転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第772話 転生勇者、学園交流会へ向かう (武術学園) (2)

「両学園の代表たちは前へ」

武術修練場の観客席を埋め尽くす武術学園の生徒と保護者たち、よく見れば保護者の中には王都学園の保護者の姿もあるようです。

 

確かあそこの御婦人はバルーセン公爵家の奥様、エミリーたちと一緒に“バルド先輩とリリアーナ先輩の恋を見守る会”の会員をしていたんで憶えています。今日は次男のクルドア先輩の勇姿を見に来られたのでしょう。

クルドア先輩ってば闇属性魔導士なのに王都学園の代表な上に剣術部の部長だもんな~、俺も何度か手合わせしてるけど普通に強いし。努力型の天才、ボビー師匠の若い頃ってクルドア先輩みたいな感じだったのかな?

 

「「「「「ジェイクさん、本日はよろしくお願いします!!」」」」」

「やめて? ちゃんと挨拶しよう? って言うかバネロハ、何どや顔してやがる、“俺しっかり教育しておきましたんで!!”って顔をしてるんじゃない。

去年はもっと挑戦的って言うか俺こそが一番だみたいな闘争心に燃えてたじゃないか、この一年で一体どうしちまったんだよ!!」

 

何故か凄く礼儀正しいというか俺に対してだけ舎弟のような態度を見せる武術学園の代表者たち、マジで一体どうなってるのよ。

 

「いえ、俺たちもこの一年しっかり研鑽を積んできていますんで、全力で挑ませていただきます。ですが礼儀の大切さを教えてくださったのはジェイクさんですので、まずはご挨拶をと。

ちゃんと武術学園代表者としての挨拶も致します」

そう言いニカッと白い歯を光らせるバネロハ、そんなバネロハに観客席からは黄色い声援が飛んできます。

 

「「「「何かジェイクより<勇者>っぽい」」」」

「やめて、本当に気にしてるから、自分でも勇者っぽくないってことは自覚してるから。それとエミリー、小声で“大丈夫だよジェイク君、ジェイク君はずっとエミリーの勇者様だよ♪”って微妙に心にくるから。

いや、ありがたいよ、ありがたいんだけども。あっ、先生すみません、静かにします」

 

何故か仲間であるはずの王都学園代表からの扱いが辛辣。バネロハの好青年っぷりが完璧に別人なんだもん、そりゃ武術学園の人気者になるっての。

俺たちは互いに礼をすると、代表者の控え場所にそれぞれ分かれていくのでした。

 

「第一試合、王都学園ライオネス・ベルーガ、武術学園チャネル・グランド」

名前を呼ばれたライオネスが、修練場の中央に向かい開始線の位置につきます。

対戦相手の顔は見たことがないから、新しく代表になった生徒なんでしょう。真剣な表情でライオネスを睨んでいます。

 

「はじめ!!」

審判は武術学園の先生、いかにも剣術の達人ですといった雰囲気の眼光鋭い人物です。武器は基本的に武術学園が用意した模擬剣で、事前に申請をして自身の使いたい武器の形状を指定する事が出来ます。

ライオネスはショートソード、対戦相手のチャネルはロングソードを選択したようです。

 

“ハッ、ガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキン”

先に仕掛けたのはチャネル、リーチの長さを最大限に生かし、怒涛の勢いでライオネスを攻め立てます。対してライオネスはその悉くをいなし躱し受け流しと、防戦一方に見える試合運びとなりました。

 

「くっ、さっきからのらりくらりと、全然仕掛けてこないじゃないか。バネロハさんから王都学園は猛者ばかりだと聞いていたのは間違いだったっていう事かよ。

それとも俺の事を馬鹿にしてるのか?」

「イヤイヤイヤ、君は十分強いぞ? ただ俺の剣術は守りの剣、いかに主人を守り、他の味方が来るまでの時間を稼ぐのかといったことに特化した剣術なのさ。

目的意識が攻撃よりも防御に向いているのは俺の仕事柄仕方のないことでね、そこは勘弁してもらいたい」

 

ライオネスはそんな会話をしながらも、華麗に剣を受け流していく。

 

「クッ、その余裕の態度がこちらを見下しているって言ってるんだ。もっと真剣に打ち合いやがれ!!」

「ハッハッハッ、そう言ってもらえたのなら光栄だよ。さっきも言ったが俺の剣は防御の剣、それは仕事柄といったが俺の仕事は要人警護でね。王都学園に通われる若様の護衛のためにお傍についているのさ。

だから敵対する相手とは会話をしつつ情報を引き出したり、隙を作るためにわざと苛立たせたりする必要があるんだ。そして隙が生まれたら透かさず」

それはチャネルが打ち込んできた一瞬のスキであった。その剣を受け流したライオネスは力に逆らうことなくチャネルの懐に飛び込み、首筋にショートソードを突き付け。

 

「こうやって息の根を止めるんだよ」

それは何の感情も籠っていない無機質な瞳、勝利に対する喜びも興奮もないただ敵を処分するといった現実的な死。

 

「勝者、王都学園ライオネス・ベルーガ」

“ザワザワザワザワ”

審判から上げられた試合終了の合図にざわつく観客席。派手なスキルも武技もない、防戦一方だったライオネスが一瞬のスキを突いて試合をひっくり返した逆転劇に、状況がうまく呑み込めないといった感じなのだろう。

 

「ライオネスの奴、また一段と腕を上げたな。って言うかあの冷静な判断力がめっちゃ怖いんだが?」

「そうだな、もし敵の護衛にライオネスが付いていたら負けることはなくとも肝心の標的に逃げられる可能性が高いだろうな。護衛としての剣、ああいう目的のはっきりした奴は強いよな」

俺とジミーは、改めてライオネスは敵に回したくないと再認識するのだった。

 

「つぎ、第二試合、王都学園ラグラ・ベイル、武術学園カービン・アンダーソン」

審判に呼ばれ前に出るラグラ。あいつ、冬の間はずっと大剣聖クルーガルさんやボビー師匠の特訓を受けてたからな~。無茶苦茶強くなってるんだけどその自覚があるんだろうか?

気付かないなんてことはないよな、アイツの家は軍閥貴族だし、家の者と剣を交えることだってあるだろうし。

 

「両者、開始位置へ。はじめ!!」

審判の掛け声とともに前に飛び出す両者、得物は同じロングソード、互いに気合十分といった感じで“ウォーーー!!”とか声を上げながら迫っていきます。

 

“ガキンッ、パキンッ、カチャッ”

ぶつかり合ったロングソードとロングソード、音を立てて折れる剣、ラグラのロングソードがスッとカービンの首筋に当てられる。

 

「勝者、王都学園ラグラ・ベイル」

「ちょっと待ってくれ、こんなの無効だろう!! ぶつかり合っただけで剣が折れるって、そんなのどうしようもないだろうが!!」

 

何もできずに勝敗を告げられたことに抗議の声を上げる対戦者のカービン、しかし審判の先生は首を横に振って抗議の言葉を受け付けない。

 

「審判、ちょっといいだろうか? 確かカービンといったか、お前は“自身の使っていた模擬剣が不良品であり、そのことが勝敗の理由であるから勝負は無効である”、そう訴えてるって事でいいんだよな? だったらもう一回やろうじゃないか。

そうだな、お前はこのロングソードを使うといい、俺はその折れたロングソードを使うことにしよう」

 

ラグラの言葉にこいつは一体何を言ってるんだといった表情になるカービン、だが審判の先生はしばらく考えたあと「両者開始位置へ」と試合開始を告げるのでした。

 

「お前、何を考えてるんだ? 俺たち武術学園の者を馬鹿にしているのか?」

「いや、そうじゃない。ただ新しい剣を使って同じことが起きたとしてもお前は納得しないだろう? しまいには王都学園側が権力を笠に不正を働いたとか言い出しかねないんでな、そうではないことをはっきりさせようと思っただけだ」

 

ラグラはそう言うと折れて短くなったロングソードを構える。

 

「はじめ!!」

審判の開始の合図、それとともに先程の焼き直しのように声を上げ突進する両者、そして。

 

“ガキンッ、パキンッ、カランカランカラン”

再び折れて床に転がるロングソード、その剣身を見つめ呆然とするカービン。

 

“カチャッ”

「こういう事だ。剣が折れたのは剣に問題があったのではなく俺の剣技によるものだ。ただ口で説明しても簡単に納得できることではないと思ってこのような手段を取らせてもらった。恥をかかせるつもりではなかったのだが、結果としてそう感じてしまったのであれば謝ろう、すまなかった」

 

ラグラはカービンの首筋に添えていた折れたロングソードを下げると、一礼をしてその場を下がるのだった。

 

「ジェイク、俺、この後出番なんだが、俺にどうしろと?」

「いや、そこは俺たち王都学園代表のリーダーですし、ビシッと見せつけてやってくださいよ。それに保護者の方も来ていらっしゃるようですし」

 

「そこだよ、なんで母上がわざわざ見学にいらしてるんだよ、昨年度は<勇者>ジェイクを一目見てみたかったのだろうってことでいいけど、今年は来る必要ないだろうが!!」

「あっ、なんかエミリーが“見守る会の会合で仲良くなった”って言ってましたよ? “うちの子もいいお相手が出来ないものかしら”って相談されたとかなんとか」

 

「うわ~、やめて、マジやめて。母上なんでそんな事王都学園の生徒に相談してんだよ、公爵家の威厳はどこにいったんだよ!! 俺に婚約者が出来ないのはこのところの騒動が原因なんだから仕方ないじゃん、一応気にしてるんだからそっとしておいてくれよ~!!」

 

クルドア先輩、踏んだり蹴ったり。どうぞその鬱積した気持ちを対戦相手にぶつけてきてください。

 

「つぎ、第三試合、王都学園クルドア・バルーセン、武術学園エイム・ブリッジ」

名前を呼ばれたクルドア先輩は「あんな試合の後どうしろと」と、去年の対戦前の俺のようなことをぶつぶつ言っています。

去年はな~、ジミーとロナウドに思いっきりハードル上げられてんだよな~。

本当にあの時はどうしていいのか分からなかったんだよね、クルドア先輩、無理せずできることを誠実にこなせばいいと思いますよ?

 

「両者、開始位置へ。はじめ!!」

「<縮地><重撃>」

開始早々スキル<縮地>で急接近し、横薙ぎの<重撃>を込めた一撃を繰り出すエイム。そんなスキルの連続技を受け、両手に持つショートソードを盾代わりにロングソードの攻撃を受け止め後方に吹き飛ぶクルドア先輩。

観客席から飛ぶ声援を力に止まることのない連撃を加えるエイムに、防戦一方に追い込まれるクルドア先輩。

 

「くそっ、こいつ去年ラグラに負けた時より格段に強くなってるじゃねえか、一年で強くなりすぎだろう」

「まぁな、正直この一年きつかったよ。でも打倒王都学園ってな、この日のためにバネロハのオーガのような特訓にも歯を食いしばって耐えてきたんだよ。

俺はチャネルやカービンのように油断や隙は与えない、このまま一気に決めさせてもらう」

 

“カキンッカキンッカキンッカキンッカキンッ”

激しい金属音が武術修練場に鳴り響く、観客席の生徒たちからは今度こそと大きな声援が寄せられる。

 

“ブンッ”

正面から横に身を躱すように黒い影が動く。

「その技は知ってるんだよ!!」

だがエイムはそんな影に惑わされることなく、正面のクルドア先輩に突っ込んでいく。

 

“ドタンッ”

行き成り顔から突っ込むように転ぶエイム、何が起きたのかも分からず慌てて立ちあがろうとするも、その顔にクルドア先輩のショートソードが突き付けられる。

 

「はい、ここまで」

「勝者、王都学園クルドア・バルーセン」

審判からのクルドア先輩に対する勝利者宣言に、何故といった困惑の表情を浮かべるエイム。

 

「クルドア先輩ってやっぱりすごいな、勉強になったわ」

「そうだな、剣術と魔法を上手く融合させた新しい戦術と言ってもいいかもしれないな。確か<偽影(ぎえい)>だったか? 魔力の気配を込めた影を飛ばして囮にする技、暗がりだったら見分けるのは困難だろう搦め手。

だが今回はその<偽影(ぎえい)>を囮に、自身に注意を引き付けておいて足元に魔力障壁を展開するとは。

あれ、下手をしたら俺達でも引っ掛かってたかもしれない技だよな」

 

足を引っかけるのは罠の基本、基本であるからこそ効果は絶大。

クルドア先輩はしてやったりといった表情をしながら、俺たちの方に帰ってくるのでした。

 




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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