転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第763話 第四王子の側近、現状に頭を抱える

王都貴族街の一角、古くから王家の剣として仕え代々騎士団長を輩出し続けてきた由緒ある家系、ベイル伯爵家。

そんな王都でも尊敬される家柄に産まれたラグラ・ベイルは、王宮第一騎士団騎士団長である父親を敬い、近衛騎士団に所属する兄を尊敬し、自身も第四王子の側近として剣を振るうべく日々研鑽を積み続けていた。

 

“スーーーーッ、カチャッ、ザザッ、スーーーーッ、カチャッ”

真剣な表情で前方を見つめゆっくりと剣を振るう。その動きは緩慢で舞と呼ぶにも烏滸がましい程のもの、だが剣を振るうラグラの額は汗に滲み、全身はまるで雨に打たれたかのようにびっしょりと濡れている。

 

「ラグラ様、只今戻りましてございます」

屋敷の中庭で剣を振るっていたラグラ、そんな彼の下に従者の者が現れ、頭を垂れ声を掛ける。

 

「“フゥ~~~、カチンッ”、ご苦労、話は部屋で聞こう」

ラグラは剣を鞘に納めると、従者を伴い自室へと戻っていくのであった。

 

「それで、アルデンティア第四王子殿下のお求めになられていた“女性向け小物の販売店”は見つかったのか?」

「はい、詳細はこちらの資料に纏めておきましたので後程ご覧になっていただければと。目ぼしい店舗には直接出向き“店の評判”と“推定予算額”を確認してまいりました」

 

ラグラは王都学園の制服に着替えながら従者からの話を聞くと、渡された資料の入った封筒を無造作にカバンに仕舞い込み、「そうだな、王都学園に着いたら確認してみる事としよう」と言葉を返す。

 

「そうそう、<聖女>アリスが“教会”に奉仕活動に向かっている件だが、何か噂になっていたりしないか? 最近では定期的に訪れる<聖女>アリスを目当てに“教会”を訪れる“他家の者”も多いと聞くが」

「はい、教会といえば先だってボルグ教国から大聖女様が訪れたこともあり“大分浮足立っている”ようではありましたが、今のところ大きな騒ぎになってはいないようでございます。

近頃では“クロッカス第三王子殿下”が訪れるようになられているとか、いずれは<聖女>アリス様との接触もあるものかと」

 

従者からの言葉に一瞬動きを止めるも、そのまま着替えを済ませカバンを従者に手渡すラグラ。

 

「報告ご苦労、朝食を終えたら家を出る、馬車の準備をしておけ」

「ハッ、畏まりましてございます」

 

ラグラは先に従者を下がらせると、鏡を取り出し身だしなみを確認する。いつの間にか眉間に寄っていた皺を指で解し、何度か笑顔を作る練習をした後、両の頬をパンパンッと叩いてから食堂へと向かうのだった。

 

「父上、母上、おはようございます。ベルチーク、おはよう」

食堂には既に父であるマホガニー・ベイル伯爵、母であるベイル伯爵夫人、五つ年下の妹であるベルチークが食卓に着いていた。

 

「うむ、ラグラよ、今朝も早くから剣の修業に励んでいたようだな。だが今までのように激しく打ち下ろすようなものとは相当に違っているとの報告を受けているが、それはどういった事であるのか」

父マホガニーは眉根を寄せラグラに問い質す。

代々騎士団長を輩出してきた由緒正しい家系であるベイル伯爵家に相応しい剣術は、正統派の王宮剣術であるべきである。伝統と格式を重んじるマホガニーにしてみれば、これまでの剣術を捨てるようなラグラの訓練方法は到底受け入れられるようなものではなかったのである。

 

「ハッ、父上に於かれましては事後報告になってしまった事、誠に申し訳なく。現在私が取り組んでおりますのは、身体運用法の基礎を見直す訓練となります。

ありがたい事に冬季休暇期間中大剣聖クルーガル・ウォーレン卿からの直接指導を受ける事で私は“魔纏い”を習得し、王宮剣術の習得もお褒めの言葉をいただくことが出来ました。ですがそこで立ち止まっていては小さく纏まった応用の利かぬ剣士になってしまいます。

私は大剣聖クルーガル先生の指導の下、ベイル伯爵家の力となるべく自身を基礎より鍛え直す道を選択いたしました。

父上に於かれましては迂遠でもどかしく映るやもしれませんが、父上のように人々を惹き付ける人望も兄上のように飛び抜けた才覚もない私がベイル伯爵家の一員として恥ずかしくない人材へと育つには、これ以外に道はないと考えます。

凡才である自身を恥じるばかりではありますが、ベイル伯爵家に泥を塗らぬよう懸命に精進していく覚悟です」

 

ラグラは席を立つと両親に対し申し訳ないとばかりに頭を下げる。マホガニーはそんな次男ラグラの態度に、暫し瞑目した後大きく頷きを見せる。

 

「うむ、自らの不足を知る精進を怠らぬ決意、家名を汚さぬよう努力する態度、ラグラはこの冬で大きく成長したと見える。そんなお前の覚悟を疑いの目で見てしまった父の不明、許せ」

「いえ、そのようなお言葉、誠に申し訳なく。これは全て私が至らぬ事によるもの、ですが父上からの温かい激励に感謝し、今後ともより一層の精進を重ねていく所存でございます。

それと、父上にお願いがございます。今度王宮の兄上の下を訪ねたいのですが、そのご許可をいただけませんでしょうか? 一度人生の目標とすべき人物の一人である兄上のお話をお聞きしたいと思っているのですが」

 

ラグラからの願いに、やや難しげな表情になるマホガニー。

 

「分かった、だが余り兄の迷惑にならんようにな。あの者は近衛、その役目は重要なものであるのでな」

「ハッ、父上のご配慮に感謝申し上げます」

 

ラグラは父マホガニーに深々と頭を下げると、再び席に着き朝食に手を伸ばすのであった。

 

―――――――――――

 

「それでどうだった、上の兄とは話が出来るようになったのか?」

そこは一般の生徒が立ち入りを許されていない王都学園の聖域の一つ、生徒会室。幾重にも重ねられた結界により部屋の中の会話が外に漏れる事もなく、生徒間の重要な取り決めごとの相談を行うにはもってこいの場所であった。

 

「あぁ、父上からの許可はいただいた。ただ兄にそのまま事を問い質してもはぐらかされるだけであろうし、下手をすれば我が家の醜聞にもなりかねない。どう切り出したらよいものかと思ってな」

 

だがこの場は王都学園、通う生徒は高位貴族家の令息令嬢と特別な職業を授かった者たちであり、ある意味王都社会の縮図と言ってもよい場所である王都学園での密談は、一概に一学園生徒が抱えるような問題とも限らない。

 

「ラグラの懸念はもっともなものであろう、既に“影”は彼らの動きを捉えているし、信頼のおける者たちを潜り込ませているはずだ。

ただ気になるのは“影”の動きだ。これまでであればこうした動きが見られた段階で秘密裏に病死として処断していたものが、今回に限って情報収集に留めている。私には正直これが何を意味しているのかが分からない、単に不穏分子を泳がせて言い訳のしようのない状況を作ろうとしているのか、それとも。

“影”にしてみればオーランド王国王家の血筋が守られるのであればそれで構わないのだろうし、過去に愚王と呼ばれた者たちが不慮の死を遂げている事も事実だ。現状何が正解であるのかの判断が付かないというのが正直なところだ」

 

その場の最上位者であるアルデンティア第四王子の言葉に沈黙が広がる。だがそんな中、一人の人物が口を開く。

 

「アルデンティア第四王子殿下に申し上げます。王子殿下の御懸念はもっともなものであるかと、ですが現状においてその心配はないものと思われます。

現在我が家は国王派の貴族として多くの貴族家と接触、貴族社会の取りまとめに奔走しております。その中で聞こえる現国王ゾルバ・グラン・オーランド陛下の評価は非常に高いものであるかと。

但し陛下は国際情勢を鑑み性急な改革に取り組んでおられるご様子、そこに生じる反発はこれまで多くの利権を握り貴族社会の中心で利益をほしいままにしていた者ほど大きなものになるかと。

そしてそれは広く軍閥貴族家と呼ばれる者たちにも及んでいるものと思われます。

 

こうした状況においてこの事態を利用し、より大きな混乱を引き起こそうとしている者たちの存在、“影”の者たちはそこに意識を集中しているものかと。

我が家でも独自に情報を集め、事態を最小限に止めるべく動いているところでございます」

 

バルーセン公爵家令嬢ラビアナ・バルーセンは、報告の後一礼と共に小さくカーテシーを決める。

 

「問題はこの騒動にどれだけの者たちが動くかだ。立場上従わざるを得ない者たちも多く存在するはず、そうした者たちの受け皿を用意しておけば力は分散されるか?

であれば学園内の生徒から各家の者の状況を調べ接触を試みるのも一手段。

ラグラ、ベイル伯爵には私との関係は良好である事、第四王子は良きにつけ悪しきにつけ凡庸であるという事を吹き込んでおいてくれ。カーベルとラビアナはそれぞれの家を通じ寄り子となっている家の者たちに事態に踊らされないように注意喚起を。

私はこれまで同様各パーティーに顔を出し必死に派閥を作ろうとしているように印象付けることとしよう。

ラグラには悪いが私ではこの辺りが限界だ、最悪家を切る事を覚悟しておいてほしい」

「いえ、アルデンティア第四王子殿下の御恩情に感謝申し上げます。後は兄が現状をどう考えているかといった事ですが、兄は王都学園生徒時代からブライアント第二王子殿下と親しくしていましたので。

俺も貴族、ベイル伯爵家の血を引いている以上覚悟は出来ています。もしもの際は、俺の事はどうかお忘れください」

 

再び訪れる沈黙、最悪の事態、王国法における連座制という制度が彼らに重くのしかかる。

 

「あの、ラグラさんがベイル伯爵家の人間だから問題なんですよね? でしたらベイル伯爵家を辞めてしまわれたらいいんじゃないんですか?

例えばよその家に養子に入るなり、新しく家を興すなり。ベイル伯爵家に拘らなければ幾らでもやりようはあるように思うんですが」

 

その声はこれまでまるで空気のように一切の発言を控えていた者、王都中央貴族社会の常識を一切知らない田舎者、<聖女>アリス・ブレイクのものであった。

 

「待ちなさいアリス、貴方は簡単に言いますけれど、この問題はそう単純な「そうか、その手があったな」・・・はぁ!? ラグラ、あなたご自分が何を言っているのか分かってますの?」

アリスの余りに世間知らずな発言に思わず注意を入れようとするも、その後のラグラの一言に呆れた表情になるラビアナ。

 

「いや、うん、そうだな。カーベル、すまないが司法的に俺が生き残るための道筋がないか調べてもらえるか? 正直なところ俺はその手の分野はからっきしなんでな。

アルデンティア第四王子殿下に於かれましてはご心配をお掛けし大変申し訳ありませんでした、今後ともこの問題に関しましてはお手伝いいたしますが、少なくともベイル伯爵家は降格処分か爵位剝奪によるお取り潰しとなることは必定でしょう。

俺が調べた範囲ですらブライアント第二王子殿下を即位させ王国を乱さんとしている事は明らかですので。父は国政を憂い同志を集めているなどと申しておりますが、要するにベイル伯爵家の権威を主張したいがための行為、そこにオーランド王国を思っての行動などありません。

心配があるとすれば母と妹ベルチークのこと、母の実家は中央貴族の旧勢力に属していますから離縁したとしても向かう道は同様であるかと。ベルチークは授けの儀の前ですので、温情を受けることが出来る可能性は高いのですが」

 

そこで言葉を切るラグラ。命は助かるかもしれない、だが貴族としての復権は難しいだろうことは明らかであったからである。

 

「ラグラの覚悟は分かった、力になれずすまない。だが私を受け皿とした救済策は進めていこう、急速に軍閥貴族や官僚貴族の数が減ることは王国としても看過できるものではない。名目としては“掲げる旗を変えることで少しでも発言力を強くしようとした”というもので構わないだろう。

国王派に寝返るのなら多くの反発も生まれるだろうが、誰も期待していない第四王子派閥の発足に関わるとなれば蔑みの目を向けられる事はあれど嫌がらせなどを受ける心配はないだろうからな。

ラグラの件もその事に搦め国王陛下にご相談してみる事としよう。

私も上手く解決策を見つけられるよう動くが、決して自暴自棄にだけはなるなよ?」

「ハッ、ありがたき幸せ。ラグラ・ベイル、アルデンティア第四王子殿下に絶対の忠誠を」

 

変える事の出来ない時代の流れ、小舟に乗り流される若者たちはいつの時代も荒波に巻き込まれ翻弄されていく。そんな中で多くの知恵を出し合い、必死に抗う友がいる。

若者たちはこれから訪れるであろう嵐を前に、必死に戦っているのであった。

 

“スーーーーーーッ、パタン”

“クハッ、これは何という熱い展開、友情、努力、勝利、青春物語の要素がてんこ盛りじゃないですか!! 王都学園最高~~~!!”

そんな若者たちの様子を見守りそっと生徒会室を後にした清掃員は、王都学園の潜入任務に就かせてくれた上司に感謝しつつ、次の現場(ビュースポット)に向け歩を進めるのでした。

 




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