転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第77話 村人転生者、ミルガルの街に到着する (2)

遠かった、目茶苦茶遠かった。マルセル村を出て五日目、エルセルの街から続いていた街道からこの辺の主要街道に合流すると同じように各地の街道から集まって来たであろう多くの荷馬車や荷車を引いた人々の姿が見られる様になり、ここが人の行き来が多い大都市周辺であると言う事が肌で感じられる様になって来た。

中には背中に大剣を背負った如何にも冒険者と言った格好の厳つい男達に守られた馬車なんかも走っており、ビビるブー太郎に“大人しくしていれば大丈夫”と言い聞かせるのが大変であった。

 

「よいか、ここから先にあるのがミルガルの街になる。ミルガルの街はこの領都に続く街道沿い最大の街と言われておる一大交易都市じゃ、その為多くの人や物がこのグロリア辺境伯領北西部地域から集まって来ておる。

儂らの住むマルセル村とは比べ物にならぬほどの人口と物に溢れた場所と言う事じゃな。そう言った都市にはえてして悪意も溜まり易い。お主たちからすれば許せない様なものを目撃するやもしれん。

だがそれを見てお主たちに何が出来る?お主らは一見の旅人でしかないと言う事を忘れる出ないぞ?何かをする、手を差し伸べるのなら相手の一生を抱え込むくらいの気概を持て、分かったな」

 

「「「はい、ボビー師匠!」」」

 

荷馬車の荷台では薪が減ってすっかり空間の空いた場所に座り込んだ子供たちとボビー師匠が何やら人生の教えの様な事を話しています。そうだよね、この世に理不尽不条理は尽きまじ。その全てに一々首を突っ込んでいたら身動きできなくなって溺れちゃうもんね。

ボビー師匠もこれまで色んな所で色んな理不尽や不条理を見て来たんだろうな。子供たちに語る時の顔が真剣そのものだったもん。

 

「おいケビン、何を慈愛の籠った眼差しでこ奴らを見ておる。先程の話しは特にお主に言っておったのだぞ!ひょいひょい色んなものを拾いおって、この理不尽の権化め。

大体そのオークを一体どうするつもりなんじゃ、流石にドレイク村長代理も村内にオークを置く事は許可せんぞ、村民を怯えさせる訳にはいかんからな」

 

「あぁ、ブー太郎ですか?こいつは村には住みませんよ?

昨日色々話をしたんですけどね、コイツオークの中でも比較的大人しい性格だったみたいで基本木の実や野草を主食にしていたんだそうです。そんな事もあって周りからは馬鹿にされ、今回みたいに囮にされる事もしょっちゅうだったとか。

流石に人間相手の囮にされるのは初めてだったらしいんですけど、フォレストウルフやらキラービーやらホーンラビットやら。怪我をしたり死に掛けた事も何度かあったらしいです。

でも数には勝てませんからね、ずっと言いなりだったとか。だからまぁこうやって言う事を聞いてるんでしょうが、あの森に未練はないそうなんで新しい住処を提案したんですよ。

 

魔の森の奥の老木ってあるじゃないですか?僕は御神木って呼んでるんですけど、あの周りって魔物が少ないんですよね。あの辺で畑でも耕させながらビッグワーム農法でもさせようかと。それなら食べ物に困って村まで出る事もありませんし?大森林から魔物が出て来たら一番に知らせてくれますしね。

マルセル村からも大森林に行こうなんて人間はまずいませんから、お互い不干渉でいいんじゃないんでしょうか。それに多少鍛えてやればホーンラビットの間引きも自主的にやってくれるんじゃないかと。食料確保にホーンラビットは最適ですから。

これからマルセル村も忙しくなる、ホーンラビットの間引きに掛る手間が減らせるのならそれに越したことはないでしょうからね。村のホーンラビット牧場での様子を見るに、アイツらの繁殖力って馬鹿に出来ませんから」

 

俺の返事に口を開けてポカンとする一同。あれ?俺ってそんなに変な事を言ったかな?

 

「いや、すまん。ケビンがそこまでしっかりした考えをもってこ奴を拾って来たとは思わなかった。てっきりいつもの調子で”実験魔物六号、オークのブー太郎”とか言う感じで拾ったのとばかり思っておったわい。マルセル村の為にしっかりとした考えの下拾ったのじゃな、これはどうやら儂の目の方が曇っておった様じゃわいて。

どれ、そう言う事なら儂も少しはお主に協力せんとな。これから向かうミルガルの街ではブー太郎のような魔物は基本入る事は出来ん。それは他の町や村でも同じではあるがな。

じゃが例外として冒険者ギルドで従魔登録した個体においては鑑札を付ける事で入る事が出来る様になっておる。まあそれでも大型のものなどは街門で止められ街門脇の従魔専用の預り所に預ける事になるがな。ミルガルの街程度ならその様な施設はない為誰か一人付き添いを置く事になるが、ブー太郎の大きさであれば問題はないはずじゃ。今回はオークの森で仕留めた複数のオークもおる、始めに冒険者ギルドに寄りブー太郎の従魔登録をする事としよう。無論主人はケビン、お主じゃからな」

 

「ゲッ、俺がブー太郎の主人って。御神木様のお世話係に丁度いいかと思って雇い入れただけなのに。

ブー太郎、なんかそんな話になっちゃってるんだけど、どうする?あれだったら一度森に戻って俺たちの帰り道に合流するって手もあるけど」

”フゴフゴフゴ”

 

「別に構わない?どうせすぐに森に行くし面倒事を避けれるのならそれでいい?」

”フゴフゴブヒ”

 

「その代わり何か美味しいものでも食べさせてくださいご主人様?

ブー太郎、お前って調子いいところあるよね。まぁオーク肉がいい値段で売れるだろうから別に良いんだけどね。それなりにお金も持って来たし」

 

「ねえジミー、あの二人が何言ってるのか分かる?

俺ブー太郎が何言ってるのか全く分からないんだけど。何でケビンお兄ちゃんブー太郎と会話が成立してるの?」

 

「ジェイク君、この世には人類に理解出来ない事なんて溢れているんだよ。

きっとケビンお兄ちゃんは何らかのスキルに目覚めちゃってるんだよ、そうに違いない、そう言う事にしておこう」

 

「そうだよジェイク君、だってケビンお兄ちゃんだよ?こないだなんかフォレストビーと会話して大笑いしていたケビンお兄ちゃんだよ?オークくらい余裕だよ。

それにしてもあの蜂蜜美味しかったな~。硬パンが極上の御馳走になるなんて思いもしなかったよ」

 

「そうだね、ケビンお兄ちゃんだもんね。美味しいは正義、深く考えるよりも美味しいを味わおう。うん、スッキリした。

ミルガルの街ってどんな所なんだろうね、冒険者ギルドも楽しみだな~」

 

なんかチビッ子軍団が納得してくれたみたいです、良かった良かった。でも冒険者ギルドか~、荒くれ者の巣窟か~、行きたくないな~。

俺の思いとは裏腹に、馬車はカタコトとミルガルの街に向かって進んで行くのでした。

 

 

「よし、通れ。次!」

街門の前では衛兵様が街に入る者達の検問を行っています。これは基本あからさまな不審者を弾く為の措置、知恵の回る犯罪者や悪徳商人なんかはしっかり対策して来るので無意味、かといって一々本格的な取り調べなんかしていたら門の前に渋滞が出来て物流が滞っちゃいますからね。それでもそれなりの車列が出来ていて、そんな検問待ちの人間を相手にした売り子なんかも出ているんですが。

「ボイルさん、ちょっとあそこの屋台で串焼き買ってきていいですか?ちゃんと人数分買ってきますんで」

 

「あぁ、気を付けて行くんだよ。検問待ちの人間の中には待ちきれなくてイライラしている者もいるからね。」

 

「了解です」

俺はヒョイと荷馬車から飛び降りると、周りに気を付けて屋台迄向かいました。急に飛び出して冒険者にぶつかって一悶着なんてお約束は絶対に致しません、冒険者、駄目、絶対です。

 

「オヤジさ~ん、串焼き十五本頂戴~。持って帰るから(つつ)みに(くる)んでね」

 

「あいよ、坊主お使いかい?偉いね~。焼けるまでちょっと待ってくれよな。」

「へへ、俺こんな大きな街に来たの初めてだから人が多くて驚いちゃったよ。この門の所っていつもこんなに人がいるの?」

 

「そうだな、この時間はそれでも空いている方かな?一番混むのは朝方と夕方だな。朝方は開門待ちの行列、夕方は閉門に間に合う様にって人が押し寄せる。閉門時間になると列が並んでいようがそこで締め出されちゃうからみんな必死だよ。

でもまぁそれほど危ない事なんてないんだけどな、逆に締め出された人間相手に商売をする俺たちみたいな連中もいるくらいだしな」

 

「へ~、でもそうなると材料の仕入れとかが出来なくてすぐに売り切れちゃうんじゃないの?」

 

「お、坊主は難しい事を知ってるんだな。

でもその辺は蛇の道は蛇さ。衛兵事務所に詰めてる肉屋の丁稚がいてな、そいつに頼むと肉を持って来てくれるのさ。名目は締め出された人間の食糧確保の為って事になってるから、お役人様もお目こぼしして下さってるって訳よ。

門を入ってすぐの所に肉屋があるのはそう言う事が理由だな。この街の冒険者はホーンラビットの肉やボアの肉なんかはそこに持って行く、冒険者ギルドに持って行っても買い叩かれる上に評価も付かないからな。

冒険者ギルドに持って行くのはフォレストウルフやオーク辺りからじゃないのか?フォレストウルフは毛皮が高く売れるし冒険者ランクに響く、オークは当然肉だな、無論冒険者ランクの評価も高い。まぁそれでも中には商業ギルドに持ち込む人間もいるけど毛皮の処理が悪いと逆に値段が下がるからよほど腕に自信がない限り丸ごと冒険者ギルドに持ち込む方が無難だろうな。商業ギルドは季節によって値段の上がり下がりが激しいからな~」

 

「オヤジさん凄く詳しいね、もしかして以前は凄腕冒険者だったとか?実は屋台のオヤジさんは世を忍ぶ仮の姿とか?」

 

「よせやい、そんな格好の良いもんじゃないよ。確かに冒険者はやっていたけど今はしがない屋台のオヤジよ。はいよ、串焼きお待ち、一本おまけしておいてやるよ」

 

「やった~、ありがとう。いよ、元凄腕冒険者、気前がいいね、よいしょ♪

所でさっきのお肉屋さんだけどオーク肉なんて買い取ってくれたりする?」

 

「全く調子のいい坊主だな。オーク肉か?喜んで買ってくれると思うぞ、大物は全部冒険者ギルドに行っちまうってぼやいていたくらいだからな。

なんだ坊主、オークなんて大物仕留めたのか?」

 

「商隊の護衛さん方がね。でも変によそ者が冒険者ギルドに行ってオークなんて持ち込むと絡んできそうじゃん?

“オークくらいで偉そうな顔するんじゃないぞ”って言って。

まぁ確かに偉そうな顔は出来ないんだけどね、お互いに」

 

「ブフォ、確かにな。オーク辺りは銀級冒険者の登竜門だ、普通に狩って来れなきゃ一人前の冒険者とは言えん、とは言え銅級で燻っている連中は面倒臭いからな~。

一匹二匹ならいざ知らずそれ以上となると。って事はそれ以上なのか?」

 

「うんまぁ、ちょうどいい運び屋がいたんで持ち込んじゃいました。でもやっぱりそうなるよね、オヤジさん助かったよ、門を入ってすぐのお肉屋さんね」

 

「おう、串肉売りのオヤジから紹介されたって言えばすぐに対応してくれるはずだ、是非行ってみてくれ」

 

“はいよ”と渡された串肉を持って荷馬車に戻るケビン少年は、良い情報を手に入れたとホクホク顔になるのでありました。




本日一話目です。
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