転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第774話 転生勇者、王都武術大会予選会に挑む

王都武術大会の予選会が行われる王都闘技場、その前に集まる多くの観客たちの中ではある噂が飛び交っていた。

 

「なぁ、聞いたか? 昨年度準優勝を果たしたシルバリアンの話、何でも武器工房で注文したロングソードの代金が未払いで予備選考会の前に取り上げられたらしいぜ。

去年は大会の賞金も受け取らず颯爽と姿を消すなんて粋な真似をしやがるって思ったけど、流石にこれはないわ~。情けねえ話だよな」

「いや、違うだろう。大会が終了して半年くらい経った時にやっぱり賞金をくれって申し込みに行って門前払いを喰らったって聞いてるぞ?

何でも一度辞退した賞金は渡せないとかなんとか」

 

「ねぇねぇ聞いた? 黒蜜が夜の店のツケを踏み倒そうとして引き摺られていったって話。大会の予備選考会なら現われるだろうって店のママが待ち構えていて捕まっちゃったらしいわよ」

「え~、それじゃ予備選考会に出られなかったの? 私以前から黒蜜は女好きって噂を聞いてたんだけど、やっぱりって感じじゃない。本当に幻滅~。

でもそうなると今年は出場しないって事かしら?」

 

それは昨年度準優勝者のシルバリアンと黒蜜の噂、その正体が分からない全身鎧の二人が、各地に現われては様々な問題を引き起こしているというものであった。

 

“カツンッ、カツンッ、カツンッ、カツンッ”

そんな観客たちの後方から聞こえる足音、自然と人垣が割れヒソヒソ話を始める観客たち。

 

「なぁ、あれってシルバリアンと黒蜜だよな? アイツらどの面下げて予選会に来たってんだ?」

「だよな、シルバリアンの奴、ロングソードを取り上げられたからって金棒なんか腰に下げてよ」

 

「来たわよ、女誑しの黒蜜。予選会に出るって事は夜の店の借財は払えたって事なのかしら?」

「よく見なさいよ、腰に下げてるの短剣よ? あの巨大な大剣がないって事は借財の形に取り上げられたって事なんじゃないの? それで短剣なんか差して、あれで大会に勝ちあがって賞金で借財を払おうって魂胆なのよ。計画性がないって言うかなんて言うか、あんな男に付いて行ったら碌な人生歩めないわね、まさに女の敵よ」

 

悪事千里を走る、観客たちの噂話は本人たちを目の前にしているにもかかわらずさらに拡大していく。

 

「ねぇ白銀、腰の金棒、代金未払いで取り上げられたロングソードの代わりって事になってるみたいよ?」

「ふむ、であるか。最近はこの金棒の扱いにもかなり慣れてきたのでな、あながち間違いではないやもしれん。

これで決勝にまで登れば王都で護身用の金棒が流行るやもしれんぞ?

それよりもブラックハニー、女遊びは大概にしておけよ? 壁に耳あり背後にエミリー、いつどこで見ているのか分からんからな?」

 

「いや、マジで止めて、超止めて。昨日だって目茶苦茶焦ったんだかんね? 何でか知らないけど交流会の後エミリーの機嫌がよくなってたからいいけど、不戦敗目前だったんよ?

洒落にならないからその手の冗談は止めろ下さい」

だがその噂の中心の人物たちはどこ吹く風、飄々とした雰囲気のまま予選会受付に向かっていく。

 

「やい、黒蜜!! 手前調子に乗ってんじゃねえぞ? 街の噂を知らねえとは言わせねえからな、おめえの悪行は俺たちがみんな知ってるんだぞ!!」

有名になればその分反発する者が出る、アンチファンというものはたとえその噂が真実でなかろうとも、火のない所に煙は立たぬとばかりに責め立てる。何故なら彼らにとって有名人を叩く事は、自らがその人物の上に立つ正義であるとの優越感に浸れるある種の娯楽なのだから。

 

「あっ、どうもどうも、予選会の観客の方ですか? いや~、皆さんは黒蜜さんの応援の方ですか? 格好良かったですもんね~、黒蜜さん。

俺っちもあの強さにあやかって全身鎧を着てるんすよ。

因みに俺っちはブラックハニーって言います、まんま真似しちゃってますけど、大会役員さんには苦笑されちゃいましたよ。でも大会規定上は問題ないそうなんすよね。

因みにこっちは白銀っす、頑張って鎧を準備したんですけど、全身鎧って高いんすよね~。武器までなんてとてもとても。

でもこれも憧れに近付くための第一歩、ブラックハニーをよろしくお願いします!!」

そう言い握手を求めるブラックハニーの勢いに押され、若干引き気味になる観客。

 

「あっ、噂をすればシルバリアンさんと黒蜜さんなんじゃないですか? あの全身から覇気を漂わせる貫禄、流石ですよね~。

それじゃ俺っちたちはお気を悪くさせないように行かせてもらいますね。皆さんも大会前で気の立ってるお二人にはあまり話し掛けないであげてください、真の武人は本当におっかないですから」

「おっ、おう、分かったよ。アンタも頑張れよ、これも何かの縁だから応援してやるよ」

 

ブラックハニーは「ありがとうございま~す、白銀とブラックハニーをよろしくお願いしま~す」と軽い口調の挨拶を残し、その場を離れていくのだった。

 

―――――――――――

 

「お集りの皆様、これより王都武術大会予選会三日目第二予選を始めます」

今日は王都武術大会予選会の日、昨年は学園交流会の前に予選会が行われたんだけど、今年は学園交流会と丸被り、予定日を聞いた時は本気で焦ったよな~。

昨年の王都三大学園交流会は保護者であるお貴族様の横槍で王都闘技場を使っての交流会だったものだから開催日の調整が大変だったって聞いてるし、予選会の日程はずらせないからその後でって事になったんでしょう。

でも今年は以前のように各学園に王都学園の代表生徒が訪問する形に変更、つまり日程で王都武術大会を考慮する必要がない。そりゃ被りますがな。

そこで俺とジミーは大会役員さんに話を聞き、上手い事合間に参加できるように予備選考会のあと予選会の日程を調整してもらったって訳です。

いや~、お金の力って偉大ですね、古道具屋で安く短剣を購入できたお陰でなんとかなりました。これもケビンお兄ちゃんの教えのお陰です。

袖の下って物事を円滑に進める為の潤滑油だったんですね。

 

「それでは番号を呼ばれた方から舞台に上がって下さい。911043番、912156番、913025番・・・」

王都武術大会の予選会は四日間、午前中に第一予選会、午後に第二予選会といった風に計八回の予選会が開催されます。各予選会からは四名の予選通過者が選ばれ、本選には計三十二名の選手が出場するって感じです。

そんでこの予選会、ぶっちゃけ本戦に出場できるかどうかに大きく関わってくるんですよね。本戦二日目に出場するような選手が混じってたりしたら出場枠が一つ減りますからね、皆さん必死です。

 

「なぁ、あそこにいるのってシルバリアンじゃないのか? その隣にいるの、黒蜜だよな」

「マジかよ、俺、今年こそ本戦に勝ち残ろうと必死に頑張ってきたってのに、また予選会敗退かよ」

 

声のする方を振り向けば、そこにはこちらとは違う方向を指差す冒険者の姿。その指の先、あれは先程会場外でお見かけしたシルバリアン選手と黒蜜選手ではないですか、流石迫力があります。

 

「912486番、913204番、914101番・・・」

「ブラックハニー、先に行く。ちゃんと予選は通過しろよ?」

そう言い俺の肩をポンと叩いて舞台に上る白銀、気配を弱めているからか周りの冒険者は全然注目してないって言うね。

って言うかアイツ、本当に十手で参加しちゃってるし。周りが気にしないってのも頷けます。

俺は周囲をキョロキョロ見回しながら、自分たち以外にも色物武器で出場している参加者がいないか探して回るのでした。

 

――――――――――

舞台上の予選会出場者たちはひりつく緊張感の中、ある人物に注目していた。それは昨年度王都武術大会準優勝者シルバリアン、その全身から漂う強者の覇気に、ある者は圧倒され、ある者は闘志を燃やし、ある者は絶望し。

ただ一つだけ、この男を倒さなければ大会本戦には進めないという事だけは確実であった。

 

「クックックックッ、いいぞいいぞ、この緊張、この殺気、全てがこの俺に注がれていると思うと自然と笑いが込み上げてくるわ。

さぁ、掛ってくるがいい、本戦に進みたければこのシルバリアンを打ち倒してみせよ」

シルバリアンは腰から美しく輝くロングソードを引き抜くと、愉悦に震える気持ちを隠す事なく獰猛に笑う。

 

「それでは第二予選第一試合を開始します。予選通過者は最後まで舞台に立ち続けていた者のみ、舞台上から落ちた者は失格となりますのでご注意ください。

はじめ!!」

“““““ウォ~~~~~~~~~~!!”””””

 

審判の開始の合図と共に一斉に動き出した出場者たち、その向かう先にいる者は、無論最有力優勝候補シルバリアン。

 

「アッハッハッハッ、掛ってこい雑魚ども、このシルバリアンが相手だ!!」

“ブワッ”

膨れ上がる覇気、シルバリアンはロングソードを巧みに操り襲い掛かる敵を次々に打ち倒していく。

 

「くそっ、<縮地>、<横薙ぎ一閃>!!」

「甘いわ!! <パリィ>、<刺突>」

“ガギンッ、ドゴーン”

“グワーーーッ”

呻き声を上げ吹き飛ばされる者、その隙に乗じ襲い掛かるも返り討ちに遭う者、舞台の上ではどんどんと立っている出場者の数が減っていく。

 

“ドカッ、バスッ、ズドンッ”

「さ~て、残りは。ほう、お前は偽シルバリアンか、未だ生き残っているという事はそこそこの腕とみえる」

シルバリアンは舞台上に残る白銀の全身鎧の人物に、口角を上げる。

 

「うむ、お陰様でな。我が名は白銀、貴殿はシルバリアン殿でよろしいか?」

「なんだ、昨年度準優勝者の俺の事を知らねえとはとんだ潜りがいたもんだ。似たような恰好をしているからてっきり俺の名を騙ってるのかと思ったぜ。昨年は俺の他にも全身鎧がいたからな、偶々って事もあるだろうよ」

 

シルバリアンはそう言うと、ロングソードを下段に構えて迎撃の姿勢を取る。

 

「ふむ、先程から見させてもらったが、覇気だけでなく魔纏いも使う強者であるか。口は悪いがそれとて計算の内、相手を挑発し冷静に理詰めで打ち取るといった方であろう。

中々どうして、市井には思わぬ強者が潜んでいるものよ」

白銀は右手の十手をズイッと突き出すや、半身のままジリジリと距離を詰める。

 

“ズバッ、ガキンッ、シューーーーッ、ズドンッ”

それは一瞬の攻防、下段からロングソードを切り上げたシルバリアンの剣先を十手で押さえる白銀。そのまま剣身を滑らせるように移動しながら十手のフックでロングソードを抑え込みつつ鳩尾に向かい肘打ちを叩き込む。

衝撃で後方によろけるシルバリアンの隙を逃さず、梃子の原理よろしく十手の先を持ち両手で捻る事でロングソードを奪い取る。

 

「くそっ、小賢しい!!」

シルバリアンは慌てて舞台に転がる他の参加者の剣を拾おうとするも、白銀がその隙を与える事もなく。

 

“ズバンッ、ドサッ”

上段からの振り下ろしがシルバリアンの頭部を直撃、そのまま舞台に倒れ込むのであった。

 

「第一試合、予選通過者913204番、登録者名“白銀”」

衝撃的な出来事、優勝の最有力候補と目されていたシルバリアンが目の前で敗北するという事実。

試合運びを観戦していた観客席からは、大きな歓声とどよめきが広がる。

観客たちは予期せぬ展開に、昨年度に引き続き波乱万丈な大会になると本戦への期待を大いに膨らませるのであった。

 

――――――――――――

 

・・・あの、俺っちの試合もまだ残ってるんすけど。皆さんの注目が一気に減ってるのを感じるんですけど。

番号を呼ばれて第二試合に臨んでるんですけどね、皆さんの注目が未だに残られてる黒蜜選手の動向に向いちゃってるって言うね。

 

「はじめ!!」

あっ、始まりましたね。俺も両手剣スタイルで初心者の短剣を持っていざ!!

・・・いざ!!

あっ、安パイは取り敢えず放置なんですね、分かります。

待つこと暫し、どんどん出場選手が倒れていって、気が付けば後三人。この間俺っち一回も剣を合わせてないんすけど、別にそこまで気配を消してる訳じゃないんすけど。

 

「「ウォォォォォォォォォォォォォォォ!!」」

“ドゴーーーーン”

““グハッ、ドサッ””

・・・え~~~~~~!?

 

「第二試合、予選通過者913205番、登録者名“ブラックハニー”」

「「「「「なんじゃそりゃーーー、ふざけんなーー-!! やり直せ、偽者野郎!!」」」」」

 

向けられる怒号、炎上状態の観客席。ブラックハニーは会場全体から白い目を向けられながらも、係員の指示に従い舞台を下がっていく。

 

「これって俺のせいじゃないから~~~!!」

しらけ切った予選会会場には、ブラックハニーの叫び声がただ虚しく響くのでした。

 




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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