転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第770話 転生勇者、買い物を楽しむ

王都武術大会の申し込みも無事に終わり、予備選考会を通過した俺たちは、大会で使うための武器を買うために武器専門店に訪れていました。

 

「・・・なぁジミー、武器って高いんだな」

「・・・そうだな、俺たちはいつもケビンお兄ちゃんが用意してくれるから買ったことがなかったけど、後でちゃんとお礼を言っておかないといけないよな」

 

訪れたのは王都でも一番と評判の武器工房の店舗、所狭しと並べられたショートソードやロングソード、壁に飾られた大剣などはどれも見事な造り。そしてその品質に相応しいお値段に、俺とジミーは動きを止めてしまうのでした。

 

「よ、よし、気持ちを切り替えよう。俺たちが買いにきた物はダガー、流石にダガーだったら俺たちでも手が届くんじゃないのか?」

「あぁ、前に溝浚いで稼いだ金があったからな、二人の分を合わせればダガーの代金くらい賄えるだろう」

マルセル村を出発する時に何かあった時のためにとトーマスお父さんからもらった金貨一枚、リットン侯爵家で溝浚いをした時に魔法レンガを売ったお金が銀貨二百七十枚、五人で分けたから俺の軍資金は金貨一枚と銀貨五十四枚。

子供の頃トーマスお父さんに買ってもらったナイフが銀貨七十八枚だったはずだから、王都の物価が高い事を考えると一本買えればいいところって感じかな?

 

「いらっしゃいませ、何かお探しの商品はございますでしょうか?」

「あっ、はい。ダガーを購入しようかと。短剣はこれまで使ったことがないので購入の際の助言などもいただければ助かるのですが」

俺たちがあれこれ考えていると、横から店員さんが声を掛けてくださいました。店員さんは俺たちを上から下に確りと観察すると、「短剣はこちらとなります、ご案内いたしますのでどうぞ」と言って商品の置かれた棚に案内してくれるのでした。

 

「お客様方は学園に通われている生徒様でしょうか? 小奇麗にされているご様子ですので、冒険者ではないと思われるのですが」

「はい、よくお分かりになりましたね。一応見習い登録はさせてもらっているので雑用仕事は始めてるんですが、本格的に活動するのは卒業してからとなります」

 

俺の言葉に「なるほど」と頷いてから商品を取り出す店員さん。

 

「先ずこちらが一般的な冒険者が使われる形状のダガーとなります。ホーンラビットやゴブリン、フォレストディアといった魔物を狩る際に使われるもので、使い回しを重視した形状で作られている物です。

次にこちらは曲刀と呼ばれる種類のダガーとなります。投げナイフのように使用したり、擦れ違いざまの攻撃に使用したりと用途は多岐に渡ります。どちらかといえば対人戦闘を得意とされる方が好まれる形状となります。

最後にこちらは防御を主体とした使われ方をする物となります。基本的には受け流し用の短剣として使用し、この峰の凹凸のある部分でサーベルなどを抑え込む作りとなっています。

かなり癖のあるダガーとなりますので使用が難しいのですが、衛兵の方の中には好んで使われる方もおられるようです」

 

店員さんの説明に目を輝かせる俺とジミー、曲刀カッケー!! それに防御用の短剣って、ソードブレーカーですよね? 男の子の憧れですよね? ヒャッホイですよね!!

 

「なるほど、一つ聞きたいのだが、この防御用の短剣でロングソードや大剣とやりあった場合どうなる? 肉厚のショートソードなどの場合も知りたいのだが」

「そうですね、これはご愛用頂いている衛兵様からお伺いしたのですが、重量のある大物武器が相手の場合は使用しないとの事でした。相手が短剣やショートソードを使う場合制圧目的で使用するとの事で、取り押さえることが必要な任務の場合は大変重宝すると仰られておりました」

 

あ~、まぁそうだよな~。現実的に考えて肉厚で重量のある武器にソードブレーカーはないよな~。それだったら魔鉄製の棍棒の方がまだましだし。

 

「こちらのお値段ですが、一般的な形状のダガーが金貨二枚、曲刀が金貨二枚大銀貨二枚、防御用ダガーが金貨二枚大銀貨四枚となっております。

どれも我が工房の名工の作となりますが、大変お買い求めやすいお値段ではないかと」

“グホッ”、金貨二枚、ダガーの値段が金貨二枚。確かに物は悪くないと思うんだけど、正直言えばゾイル工房のナイフの方が数段作りがいいと思います。

多分だけど若手職人が作ってるんじゃないかな、これ。先ずは短剣作りで腕を磨いてからショートソード作製が許されるとか。

店に並ぶくらいだから優秀な品だとは思うんだけど。

 

「詳しい説明、ありがとうございます。頑張ってお金を貯めたつもりでしたが、まだまだ世間を知らなかったようです。

卒業までに資金を貯めて、こちらのダガーを手に入れることが出来るように頑張りたいと思います」

「そうですか、未来ある若者の力になれたのでしたら幸いです。冒険者は銀級に昇格してからが一人前、それまでの期間は大変苦しいものです。

学園を卒業される方々はその期間を免除される分、冒険者になってから躓かれる方が多い。

今は雑用仕事しかさせては貰えず不満に思われる事もあるとは思いますが、これも一人前の冒険者になるための勉強と思い腐らずに励んでください。

お客様として再びお越しいただける日を、心よりお待ちしております」

 

そう言い慇懃に礼をしてくれる店員さん。これが王都の超一流武器工房、流石です。

俺たちは店員さんの接客姿勢に感動すら覚えつつ、やっぱり超一流店は敷居が高かったんだと店を後にするのでした。

 

「ジミー、武器選びって難しいね」

「そうだな、武器屋がピンからキリまであるという事を痛感させられたよ」

超一流店を後にした俺たちは、より庶民派の店舗が並ぶ区画に移動、色々見て回ることに。

そこで分かった事はマルセル村の武器を基準にしちゃ駄目って事。俺が知ってる武器はケビンお兄ちゃんが用意してくれたものとヘンリー師匠の武器コレクション。ヘンリー師匠、収集家なだけあってかなりの目利きだったようです。

もうね、いいものを知っちゃってるとどうしても粗が見えて来ちゃって。

造りの甘さや重心の悪さ、振るった際の違和感等々。

たかが短剣、されど短剣。どうも世間一般の短剣に対する認識って採取用とかいざという時の間に合わせ的な感じみたいで、そこまでしっかりとした物がですね。

超一流店の店員さんが“名工の作”と言っていた意味がよく分かりました。他所に比べてあの品々がどれ程出来の良いものだったのか、贅沢が身に沁み込んだ自身が恨めしい。

 

「ジェイク、どうする? 中途半端に値の張る物を買うんだったら、安物に魔力纏い掛けた方が早くないか?」

「そうなんだよね~、ヨシ棒に魔力纏った方が絶対強いって思えるようなものばっかりだったもんね。

でも下手に受けたら折れちゃわない? ディアに短剣術の稽古をつけてもらってるだけで折れちゃったら目も当てられないんだけど」

 

そうしてジミーと一緒に頭を悩ませながらぶらついていると、何か妙な感覚が。初めて来たはずなのになぜか知っているような街並み、この先を右の路地に入って少し進んだら左に曲がって。確かこういうのってデジャヴって言ったっけ、なんか凄い変な感じ。

 

「ジミー、悪い。ちょっと付き合ってくれる? 何故か知らないんだけどこの先の路地が気になるんだよね。何の確証も無いんだけど」

「ん? まぁ別に構わんが。直感って奴か? 流石勇者様だな」

 

からかうように口元を歪めるジミー。でも<直感>ね~、そんな便利なスキルは持ってないはずなんだけどな~、何なんだろうこれ。

俺はその奇妙な感覚に従い、通りを外れた右脇の路地へと入っていくのでした。

 

「なぁジェイク、お前の勘が告げたのって、ここの店の事か?」

そこは裏路地にある一軒の古道具屋、“買取承ります”の文字が薄くなっているようなボロい店。

 

「嘘だろう・・・」

思わず漏れる呟き、それはずっと昔、前世のゲームの中でよく見知っていた風景。“道標の羅針盤”を購入することが出来るほか、金策のために装備を売りに行ったり必要な道具を購入したり。

そう言えば以前マルセル村に来た転生賢者のユージーンさんにどうやって大森林中層部のシルビアさんのお墓まで行くつもりだったのかを聞いた時、王都の古道具屋で購入した魔道具を使っていくつもりだったって言ってたけど、それってここで買った“道標の羅針盤”の事だったんじゃ。

俺は動揺する心を抑えつつ、取り合えず店内へ。店内は怪しい物からどんな使い方をするのかよく分からない物まで、様々な商品が所狭しと置かれた雑多な状態。

 

「いらっしゃい、何か持ち込みか?」

店の奥のカウンターからは、あまりやる気のなさそうな店主の親父の声が掛けられる。

 

「あぁ、ちょっと短剣を見せて欲しいんだけど、どの辺にあるんだ? 商品が豊富過ぎてどこにあるのかが分からないんだが」

「おぉ、お客さんか、そいつは悪かったな。まぁ短剣と言っても色々あるんだがな、装飾のきれいな物から実用性重視のものまで、各種取り揃えてるぞ?」

そう言いガサガサと短剣の入った箱を取り出してくる店主の親父。

 

「あぁ、期待させて悪いが見ての通り見習い冒険者なんだ。そこまで予算があるって訳じゃないから手ごろなものが良いんだが」

「あん? なんだよ、期待させるなよ。だったらそうだな、この辺の短剣を適当に選んだらいいんじゃねえのか?」

店主の親父はあからさまに態度を変え、木箱に乱雑に放り込んだ短剣を取り出してくる。

“スッ”

そのうちの一本を手に取り鞘から引き抜く、その形状は先端が丸まった両刃のもの、やや肉厚で重量もそこそこある。俺はその短剣をまじまじと見ながら小声でボツリと呟く。

「<鑑定>」

 

<鑑定>

初心者の短剣

詳細:初心者でも扱い易い入門的な短剣。攻撃力の補助効果はあまりないが、<不壊>の効果がある。

 

あったよ“初心者の短剣”、マジでゲームじゃん。そりゃ転生賢者のユージーンさんが勘違いして主人公ムーブしちゃうっての、こんなん俺でも暴走するわ。

箱の中をよく見れば同じ形の短剣がもう一本、こちらにも小声で<鑑定>を掛ければ同じ鑑定結果が。

 

「親父さん、この短剣二本もらえる? なんか素人の俺でも扱い易そうだし。でもあまり見ない形だよね? これってどこの工房で作ってるんだろう」

「あん? あぁこいつか。確かこれは引退した元冒険者の爺さんが亡くなったんで荷物を整理してほしいって頼まれたときに、まとめて引き取った品に入ってた奴だな。なんでも若いころはダンジョンに潜ってたってのが爺さんの自慢だったらしいが、どこまで本当だか。もしかしたらそいつもダンジョンのドロップアイテムだったりしてな、まぁそんなことはないだろうけどよ。二本で銀貨十枚だが、他にも買ってくれるってんなら負けてやってもいいぜ?」

そう言いにやりと笑う店主の親父、多分物を知らない素人のガキから小銭を稼いでやろうとか考えてるんだろうな~。まぁ乗っちゃうけど。

 

「えっ、いいんですか? それじゃ投げナイフも見せてくれません? やっぱりいきなり接近戦も怖いし、遠距離の武器も欲しいんで」

「おっ、分かってるじゃねえか。やっぱり最初はそれくらいの慎重さがあってしかるべきだよな」

店主の親父はどこか気分よさそうに投げナイフの入った木箱を持ってきます。そこには思った通り“初心者の投げナイフ”が。俺は箱の中からそれらを選び取ると、カウンターの上に並べるのでした。

 

「短剣が二本に投げナイフが十本か。本来なら全部で銀貨二十枚なんだが約束だ、銀貨十五枚にしてやろうじゃねえか」

「えっ、そんなに負けてくれるんですか? ありがとうございます、本当に助かります。俺、頑張って訓練して、一人前の冒険者を目指しますよ」

 

俺の言葉に「おう、頑張れよ」と笑顔を向けてくれる店主の親父さん。内心馬鹿なガキを上手いこと騙してやったぜとか思ってるんだろうな~、確かに初心者シリーズの攻撃力は弱いけど、現実で考えれば“壊れない”って効果は大きいんだよね。

まさか<不壊>のアビリティーが付いてるとは思わなかったけど。でもその謎も判明、初心者シリーズってダンジョン産アイテムだったんだね、どうりで製作者欄がない訳だよ、ダンジョンのドロップアイテムなんだもん。

 

「なぁ店主、あそこに置いてあるものも売り物か?」

ジミーが指さした先、そこにあったものはショートソード程の長さの十手。

・・・はぁ? なんで十手? どうしてそんなものがこんな所にあるの? って言うかゲームに十手なんか出てこなかったよね?

 

「ん? おう、この金棒か? ちゃんと売り物だぞ。何に使うものかは分からねえんだが、護身用に置いてるのよ。やたらな刃物を使うより素人にはよっぽど役に立ちそうだろう?」

そう言い胸を張る店主の親父、確かに訓練もなく刃物を振るってもちゃんと切れるなんてことはないし、自分がケガするなんてこともある。その点十手なら警棒代わりとしては十分だろう、これは賢い判断と言わざるを得ない。

 

「ふむ、何か面白そうだ、それをもらおう、いくらだ?」

「そうだな、銀貨十五枚と言いたいところだが、十枚でどうだ? お前さん方はいっぱい買ってくれたからな、お負けしてやろう」

 

店主の言葉にジミー即決、ジミーはいい買い物をしたと言わんばかりに口元を緩めるのでした。

 

<鑑定>

名前:捕縛の十手

詳細:使用者を守り犯罪者を捕えることを願って作られた十手。丈夫で長持ち、<不殺>の効果がある。

製作者:金子安綱

 

金子さんって誰? この十手ってダンジョンのドロップアイテムとかじゃないの?

謎多き古道具屋、訳が分からない。俺はこの店の商品を鑑定しまくったらとんでもない物が出てくるんじゃないのかと、戦慄せざるを得ないのでした。

 




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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