転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第773話 転生勇者、学園交流会へ向かう (武術学園) (3)

「つぎ、王都学園ジミー・ドラゴンロード、武術学園ロベルト・バーン」

審判から掛けられた声に、ジミーが一歩前に出る。

 

「ジミー、あまりやり過ぎるなよ? 相手はなんやかんや言っても学園の生徒なんだからな。今日は交流会だって事を忘れるなよ?」

俺からの声掛けに、足を止めこちらに顔を向けるジミー。その口元はまだ暗黒大陸に向かう前の頃のように、柔和な笑みを湛えている。

 

「大丈夫だよジェイク、僕だっていろいろ学んだからね。それにちょっと試したい事もあるし」(ニコッ)

「ちょっと待てジミー、お前何をするつもりだ!! それに僕って、お前普段はそんなしゃべり方はしないだろう!!」

 

「嫌だな、ジェイク、僕の事をお前だなんて呼ばないでよ。それじゃ行ってくるね♪」

そう言い楽し気に修練場の中央に向かっていくジミー、その身からは修羅の気配が完全に失われ、何処から見ても爽やかな好青年としか思えない。

 

「あなたがジミー・ドラゴンロードさんですね? お話は兄から伺っています。大剣聖クルーガル・ウォーレン様に勝利し、兄の全ての武技を受け切ったとか。

兄が言っていましたよ、「あの男は本物だ」と。今日という日をどれほど待ち焦がれたか、全力で挑ませていただきます」(ニチャ~~)

 

「お兄さんというと、君は昨年対戦したヘンドリックさんの弟さんかな? お兄さんは本当に強かったからよく覚えているよ。

こちらこそ、よろしくお願いします」(ニコッ)

 

互いに向かい合い挨拶を交わす両者、観客席からは声援が飛び、ロベルトの勝利を微塵も疑わないといった雰囲気に包まれる。

 

「両者、開始位置へ。はじめ!!」

審判の掛け声とともに前に飛び出すロベルト、ジミーは左足を後ろに引き右手のショートソードをスッと前に出して受けの姿勢で待ち構える。

って言うかアイツショートソードで挑むのかよ、ジミーの奴身長があるから大振りの短剣にしか見えないんですけど? 対戦相手のロベルトも大きいから余計にショートソードが小さく見えるんですけど?

 

“ブンッ、ブンッブンッ、カンカンカン、ブンブンブンッ、カンカン”

ロベルトの猛攻、その悉くから身を躱し、沿えるようにショートソードを当てる事で受け流すジミー。

口元の笑みもそのままに、まるで指導でも行うかのような落ち着いた動きで華麗に攻撃を捌き切る。

 

「ハハハ、何だこれ? 俺なんか相手にもならないって事なのかよ、そんな事認められる訳ないだろうが!! <ダブルスラッシュ:重撃>」

武技の二重掛け、威力の上がった斬撃がジミーに襲い掛かる、だが。

 

「後先を考えない大技は隙を生むよ?」

“スッ、カンッ、ドンッ”

襲い来る斬撃の軌道上から身を躱し、残った斬撃にショートソードを合わせる事で方向を逸らし、その動きのまま技後硬直で隙の生まれたロベルトの胴にショートソードを打ち付ける。

 

「“グホッ”、貴様~!!」

「その意気だよ、さぁ、続きといこうか♪」(ニカッ)

 

“ブンッ、ブンブンブンッ、カンカンカン、ブンブンッ、カンカンカンッ”

「<クロススラッシュ>、<横薙ぎ一閃>、<乱れ打ち>」

「動きが単調だよ? それだと武技の始まりが読まれやすくなっちゃうし、折角の技の良さが損なわれちゃうよ。どうせなら<クロススラッシュ>・<乱れ打ち>・<横薙ぎ一閃>の方がいいと思うよ?

という事で<叩き落とし>」

“タンッ”

ロベルトの武技を避けきったところで柄元にショートソードの側面を叩きつけるジミー、ロベルトの手から零れ落ちたロングソードが床に当たりガシャンと音を立てる。

 

「勝者、王都学園ジミー・ドラゴンロード」

“ザワザワザワザワ”

観客席に広がるざわめき、内容としては非常に地味な決着に、武術学園生徒の間からは代表生徒に対する不満の声が沸き上がる。

 

“パチパチパチパチパチパチ”

そんな中ただ一人拍手を送る生徒、それは武術学園代表生徒であるバネロハであった。

 

「いや~、昨年度もそうだったけど、やはり王都学園の代表生徒の皆さんは地力が違いますね。俺たちもこの一年本当に頑張って鍛えてきたもののまだまだだったという事が分かりました。

特に武技を使った後の技後硬直という僅かな隙を目逃さない冷静さ、“強さとは力”を標榜する俺たち武術学園の者は、気が付かないうちに剣術というものを軽視していたのかもしれません。ジミーさん、本当にありがとうございます。

ロベルトはこの敗北のお陰でさらに強くなれる、次対戦する事があれば王都学園の皆さんをあっと驚かせる事でしょう。

ロベルト、シャンとしろ。ロベルトの敗北は単にお前よりもジミーさんの方が先に行っていただけだ。悔しければ追い掛ければいい、お前はその為に武術学園に通っているんだろう?」

 

バネロハの言葉にハッと我に返ったロベルトは、落ちたロングソードを拾うとジミーに一礼をし武術学園代表者たちの下に戻っていく。

あっ、エミリーがいつの間にかロベルトのところに行って<ヒール>を掛けている。エミリーが笑顔で二三声を掛けたら、ロベルトがポ~ッとしちゃってるし。

エミリーさん、小悪魔だわ~、傷心の男をたぶらかしちゃってるし。そんでもってそのままこっちに向かって満面の笑みで手を振ってるし。

・・・ロベルト君、強く生きて。

 

「ジミー、どうだった? 何か試したい事があるっていってたけど」

「ん? あぁ、やっぱり難しいって事がよく分かった。バネロハが爽やか王子みたいになってるだろう? だから俺も同じ様に爽やか王子を演じてみたらどうなるのかと思ってたんだが、どうも思ったような反応は得られなかったな。

ただ気配を変える事で相手にこちらの動きを悟らせにくくすることが出来るって事が分かったのは収穫だったな。

よくケビンお兄ちゃんが役に入るたびに動きをがらりと変えるだろう? 冒険者として様々な依頼を受ける中でそうした技術も必要になるかと思ってロベルトには悪いが試させてもらった。なるべく流麗な動きを心掛けたんだが、武術学園ではウケが悪かったみたいだな」

 

そう言い肩を竦めるジミー、やっぱりこいつ遊んでやがった。しかもショートソードって、確り十手を想定した実戦練習もしてやがったし。

まぁ俺もショートソードを二本持っての参戦なんで人のことは言えないんですけどね。

でもそうか、場合によっては身分を隠しての潜入や情報収集を行う必要もあったりするのか、冒険者って俺が考えているよりも難しいのかも。

こういう事って誰に相談したらいいんだろう? モルガン商会の護衛をしていたソルトさんとベティーさん辺りだったら詳しかったりするのかな?   もう何年も会ってないし、どこにいるのかも分からないけど。

 

「やっぱりケビンお兄ちゃんは凄いよな、意識してやってみて改めてそう感じたよ。王都武術大会での俺はシルバリアンに身を隠して多少言葉遣いを変えているだけで、まんま俺だからな。

その点ジェイクの黒蜜は・・・ジェイク、やっぱり普段かなり我慢してるのか? 黒蜜をやってるときはハッチャケてるというか、生き生きしてるよな」

「ブッ、やめて、それ以上言わないで!! 壁に耳あり背後にエミリー、何処で聞いているのか分からないんだから「ジェイク君、どうしたの? 次はジェイク君の番だよ、頑張ってね♪」・・・ハハハ、なんでもないよ。そうだな、エミリーも治療の仕事頑張ってたし、俺も頑張らないとな」

 

ジミ~~~!! 危うく試合前に不戦敗が決定するところだったじゃねーか!!

俺は手を振るエミリーにガッツポーズで応えながら、修練場中央へと向かうのでした。

 

「つぎ、王都学園ジェイク・クロー、武術学園バネロハ」

 

「「「「「バネロハ様ー!! そんな地味な奴ぶっとばしてー!!」」」」」

「「「「「バネロハー!! 武術学園の意地、見せ付けてやれー!!」」」」」

上がる声援、まるで息を吹き返したかのように武術学園の生徒が元気を取り戻す。

 

「バネロハ、凄い人気じゃないか。俺なんかよりよっぽど勇者してるんじゃないの?」

「イエイエイエ、ジェイクさんと俺を比べるだなんて烏滸がましいですよ。俺はジェイクさんの教えを胸に今日まで頑張ってきただけですから。

俺の全力をぶつけさせてもらいます、どうかよろしくお願いします!!」

 

そう言い深々と礼をするバネロハ。一年前の厚顔無恥なバネロハはもういない、そこには礼儀正しくも獰猛に牙をむく一人の戦士。

バネロハってば瞳の輝きがジミーなんですけど? 確か<剣豪>だったっけ? 覚醒した剣豪、超やばいんですけど!?

 

「両者、開始位置へ。はじめ!!」

“スッ”

審判から掛けられた開始の合図に構えを取るバネロハ、そのどっしりとした揺ぎ無い佇まい、その一事でこの一年間バネロハがいかに努力を積み重ねてきたのかが窺えます。

静まり返る修練場、俺は肩から力を抜き両手にショートソードを持ったまま脱力した姿勢を作ります。

 

“ブンッ”

一瞬の踏み込み、まるで縮地のように互いの距離をゼロにするバネロハ。でも残念、その切っ先は逸らさせてもらうよって、重い、めっちゃ重い。

次々に繰り出されるバネロハの打ち込みの重いのなんの、威力なんか<重撃>のスキルでも使ってるんじゃないのってくらい激しいんですけど!?

 

“ゴインゴインゴインゴインゴインゴイン”

激しい打ち込みを逸らす、逸らす、逸らす。ディアとの特訓がなかったらどうなっていた事か、そう思える程にバネロハの打ち込みは鋭く重く感じます。

 

「<横薙ぎ一閃>」

「<かち上げ>」

打ち込みの流れに混ぜ込んできた横薙ぎの武技を打ち上げの武技で相殺、そのまま打ち込まれたロングソードを上に跳ね上げるも、腰を引き後方回転でその場から離脱するバネロハ。

態勢を立て直し起き上がるのを見越してショートソードを投擲、身を躱し体勢を崩したところで首筋にショートソードを突き付けたのでした。

 

「勝者、王都学園ジェイク・クロー」

“ザワザワザワザワ”

うわ~、やっぱりアウェーだわ~。今にもブーイングが聞こえてきそうだし。

この勝負、凄い僅差の良い展開だったんだけど? バネロハの奴態勢崩しつつ俺の接近を予測してロングソードを突き出そうとしてたのよ? ちょっとタイミングがずれてたらバネロハの逆転勝利だったのよ? 王都学園側の代表たちなんか感心して拍手してるのに、何で武術学園側が分からないかな~。

 

「ハハハハ、やっぱりジェイクさんは強いですね、俺じゃ手も足も出ませんでしたよ」

「はぁ? 何言ってんの? めちゃめちゃ強くなってたじゃん。武技を使う間合い、急な事態への対応力、相当に修練を積んで来た事なんてすぐに分かったから。王都学園でも十二分に通用する実力だからね?

あそこ見てみ、引率のケベック先生、お前を引き抜く気満々だから」

 

そう言い俺が指差した先では腕を組んでウンウン頷くケベック先生、人格実力ともに申し分ないとの判断なんでしょう。

 

「いや、そんな、俺なんてまだまだで」

「イヤイヤイヤ、本当、実際凄いと思うよ、俺、目茶苦茶焦ってたもん。多分後から引き抜きの連絡が入ると思うから、心構えだけはしといたほうがいいよ」

 

俺の言葉に未だ恐縮した態度を見せるバネロハ、王都学園に編入したら是非ジミーの相手をお願いします。ジミーの奴、完全に獲物を見る目でバネロハの事を見てたからね?

俺はバネロハの未来を心配しつつ、心の中で両手を合わせ「なんだよ、バネロハの奴、全然じゃねえかよ。武術学園の恥さらしが」・・・はい?

 

「「「あんな弱そうな<勇者>に負けるだなんて幻滅、今まで応援していた私たちの気持ちを返してよ!!」」」

「「「「「大した武技も使えねえ王都学園の腰抜けに惨敗だなんて、この恥晒し共が!!」」」」」

「「「「「そうだそうだ、どう責任を取るつもりだ!!」」」」」

 

結果を見れば完敗の武術学園、職業による武技やスキルの差によって負けたなら納得できるけど、こんな地味な展開で負けるのは納得いかない、そう言いたいのかな?

 

「あっ、あの、ジェイクさん。俺なら全然気にしてませんから、武術学園の皆は期待を寄せてくれていた分、裏切られた気持ちになったって言うか、今は試合直後で気持ちが高ぶっているって言うか・・・」

バネロハが何か武術学園の生徒達を擁護するような事を言っているけど、どうしたんだろう? 早口でまくしたてなくてもいいのに。

 

「どうしたんだ、バネロハ。そんなに焦った顔しておかしな奴だな。俺たちの試合はもう終わったんだ、敵意を向けるなんて事はしないぞ?

でも、折角のいい試合の後に道理の分からない事を叫ばれるのはいい気がしないよな?」

“ゴウンッ”

 

静まり返る武術修練場、さっきまでの威勢はどうしたって言うんだ?

 

「なんだ、急に静まり返って? 試合結果に文句があるんだろう? もっと堂々と口にすればいいじゃないか。

そこのお前ら、俺たちだったらそんな似非勇者捻り潰せるって言ってたよな、特別だ、相手してやるよ。今顔を逸らしたそっちのお前ら、お前らもだよ、俺は耳がいいんでね、確り聞こえてたぞ?

って言うか面倒だな、全員相手してやるよ。安心しろ、一対一だなんてケチな事は言わねえって、何なら武器もいらねえから、武術学園の誇り、見せて貰おうじゃねえか」

“ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォ”

大気が揺れる、膨れ上がった覇気が、武術修練場を覆い尽くす。

あっ、ちゃんと保護者席は避けてあります、俺、そういった気遣いは出来る方なんで。

 

「「「「「す、すみませんでしたーーー、俺たちが間違ってましたーーー」」」」」

「「「「「ご、ごめんなさい、私たち、何も分かっていませんでしたーーー!!」」」」」

 

観客席から降りようともせず謝罪の言葉を口にする生徒たち、これでよく代表生徒に文句が言えたもんだな。

 

「納得がいかねえようだったらいつでも言えよ、全員纏めて相手してやるからよ。なに、安心しろ、<聖女>エミリーの治療術は最高だからな。どんな瀕死の状態からでも完全回復してくれるはずだ、俺は経験者だからな、保証してやるよ。

全力でやり合おうや」(ニチャ)

 

「「「「「すみませんでしたーーーーー!!」」」」」

王都学園と武術学園との交流会は、こうして素晴らしい試合と共に幕を閉じる事になったのでした。

あっ、何かあったらすぐに連絡してね、マジでO・HA・NA・SHIしてあげるから。

その後武術学園の教職員から土下座で謝られたんですが、一体なぜなんでしょう?

 




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