きるか分からない、解体は後だ」

 

「「了解!」」

俺たちは直ぐに行動を開始、獲物を荷台に積み込みボイルさんにこの場からの移動を要請した。

 

「えっと、ボビー師匠、彼らは今回が初の護衛任務なんですよね?もしかしてずっと護衛の訓練をされてました?動きが完全に訓練された兵士なんですが?一切の無駄が見られないんですが?」

 

「それ、時々言われるんじゃが、わし、少年兵の特殊部隊なんぞ育てておらんからな?こやつらが勝手に強くなっとるだけじゃから。原因はこの理不尽の権化じゃろうが」

 

「それこそ濡れ衣です、僕はジミー達の訓練に参加してませんからね?指導者はボビー師匠、彼らの業績は全てボビー師匠の教えの賜物ですから。自らの生きざまで子供達を導く、真の指導者ボビー師匠、流石です」

互いに功績を(なす)り付け合うボビー師匠とケビンお兄ちゃんに、微妙な顔になるマルセル村一行一同なのでありました。

 

二日目の夜営は特に問題もなく終了し、三日目は今回の旅最大の難所“オークの森”を通過します。マルセル村のある辺りが辺境と言われる所以の一つがこのオークの森、この場所を安全に通過するには最低でも銀級冒険者並みの実力が必要と言われており、物流の妨げになっている原因とも言われています。領兵の討伐隊や冒険者が時々間引きをしているとの話ですが、時間が経つと復活してしまうらしいです。

 

「よいか、これから向かうオークの森は一切の油断が許されん場所じゃ。今の時期は春の掃討のお陰で比較的安全ではあるが危険である事には変わりない、気を引き締めて向かう様に」

 

「「「はい、ボビー師匠!」」」

 

オークと言う魔物はゴブリンと次いで人々に嫌われる魔物です。単純に体格が大きく一般人には脅威である事もありますが、この魔物は社会性があり集落を形成し繁殖する特徴があります。そして道具を使い軍隊行動の様な事も行います。ゴブリン同様オークにも進化というものがあり、上位種になる事でその強さ、厄介さは跳ね上がります。上位種に率いられた集団は、まさに侵略軍そのものなのだとか。オークにとって魔力豊富な人とは獲物であり捕食対象、また人にとってもオーク肉は極上の食材、互いに相容れぬ関係という事なのでしょう。

 

「なぁジミー、あれってあからさまに罠だよな?」

 

街道の真ん中、太めの蔦に縛られ転がされたオークが一体。中々に大きいが、こちらの姿を見るや怯えの表情を見せ後退りをしている。そして周辺の木の影にはその巨体を晒しながらも何とか隠れるオークが四体・・・囮?俺たちが道の真ん中のオークの対応をしている隙に襲い掛かって来るつもりとか?オークって馬鹿?

 

「あ~、うん、オークがその脅威の割に銀級冒険者に獲物とされる理由がこれじゃな。こやつら馬鹿なんじゃ。欲望に一直線と言う特徴もある。進化した個体、オークジェネラルやオークキングともなればそうでもないがオークソルジャー辺りまではかなり馬鹿じゃな。それでも道具を使ったり力が強い点は脅威には違いないがな」

 

マジか~、馬鹿なのか~。こんな危険な場所に街道を敷くなんて何を考えているんだろうかと思ったけど、それなりに理由はあったのね。油断しなければ何とかなっちゃうんだ。

 

「あの、あれ邪魔なんで退けますね」

僕たちがこの一戦をどうしようかと相談していると、馬車からヒョイッと降りたケビンお兄ちゃん。スタスタと街道のオークに近付くと二~三言葉を掛けます。その呼び掛けにブンブンと頷くオーク、するとケビンお兄ちゃんは魔力の腕でオークを担ぎ上げこちらに戻って来ちゃいました。

 

「あ、後はご自由に、僕はこのオークとちょっと話がありますんで」

呆気にとられる一同(隠れてるオークを含む)、そんな事は関係ないとばかりにオークと何やら話し込むケビンお兄ちゃん。

 

「ジェイク、取り敢えずオークを倒すぞ。俺が右側の二体を狩る、ジェイクとエミリーは左側の二体を頼む」

 

「なら俺は手前のを倒す、エミリーは奥の個体を頼んだ。よし、行くぞ!」

 

「「おう!」」

巨大な身体を持つオークとの戦闘は待っていたらじり貧、懐に飛び込み足を崩すのが肝要。木刀で足を叩き折り頭が下がった所を一閃、ジミーは腹部に一撃を加えた後に頭部に一発、エミリーは下腹部下の急所に突きを入れ、悶絶し姿勢の崩れたところで頭部に一撃を入れた様であった。

エミリーさん、エグいです。

 

「よし分かった、ブー太郎、お前荷物持ちな。今簡単な荷車作るから倒したオークはお前が運ぶこと、報酬は干し肉二枚な」

“フゴフゴ”

 

「<ブロック>」

何故か土属性生活魔法のブロックで頑丈な石の荷車を作り上げるケビンお兄ちゃん。その荷車にオークの亡骸を積み込み蔦で縛る“オークのブー太郎”。

 

「「「・・・・・・・・」」」

“ケビンお兄ちゃんだから仕方がない”

魔法の呪文を唱え、全てをスルーする事にしたマルセル村一行なのでありました。




本日二話目です。
新入生の学生さん方は部活が決まる頃ですかね。
ところで文芸部ってあるの?
「私、気になります」とか言う名家のお嬢様が入ってる様な所。
・・・気になります。
いってらっしゃい。
by@aozora
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