転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第764話 悪役令嬢二号、模索する

“ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ”

王都の夜は深い、街の喧騒も一本路地を外れれば人通りの少ない暗闇が広がるといった場所も少なくない。

 

「探せ、今は時期が悪い。下手に情報が知られるのはまずい」

“““ドタドタドタドタ”””

それは情報収集のため騎士団の者と接触しようとした時の事、互いに素性を知られる訳にはいかないと指定された店、より深い情報を引き出すためとはいえ自ら足を運んだことがまずかった。

 

「なんでこんなことに。これでは私の事を世間知らずの小娘と馬鹿にした<勇者>ジェイクの言葉の通りではないですか」

物陰に隠れ男たちが走り去るのをやり過ごす。乱れる息を整え、この場を離れようとした時であった。

 

「おうおうおう、こんなところで若い姉ちゃんが一人、何をやってるんだ? それよりもいいところに行かねえか? 天国に連れてってやるぜ?」

「「「ギャハハハハハ」」」

 

聞こえるのは下卑た笑い、周囲を取り囲む下賤な者たちに顔を顰める。

 

「下がりなさい、私を誰だと思っているのです。今なら目を瞑りましょう、そこをどきなさい!!」

「ヒュ~~、おいおい聞いたかい、こちらのかわいらしい声のお嬢様が目を瞑ってくださるとよ。ってことは今夜は目隠しでお相手くださるって事かい? こいつは燃えるね~、俺たち相手にどこまで頑張ってくれるのかね~」

「「「ギャハハハハハ」」」

 

ここは王都の裏通り、そこに武力なき権力など何の意味もなさない。彼女は事ここに至って思い知る、自身が世間知らずのお嬢様だったという事に。

 

「いたぞ、貴様らどけ、その者はこちらでもらい受ける」

「おうおうおう、なんだてめえらは。このお嬢ちゃんはこれから俺たちと楽しいことをしに行くんだよ、関係ねえ奴は引っ込んでやがれ!!」

 

“““スーーッ、カチャッ”””

“““シュッ、チャキッ”””

引き抜かれた刃物、溢れる殺気と怒気。路地裏は一気に剣呑な空気に代わり一触即発の状態に女の小さな悲鳴が漏れる。

 

“コツンッ、コツンッ、コツンッ、コツンッ”

「おやおや、このような場所で武器を向け合うとは、ただ事ではありませんね。これは衛兵様に来ていただかなければいけませんでしょうか?

でも困りました、そうなると帰りが遅れて明日の講義の資料がまとめられなくなってしまいますし」

そんな路地裏に響く場違いな声、男たちは不意に訪れた闖入者に視線を向ける。

 

「さて、この騒ぎの中心はそちらのお嬢さんでしょうか? いけませんね、うら若き娘さんが遅い時間にこのような場所をうろついては、親御さんが心配なさいますよ?

仕方がありません、辻馬車の拾える大通りまで送って差し上げましょう」

 

“コツンッ、コツンッ、コツンッ、コツンッ”

闖入者はその歩みを止めることなく場の中心に割り込むや、ローブのフードで顔を隠した女性の手を掴みその場を離れようとする。

 

「てめぇ、勝手に何をしてウグッ・・・」

「あぁ、動かないほうが良いですよ? そちらの剣士の方々も。硬糸術、皆様の事はすでに捕縛させていただいておりますので」

その言葉にその場にいるもの全員が目を見開く。この突然の闖入者は、既にこの場を支配する絶対者であったのである。

 

「グッ、貴様、今すぐに我々を解放しろ!! さもなくば貴様はおろか貴様の家族がどうなっても“ブォッ”!?」

それは身も凍るほどの冷たさを伴った殺気、奥歯はガタガタと震え、全員が武器を取りこぼし、恐怖に染まった瞳で身を震わせる。

 

「さて、家族がどうかしましたか? 私も自身ばかりでなく家族に累が及ぶとなれば全力を出さねばなりませんが。

その服装から見るにあなた方は王宮第一騎士団の方々でしょうか。この王都を守るべき騎士団の方々が皆そうした者たちであるとは情けない、そんなモノはいらない、そうはお思いになられませんか?」

“ギリギリギリ”

ゆっくりと軋み音を立てながら締まっていく糸、手首が、太ももが、腕が、首筋が、胴体が。まるで自身が下処理を行われている食材のように、糸により切断される様を幻視し戦慄する騎士たち。

 

「わ、分かった、俺たちは下がる、お前には一切手出しはしない、だからこの糸を外してくれ!!」

声を上げ懇願する騎士に闖入者は冷ややかな視線を送りながらも、その手を止める。

 

「そうですか。私は現役を退いた身ですし、あまり騒ぎを広げるのもこの街を取り仕切る者たちに迷惑が掛かりますので、その提案に否やはありません。ですが後から背中をブスリと刺そうとする人たちをこのままというのもどうかと思うのですよ」

「しない、お前には絶対にかかわらないと女神様に誓おう!!」

 

“パチンッ”

闖入者が指を鳴らすと同時に傍にどさりと崩れ落ちる男たち、彼らは先ほどまで自身を縛り付けていた糸から解放されたことに安堵する。

 

「それではお嬢さん、大通りまでお送りいたしましょう。一人で立てますか?」

スッと差し出された手、女性はその手を掴むとゆっくりと立ち上がり歩を進める。

 

“カチャッ”

だが悪夢の夜は続く、一人の騎士が背中を向ける闖入者の隙を突き、地面の剣に手を掛けた。

 

「あぁ、そうそう、この場の武器は全て切り刻んでおきましたのでお使いにはなれませんよ? それと、皆さんはいつから自身がすでに解放されたと思っていたのですか?」

“ボトッ、ブシュッ、ギャーーー!!”

それは剣の柄を握った状態で地面に転がる手と、手首から先を失い出血に叫び声を上げる騎士の姿。

 

「後は追わないことをお勧めします。その場合どうなるのかは」

そう言い自身の首をトントンと叩く闖入者に顔色を青くする男たち。王都の路地裏、男たちは表通りへと去っていく二人の背中をただ見送る事しかできないのであった。

 

―――――――――――――

 

王都の繁華街、そこは多くの男たちが夜の蝶を求め彷徨い歩く大人の遊び場。そんな場所をまるで勤務先にでも向かうかのように飄々と渡り歩く男、どうも、ワイルドウッド調薬店のケビンです。

情報収集と言えば夜の盛り場は定番中の定番、やはり酒が入ると口が軽くなるのか表の情報から裏の情報まで、様々なお話が飛び交いまくっているんですけどね。

そんな繁華街ではワイルドウッド調薬店の酔い止め薬が大人気、皆さん飲み過ぎだろうっていうくらい飲みまくってるようで、常に大量の注文がですね。

 

昼間は王都学園の講師とリットン侯爵家での農地整備事業、夜は繁華街で薬売り。

休む暇もなくて俺死んじゃうんじゃね? とか思った時期が俺にもありました。

や~、スキルってすごいわ、特に<魔物の雇用主>、あれ絶対ぶっ壊れスキルだよな、うん。

<長期雇用契約>を結んでる太郎がナイトフェンリルに進化したことで手に入れたスキル<夜間自己再生>、夜になったら全回復しちゃうんですよ、疲れ知らずなんですよ、どんな無茶な生活を送ろうが二十四時間戦えちゃうんですよ。

助かるっちゃ助かるんだけど、エナジードリンクいらずだし、でも何というかそこはかとないやるせなさがですね。

 

まぁそんな感じで酔い止め薬の営業(メイン)兼情報収集(おまけ)を行っていたんですけどね。

「おい、見つかったか?」「いや、どうやら途中で撒かれたようだ、戻るぞ」

裏路地の怪しい酒場での営業を終え店を出たところでそんな声がですね。気になって後を追えば、どこかで感じたことのある魔力波動がってエイコー・ペングラフ嬢、君はこんなところで何をやってるのかね。ここって結構危ない地域なのよ? 下手しなくとも攫われて売られちゃうような場所なのよ?

 

そこで(わたくし)、急遽ネイチャーマン先生に変身して現場に乱入したって訳でございます。

 

「さて、この辺でよいでしょうか。しかしあの辺りは大変危険な地域なんです、どういった理由があったのかは詮索いたしませんが、こうしたことはなさらないことをお勧めいたします」

私の言葉にエイコー嬢は無言で後を付いてきます。私は街ゆく辻馬車を捉まえると、エイコー嬢を押し込んで扉を閉めます。

 

「ではお気を付けて、こうした無茶はもうしないようにしてくださいね」

私は辻馬車の御者に銀貨五枚を握らせると、ペングラフ伯爵家の裏通用門前に向かってもらえるように告げ、馬車を走らせるのでした。

まぁこちらが何も言わずとも自分の事がばれていることはエイコー嬢も気が付いているだろうし、この件に関しては特に何もしなくともいいでしょう。

私は本日の業務(営業と情報収集)を終了すると、夜の街の喧騒に姿を消すのでした。

 

―――――――――――

 

“コンコンコン”

「失礼します、エイコー・ペングラフです。ネイチャーマン先生、少々お話があるのですがよろしいでしょうか?」

それは三年生の講義を終えた日の昼休み、臨時教務棟二階の教務室でお昼のお弁当を広げている時の事でした。私ビーン・ネイチャーマンは基本的にお昼は弁当持ち込みです。

たまに学生食堂も利用しますが、伊織が頑張って作ってくれることを考えると無下にはできないと言いますか、色鮮やかなお弁当は学食にはない魅力があると言いますか。

時にはこうした来客もあるので、教務室にいること自体に意味があったりするのですが。

 

「はい、どうぞお入りください」

“カチャリッ”

開かれた扉、そこにはアフロヘアに白い煙を上げ、顔にはポンポコラクーンの隈取りと髭、鼻の頭も真っ黒けの女子生徒が二人。

 

“グホッ・・・”

シルビーナ先生、ポンポコラクーンの呪いは私のツボなんでやめて欲しいのですが。アフロラクーンって、アフロラクーンって~~~~!!

 

「コホンッ、失礼いたしました。それでエイコー嬢、そちらはどちら様でしょうか?」

私は努めて冷静に言葉を掛け着座を進めます。

 

「失礼、ネイチャーマン講師とか言いましたね、あなたは私たちの姿を見て第一声がそれですの? 

私、これまで様々な経験をいたしましたがこのような扱いを受けたことは初めてでしてよ? このことはお父様を通じて学園側に十分注意させていただかなければなりませんわね」

“パチンッ”

扇で口元を隠し鋭い視線を送るアフロラクーン。・・・ガハッ、ダメだ、自分が保てない。私は急ぎ執務机に向かうと、引き出しから解術薬(天使の微笑み)の入ったポーション瓶を取り出し、お二人の前に差し出します。

 

「ネイチャーマン先生、これは?」

「はい、解術薬となります。お二人が体験されたものは魔法講師シルビーナ先生がこの臨時教務棟に施した各種トラップになります。

この事は学園長にも許可をいただいており、学園ダンジョンのトラップに対する訓練として生徒の挑戦が推奨されています。最終的にシルビーナ先生の教務室に到着することが目標となっています。

この事はこの臨時教務棟玄関前に掲示してあるはずなのですが」

 

私の言葉に「あのようなふざけた話をまともに取り合う筈がないではありませんの!!」と言い扇をパチンとテーブルに叩き付けるアフロラクーン。やめて、もうやめて、全ての動作が私の腹筋にダイレクトで!! 死んじゃう、マジで死んじゃう!!

私は自身の心を無にし、「まずは解術薬をどうぞ」と天使の微笑みを飲んでいただくのでした。(私の腹筋を守るために)

 

“ゴクッゴクッゴクッ、シュッ”

天使の微笑み、それは身体に巣食う闇属性魔力を追い出し、呪いから解放する至高の霊薬。その効果によりアフロヘアの女生徒たちは本来の姿を取り戻し、生活魔法講座の受講生であるエイコー嬢と、金髪碧眼ドリルヘアのザ・お嬢様の姿が・・・グホッ。

アフロラクーンからのザ・お嬢様、女神様はどれほど私に試練をお与えになるのか。

私は急ぎ執務机に向かうと、引き出しから取り出すふりをして光属性マシマシマシマシ聖茶の入った水筒を取り出し、一言断りを入れてから一気飲みするのでした。




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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