“カキンッカキンッカキンッカキンッカキンッカキンッ”
東の空が明るさを増し、浮かぶ雲が赤く染まるころ、王都学園の武術訓練場では激しい金属音が鳴り響いていた。
“ブンブンッ、ハッ!!”
流れるような動きで両手に持つ大柄なナイフを振るうメイド。
“キンッキンッキンッキンッキンッキンッ”
振るわれる凶器の
昇る朝日の中、二人の戦いはいつ終わるともなく続いていく。
“ハァーーーーッ、ハイハイハイハイハイハイッ”
“キンッキンッキンッキンッキンッキンッ”
「フゥ~~、ジェイク、日が昇りました、今朝の訓練はここまでです。流石はジェイクですね、受け流しに関しては完全に短剣を操っています。
あとは攻撃となりますが、その辺はこれまでの技術で補うしかないかと」
「フゥ~~、いや、本当にありがとう。ジミーの無茶振りとはいえ、何とか形になるくらいには短剣を振るうことが出来るようになったよ。
これも全てディアのお陰です、こんな馬鹿な訓練に付き合ってくれてありがとうございます」
朝日が差し込む武術訓練場で、俺は特訓に付き合ってくれたディアに深々と頭を下げる。王都武術大会の予備選考会のあと古道具屋で短剣を手に入れた俺は、早速ディアに頼み込み短剣術の指導を受けることにした。
これまで短剣なんか使ったことのない俺が行き成りすべての技術を習得することなんかできるはずもなく、ディアから教わったのは短剣の基本的な扱いと攻撃の受け流しの方法。
ディアは受け流しに関しては問題ないと太鼓判を押してくれたけど、めっちゃ不安です。
だってそうだよね、冷静に考えておかしいよね? 王都武術大会と言えばオーランド王国中の猛者が集まる武の祭典、そんな大会にこれまでほとんど使ったことのない短剣を武器に出場するって嘗めてるとしか思えないよね?
俺は偽黒蜜騒ぎに乗じてドラゴンキラーから普段使ってるロングソードかショートソードに切り替えようと思っていただけなのに。ジミーの奴、絶対気付いていて阻止に掛かったっての。あいつ俺を窮地に追い込んで楽しんでやがるんだ、そうに違いない!!
しかも自分は<不殺>の効果の付いた十手を手に入れてご満悦だし。俺が鑑定結果を教えてあげた時のジミーの顔、ニチャ~~~って擬音が聞こえそうなほどの笑みを浮かべるのよ? 生粋の修羅はこれだから怖いわ。
そんなジミーの犠牲になったのは剣術部の面々、エミリーが“治療術のいい訓練になった”って言うくらい張り切っちゃうんだもん。あれだけの目に遭いつつも自らジミーに挑んでいく剣術部の連中って、めっちゃ漢だと思うよ、うん。
まぁ皆職業が<剣豪>とか<聖騎士>とかだし? 戦う事に特化しているとは思うけどさ、ジミーってば修羅な上に天才だからね? 僅か十日ほどで十手を己の手先のように扱うってマジ何なのよ。あれと短剣でやりあわないといけないの? <不壊>の効果がなかったら速攻叩き折られるところだったわ。
そんなこんなで忙しなくも濃厚な日々を過ごすこと暫し、王都武術大会の前に行われる重要行事、学園交流会の日を迎えることになったのであります。
前回は王都武術大会の大会関係者にお貴族様方が横槍をぶっ込んで王都闘技場で交流会を行うという暴挙に出たんで、一日の内に武術学園・魔法学園の両学園との対戦を行うなんていうタイトなスケジュールを組まれましたけど、今年はそんな無茶を言われることもなく別々の日にそれぞれの学園を訪ねることに。
交流の内容も学園生徒らしくそれぞれの成果を見せ合う感じですね。
それで今日は武術学園に向かう事になっています。
「おはようジェイク君、今日は頑張ってね、エミリーもしっかり応援するからね。ディアも早い時間からありがとう、私やジミー君じゃ短剣の扱い方は教えられないから凄い助かったよ」
「いえ、私も久しぶりに歯ごたえのある打ち合いが出来て楽しかったですよ。
ジェイクには月影師匠から教わった受け流しの技術を全て叩き込みました。ボビーお義父さんやヘンリーさんと訓練していたからか、呑み込みが非常に早くて教え甲斐もありましたし、大変優秀な生徒でした。
ただ残念ながら訓練の時間があまりなかったため受け流しの技術習得に集中せざるを得なかったのですが、そう易々と負けることはないと思います。
あとは王都武術大会までの一週間でどれだけ自身の中で昇華できるのかという話になりますが、こればかりは何とも。でもジェイクならやってくれると思います」
そう言い自信ありげな笑みを浮かべるディアの表情に、何か勇気付けられるのを感じます。ディア師匠、俺、頑張ります!!
「それならジミー君と対戦しても大丈夫だね、ジミー君も十手とかいう初めて手にする打撃武器を使うって言ってたし」
「それは残念ながらジミー君の勝利かと。ジミー君に勝てる者はケビンさんくらいなんじゃないんですか? だってジミー君ですし」
そこは嘘でも俺の名前を上げてくださいよ、ディア師匠!! ジミーがジミーしていることは俺が一番分かってますっての。
ディアの容赦ないジミー上げに、ガックリと肩を落とす俺なのでした。
「全員集合!! これより学園交流会のため武術学園へと向かう。君たちは王都学園の生徒として注目を浴びることとなるが、自分たちが王都学園の代表であることを忘れずに節度ある行動を心掛けるように、分かったな」
「「「「「はい、分かりました」」」」」
武術学園までの移動は王都学園側が手配した二台の馬車で移動することとなり、俺たちは引率のケベック先生・クルドア先輩・ラグラと、俺・ジミー・エミリー・ライオネスとに分かれて馬車に乗り込むことになりました。
「ねぇジェイク君、武術学園ってどんなところなのかな? やっぱり王都学園みたいにダンジョンがあったりするのかな?」
「あるんじゃないのか? 学園ダンジョンは学園施設の売りの一つだし、武術学園っていうくらいだから実践的な戦闘訓練は必須だろうしな。ライオネスは何か知らないのか? こういう情報は俺みたいな田舎者より詳しいだろう」
「あのなジェイク、俺の事を便利な情報屋だとか思ってないか? と言うかこれから向かう学園の情報ぐらい調べておけよ。対戦相手の情報は事務所で問い合わせれば直ぐに教えてくれるし、簡単な武術学園の詳細程度ならやはり事務所で教えてくれたぞ?
それで肝心の武術学園だが、名前の通り武術系スキルを授かった者やそうした者を自家に引き込もうとする子爵家や男爵家の令息令嬢が通う学園だな。令嬢が通うと聞いて意外に思うところがあるかもしれないが、彼女たちは婿探しや嫁ぎ先探しが目的だな。高位貴族の令息令嬢が通う王都学園は公爵家・辺境伯家・侯爵家・伯爵家の全ての令息令嬢が通う義務があるが、地方学園と呼ばれる領都学園では通学義務があるのは子爵家・男爵家の嫡子のみ。嫡子でない子供に関しては各家の裁量に任せられている。
だから当然学園に通わない子供も出てくるが、貴族家の令息令嬢との出会いを求めるのなら断然学園に通ったほうが良いという事になる。だったら社交界で頑張れって話にもなるんだが、社交界は金が掛かるだろう? 家が裕福ならまだしも、そうではない貴族家なんて山のようにあるからな。
武術学園は武官系の職に就くお相手を探すお見合い会場みたいな場所なんだよ」
「「「おぉ、流石ライオネス、しっかりと情報を調べている」」」
「いや、だから、人の事を情報屋扱いしてないでこれくらい自分で調べておけよ。お前らは卒業したら冒険者になるんだろう? 今から必要な情報を集める癖をつけておかないと、将来苦労するぞ?」
ライオネスからの苦言に笑って誤魔化す俺たち、言ってる事がド正論過ぎて返す言葉もございません。いや~、面目ない。
「それでジェイクたちは武術学園の事も調べないでなんか変わった訓練をしていたみたいだけど、一体どうしたんだ? ジェイクは短剣を振り回してるし、ジミーに至っては金棒をショートソード代わりに使ってるし。
まさか武術学園との交流試合にあの変わった装備で挑むんじゃないだろうな?」
「イヤイヤイヤ、流石にしないから。交流会に短剣で挑んだら、武術学園の皆さんに“馬鹿にするな!!”って怒られちゃうから」
「俺もちゃんとした武器を使うぞ? まぁ普段使いしている木刀がちゃんとした武器かと言われると答えに困るが、あれが一番しっくりくるからな。
交流会では向こうが準備した得物を使うから安心しろ、周りに迷惑は掛けんさ」
そう言い肩を竦めるジミーに、疑いの目を向けるライオネス。その慎重さは大事だと思います、ジミーはしっかりしているように見えてヘンリー師匠の息子でケビンお兄ちゃんの弟ですから。
馬車は進む、王都の大通りをガタガタと音を立てて。王都三大学園の一つ武術学園を目指して。
――――――――――
「ようこそ武術学園へ。我々武術学園の教職員一同、王都学園の皆さんの訪問を心から歓迎いたします」
武術学園の重厚な正門の前には、学園の教職員であろう人たちがずらりと並び、俺たちの訪れを歓迎してくれるのでした。
「ワッハッハッハッ、<勇者>ジェイク・クロー君、昨年の交流会以来かな? すっかり身体つきも立派になって威厳が出てきたといったところかな? 今年も期待しているよ」
「はい、ありがとうございます。皆さまの御期待を裏切らぬよう精一杯務めさせていただきます」
豪快に笑いながら握手を求めてきた偉丈夫は、確か武術学園の学園長だったかな? 去年は色々バタバタした交流会だったからあんまり覚えていないんだよね。
「では王都学園の皆さんはこちらにお願いします、当学園の武術修練場へご案内いたします」
武術学園の職員さんの案内で向かった先、そこはちょっとしたコロシアムといった感じの立派な建物、マルセル村の門脇に作られてる闘技場によく似た施設でした。
「ワッハッハッハッ、ここは我が武術学園の自慢、武術修練場。生徒同士が常に切磋琢磨し己の技量を高める武術学園の聖地なのだよ。
流石に王都闘技場程ではないが、全力で戦っても致命傷を防ぐ結界や治療師常駐の医務室も完備している。武術学園の信条は“努力は才能を覆す”、彼の“下町の剣聖”のように職業が<剣士>であろうとも<剣聖>に迫ることを証明して見せる事なのだよ」
そう言いニヤリと笑う学園長。その“下町の剣聖”ことボビー師匠はマルセル村で大剣聖クルーガル・ウォーレンをフルボッコにしていたんだよな~。
学園長の言う事はあながち間違っていないと思います。
“コツンッ、コツンッ、コツンッ、コツンッ、ウォォォォォォォォォォォォォォォ!!”
レンガ造りの通路を抜けた先に広がる武術修練場の舞台、ぐるりと囲む観客席には生徒と保護者が座り、歓声を上げている。
何この超アウェー会場、目の前では武術学園の代表が手を振りながら歓声に応えてるし。
「“ご来場の皆様、お待たせいたしました。これより武術学園と王都学園の交流会を開催いたします”」
“ウォォォォォォォォォォォォォォォ!!”
ザ・体育会系、まるで男子校に来たノリの武術学園の雰囲気に圧倒される俺たち。
「「「「「バネロハ様~~~、頑張って~~~~!!」」」」」
「「「「「バネロハ~~~~、今年こそ<勇者>をぶっ飛ばせ~~~~!!」」」」」
武術学園生徒の応援に応えるようにさわやかな笑顔で手を振る代表生徒。
「えっ、ちょっと待って? あいつバネロハなの? あの頭のおかしい狂人バネロハが周りから声援を受けてるんだけど? 男女問わず応援されるってどうなってるの?」
「あぁ、多分ジェイクの公開処刑で人格が矯正されたからじゃないのか? 帰り際の返答の仕方なんてヤバかったからな。ジェイク、いいことしたじゃないか」
「「あぁ、あれは酷かった」」
驚愕する俺に対し辛辣な返事をするジミーとその言葉に賛同するクルドア先輩とラグラ。そんな三人の様子に俺に対しドン引きといった表情を向けるライオネス。
「ようこそいらっしゃいました、<勇者>ジェイク様。本日は胸を貸していただきます、どうぞよろしくお願いします」
そんな俺の心を知ってか知らでか、好青年といった爽やかな笑みを浮かべ丁寧な挨拶を向けてくるバネロハ。
やめて、俺のライフはもうゼロよ。
俺、頑張ったはずなのに、いい事したはずなのに。なぜか仲間内からの視線にいたたまれない気持ちになりながら、今も笑顔で手を振るバネロハに引き攣った笑みを返す俺なのでした。
本日一話目です。