転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第761話 転生勇者、日常を送る

月日は逃げる、新年度が始まり王都での日常を取り戻した俺たちの生活は、これといった変化もなく過ぎていった。

 

「あら、ジェイク・クロー先輩ではありませんの、ごきげんよう。本日も生徒会でのお仕事がございますの? あまり根を詰められるのもどうかと思いますし、宜しければ生徒ラウンジでゆっくりとしたお時間をお過ごしになられてはいかがでしょう。

無論エミリー・ホーンラビット先輩もご一緒に。

お二人の仲が大変宜しい事はかねがね聞き及んでおりますし、エミリー先輩には是非その秘訣を教えていただきたいものですわ」

 

ごめん、ウソついた。

新年度が始まり新入学生徒が入ってきたのはいい、そんな事は当然の事なんですが・・・。

金髪碧眼、縦ロールをビシッと決めた冗談のようなお嬢様が扇を口元に沿えて話し掛けて来るって、何の罰ゲーム?

エミリーなんかお目目キラッキラよ?「十六夜さんに貸して貰った学園もの恋愛小説の登場人物は実在した!!」とか言って大興奮よ?

何故か俺、侯爵家次女であるミルキー・バルデン侯爵令嬢のターゲットにですね。

エイコー・ペングラフ嬢には確りとお話ししておいたんだけどな~。あの子もめげずにその後二度ほど接触してきたのでその度に丁寧にお断りしていたら、大ボスが登場してきちゃうんだもん。

カーベルに話を聞いたらバルデン侯爵家は王都中央貴族社会でマルス侯爵家と共に求心力を高めている家だとか。そういえばエイコー嬢も“私たちに逆らったらどうなるのか分かってるんでしょうね!!”的な事を言ってたもんな~。

俺がちゃんと噂話を調べてね、ってお願いしたら実行してくれたようで、会うたびに態度が小さくなっていった事には笑いそうになったけど。

終いには「王城で王家相手に喧嘩を売ったというのは本当ですか?」とか質問してきたし。

カルメリア第四王女事件は内々で秘匿されたのか、そこまで騒がれなかったんだよね。結果としてはケビンお兄ちゃんがケビンお兄ちゃんしただけなんだけど。

 

「これはこれはミルキー嬢、お誘い下さり大変恐縮です。ですが俺は職業<勇者>を授かった身、大変申し訳ありませんが貴族間のいざこざに発展しそうな交友は出来ないのです。

幸いホーンラビット伯爵家と王家とは大森林素材のオークションという繋がりがあり、互いに友好関係を築いている事が広く知られています。

俺はホーンラビット伯爵家の騎士でもありますので、アルデンティア第四王子殿下やフレアリーズ第五王女殿下との交友を深める事は国内情勢安定のために大変有効な手段となっているのです。

ですのでミルキー嬢が私共との交友をお望みであるのでしたら、一度アルデンティア第四王子殿下におとりなしいただく形で、アルデンティア第四王子殿下主催のお茶会に参加していただくという手順を踏んでいただくことが得策と考えます」

 

よし、俺頑張った。遠回しにお断りするとともにアルデンティア殿下への丸投げ完了、ケビンお兄ちゃん、俺やったよ!!

 

「まぁ、何と忠義心の高い。ホーンラビット伯爵様が羨ましいですわ。出来ればその姿をずっとお傍で見ていたいのですけれど、これは(わたくし)の我が儘なのでしょうか?」

グホッ、強い、この子メンタルが強いよ。取り巻きのエイコー嬢とは雲泥の差だよ。口元を扇で隠しながら瞳を潤ませるテクニック、扇の有効な扱い方を熟知しているよ、エミリーがめっちゃ真剣な表情で観察しているよ、今にも“ミルキー師匠、勉強になります!!”って言いそうだよ!

 

「うん、ミルキー嬢のような可愛らしくて気品ある女性にそういって貰えるのは男としてとても嬉しいかな? この一事を以って<勇者>の職を授かった事を女神様に感謝してしまいたいくらいには光栄に思っていると付け加えておくね、本当にありがとう」(ニコッ)

うん、これは話が終わらないタイプですね、戦略的撤退が必要って奴ですね。前世の少年漫画に出てきたグイグイくるタイプ、超恐い。(主に俺の腹筋的に)

 

「まぁ、(わたくし)、男性にその様な言葉をいただいたのって初めてでしてよ? この鼓動の高鳴り、どう責任を取っていただこうかしら?」

「そうですね、それでは責任を持ってアルデンティア第四王子殿下にミルキー嬢の事をご紹介するといたしましょう。将を射んとする者はまず馬を射よということわざの如く、本命であるアルデンティア第四王子殿下と接触できるのですから責任は果たした事になりますよね?

エミリー、ミルキー嬢をご案内差し上げてくれるかな? ミルキー嬢は生徒会室の場所は知っていますか?」(ニッコリ)

 

僕の言葉に顔を引き攣らせてたじろぐミルキー嬢、今日の勝負はここまでといったところでしょうかね。

 

「こほんっ、ジェイク・クロー先輩、エミリー・ホーンラビット先輩、折角お誘いいただいておきながら申し訳ございません。本日はこの後会合がございますの、またの機会にお誘いいただいてもよろしくて?」

「そうですね、それではまたの機会に。俺たちはこれで失礼いたします、ごきげんよう」

 

あ~、疲れた。俺はミルキー嬢にニッコリ笑顔で手を振ると、踵を返し生徒会室に向かいます。アルデンティア第四王子殿下にこの面倒臭い新入生をどうにかしてもらえるように陳情しなければ。

エミリーはお嬢様会話術を十分堪能したためか超ご機嫌、「またね~、ミルキーちゃん」とか言って手を振っています。

止めてエミリー、それめっちゃ煽ってるから、「照れちゃって可愛い」ってあれ怒ってるだけだから!!

いや、本当、マジですみません。直ぐに退散するであります、ハイ。

俺はエミリーを引き摺る様にしてその場を離れていくのでした。

 

――――――――――――

 

「ジェイク・クロー、なかなかに手ごわいですわね。誰かいますか?」

「はい、お傍に」

 

王都学園に入学して一月、学園生活にも慣れ始めた今日この頃。私はお父様からの言い付けの通り今代の<勇者>ジェイク・クロー先輩を引き込むべく接触を試みていた。

 

「あなたはエイコー・ペングラフでしたわね、ホーンラビット伯爵家と<勇者>ジェイク・クローの情報は集まりましたの?」

「はい、ご報告申し上げるべく、まとめた書類をお持ちいたしました」

 

そう言いエイコーが差し出した書類は、冊子と呼んでも差し支えのない厚みを持った物。

 

「よく調べてきたこと、これは今後の活動のためにも情報の共有が必要なようですわね。生徒ラウンジは押さえてありますわね? そちらで詳しい報告を聞く事といたしましょう」

 

“王都貴族社会において情弱である事は即ち家の力の衰えを示す事。これまで(わたくし)は派閥の力を強める事に注視し、あまり外に目を向けて来なかったのやもしれませんわ。

お父様からのご命令を果たす為にも、ここは確りと足場を固める必要があるのかもしれませんわね”

私はエイコーに指示を出し、生徒ラウンジへと向かうのでした。

 

「これは一体どういう事ですの? 確かに先のダイソン侯爵家との戦争終結においてホーンラビット伯爵家騎士団が大きな働きをした事は聞き及んでおりましたけれど。

あの劇場での催しは王家が国民の批判を鎮める為の情報戦略ではありませんでしたの?」

この場に集う事を許された者たちは皆長いオーランド王国の歴史を支え続けた由緒ある血筋の者、私たち中央貴族の者たちの支えなしに王国は成り立たないと言わしめた貴族家の中枢にして頂点。

 

「はい、これは王都諜報組織“影”が意図的に操作し情報を改竄、実際よりも過少の内容を広めたものであるという事が分かりました。

本来のホーンラビット伯爵家騎士団の人数は三十名、そのほとんどが従軍経験どころか兵士ですらなかった村の老人や子供であったとか。鬼神ヘンリーと剣鬼ボビーはそのような者たちを一騎当千の狂戦士にまで引き上げ、戦場に赴いたのだとか。

劇でも語られていたアスターナの攻防などは、攻防などと言うものではなく一方的に力を示し一万を超える将兵を屈服させたそうでございます。

その事が嘘ではないという証拠は王都前草原での惨状、王宮騎士団の中では未だにホーンラビット伯爵家騎士団の話は一切語られることがないとのよしにございます」

 

捲られる報告書、記された冗談のような出来事の数々。

 

「中央貴族社会を牽引していたバルーセン公爵家がなぜ突然国王派に寝返ったのか、王宮騎士団の騎士団長並びに副団長たちが解任されたのは何故だったのか。

全てはホーンラビット伯爵家に起因する事態だったのです。これまでであればこのような暴挙を王家が許すはずがありません、中央貴族社会の秩序を乱す行為は王国の秩序を乱す行為に他なりませんから。

ですが状況が変わったのです。ホーンラビット伯爵家は正面から王家に喧嘩を売りました、それも一度だけではなく三度も。ですが王家はその挑発を受ける事はなかった、受けることが出来なかった。

王家の敗北はオーランド王国そのものの敗北に繋がってしまうからです。

ホーンラビット伯爵家の情報をより詳しくお知りになりたければ王都諜報組織“影”の総帥であるベルツシュタイン伯爵様の下をお訪ねください、直ぐに詳しい話を教えて下さるはずです。私がここまでの情報を集められた事もそのお陰ですので。

本日お持ちした情報は我が家で裏付けを取ったものだけとなりますが、“影”の情報にはとても常識的ではないものも数多く含まれていました。

これが“影”による情報操作であるかどうかについては、確証は持てませんが」

 

これらの情報をお父様が知らない筈はありません。冷静に考えれば関わり合いになってはいけない者たち、この場にいる者全員がそう考えているはず。

 

「ミルキーお嬢様、発言を宜しいでしょうか?」

沈黙を破ったものは伯爵家の者、名は何と言ったか。私は頷きだけで許可を与えます。

 

「ありがたき幸せ。ですがこのような栄誉を賜りながら暴言を吐く事をお許しください。

エイコー嬢、お前は無能か? 王都諜報組織“影”の情報操作を鵜吞みにし、ミルキーお嬢様の御心を悪戯に乱すなど言語道断。貴様のような者が我々と同じくこの席にいる事が恥ずかしいわ。

貴様が何を恐れているのかは知らんが、我らは栄えある王都中央貴族の者、何者にも揺るがぬオーランド王国の支配者の血族なのだぞ? 貴様のような臆病者はこの場にはふさわしくない、直ぐに立ち去るがいい」

「そうですわね、エイコー、あなたはミルキー様にお声掛けいただけたからと言って調子に乗っていません事? しかもミルキー様に意見を言うとは、分を弁えなさい。

申し訳ありませんミルキー様、この者は私共できつく指導しておきますので」

 

次々と声を上げる者たち、その誰もがエイコーの上げた報告を真剣に見ようとせずあざ笑う。

・・・この者たちは一体何を言ってますの?

私はサッと手を挙げ皆の発言を制すると、エイコーに視線を向ける。

 

「報告、確かに受け取りましたわ、ご苦労でした。皆も集まってくれた事、感謝しましょう。

今後については皆の意見を参考によくよく考えてまいりますわ。

(わたくし)はお父様のご指示を仰ぐ事といたします、今日は解散といたしましょう。

それとエイコー、貴方には今後の処遇の事で話があります、この場に残りなさい」

 

私の言葉に席を立ち離れていく者たち、その表情はエイコーに対する侮蔑と蔑みにまみれています。そしてこの場に残されたのはエイコー・ペングラフと私のみ。

 

「さてエイコー、先ずは顔を上げなさい」

私の言葉にビクリと身を震わせる彼女、立場としては当然の反応ですわね。ですが私は問い質さなくてはなりません。

 

「エイコー、貴方の率直な意見が聞きたいのですわ。あなたは<勇者>ジェイク・クローと<聖女>エミリー・ホーンラビットについてどう考えますの?」

「・・・はい、出来るのならば接触は避けた方がよろしいかと。ですがお立場上そうもいかないのであれば、無理な勧誘はせず友好関係を築く程度に止めておくことをお勧めいたします。

これは今回の調査をしていて分かったのですが、近いうちに王都は大きな騒動に巻き込まれるはずです。既にそうした噂が出回り始めています。

噂の出所が軍部と王都教会関係者である点も無視できない話であるかと。

そうした中で<勇者>ジェイク・クローと<聖女>エミリー・ホーンラビットが巻き込まれない筈はありません。

ミルキー様が侯爵閣下にご指示をいただいている事も、あるいは関係があるのやもしれません。

いえ、余計な事を申しました、お忘れください」

 

そう言い頭を下げるエイコー、この子は使えますわね。

 

「分かりましたわ、よく話してくださいました。あなたの立場ではとても言葉にしにくい事であったでしょう、本当に感謝しています。

ですが派閥組織を維持する者としてはあなたの事を今までのように傍に置くことが出来ませんの、その事は分かって下さるかしら?」

「はい、大変申し訳ありませんでした」

 

「謝る必要はありませんわ、私はエイコー・ペングラフという人物を高く買っているのですから。あなたには私たちから一歩離れた立場で情報を集めて欲しいのです。そのうえであなたの目から見た意見が欲しいのですわ。

本日の会合を見ていて確信いたしましたの、今後の立ち振る舞い次第で私《わたくし》の命運は決まると。おそらくですがあの者たちは私の事など早々に見切りをつけるか縋り付くか、どちらにしろ役には立ちませんわね。

エイコー、辛い立場とはなりますがお願いできますかしら?」

 

私の言葉に俯き言葉を詰まらせるエイコー、ここで彼女を失う事は痛手なのですけれど。

 

“ザッ”

「エイコー・ペングラフ、ミルキー様に絶対の忠誠を」

片膝を突き私に忠誠を誓うエイコー、この子は若干勇者病でも入っているのかしら?

何にしても都合がよいからいいのですけれど。

問題はお父様が現状をどう理解されているかですわね。私はエイコーを下がらせた後、今後の動きをどうすべきなのか、一人部屋の中で考えを巡らせるのでした。




本日一話目です。
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